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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第六十八話 過去回想:アレンとエリス その1

「アレン、今日はこの辺りで村に戻ろう?」

「ああ、でももう少しだけ……薬草がいつもより多く取れそうなんだ」

「最近は村のすぐ近くにモンスターが出るから、あまり長い間外には行かないようにって村長さんも言ってたでしょ?」

「……分かったよ、エリス。帰ろうか」


 金色の髪に整った顔立ちの少年アレンは、赤い髪の幼馴染の少女エリスに言われて渋々といった風に地面に置いた大きな籠を背負うと、目と鼻の先にある自分達の住む村に向かって歩き始めた。


 今から五年ほど前のこと、村のすぐ近くにある森の中で、まだ冒険者になる前のアレンとエリスはいつものように薬草を集めていた。


 薬草は擦り傷程度ならばすぐに治る塗り薬に加工でき、町ではポーションの原料として錬金術師が利用することが多い為、定期的にやってくる商人に売れば銅貨数枚にはなる。

 大抵の村では、こういった品と併せて作物や狩りで得た動物の毛皮などを売ることで金銭を得ていた。


 アレンとエリスは、村での仕事が一段落するとこうして森の中に入っては色々な野草を採るのが日課となっていたのだった。


 村に戻った二人は、普段は見慣れない人間達が広場で村長のガランと話をしていることに気が付いた。

 四人の男女はそれぞれ金属や革でできている鎧、外套を身に付けており、剣や槍を持って武装している。

 そんな彼らを見て不思議に感じた二人は、そばに近寄った。


「ガランさん、何かあったんですか?」

「おお、アレンにエリスか。こちらは冒険者ギルドに出したモンスターの討伐依頼を受けて来てくださった冒険者の方々だ」


 村の近くをゴブリンやフォレストウルフがうろつくようになったという話を、二人は村の大人達から聞いていた。

 村長は、馴染みの商人に代行を頼んで何日か前に冒険者ギルドに依頼を出していたのだった。


「この村の子どもか?」

「はい、アレンとエリスと申します。二人ともまだ成人したばかりですが、よくやってくれています」


 冒険者に尋ねられ、村長が紹介する。二人は彼らに向かってぺこりと頭を下げた。


 その時、冒険者パーティの一人で黒く長い外套を纏った男が二人の顔をじっと見つめたかと思うと、途端に「なっ!?」とひどく驚いたような声を上げた。


「ど、どうかなさいましたか?」

「レベル上限90に80!? まさか、この村にそんな子どもがいたとは!」

「90だと!? 信じられん……それは本当なのか?」


 冒険者達も彼の言葉を聞いて物凄く驚いていた。


 村に訪れた冒険者パーティの一人である魔術師の男は、珍しい【鑑定】スキルの所持者だった。

 彼が何気なくアレンとエリスのステータスを確認したことにより、二人の能力が発覚したのだ。


 どこにでもある、ごく普通の村で生まれ育った彼らの人生は、この魔術師の男が放った一言によって大きく変わることになる。


「なんと! この子らにそんなすごい力があったとは!」


 二人はレベル上限やスキルの概念について聞いたことはあったものの、何がどうなのかまではあまり興味がなかったので知識としては持っていなかった。そのため、すごいと言われてもただぽかんと口を開けているだけだった。


「アレン、どういうことか分かる?」

「さあ、僕にも何が何やら……」

「ずっとこの村で育ったお前達は知らないかもしれないが、人の持つレベル上限で90や80なんてのは、それだけで英雄になれる資質を秘めているということになるんだ」


 冒険者パーティのリーダーらしき鉄製の全身鎧を着た髭面の男が説明してくれた。


 男が言うには、人の持つレベル上限の中でも70以上は英雄として大成した者達ばかりだという。しかもアレンの90という上限は過去に類を見ないものであり、エリスの上限80も冒険者の最高ランクであるSランクになれる器だという話だった。

 レベル上限が50以上あるのなら、冒険者でなくとも騎士として採用される可能性が高いという。


「ここで穏やかに一生を終えるのも悪くはないと思うが、俺としては二人の能力を使わずにおくのは勿体ないと思うぞ。少し、今後について考えてみてはどうだ?」


 男はそれから、「話が逸れたな」と言って村長との会話を再開した。アレンとエリスは邪魔をしては悪いと思い、その場を後にすることにした。


「ねえ、さっきの話、アレンはどう思う?」


 歩きながら、エリスがアレンに聞いた。


「いきなり英雄になれるだなんて言われても、実感が湧かないね。でも騎士になるのは嫌だな。村にたまにやってくる兵士さん達が酒場で愚痴をこぼしてるのを何度も見掛けた」

「……言えてるかも」


 アレンはそれから「だけど」と付け加えた。


「冒険者になるのは悪くないかもしれない。薬草を摘むよりももっと金を稼げるだろうし、村人の出だからといって邪険にされるものでもないと思うんだ」

「でも、冒険者ってモンスターと戦うような危険な仕事ばかりだって聞いてるよ。さっきの人達もそれで村に来たんだから」

「僕のレベル上限の高さはとても珍しいらしいから、レベルを上げれば大丈夫じゃないかな。あとは……あの人達みたいに仲間を募ればいい。そうすれば安心だ。まあ、もしもなるならの話だけどね」


 アレンはそれっきり何も言わなかったが、エリスは何となく、彼がもうこの村を出ていこうと決めているのを感じ取っていた。

 エリスは生まれた時からアレンと兄妹のように過ごしてきたので、彼の口調や動作など、僅かな素振りから多くの事を理解できるようになっていた。


 その日から、村はアレンとエリスの能力の話題で持ち切りだった。

 二人のことを彼らの両親達は誇りに思い、村人達はこの村から英雄が生まれるかもしれないという期待と羨望を込めて見ていた。


 それから数日が過ぎた後、村に滞在していた冒険者達がEランクモンスターのフォレストウルフ5匹とゴブリン4体、そしてDランクのオーク5体を森で倒したという話を村長のガランにして、無事依頼は達成ということになった。


「では、これで依頼は達成ということでいいな」

「はい、こちらの書類にその旨書かせていただきました。ありがとうございました」


 ガランは依頼達成を確認したことについて書かれた書類をパーティリーダーの男に差し出し、男は「確かに」といってそれを受け取った。


 この村から一番近い町までは歩けば二日程度の距離だったので、冒険者達も馬車に金を使わずに徒歩でやって来ていた。


「それでは失礼する。それと……二人は必ず町まで送り届けよう」

「はい、どうかよろしくお願い致します」


 村を後にしようとする彼らのすぐ後ろには、アレンとエリスの姿があった。

 二人は両親や村長と話し合って、冒険者になることを決めたのだった。


 エリスはこれまでずっとアレンと一緒に過ごしてきたので、彼がいなくなった後の生活はあまり想像できなかった。そして、アレンに何かしたいことがあるのならば、それを助けたいと思っていた。そんな風に考えて、アレンと一緒に冒険者になることにしたのだった。


 こうして、二人は冒険者となるため村を旅立ったのだった。

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