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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第七十八話 グリフォン&ネザーウルフ

「分かった。道に出るときは合図を頼む」


 正体不明の黒い獣は、今もなお低い唸り声を上げながら街道を走っている。

 樹々を挟んで俺達の乗る馬車と並走し、こちらが痺れを切らせて飛び出してくるのを耽々と待ち構えているのだ。

 エドワードのお陰で多少考えるための猶予は生まれたが、このまま俺達を見逃すつもりはないらしい。


 仮に上手く巻けたとしても、グリフォンを使ってどこまでも追いかけてくるならば同じことだ。どちらにせよ、ここで倒す以外に道はない。


「アーク様。あのモンスター達からは、何か異質な気配を感じます……言葉では表現しにくいのですが」


 剣を抜き放ったファティナが少し戸惑い気味に呟いた。彼女もまた、このモンスターから何かを感じ取ったようだ。有している【剣聖】や【破魔】のスキルによるものだろうか。


「黒い狼の方は俺が相手をする。その間、ファティナはグリフォンから馬車を守ってくれ」


 先程『ミアズマウェイブ』で消費された魔力で確認した限りでは、黒い獣から繰り出される攻撃はSランククラスと同等、あるいはそれ以上に強力だ。まともに戦えば高レベルの冒険者達が束になっても勝てるかわからない。

 一方グリフォンはAランクなので、シェイドを一撃で倒せるほどに強くなったファティナならば俺にはない【剣聖】のスキルで対抗できるはずだ。


 両方に【即死魔術】を撃ち込みまとめて倒せれば一番良いが、有効範囲外に逃げられれば効果は消える。『マルチプルチャント』の能力をかけた《ルイン》を使い、二体をいっぺんに対象にとるには同時に射程内に捉えるか、あるいは何らかのきっかけが必要だ。


 ここはひとまず、先に地上にいる黒い獣を倒し、次にグリフォンの相手をするのが確実だろう。


「分かりました。馬車を止めた方が戦いやすいと思いますが、どうしますか?」

「それはやめたほうがいい。止まった瞬間に別のモンスターが奇襲を仕掛けてくるかもしれないからな」


 横からエドワードが口を挟んだ。俺も彼と同じ意見だった。


 この二体は、どういう理屈かは分からないが連携を取って俺達を襲撃している。ということは、他にもまだ森に隠れ潜み機会を狙っているモンスターが存在している可能性がある。

 だとすれば、ここで動きを止めるのはあまり得策ではない。その場に留まっている馬車は良い的になるし、破壊されれば移動手段がなくなる。そうなれば無事にメティスまで辿り着けるかどうか怪しくなる。


「メル。あのモンスターの正体に何か心当たりはあるか?」

「い、いえ。まったく分かりません……」


 念のためメルに尋ねるが、返答は予想していた通りのものだった。

 もしイリアの時のように──もっともそんなことが有り得るのかも分からないが、王国騎士団の放ったものであるならば必ずメルを生かしたまま捕らえようとするはずだ。

 しかし、先程放たれた一撃は誰一人逃すまいとする殺意に満ちていた。


「メルはそのまま荷台の中に居てくれ」

「……分かりました。せめて《プロテクション》だけはかけておきます」


 メルは自らも戦うとまでは言わなかった代わりに、全員に《プロテクション》をかけた。柔らかな青い光が体を包み込む。


「俺は荷台の幌に上がる。ファティナ、御者台から斬撃を打てるか? グリフォンが来たら迎え撃って欲しい」

「はい、大丈夫です」

「ふむ、相談は済んだか?」


 エドワードがちらりと俺達の方を見る。


「ああ。街道に出るならいつでもいい」

「そうかい。それじゃあ頼んだぞ。この先には深い谷がある。絶対に振り落とされないように気を付けろ」


 エドワードが鞭を打つと馬達は更に加速し、馬車は再び街道へと飛び出した。

 今はこちらの方が早い。後を追う形になった黒い獣は、俺達を逃すまいと速度を上げた。


 俺は幌の上に乗り、剣を鞘から引き抜く。《ルイン》の射程に入ったら、即座に詠唱できるよう身構える。


『キュオオオオ!!』


 その時、グリフォンが馬車の前方へと回り込み甲高い鳴き声を上げた。

 グリフォンが翼を激しく羽ばたかせたかと思うと、その途端に幾重もの翠色に輝く三日月状の刃が現れ、放たれた。

 作り出された刃は、まるで人間の扱う風属性魔術のようであり、アレンが流水洞穴で放った剣技によく似ている。


「はあああっ!!」


 俺が《デス》を詠唱するよりも早く、ファティナが剣から漆黒の斬撃を数回繰り出した。輝く刃と斬撃は空中で激しくぶつかり合い、相殺され霧散する。


 やはり何かがおかしい。


 こんな攻撃は想定していなかった。なぜならば、グリフォンに今のような魔術的攻撃手段があるなど聞いたことがなかったからだ。

 もし変異種であれば、シャドウキメラやリザードマンのように外見が大きく変化するはず。このモンスターは見た目は普通のグリフォンだが何かが違う。()()()()()()()()()()()()()()()()


「くっ!!」


 再びファティナが攻撃するが、グリフォンはそれをひらりと横に躱した。まだ《ルイン》の射程外だ。後ろからはあの黒い獣が迫ってきていた。


 その直後、馬車が道を曲がると街道の景色が変化を見せた。

 すぐ右横には、道に沿うようにして大きく深い谷が広がっていた。

 エドワードが先程言っていた場所だ。


 谷底は真っ暗で何も見えない。柵などが張り巡らされているわけでもなく、落ちれば無事では済まないだろう。


『ピオオオ!』


 まるでこの時を見計らったかのように、上空で待機していたグリフォンが馬車に向かって飛び込んで来る。遠距離では倒せないと判断し、直接攻撃に切り替えたのだろう。


 それとほぼ同時に、黒い獣も馬車へと急接近する。前後からの挟み撃ちだ。


 ──そして、それはつまり、両方のモンスターが同時に【即死魔術】の射程内に入ったことを意味する。


「破滅よ、全てを食らい無へと還せ──《ルイン》」


 剣先を黒い獣へ、左手をグリフォンへ。


 『マルチプルチャント』の効果により、二体を対象とした【即死魔術】の《ルイン》が発動する。

 モンスター達の前に出現した骸骨達は、その命を刈り取るために鎌を振るう。


『ピュオオオオオオ!!』

『ヴォオオオオオオオ!!』


 見ればグリフォンの前にも魔術防御の障壁が現れていた。

 本来ならばグリフォンにそんな能力はなく、一撃で仕留められるはずだった。

 二体とも苦しそうな叫び声を上げながらも、馬車から離れようとはしない。モンスターとはいえ、恐ろしいまでの執念を感じる。


 ステータスを表示させ、体力と魔力を確認する。

 これまでの戦いで全体的に強化されているとはいえ、《ルイン》の多重発動の代償として二つの数値が凄まじい速さで減少していく。


「アーク様!」


 ファティナが剣を振った。骸骨の横をすり抜けるようにして、斬撃がグリフォンへと放たれる。

 それが最後の一押しになったのか、魔術障壁が音を立てて粉々に砕けた。

 斬撃は障壁を貫通し、グリフォンの左半身に直撃してその体を引き裂いた。それと同時に《ルイン》が解除される。


『グオオォォォ!! オオオオオアアアア!!』


 残る黒い獣は雄叫びを上げながら、《ルイン》による攻撃を受けながらも馬車まであと僅かのところまで接近していた。このモンスターはグリフォンに比べて障壁の耐久度が高いようだ。いや、耐久が高いというより、どちらかといえば効果が思うように発揮されていないように感じる。レイスに『インサニティ』が効果を発揮しなかったように、属性の問題なのか。


 徐々に力が失われていくのを感じる。体力は残り半分だ。


「光よ。かの者を癒したまえ──《キュア》」


 すると、わずかに体力が戻ったのを感じた。

 振り返ると、メルが幌の上に顔を出して治癒魔術をかけてくれていた。


 しかし、体力が回復しても今度は魔力の枯渇を起こしてしまうだろう。


「だったら、これはどうだ」


 俺は両手で剣を強く握り、走り続ける獣の背に向かって飛んだ。その勢いのままに、一気に剣を首元へ深々と突き立てる。


 《ルイン》をその身に受け反撃できないのであれば、その身に直接攻撃するまで。リッチの生み出していた瘴気の壁とは違い、魔術防御は魔術ではない攻撃は防ぐことができないからだ。


『ガアアアアアアッ!!』


 黒い獣が強烈な叫び声を発する。俺はすぐさまその体を蹴りつけて再び飛び、幌の上へと着地した。


『ヴォアアア!! ヴォオオオオオ────ッ!!』


 ミスリルの剣を背に深々と突き立てられ、街道を転がって暴れ始めた獣は、もがくようにしながら谷へと落下し、その途中で岩壁に激突しつつ谷底の暗闇へと消えて行った。


「大丈夫ですか!? 今回復します!」

「ああ。どうやら倒せたようだ」


 御者台から尋ねてくるファティナに答えながら前を向くと、視界が大きく開けていた。遠くには土色の大地と山々が見えている。ついに森を抜けたのだ。


「やれやれ。今回ばかりは流石に死んだかと思ったがね」


 エドワードがいつもと変わらぬ口調で言いながら、安堵からかの息を一つ吐き出した。


「それにしても、今のモンスターはいったい何だったんでしょうか……」

「ええ。私にはまるで……何らかの意思に従っていたかのように見えました。あくまでそう感じただけなんですが……」


 二人は先程のモンスターについて話し合っていた。確かに謎は数多くある。


 モンスター同士の連携や、明らかに普通とは異なるグリフォン。

 たまたま俺達が遭遇しただけなのかだろうか。しかし、もしそうであったとしても、普通地上にいるようなモンスターではない。

 だとしたら、ボルタナを襲ったシャドウキメラのようにダンジョンから生み出されたという可能性もあるだろうか。


 正体不明の襲撃者を不審に思いながらも、俺は馬車の荷台へと戻る。

 そして、再びメティスへの道のりを急ぐのだった。

ここまでお読みくださり本当にありがとうございます。

続いて第三章 メティス・炎熱回廊編となります。

おまけはもうちょっとお待ちください……。

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