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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第六十一話 流水の守護者

 リッチは祭壇の前で佇んだまま、それ以上は動こうとしない。まるで、こちらの出方を窺っているようだ。人間を視認した時点で攻撃を仕掛けてくる通常のモンスターとは異なる、知性を持つかのような動きだった。


「も、もしあの場所にいたら……」


 チェスターが、魔術によって黒く焼け焦げた地面を見ながら戦慄する。たまたま奴の振る舞いから攻撃を予測できたから良かったものの、回避は紙一重だった。メルの《プロテクション》がかかっているにせよ、直撃すればダメージの許容量はあっさり超えるだろう。


 リッチは先程のような高威力の魔術であっても詠唱すら必要としないようだ。アンデッドと化したせいか、或いは元からそういった芸当ができたのか。


「……アーク様、どうしますか?」


 いつもなら戦闘時に自ら率先して動くファティナが今回に限っては先に尋ねた。彼女のスキルを以ってしても、攻め方を決めあぐねるような相手だということだ。


「奴は人間ならば魔術師に相当する。ドレインタッチも使えるはずだが……魔術を使わせないようにするためには、できる限り接近戦に持ち込むしかない。俺が先に行って【即死魔術】をぶつける。ファティナは無理はしない程度に前に進んでくれ」

「分かりました。援護します」


 部屋の地面を全力で疾走し、一気にリッチとの距離を詰める。すると奴は、俺達の動きに反応するかのようにして再び杖を掲げた。


 ──直後、凄まじい轟音と共に頭上に雷撃が発生し、俺を狙って落ちる。それを前に大きく跳んでかわした。


 どうやらリッチは少なくとも二種類以上の属性の魔術を使うことができるようだ。そして、杖を掲げるのと魔術の行使はほぼ同時に行われる。だからこそ、来るタイミングが分かり易い。


「はあっ!」


 走る俺のすぐ横から、前方に向かって直進する斬撃が飛び出す。ファティナの技だ。


『……』


 自分に向かう攻撃を認識したのか、リッチは杖の先端を前方へと向けた。すると杖に瘴気が集い、壁のように前に広がった。


 斬撃は瘴気の壁にぶつかると、一気に霧散した。


「瘴気を盾にっ!」


 やがてリッチの展開した瘴気が晴れたと思うと──奴はまだ杖をこちらに向けたままだった。


「ファティナ! 横に避けろ!」

「ッ!!」


 ファティナが横に避けるのとほぼ同時に少し前の地面が隆起し、天井に向かって沢山の尖った岩塊が飛び出した。彼女が避けずに本来の道を走っていたならば、串刺しになっていただろう。


「全ての属性の魔術を扱えるのか」


 状況に応じて様々な属性を使い分ける様は、まるでリュインのようだ。


「《クアドラプル・デス》!!」


 走りながら、『クアドラプル』を乗せた《デス》をリッチに向けて放つ。左手から放たれた《デス》の魔術は奴へと直進していく。


『……』


 だが、それは再び現れた瘴気の壁に阻まれ、かき消された。


「そ、そんな! 【即死魔術】が効かないのかっ!?」


 【即死魔術】が立ち消えたところを見たからか、チェスターが叫んだ。恐らく、あの瘴気こそが奴の魔術防御を兼ねているのだろう。


 リッチが今度は杖先を俺に向けた。それを見て、すぐに奴に向かってあらん限りの力で跳躍する。


『……!』


 すぐ真下の地面で、大きな炎が爆ぜた。だが、もう俺は奴の目の前までやって来ていた。


「ふっ!」


 空中で落下しながら剣を真上に掲げ、リッチに向かって思い切り振り下ろす。剣のスキルが無かったとしても、俺のステータスならばダメージを与えられるはずだ。


 だが、俺に気付いたリッチは杖で一撃を受け切った。


 地面に着地した後、続けざまに幾度も剣で斬りつける。魔術を使わせる暇を与えないように。


 リッチは杖で俺の攻撃を防いではいるが、元が魔術師だからなのかその反応は鈍い。思った通り、接近戦であればそれほど得意ではないようだ。


 金属同士がぶつかり合う音が部屋の中に響き渡り、剣と杖で鍔迫り合いをするような恰好になる。剣を隔てた目の前で、骨だけとなった頭部が俺を見ていた。


「アーク様!」


 追いついたファティナがリッチに向けて剣を振る。今ならば奴は無防備だ。


 二人で攻撃を続け、隙を見て《デス》を当てれば勝てるはず。


 そう思った瞬間──突然奴の姿が残像を生じさせながら横に動き、消えた。


「えっ!?」


 突如として消えたリッチを見失い、ファティナが辺りを見回す。


「ファティナ! 後ろだ!」


 いつの間にか、奴はファティナの背後に移動していた。


「うあっ! きゃああっ!!」


 夥しい瘴気と共にリッチがその場に再び姿を現し──骨しかなくなった手で振り向いたファティナの首を掴んでいた。


「あぐっ!」


 首を掴まれたファティナは容易く宙に持ち上げられ、剣を落とした。


 彼女を包んでいた《プロテクション》の光が消える。ドレインタッチによってダメージを受けているのだ。


 生者にとって毒である瘴気に触れているせいか、俺自身の体にも痛みが走る。


「ファティナさん!」


 メルの悲痛な叫び声が部屋にこだまする。


 最早手段を選んではいられない。


「破滅よ、全てを食らい無へと還せ──《ルイン》」


 【即死魔術】の《ルイン》が発動し、再び死神を模した姿が目の前に現れて鎌を振るう。


『……!!』


 だが、リッチの周囲を漂っていた瘴気が寄り合わさって壁のようなものが作られ、奴の体への直撃を防ぐ。鎌は少しずつ、壁に食い込むようにして進んでいく。


「ううっ!」


 ファティナが両手でリッチの拘束を外そうとするが、苦し気な顔をしている。このままでは彼女の命がもたない。


 ──ならば。


「破滅よ、全てを食らい無へと還せ──《ルイン》」


 もう一度、《ルイン》を唱えると、二体目の骸骨が出現した。


『────ォォォォオオオ!!』


 二体目の鎌が瘴気の壁を突破しようと鎌を振るうと、リッチが声を発した。


「ぐッ!!」


 《ルイン》の同時発動により、体の中から一気に命が削られていくのを感じる。視界が赤く染まった。


 だが、それでも残った力で剣を握り、瘴気の壁に向かって思い切り突き刺す。ミスリル製の剣であれば、多少でも意味があるはずだ。


 リッチが頭を動かし、瘴気の壁越しに顔を俺の方へと近づける。

 奴は瘴気で防御をしている間は、魔術が使えないようだ。


『ォォォォオオオ! グアアアォ!』


 骨だけの頭が威嚇するかのように口を開き、俺の顔に噛みつかんばかりに迫る。だがそれでも、俺は剣を手放さない。


 俺は、仲間を失うわけにはいかない。


「迷える魂よ、我が祈りとともに在るべき場所へと還れ──《ディスペル》」


 突然メルの声が聞こえたかと思うと、リッチを中心として周囲が淡く白い光に包まれた。


 アンデッドを還す、《ディスペル》の魔術だ。


 いくら何でも《ディスペル》ではリッチを浄化することはできない。

 だが、リッチの周りの瘴気がそれによって少しだけ薄まった。


 そうして、ついに瘴気の壁が霧散して消え──二体の骸骨の持つ鎌が、同時にリッチの体へと突き刺さった。


『ヴォォォオオオ!!』


 断末魔の叫びと共に、リッチの体はざらざらと音を立てながら、灰のようになって地面へと零れ落ちていく。


「げほっ! げほっ!」


 リッチの腕が粉々になり、ファティナの体が地面へと落下する。横たわりながら首元を押さえて咳をしているところを見ると、彼女が命を失う前に助けられたようだ。


「アークさん! ファティナさん!」


 チェスターとメルが俺達のそばに駆け寄ってきた。


「こ、これは大変だ! 高名な錬金術師が作ったポーションです! 飲んでください!」


「しっかりしてください! 今、治癒魔術を使います!」


 メルが治癒魔術でファティナの体を癒し、チェスターが持っていたポーションを飲ませる。


 ファティナがむせ返りながらもポーションを飲むと、青白くなっていた彼女の顔に赤みが差し始めた。


「助けるのが遅れてすまない」


「いえ……私の方こそ……ごめんなさい」


「謝るのは俺の方だ。ファティナのお陰で、守護者を倒すことができたんだ」


 俺が指差した場所──そこには、まばゆい輝きを放つ蒼い宝石が嵌め込まれた鍵が空中に浮いていた。


 そして、気付かなかったが視界にメッセージが表示されていた。


『スキルレベルがアップしました。ポイントを割り振ってください』

『特殊なモンスターを倒したことにより、新たな能力を獲得しました。ステータスを表示します』


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【基本ステータス】

 名前:アーク

 職業:魔術師

 レベル:1★★


 HP:15000/15000

 MP:15000/15000


 攻撃:8000

 防御:8000

 体力:8000

 速さ:8000

 知性:8000


【所有スキル】

 ・即死魔術 Lv60


【所有能力】

 ・魔力消費半減 Lv1

 ・有効範囲アップ Lv4

 ・成功確率アップ Lv2

 ・ルイン強化 Lv1

 ・死者の棺

 ・魂の回収

 ・クアドラプル

 ・マルチプルチャント

 ・インサニティ

 ・ミアズマウェイブ

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