第四十話 新しい場所で新しい仲間と
「おおっ! やっと到着したな! あそこが商業都市トラスヴェルムだ!」
森の中を何日も移動した後、ようやく馬車は街道へと戻った。
今のところ、イリアやクレティア兵達の姿はない。
既に先回りされているかもしれないと思っていたが、そうではなかったようだ。
ファティナとメルと一緒に御者台から顔を出す。
目の前にはしばらくぶりに見た青空と、その先にどこまでも広がる海があった。地上には海に面した大きな都市をぐるりと囲うように造られた白い壁が見える。
「わあ! 綺麗な場所ですね! もしかして、あれが海ですか?」
ファティナは目を輝かせながらその光景を眺めている。
彼女はボルタナのすぐ近くで育ち、それよりも遠くに来たことがなかったのだろう。
トラスヴェルムはどこまでも続くかのような白く長い壁に囲われている。そして街道の先には一際立派な門が見えた。
「メルさんは行ったことがあるんですか?」
「いえ、私も話を聞いていただけで実際に来るのは初めてです。クレティア国内では最も貿易が盛んで、様々な珍しい品物が取引されていると聞いています」
メルもファティナと同じように様々な方向に顔を向けながら周囲を見回している。
基本的に城にいるため、外に出ることがあまりないのだろう。
「それにしても大きい都市なんですね! ずっと向こうまで壁が続いています」
この都市はボルタナの町と比べると更に大きい。
都市というぐらいだから当たり前だが、何よりも壁の上から覗く建物はみな豪華に見えた。
「ああ、海が近いから船が停泊するための大きな港があるしな。ここでとれた海産物なんかを商人達が仕入れて、他の町に運んだりするのさ」
そういえば、ボルタナの市場でもそういう話を聞いたのを思い出した。
やがて馬車はトラスヴェルムの門へと近付いた。
「ようこそ! トラスヴェルムへ!」
その途中で、門の前に立っていた鎧を来た兵士が笑顔で俺達に挨拶をしてきた。
「やあどうも。今日は冒険者さん達を乗せてきたんだ」
「おおっそうか! 冒険者は何人いても困らないから助かる! 最近は冒険者ギルドも賑わっているから、顔を出せば色々と情報を教えてもらえるはずだ」
「ああ、ありがとう」
会話が終わると、兵士は元の位置に戻っていった。
(トラスヴェルムにはまだ王女の件について報告が行ってないのか)
予想していた以上に友好的だったので、三人は安堵したような表情になっている。
それに今の話によれば、モンスターが増えているためかこの都市では冒険者は需要があるようだ。
俺達の乗る馬車は再び動き出し、大きな門を潜り抜けた。
その先にあったのは、トラスヴェルムの大通りだった。
大通りは白色を基調とした建物が立ち並び、多くの人々で溢れかえっていた。
冒険者風の恰好をした人間以外にも立派な服を着た商人と思われる人々が多く、とても賑やかだ。
「ボルタナとは全然雰囲気が違いますね!」
「ああ、ここには大きな商会が沢山集まっているし、冒険者ギルドにある依頼もそういった人達からのものが多いと聞くからな」
俺は村で育ったので詳しくは知らないが、大きな都市には商会と呼ばれるものが存在しており、冒険者ギルドなどと大口の取引をしていると聞いたことがあった。
そうしてある程度通りを進んだところで、馬車が止まった。
「……さてと、この辺りでいいだろう」
俺達は荷台から降りて、御者の下へと移動する。
俺は懐からいくらかの金貨を入れた革袋を取り出し、御者に差し出す。
「少ないが取っておいて欲しい。ここまで運んでくれたお礼だ」
御者はしばらく考え込むように袋を見つめていたが、やがて俺の顔を見てにこりと笑うと袋を受け取った。
「はっはっは、折角だから厚意に甘えさせてもらうとしよう。じゃあ俺はほとぼりが冷めるまで適当に遊ぶことにするさ。気をつけてな!」
「はいっ! こちらこそありがとうございました!」
「あの……本当に助かりました」
「なぁに気にするなって! それじゃあがんばってな!」
馬車は再び動き出し、大通りの奥へと進んでいった。
「それじゃあ、改めてこれからよろしくお願いしますね! メルさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「これからしばらくは一緒に暮らすことになるだろうから、何か不便があったらいつでも言って欲しい。俺にできることがあればしよう」
「あ、ありがとうございます……ですが、私の事はどうかお気になさらずに」
「いや、そういうわけにはいかないさ。それにこれから先、メルの知識はきっと役立つ。こちらも助かっている」
俺がそう言うと、メルは少し驚いたような表情でじっとこちらを見つめてきた。
もしかしたら、今まで自分をただのお荷物か何かだと思っていたのかもしれない。
だが実際、メルがいなければリュイン達と出会うことも、鍵に関する知識やバルザーク達の動向を知ることもなかった。
それにメルは魔術がいくつか使えるとはいえ、冒険者どころか王族だ。
庶民の生活に合わせようとして無理をさせてもいけないだろう。
幸い、今のところメルを追ってくる追跡者の姿はないので休める時に休んでおいたほうがいい。
あまりゆっくりしすぎるわけにもいかないが、俺とファティナもまだ新しく来たばかりの場所なのでまだよく分かっていないことも多い。
探索に必要となる買い物などをしながら、ここ数日の旅の疲れを癒すぐらいはできるだろう。
「とりあえず、今日のところは先に宿を探してゆっくり休むことにしよう。探索を始めるにも色々と準備が必要になるし、休息も必要だからな」
「はい。分かりました」
「……」
歩き始めようとしたところでふと視線を感じたので振り向くと、ファティナが俺の事をジト目で見ていた。
何故だ。




