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第八話 夜の森にて

「まあ、かなり頑張って全部で金貨十五枚ってところだな」


 俺は朝起きてすぐ、人気があまりない裏通りにある店へと足を運んだ。


 武器から素材まで乱雑に何でも置いてある何屋なのかもわからないその中で、髭面の中年店主が床に置かれたオーク五体とスケルトンオーガの骨を見ながらそう言った。


 なお、ゴブリンは買取不可だった。


(聞いていた話とまた大分違うな……)


 オーガの骨は頑丈で、更に一度アンデッド化したため魔力を帯びているのでかなりの金額になると聞いていたのだが、実際にはそうでもないのだろうか。


 別に金が多くあったところで今のところ何かに使う予定はないが、キリングベアの素材を売った時は金貨百枚だった。


 それを考えると少し、というかかなり安い気がする。


「俺が十五枚と言ったら十五枚だ。文句があるなら他へ行ってもいいぞ? 俺は一切困らんからな」


 俺が思っていたことを感じ取ったのか、店の主人はそう言って腕組みしながらニヤニヤと俺の顔を見つめた。


 通常、冒険者であればギルドを介して適正な相場で素材の買い取りを行ってもらえる。

 大通りに店を構える商人などと何らかの繋がりがある場合を除けば、大抵はそうしているだろう。


 だが俺はギルドを利用することができない。


 更にこの店は恐らくそういった表の世界と接点が薄い。

 あくまで推測だが、ここは普通の店では売れないような品も扱っているのだろう。


 たとえば、盗品とか。


 俺の場合は別にそうした商品を売りにきたわけではないのだが、要するにこの店にはそういう客しか来ないので足元を見られることが前提になるのだろう。


 とはいえ、結局のところギルドに行けない俺はこの店を利用するしかなかった。


「分かった。それで構わない」

「なら交渉成立だな」


 店主はそう言うとすぐに骨とオークをカウンターの裏へと運び始めた。


(それにしても本当に沢山の品があるな)


 店主が笑みを浮かべながら荷物を運んでいる間、店の商品を眺める。


 すると、不意にあるものが目に入った。


 それは漆黒の外套だった。


 店の棚に無造作にかけられているので、多分それほど貴重な物というわけでもないのだろう。


 生地はそれなりに丈夫そうで、頭をすっぽりと覆うためのフードも付いている。

 恐らく冒険者用の装備品だろう。

 状態もかなり良いようだ。


 そういえば、昨日ダンジョンの上層で一緒になった冒険者から見た目の事を言われたのを思い出した。


「あの外套は?」


 外套を指差しながら尋ねると、店主は一旦作業の手を止めてこちらに振り向いた。


「あん? この黒いヤツか? そうだな……まあ、どうせ余り物だから、おまけにしといてやるよ」


 店主はカウンターから出ると、外套を手に取ってこちらへと投げてよこした。


「いいのか?」

「なに、気にするなよ。どうせ新人冒険者が着るような安物だしな……で、これが買い取り金額だな。これからも頼むぜ」


 店主は金貨をカウンターに置いた。合計で十五枚。


 俺はそれを革袋に入れ、店の扉を開けて裏通りへと出る。


 するとなぜか店主までついてきた。


「まだ何かあるのか?」

「ん? 今日はもう店を閉めて酒を飲みに行くんだよ。これでしばらくは生活に困らねえからな。言っとくがもう返さねえぞ」


 店主はそう言いながら店の戸締りをし始めた。


「この町は冒険者で溢れかえってるから助かるぜ。お陰で商売がしやすい」

「他の町から流れてきたのか?」

「まあそんなところだ。ここは近くにダンジョンが多いからモンスターの素材が流通しやすい。そのおかげで潤ってる。逆にクレティア自体も危険ではあるみたいだがな」


 店主が言うクレティアというのは、このボルタナの町がある王国の名前だ。


「クレティアの王様はとにかく冒険者の力を借りてモンスターを退治させてるって話だからな。だからSランク冒険者なんかもわざわざ直々に会って優遇しているそうだ」


 それは、アレンやバルザークのことか。

 つまり奴らはクレティア国王からモンスター退治を頼まれたからこの町に滞在しているということなのか。


 だが、アレンはともかくバルザークに関しては絶対にあり得ないと断言できる。

 奴が国王に言われたからといって簡単に引き受けるわけがない。


 そもそも人を平気でゴミ扱いするような人間だ。とてもではないが人助けをするような性格には思えない。



 だとするならば、何か裏があるのか。

 それは一体何だ?



「まあせいぜいくたばらない程度に稼いでくれよな。じゃあまたな」


 店主が手を振りながら裏通りを歩いていった。


(考えても仕方ないか)


 それよりも今はレベルを上げなければならない。


 俺は人通りがなくなる夜までじっと待ち、それからボルタナを出て近くの森へと入った。ダンジョンへと向かうためだ。


 森の中は真っ暗で、時折月の光が差し込む以外は光源らしいものはない。


「《デス》」


『グヴォッ!!』


 森の中で群れをなしていたオークを倒す。

 夜に森にいる旅人を狙っていたのだろう。


 昼間のうちに道具屋でそこそこ良い携帯型のランタンを買い、腰にくくりつけた。


 たいまつの方が明かりとしては優秀だが、片手が塞がり動きにくかった。


 それにしても、森のかなり奥まで入ったはずだが未だに大物には出会っていない。


 キリングベアがたまたま珍しくいただけで、この森にはあまり強いモンスターがいないのかもしれない。


 すると、突然前の方からガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてきた。

 こちらに近づいてきている。


 新手のモンスターだろうか。


 いつでも即死魔術を放てるよう、右腕を前方に出す。


 そしてすぐ前に広がる暗がりから何かが現れた。


「助けて! 誰かっ!!」


 そこにいたのは、頭から獣の耳を生やした獣人、狼人族の女性だった。


 ランタンの明かりに照らされて見える服はボロボロで、体のあちこちに擦り傷、切り傷が多数あった。


「モ、モンスターが……」


 女性は俺のすぐ後ろに隠れながら体を震わせている。


 逃げられたので安心した、という様子ではなかった。


(何かがいるのか……?)


 暗闇を見渡してみるが、特にそれらしき影も見当たらない。


『グルル……』


 いや、いた。


 低い唸り声が聞こえた。

 やはり何かが近くに、確かにいる。


「《デス》」


 あえて有効範囲の外から魔術を放つ。


 漆黒の波動は闇の中へと飛んでいき、何かにぶつかるようにして消えた。


 確かに命中したが、立ち消えたのだ。


 つまり、この先には即死魔術が簡単には効かない相手が存在している。


 だが姿が見えない。まるで暗闇に溶け込んでいるようだ。


 意識を集中し、気配と音を頼りに方向を探る。


(試してみるか)


 昨日ダンジョンで倒したスケルトンオーガから得た新しい能力である《クアドラプル》を使う。


「《クアドラプル・デス》」


 右手から、通常の《デス》よりもさらにドクロが増えた大きな波動が放たれた。


 有効範囲が四倍になっているのならば、よほど遠くでもない限り十分に届くはず。


『キシャアアアアアッ!!』


 その途端、まるで蛇のような鳴き声が森の中に響き渡った。


 それと同時に地面を揺らすような震動が響き渡り、やがて音は俺達から離れていった。


(おかしい。手応えは確かにあったはずだが……)


 《デス》は確かに効いたはず。なのにモンスターは逃げていった。

 となると複数いたのだろうか。


「ああっ……」


 隠れていた狼人族の女性が力なく倒れそうになったため、両腕で受け止める。


「しっかりしろ、今ポーションを飲ませる」


 声をかけながら、手持のポーション瓶の蓋を開けてゆっくりと飲ませる。


「う……」


 ポーションを飲ませ終えると、彼女はそのまま目を閉じてしまった。

 どうやら気を失ってしまったらしい。


「これではレベル上げは無理だな」


 このまま戦うわけにもいかない。

 そう考え、先程のモンスターの事が気になりながらも、彼女を抱えて町へと戻ることにしたのだった。

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