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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第五十話 下層へ集う者達

「おはようございます、皆さん。昨日はご心配をおかけしました」

「あっ! メルさん!」


 朝、昨日ぶりにメルが申し訳なさそうに皆の前に顔を出したところで、それを見たファティナが思いきり彼女に抱きついた。


「大丈夫ですか!? 痛いところとかはありませんか?」

「は、はい。もう大丈夫ですから……本当に」

「よかったです! もう心配で……」


 メルはファティナに抱擁されて若干苦しそうにしながら、はにかんで笑っている。


 ふとファティナの後ろにいた俺と目が合うと、彼女はしばしの間、目を閉じながらそのままの体勢でじっとしていた。


「さて、そろそろ朝食が出来上がりますよ。メルさんもお腹が空いたでしょう?」


 チェスターがそんな二人を見ながら言う。彼も明るくなったメルの様子を見て安心したようだ。


「ありがとうございます、チェスターさん。それと……皆さんにダンジョンの事でお話があります」

「ダンジョンの……ですか?」

「そうですか。分かりました。ここで立ち話をするのも何ですから、食事をしながらにしましょうか」


 そうして、四人で大食堂へと移動して朝食をとる。


 昨日とは打って変わって、三人とも美味しそうに出されたものを食べていた。


 なお、エリオットは朝から商会の仕事があるとのことで今この場には同席していなかった。


「メルさん、それで話って何でしょう?」


 ファティナが尋ねると、メルは一度俺の目を見てうなずいてから説明を始めた。


「古文書に書かれている通りならば、昨日、私たちが入ったダンジョン──流水洞穴には隠された下層が存在しています」

「隠された下層? それに、その流水洞穴とは一体……?」


 チェスターが不思議そうに俺達の顔を見た。

 事情を一切知らない彼にしてみれば、何の話なのか分からないも当然だろう。


「流水洞穴というのは、トラスヴェルムのダンジョンの名称だ。そしてその最深部には、【流水の鍵】という特別なアイテムが存在しているんだ」

「な、なんと? そんな話は我々の商会には何も……一体どこからの情報なのですか?」

「このことはクレティアの王族と一部の冒険者達しか知りません。そして、チェスターさんにも関係がある話なのでお伝えしました」

「えっ? 私にですか?」


 ますます分からなさが増してしまったようで、チェスターはただ呆然としてしまっている。


「はい。下層に入るためには、流水洞穴の中層の終端──現在チェスターさん達が下層と呼んでいる場所から、更に【転移魔術】を使って移動する必要があります」


 メルが告げた言葉に、チェスターはあまりにも驚いたのか「えっ?」と言って口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「へえぇ……そんな仕組みがあるんですね」

「ああ、俺も昨日の夜にメルから初めて聞いた話だ。古文書に書いてあったらしいから多分正しいんだと──」

「昨日の、夜……?」


 それを聞いたファティナは、なぜか俺に対して何らかの抗議をするかのような視線を向けてきた……。


「チェスターさん、こんなことを今更言っても許されないことは分かっているつもりですが……今まで隠していてごめんなさい」


 そこまで言って一旦言葉を切ると、メルは椅子の横に立ち丁寧に深く頭を下げた。


「メルではなく──王女メルレッタとして謝罪します」

「メ、メルレッタ……さま……? ま、まさか本物の我が国の王女様で!? これは失礼をっ!! どうか、私めの度重なる無礼をお許しください!」


 チェスターは彼女の正体を知って突然席から立ちあがると、大きく後退りながらひざまずいた。


「どうか顔を上げてください、チェスターさん。謝らなければならないのはこちらの方です。私は貴方を巻き込んでしまいました。そして──こんな事を言えた義理ではないことを承知でお願いします。下層に行くため、力を貸していただけないでしょうか」


 メルは彼に向かって告げるが……彼女自身、その顔には不安が見て取れた。


 そして彼女の言葉に対して、チェスターは無言のままでいる。


 それもそうだろう。いくらこの国の王女からの頼みとはいえ昨日あれだけ危険な目に遭っている。

 もしもエリオットがこの場にいたのなら、真っ先に止めていたかもしれない。


「分かりました! どうか私をお連れください!」

「えっ?」


 ところがチェスターは予想と違ってにこりとしながら大きな声で返事をした。

 今度は逆にメルが面食らったような顔をした。


「いいのか? 危険な場所だが……」


 俺が聞くと、チェスターは「フッ」と軽く鼻で笑ってみせた。


「私は商人です。守らなければならないのは利益。他ならぬ王女様を助けたとあれば、我が商会にとって大きな価値があるに決まっていますからね」


 そう話す彼の目は、出会った時にエリオットがしたような商人の目だった。


 チェスターはこれで王族に貸しを作り、接点を持てると思ったに違いない。

 何とも商人らしい考え方だ。


「ありがとうございます……チェスターさん」


 メルは安堵したかのような顔で微笑んだ。


「では、詳しい話をお伺いしましょう!」


 チェスターは再び席に着くと、先程までとは変わって真剣な表情で話を始めたのだった。



◆◆◆



「おい! アレン! アレンはいるかっ!」


 ウィオル商会の所有する建物の中、その廊下で一人の男が大声で名前を呼んでいた。


 貴族のような上等な服で着飾っている男、このトラスヴェルムで最も影響力を持つウィオル商会の一人息子のドルトスは、自らが雇っているSランク冒険者のアレンを探していた。


 いつもなら彼のすぐ後ろにいるBランク冒険者達は、もう彼の近くにはいない。


 アークに何もできずにやられた後、どこかに逃げてしまっていた。


「おやドルトスさん、これは一体何の騒ぎですか?」


 大部屋の扉を開けると、そこにはアレンとそのパーティメンバーが全員揃っていた。


「アレン! 今すぐについてこい! クラウ商会の奴らに目に物見せて──うっ!?」


 だが次の瞬間、アレンの抜いた剣の切っ先が近付いたドルトスの喉元に突き付けられていた。


「口の利き方には気を付けたほうがいい。私達は確かに貴方の商会の世話にはなっているが、それはダンジョンを攻略するという共通の目的があるからだ」

「ぐっ……き、貴様っ……」


 ドルトスが呻きながら後ろに下がると、アレンは剣を鞘に納めた。


 アレン達がこうしてドルトスに雇われたのには理由があった。


 流水洞穴の攻略にあたり、アレン達はクレティア国王から古文書を解読して得られた隠された下層への侵入方法を聞いていた。


 だが、【転移魔術】のスキルを持つ魔術師までは国王は用意しなかったため、自分達で募る必要があった。


 アレンは内心、『舐められたものだ』と思いはしたものの、ウィオル商会の息子であるドルトスから提案があったため、それに乗ることにしたのだった。


 アレンを雇ったドルトスの目的は、流水洞穴の探索で得られた珍しいアイテム類をウィオル商会が独占して買い取るということ。そして未攻略である流水洞穴を攻略することだった。


 Sランク冒険者達はどこかの商会の子飼いになるようなことはない。縛られるだけでほぼメリットが無いからだ。


 そんな中、冒険者の中で最強と言われるSランク冒険者パーティを雇ったというだけでウィオル商会はトラスヴェルムでは一目置かれ、商会としての力を誇示することができた。


 更に今まで何人もの冒険者達が攻略できなかったダンジョンを攻略できたとあれば、その影響力は更に高まる。


 そのためにドルトスはアレンの要求通り商会の【転移魔術】スキルを持つ魔術師を連れていくことを許可し、宿や高価なポーション類まで用意するという待遇をしていたのだった。


「おい! 絶対にダンジョンを攻略できるんだろうなッ!?」

「ご心配には及びませんよ。既に下層は大分探索できていますから。じきに攻略も終わるでしょう」


 アレンは微笑みながら、怒り気味のドルトスに告げた。


 下層で戦った結果、神官であるリーンのレベルは既に50を超えており、彼女の持つスキル【大司祭】により彼女が成長する度に治癒魔術の効果もアップしている。


 更にアレンのパーティメンバーは全員優秀だったため、通常のパーティであれば対処できないようなAランクモンスター達の猛攻にも対応できつつあった。


「お前達には安くない金をこれまで払っているんだからな! 絶対に攻略しろ! 分かったな!」


 それだけ吐き捨てるように言うと、ドルトスは荒く足音を響かせながら部屋から出て行った。


(愚かな男だ……だが鍵はもうすぐ手に入る。そうなればもう用も無い)


「さあ皆さん、そろそろ下層の攻略に向かいましょうか」

「は、はいっ!」


 アレンの言葉にリーンが反応して声を出す。

 エリス達も支度を済ませ、部屋を後にするのだった。


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