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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第四十八話 レイス

「ど、どうしてレイスが上層なんかにやってきているんだ……? こいつは()()ですら滅多に遭わないはず……」


 チェスターがその姿に目を見開きながら、自分に言い聞かせるように呟いた。


 洞穴の先から現れたアンデッド──レイスは、何もない空中にふわりと浮かびながらこちらへと近付いてくる。


 レイスはボロボロで最早布にしか見えない黒衣に身を包んでおり、人の頭にあたる部分に深く被っているフードの下は、一切の光を通さないほどに真っ黒だった。


 袖からはスケルトンのような二本の腕が伸びているものの、それは奥が見えるほどに透き通っている。


 足に至ってはそもそも存在しておらず、ただ切れ切れになった衣の裾が宙で揺らいでいるだけだった。


「う、運が悪すぎるわ……なんでこんなところにAランクモンスターが……」


 逃げてきた冒険者パーティの、恐らく神官と思われる身なりの女性が声を震わせながらレイスを凝視していた。


 レイスはアンデッドに分類されるAランクモンスターで、その中でもゴーストと呼ばれるタイプだ。


 アンデッドには二種類のタイプが存在する。


 一つはゾンビやスケルトンなどのように実体を持つタイプ。

 そしてもう一つは、実体を持たないゴーストと呼ばれるタイプだ。


 実体を持つアンデッドの場合、物理攻撃でも倒すことが可能だが、ゴーストの場合にはそうはいかない。


 通常の武器による攻撃が効かないのだ。当たったとしてもすり抜けてしまうか、効果は低い。


 そして何よりも、こうしたゴーストタイプのアンデッドには生者が体に触れるだけで生命力を吸い取られてしまうという『ドレインタッチ』と呼ばれる恐ろしい能力がある。

 だから近接攻撃が主体となる前衛職もあまり迂闊に手出しができないのだった。


 ゴーストと遭遇した場合の対処方法は三つある。


 一つ目は、魔術師が強力な魔術を行使して倒すこと。

 二つ目は、神官の扱う【治癒魔術】に分類される《ディスペル》によって浄化すること。


 ただし、《ディスペル》は術者のレベルが高くないと失敗する確率が高く、更に神官の魔力を消費するためダンジョンを探索できる時間が減る。


 そして最後の三つ目は、この冒険者達のように逃げることだ。


『────』


 レイスは俺達の前までやってくると、空中を漂ったままじっと動かなくなった。


「ひ、ひいい……!」


 その姿を見て、チェスターが俺とファティナを盾にするようにして後ろに隠れた。


「あ、あれが下層のモンスター……」


 身を震わせながらぽつりとメルが囁いた。


『オオオオォォォォォ……』


 すると突然、レイスが低い声を発して──その途端、辺りが急に薄暗くなり始めた。


 それと同時に、体が少し重くなった気がした。


「な、なんだ……!?」

「急に体が……重くっ……」

「うあ……あ……」


 周りに立っていた冒険者達が、急に苦しそうに呼吸を荒らげだす。

 膝が震え、立っているのも精いっぱいの様子だった。


「アーク様! 大丈夫ですかっ!?」


 ファティナが剣をレイスへと向けながら話す。彼女にはあまり効果が入っていないように見える。


「ああ、少し重くなった感じはあるが、大丈夫だ。それよりファティナは?」

「私は大丈夫です。多分ですが、【破魔】のスキルのお陰で防御できているんだと思います」


 確かに彼女には【破魔】のスキルがあった。それによって状態異常が防がれたようだ。


「うっ……うう……」


 すぐ後ろを見ると、メルが右手を顔にあてながら今にも倒れそうにふらふらとしていた。

 俺はとっさに彼女の肩を両腕で受け止める。


「メル、大丈夫か? しっかりしろ」

「は、はい……恐らくあのモンスターが状態異常を使ってきているのだと思います」


 メルは荒く息を吐きながらも俺から離れると、なんとか自力で立った。

 今の彼女に魔術を行使させるのは無理だろう。


 レイスは俺達が弱ってきたのを確認したのか、再び接近を始めた。


 ──だが、どんな状況であれ俺がすることはたった一つだけだ。


「ファティナは無理をしないでくれ、俺が倒す」

「で、ですが……」

「もしあれに触れてしまうと、生命力を吸い取られてしまうからな。俺に任せてくれ」


 彼女に言い聞かせるように説明し、近付くレイスにこちらから駆け寄り魔術を放つ。


「《クアドラプル・デス》」


 洞穴を疾走しながら、右手に持ったミスリルの剣の先をレイスへと向ける。

 剣の先から放たれた《デス》の波動はレイスへと向かって突き進む。


『オオオオオ……!』


 だが次の瞬間、レイスが羽織っていたローブが形を変え、漆黒の闇を帯びた裾の部分が《デス》の前へと伸びた。そして、波動は掻き消されてしまった。


(まさかローブを使ってガードしてくるとはな……)


 これまで、何かしらの道具を使って即死魔術を妨害してくるモンスターには出会ったことがなかったので素直に驚く。


 レイスはあの黒衣を自らの体の一部のように操っているようだ。


『オオオォォォ……』


 そして、反撃とばかりにレイスが俺へと急接近しながら腕を伸ばしてきた。


 それをとっさに避ける。

 ほんのわずかでも触れられたら一気に生命力を持っていかれてしまう。


 レイスに対し、こちらもミスリルの剣で斬りつけ応戦する。


 するとレイスは既にこちらの行動を予測していたのかすぐさま後退し、先ほどと同じように距離を取った。


「アーク様! ご無事ですか!」

「ああ、大丈夫だ」


 《ルイン》を使うにしても、また同じように何らかの方法で防がれてしまう可能性もある。強力ではあるが、失敗した時のリスクが高すぎる。


 要はあのローブの更に先、本体に直接即死魔術を当てればいいだけだ。


 そう考えた俺は、再びレイスに向かって走る。


「──行くぞ」


 接近にいち早く気付いたレイスは、俺の体を掴もうとこちらに手を伸ばす。


 それを、わざと右の肩で受ける。


 おぼろげな手で触れられた肩の辺りから一気に体が冷たくなっていき、考える力が徐々に失われるような感覚がしてくる。


 だがいきなり死んだりはしない。


 これまでの戦闘で俺のステータスが上昇したおかげだ。


「アーク様ッ!!」


 ファティナが叫ぶ。


 俺はミスリルの剣を左手に持ち替え、レイスの真っ暗な顔へと深々と突き刺し──即死魔術を発動させた。


「《クアドラプル・デス》」


 ミスリルの剣の先端から放たれた《デス》は、レイスの本体に直接命中した。


 そして──


『オオオオォォォォォ────!!』


 回避不能な【即死魔術】の一撃を受けたレイスは、苦悶の声を上げながらその体を空中で霧散させていく。


 そして、地面には着ていたローブだけが残された。


(多少無理矢理な作戦だったが、上手くいったようだな)


『特殊なモンスターを倒したことにより、新たな能力を獲得しました。ステータスを表示します』


======================================

【基本ステータス】

 名前:アーク

 職業:魔術師

 レベル:1★


 HP:7500/9858

 MP:11914/12114


 攻撃:6282

 防御:4840

 体力:4830

 速さ:5377

 知性:6526


【所有スキル】

 ・即死魔術 Lv50


【所有能力】

 ・魔力消費半減 Lv1

 ・有効範囲アップ Lv4

 ・成功確率アップ Lv2

 ・ルイン強化 Lv1

 ・死者の棺

 ・魂の回収

 ・クアドラプル

 ・マルチプルチャント

 ・インサニティ

======================================


 レイスの『ドレインタッチ』は一気にかなりの生命力を奪われるようだ。ファティナを無理に戦わせなかったのは正解だった。


(それにしても、『魂の回収』によって得たステータスの加算具合はバラバラだな……)


 レイスのようなゴーストは、生命力と呼べるものがほぼ存在しないのだろう。魔力は大きく上昇したが、体力などはあまり増えなかった。


 そして、それと併せて能力一覧の右下の枠に新しいシンボルが追加された。


 シンボルには黒い布を被ったレイスの頭が描かれており、通常とは異なる暗い輝きを放っている。


 俺はそれを指で触れた。


『インサニティ:破滅属性の能力。周囲に存在する全対象のステータスを低下させる。対象とのステータス差によって威力が変化する』


(破滅属性の能力? 新しい種類のようだな……)


 破滅属性ということは、《ルイン》と同じ属性の能力ということなのだろう。


「み、見ろ! レイスが消えたぞ!!」

「体が動くぞ! これで帰れる!」

「すげぇ! まさかレイスを倒すほどの凄腕冒険者がいたなんてなあ!」

「た、たすかったぁ……」


 冒険者達は生き残った喜びを共有し合うように話し始めた。先程のレイスの能力も解除されたのだろう。


「アーク様! 大丈夫でしたか!」

「ああ、俺は問題ない」


 返事をすると、ファティナは安心したようで一つ息を吐いた。


「それにしても、下層のモンスターが上層に来たというのか?」


 緑翠の迷宮では、中層のスケルトンオーガが上層までやって来ていた。

 しかし、まさかAランクモンスターがここまでやって来るなど普通はありえないはずだ。


「そ、そうですよ! こんなことは前代未聞ですからね! 絶対に冒険者ギルドに苦情を言いに行ってやりますよ!」


 チェスターが腕組みしながら怒り気味に言う。


「あの、メルさん……平気ですか?」

「は、はい……私は大丈夫です……」


 ふと後ろを振り向くと、メルが地面に座ったままの状態で具合が悪そうな顔をしていた。その表情からは、まったく大丈夫そうには見えない。


 怪我はしていないはずだが、この状態ではとても下層に行くのは無理そうだ。


「すまないが、今日の所は一旦引き返させてもらえないか?」

「え、ええ! もちろんですよ! 早く地上に戻り、【転移魔術】でトラスヴェルムに戻りましょう!」


 チェスターは大きく首を縦に振った。


 そうして俺達は元来た道を引き返し、トラスヴェルムへと帰還することにした。

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