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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第七十一話 騒動の後

 鍵の守護者と化したアレンを倒してから、あの場に居合わせた全員はチェスター達によってクラウ商会の屋敷へと集められた。


 急遽(きゅうきょ)あてがわれた部屋の中には、俺とファティナ、メル、そして──クレティア王国騎士団の騎士イリアがいる。


 これまで説得に一切応じる気配がなかったイリアだが、アレンとの戦いが終わるとすぐにメルの前に降りてきて、一体何が起きたのかを向こうから尋ねてきた。

 突然ドラゴンが都市の内部に現れるという事態をその目で見たためだろう、説明しても聞く耳を持たなかったこれまでとは異なり、彼女は素直に話し合いに応じてくれた。


 メルはこれまでの出来事を、包み隠さずイリアに伝えた。

 父親であるクレティア国王に意見し、幽閉されていたこと。国王が三つの鍵を集めて何かをしようとしていること。

 そして、そのためにアレンやバルザーク達Sランク冒険者が雇われたことなど。


 話を聞いたイリアは、その内容があまりにも予想外だったようで、驚きを隠せない様子だった。

 しかし、実際にドラゴンから人間の姿へと戻ったアレンを見たことで、もうメルの話に反論する気はすっかり失せたようだった。


 一部始終を聞き終わると、イリアはその場に(ひざまず)き、頭を垂れた。


「そのような事情があるとは知らなかったとはいえ、これまでのご無礼の数々、申し訳ございませんでした。どうか、私に罰をお与え下さい。たとえどのようなものであっても受け入れる所存にございます」

「いえ……よいのです。あなたは任務に忠実であろうとしただけですから」


 メルは謝罪するイリアに対し、すぐにそう答えた。

 着ている服は町人と変わらないはずなのに、その姿からはクレティアの王女としての気品と威厳が感じられた。


「あなたに今この場で罰を与えることは、我が国の利益にはなりません。むしろ、責められるべきは父を止められなかったこの私です」

「姫様には何の責任もございません。私がもっと早くに姫様のお言葉を信じていれば、こんなことにはなりませんでした」

「イリア、どうか顔を上げてください。私達が今なさねばならないことは、互いに謝り合うことではありません。全ての発端となった三本の鍵をすべて破壊し、この騒動を収拾することです」


 メルの目的を理解したのか、イリアはまっすぐに彼女を見つめた。


「承知致しました。メルレッタ様、どうか私に騎士としての名誉を挽回する機会をお与えください、これからはあなた様の力となることを、我が弓、我が竜にかけて誓います」

「ありがとうございます、イリア」


 メルは強張っていた表情をようやく崩し、微笑んだ。時間はかかったが、無事に二人とも誤解が解けたようだ。


「仲直りできて良かったですね!」

「ああ、そうだな」


 そんな二人を見ながら、ファティナはうんうんと満足げにうなずいている。


「二人にも申し訳ないことをした。そして、こんなことを言えた立場ではないのは承知しているが……姫様を守ってくれて、本当にありがとう」


 イリアは次に俺達の前にやってきて、頭を下げた。


「い、いえいえ! メルさんが気にしないなら、私ももう平気ですから!」


 急にイリアの態度が変わったせいか、ファティナは慌てて手をぶんぶんと振ってみせた。


「俺もファティナと同じだ。お互いに、もういいだろう」

「そう言ってもらえると助かる。これからは私も力を貸すことを約束する」


 イリアはこれからはメルを守ろうとするだろう。

 これでもう、彼女達の部隊に追いかけ回されるようなことはなくなるはずだ。


 ふとメルの方を見てみると、彼女は窓際に立って外をじっと見つめていた。

 彼女の視線の先にあるのは、先程の戦闘で破壊され瓦礫の山と化した一区画だ。


 戦いが終わった後、騒ぎを聞きつけたエリオットとチェスターが息を切らせながら走ってきた。

 二人は俺達から一部始終を聞くと、すぐに人手を集めて逃げ遅れた負傷者の手当てを行った。俺達もそれに加わり、彼らを手伝った。


 対応が早かったこともあり、怪我人はいたものの死者は出ずに済んだ。

 住民が、クレティア兵がこの都市を襲撃してきたものと勘違いして門の外に逃げ出していたことも良い方に影響したようだ。


 現在はエリオットが主導となって、諸々の問題について商人達と話し合いを進めている。

 当然ではあるが、これだけの事態に発展してしまった以上、住民達が納得できる説明をしなければならないだろう。


 そんな風に考えていたところで不意に部屋の扉が叩かれ、チェスターが入ってきた。


「皆さん、お待たせしていて申し訳ない!」

「いや、大丈夫だ。今の状況は?」

「ええ、それですが……」


 チェスターはイリアの方を見ると、それきり口を閉ざしてしまった。


「チェスターさん、我が国の兵士についてはもう大丈夫です。私が説き伏せましたので、トラスヴェルムを攻めるようなことはもうありません。私のせいでこのようなことになってごめんなさい」

「いやいや! メルレッタ様が謝ることではございませんので! では……」


 突然自分達の都市に押しかけては暴れ回った人間を警戒するのも当然だ。しかしメルがはっきりと言い切ったので大丈夫だと判断したらしく、チェスターは話を続けた。


「ひとまず、負傷者については心配いりません。全員ポーションと治癒魔術で全快しました。建物については我が都市に蓄えられている資金で建て直しをしますので、そこも大丈夫です。問題なのは──」

「急にドラゴンが現れたことについてか」


 チェスターはうなずいてみせた。


「ええ。幸い路地裏で目撃者が一人もいなかったので、アレンが流水の鍵を使ってドラゴンになったということは知られていません。鍵やアレン達の事を素直に説明しても混乱を招くだけですし、その場合クレティア国王がどう出てくるのか分からないので、公表はしません」

「確かにその方がいいだろうな」


 トラスヴェルムを管理する者としての目線なら、無駄に飛び火させないように行動するチェスターの考え方は正しいように思う。


「どう説明するつもりなんだ?」

「ウィオル商会が扱っていた品の中にドラゴンを呼び出すアイテムがあったという話で通します。そもそも、アレン達を雇って好き勝手させていた結果このような事態に発展したんですからね。連帯責任です。ドルトスは牢屋にぶち込んでおきましたよ」

「そうか」


 ここまで悪評が募ればもうウィオル商会はまともに商売ができなくなりそうではあるが、それも仕方ないことなのかもしれない。


「アレン達は今どこに?」

「アレンはまだ意識が戻っていません。パーティメンバーは全員部屋の中にいると思いますよ。それと……少し気になることが」

「気になること?」


 チェスターは「うーん」と唸りながら、腕組みしている。どう説明すればいいものやら、といった感じだった。


「鍵の事もあるので、念の為商会の者がアレンに【鑑定】スキルを使用したのですが……少々不自然な点がありましてね」

「不自然な点?」

「実は……アレンのレベル上限が()()()()()()んです」

「レベル上限が……? それは確かなのか?」

「はい。彼のレベル上限は噂に名高い『90』であったはずです。それが何故やら、何度鑑定しても『10』と表示されています。ステータスもそれ相応のものでした」


 普通ならば有り得ないで終わる話だが、鍵が絡んでしまっている以上、否定はできなかった。


 考えられるのは、アレンが守護者としての力を得た後、それを失ったことで何らかの影響を受けたということだろうか。

 いつの間にかすぐ横にメルが立っていたので視線を向けてみる。だが、すぐに首を横に振られた。

 この場にいる誰もが、鍵の効果について具体的に何か知識があるわけではない。

 答えは出せないままだ。


 そして、新たに判明した事実としては──鍵は俺達にとって必ずしも有益な効果をもたらすものではないということだ。

 とはいえ、俺にも鍵が必要で、メルにとってもそれは変わらないだろう。


 しかし、このまますべての鍵を集めて本当に良いのだろうか。

 今更ではあるが、そんな考えがほんの少しだけ頭をよぎる。


「もし鑑定結果が本当だとすれば、もうSランク冒険者としてやっていくのは無理でしょうね」

「そういうことになるだろう」


 冒険者ギルドの指標としては、レベル上限10というのはEランクモンスターを倒せる程度、ということになる。もしも鑑定の結果が真であるならば、冒険者としてはレベル上限1の俺と同じでほとんど先がない。


 だとするならば、アレンはこの先どうなるのだろうか。


「チェスター様、おられますか?」

「ん、入ってきていいぞ」


 廊下から聞こえてきた声に、チェスターが返事をする。扉が少し開き、商会の人間らしき男が顔を覗かせた。


「お話中失礼致します。冒険者アレンのパーティメンバーが話し合いをしたいと言っております。いかがいたしますか?」

「そうか……すぐに行くと伝えてくれ」

「かしこまりました。では、一階の大部屋に移動するように伝えておきます」

「分かった」


 扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのが聞こえた。


「……ふむ、どうやら何か話があるようですね。皆さんはどうしますか?」

「私は参加させていただきたいと思います」


 すぐにメルがそう言い、イリアが「私も同席したい」と、そしてファティナも「私も行きたいです」とそれぞれ参加を表明した。


「俺も話を聞いておきたい。しかし、アレンが不在の状態だがいいのか?」

「まあ……それはつまり、アレンがいないところで話をしたいということでしょうね」

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