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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第七十話 過去回想:アレンとエリス その3

 アレンとエリスが冒険者になってから五年が過ぎた。


 アレンはある国でのモンスター討伐の褒美として国王から賜った白い剣士用の鎧に身を包んでいる。元々整っていた容姿と相まって、その姿は更に多くの人目を引くようになった。


 一方のエリスは軽さと堅牢さを両立した板金鎧を纏って大盾を持ち、聖騎士としての仕事がすっかり板についている。


 レベルが上限まで上がった二人のパーティは、並の冒険者パーティなら尻尾を巻いて逃げ出すようなミノタウロスやドラゴンなどの強力なモンスターを難なく倒せるようになっていた。


 そんな二人が、冒険者達の中でもほんの一握りしかいないSランク冒険者に認定されるのはごく自然な流れだった。


 アレンのパーティと言えば、今では冒険者の間では知らぬ者がいないほど有名になっている。


 そんなある日のこと。


「アレンさん、今までありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそ本当に助かりましたよ。どうかお元気で」

「はい! それでは失礼します! 皆もがんばってね!」


 エリス達とそれほど歳が変わらない魔術師の女性は、別れの挨拶をして手を元気よく振ると、町の通りを歩いていき、やがて人混みの中へと消えていった。


 ──またか。と思いながら、エリスは彼女の消えた道の先を冷めた目でただ見つめている。


 アレンはこの日、レベル上限60の女魔術師をパーティから外した。

 彼の隣には、新しくメンバーとして迎え入れられたレベル上限70の魔術師であるドロテアが無言のまま立っている。

 ドロテアは元々別のパーティに所属していた冒険者だったが、アレンが話をつけて引き抜いた。それよりも前に加入したレベル上限80の盗賊であるフィオーネも同様だった。


 この世界では、イリアの持つ【竜使い】のような特殊なスキルを除けばレベルアップ以外で能力値(ステータス)を上げる手段はないに等しい。

 ダンジョンから得られる強力な装備品もあるにはあるが、それらは非常に高価だったので、おいそれと持てる代物ではなかった。

 だからこそ、冒険者にとってはとにかくレベル上限の高さが物を言う。


「さて、行きましょうか」

「……」


 アレンはいつもの口調で言うと、町の中を悠然と歩き始めた。

 エリスは黙って彼についていきながら、フィオーネとドロテアの顔を順々に見回す。


(これで、全員レベル上限70以上……)


 ギルド職員によれば、現在登録されているSランク冒険者のレベル上限は80が最高だという。アレンはそれを超える90で、しかもスキルを三つ所持している。更には補正スキルのお陰で、良い武器を持てばより攻撃力が高くなる。


 アレンのリーダーとしての手腕は見事で、冒険者ギルドの依頼や突発的なモンスターとの戦闘において一度たりとも失敗はなく、依頼主や他の冒険者達からの評判もすこぶる良い。


 そんな彼のパーティに誘われるのは、冒険者として名誉なことだったに違いない。だが、名声にあまり興味がないエリスからすれば『そんな簡単に元のパーティを抜けるんだ』という違和感しかなかった。


 エリスの考える『仲間』と、彼らの言う『仲間』が違うというのは、これまでの経験から薄々気付いてはいた。

 そして、さっきのようなメンバー交代が起こる度、エリスは自分の考え方だけがおかしくて、アレンが正しいのだろうと無理矢理思い込むことに決めていた。



 ──冒険者になった当時、アレンはまず自分と同じような新人のメンバーを三名集めた。

 彼らはいずれもレベル上限30程度であり、二人の能力と差があるのは誰の目から見ても明らかだった。


 アレンはパーティを結成すると、すぐにギルドの依頼をこなしながらレベル上げを始めた。装備やポーションは大きな商会から十二分に提供されることが多かったので、何一つ心配はなかった。


 エリスには、冒険者としての生活にあまり不満はなかった。

 聖騎士の役割はパーティの盾となることなので、痛い思いをすることも多々あるが、適したスキルが三つもあり、またアレンの上手い立ち回りのお陰で危険な目に遭うこともなかった。

 仲間達とも問題なくやれていて、愚痴を言われたこともない。


 依頼でどこかの町や村に行けば誰もが歓迎してくれたし、モンスターを倒せば喜ばれたので、努力した分だけ満足感もあった。


 そうして次々に依頼をこなしていったある時、メンバーがひどく気まずそうな顔をし始めた。エリスが何があったのかと尋ねると、彼らは適当にはぐらかした。


 それから数日と経たないうちに、彼らはパーティを抜けていき、代わりにまた別の冒険者が加入した。


 先にレベル上限に達した彼らは、自主的にアレンのパーティを離脱したのだ。


 何よりエリスが驚いたのは、アレンが既に新しいパーティメンバーを確保していたことだった。しかも全員、以前のメンバー達よりもレベル上限が高い。


 二人を町まで連れて来た冒険者達が言っていた『能力鑑定で身の振り方が決まってしまう』という言葉を、今更ながらにエリスは実感した。


 それからというもの、大体一年に一度ぐらい同じような入れ替えが起こるのが恒例になった。

 離脱していく彼らは、『二人とパーティを組めたことは幸運だった』とか、『誇りに思う』とか言って去って行く。エリスにはさっぱり意味が分からなかったし、アレンの評判も落ちるどころかむしろ上がった。


「仲間って、何なんだろう」


 エリスは誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。


 以前、この問いについてアレンに尋ねたことがあった。

 すると彼はエリスが本当に言いたかった事を汲み取ったのか、笑いながらこう答えた。


「仕方ないじゃないか。レベル上限の高い僕達とは住む世界が違うんだから」


 その口ぶりは、エリスがよく知っているはずの彼ではなく、最早別人だった。

 そして、アレンはパーティメンバーを仲間などではなく、消耗品か何かのようにしか見ていないことを知ったのだった。


(そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんなものがどうしてこの世に存在しているのか?


 アレンとエリスを見た人々の中には、二人を神に選ばれた存在だと言う者達が少なからずいた。

 それが本当だとしたら、いったい神様はどうしてこんな不公平な仕組みを用意したのか?

 生まれや容姿の違いと一緒で、言っても仕方がないことをエリスは悩んだ。


 冒険者達の間に広まっている噂では、この世界のどこかにレベル上限を上げるアイテムが存在しているという。

 でも、実際にそれを見たことがある人間はいない。きっと恵まれない境遇の誰かが希望を託して作った嘘ではないかとエリスは思う。


 エリスは先頭を歩くアレンを見やる。


 アレンはきっと、ただの冒険者として終わるつもりはない。

 そんな彼を応援したい気持ちは変わらない。


 でも、こんなことを続けていけば、いずれ思いもよらない事態に足を踏み入れてしまうのではないか──そんな予感が常にエリスにつきまとっていた。


「Sランク冒険者のアレンだな?」


 人気のない細い道に入ったところで、彼らの前に突然真っ黒な外套を身に纏った人間が現れた。声色から男だと思われるが、フードを鼻先まで覆うように深く被っており、口元は布で隠しているので顔はほとんど見えていない。


「そうですが、貴方は?」


 アレンが臆する様子もなく聞き返すと、男は一枚の封蝋で閉じられた手紙を差し出した。


「これを。中身を読んだなら、すぐに燃やせ」


 アレンは手紙を受け取り、その場で開いて中身を読み始めた。

 そして、「おお」と小さい感嘆の声を漏らす。


「貴方の主にどうか、よろしくお伝えください」


 アレンの返事を受け取った男は、走って別の道へと消えて行った。


「次の依頼が決まりました。さあ、向かいましょうか」

「アレン、どこに行くの?」

「目的地はクレティア王国です。そこで、特別な依頼主が私達を待っていますよ」


 アレンは相変わらず余裕に満ちた顔を見せ、再び歩き出す。


 そうしてクレティア王国に向かった後、エリスの予感は見事に的中することになるのだった。

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