第五話 中層の魔物
多くの方にお読みいただけており、本当にありがとうございます。
そのままいくらか歩くと、更に奥からまた別のモンスターが現れた。
『グブフゥ……』
ゴブリンよりも更に大きく、人よりも少し高い背丈に出っ張った腹。そして口の両端から飛び出ている牙。
のそりのそりと歩いてきたのはオークだ。
オークの強さはEランクの更に上のDランクで、ゴブリンよりも強いとされる。
一体だけならばそれほどでもないが、こちらも集団で行動し、好んで持つ棍棒や斧からは強力な一撃を放つ。
目の前にいるオークもその例にもれず、見えるだけで五体ほどで固まっている。
(どうやら奥に進めば進むほどモンスターも強くなるというのは本当らしいな)
『グゴォォォォ!!』
オーク達は俺が予想していたよりも速い速度で走りながらこちらに襲い掛かってくる。
だが、それでも俺のやることは変わらない。
「《デス》」
放った即死魔術は、オークの体に吸い込まれるようにして消えた。
『グブッ!!』
そして一匹目のオークが絶命する。
『グオオッ!! グオオオッ!!』
残ったオーク達は地面に倒れた仲間を一切気にすることなく突き進んでくる。
ゴブリンのように戸惑うような真似はしなかった。
そうしてすぐ目の前までやってくると、手に持っていた棍棒を容赦なく叩きつけるように振り下ろす。
俺はそれを後ろに跳躍してかわす。
(体が動きに反応できているようだ)
オークはDランクとはいえ、レベル1の俺からしたらその棍棒の一撃はかなり速いはず。
だがそれでも、俺の目にはしっかりとその動きが認識できていた。
『魂の回収』の能力によって、ゴブリン十体に加え今さっき《デス》で倒したオークのステータスを得て更に速さが上がったからだろう。
「《デス》」
『グアオオォォッ!!』
今はただ、倒し続ける。
「《デス》」
『グガアッ!!』
それが俺にできるただ一つの事だから。
「《デス》」
『グウウゥゥゥッ……』
「《デス》」
『グブゥッ!!』
集団でいたオークの最後の一匹が、地面に両膝を突けた状態で動かなくなった。
「……終わったか」
だが、やはりスキルレベルは上がらない。
俺が倒したキリングベアはBランクのモンスターだ。
EやDランクのモンスターを数体倒すだけではまだスキルレベル1つ分にも及ばないということらしい。
このダンジョンの上層にはどの程度のモンスターが現れるのか分からないが、もう少し進めばより強力な存在に出会えるかもしれない。
ひとまず、倒したオーク達を全て『死者の棺』で収納する。
オークの肉というのはなかなか美味いらしく、冒険者はよくこの肉を手に入れては買い取ってもらっているそうだ。
町に戻ったらギルドではなく、どこかの商人に買い取ってもらうことにしよう。
俺は再び、相変わらず代わり映えのしないダンジョンの中を歩き始めた。
そうして途中いくつかの階段を降りながらしばらく歩いたところで、急にその風景が様変わりする。
俺が抜け出た大きな空洞になっている場所、そこには沢山の草木が生えていたからだ。
地下のはずなのに、完全に森だった。
地面や壁から露出した水晶は輝きを放ち、そのためかこの空間は外での昼間のように十分に明るい。
「これはすごいな……」
今まで味気の無い褐色の地面ばかりが続いたせいもあるが、地下にこんな空間があるという不思議な出来事に圧倒されてしまった。
「ん?」
ふと、先にある開けた場所にいる何人かがこちらを見ながら手を上げているのに気付いた。
「おーい! こっちだ!」
草が良い感じに茂る地面に座って手を上げるその姿は、どうやら冒険者パーティのようだった。
彼らは三人組だった。
鉄の鎧を着込んでいる男に、白いローブを纏う女性。そして革の鎧を身に付けている男。
その風体から想像するに、剣士、神官、盗賊といったところだろうか。
こちらも敵意がないことを示すように、手を上げながら近付く。
「おい! 大丈夫か!?」
「え?」
いきなり鎧を着た男から言われたことの意味がさっぱり分からず、言葉が返せない。
「おいおい! 一人でこんなところまで来ておいて、『え?』 じゃないだろ!? しかも何だその服装!」
盗賊らしき冒険者が言う通り、俺は防具を一切付けておらず旅着のままだ。
それに対して目の前の冒険者達はしっかりと装備を整えている。
また俺は単独だ。
パーティも組まずにダンジョンにやって来る冒険者など余程の腕利きでもない限りありえない。
普通に考えればおかしいと思うに違いなかった。
(一人でダンジョンに潜るのも難しいとなるとまずいな)
「いや実は、この場所がとても美しいと聞いたのでどうしても見たかったんです」
「やれやれ……ここはそんな理由で来るような所じゃないぞ!」
俺がここまで即死魔術で戦いながら来たことは言えない。
だからとっさに思いついたことを伝えると、三人は呆れたような顔をした。
「私達はこれから地上に戻るところですから、良かったらご一緒にいかがですか?」
神官の女性がそう言うと、他の二人も頷いた。
「俺達はオークの肉を取りに来たんだ。こいつは金になるし、レベルも上がるからな。それにいざとなればここに逃げてくればいい」
盗賊の男が肉のぎっしりと詰まった鞄を見せながら言った。
「確かにここはモンスターが入ってこないので安全だが、いつまでも居るわけにもいかないだろう? 今回は俺達が町まで送ろう」
「入ってこない? モンスターが?」
不思議な事を言われたので、思わず聞き返す。
「ああ。理由は未だに分かっていないようだが、上層のモンスターはここには入ってこない。だから俺達はこの場で休憩して、これから町へ戻るところだったんだ」
どうやらダンジョンの中にもいわゆる安全地帯が存在するらしい。
他にも様々な仕掛けがありそうだ。
それらを有効活用できれば、スキルのレベル上げに役立つかもしれない。
「さあ、そろそろ出発を……お、おい! どうした!?」
急に剣士の男が慌てながら奥へと走り出した。
「うう……」
俺達の前に現れたのは、四人組の冒険者だった。
四人は傷だらけの姿で、うち一人は他の二人に肩を借りて歩いている。
「た、助けてくれ……」
「しっかりしろ! すぐに回復しなければ!」
「こ、この先にやたらとでかいスケルトンがいて……それで……」
その言葉に、冒険者達の顔が青ざめていく。
「スケルトンだと!?」
「おいおい! スケルトンってCランクのモンスターじゃねえか!? なんでこのダンジョンの上層にいるんだよ!?」
スケルトン。
それは、ダンジョンで倒れた者の骨からなるアンデッドモンスターだ。
骨だけの異形となり蘇った彼らは、その身が砕かれるまで動き続けるという。
「ま、まずいぞ……ここに来るかもしれん。早く地上に──」
男がそう言いかけたところで、辺りの空気が一変する。
冒険者達が逃げてきた方向には一匹のモンスターがいた。
すべてが骨で構成された体。
だがその体はゴブリンやオークよりも大きく、更に腕が四本あった。
「こ、こいつはただのスケルトンじゃない……オーガのスケルトンだ!!」