第三話 能力の取得
俺は目の前に表示されている半透明のボードを見つめる。
中心のデスの魔術から伸びる線の先には、別のシンボルが繋がっている。
試しにすぐ左隣にある魔法陣が描かれたシンボルを指で叩いてみる。
すると《デス》の時の様に説明が表示された。
『魔力消費半減:即死魔術の使用時に消費する魔力が半分になる 消費ポイント:3』
どうやらポイントを消費してスキルを強化できるようだ。
俺のスキルはモンスターを倒すことでレベルアップし、それによってポイントを得る。
そして得たポイントはこの一覧画面で能力の取得に使うことができるということらしい。
再び目の前のシンボルに意識を向ける。
レベル上限1で魔力が少ない俺にとって、消費半減はほぼ必須とも言える能力だろう。
俺は説明のすぐ下にあった[はい]のボタンを押す。
すると突然体から光が溢れ、温かい感覚に包まれた。
魔法陣のシンボルは輝き始め、代わりに右上のポイントが20から17に減った。
どうやら能力を取得できたようだ。
「《デス》」
試しに空中に向けて即死魔術を放ってみると、先程のような疲労を感じなくなっていた。
これならば連続してあともう一発は撃てそうだ。
これで残るポイントは17。
ポイントには限りがあるので、あまり考え無しに振ることはできない。
試しに遠く離れたシンボルを触ってみるが、反応がない。
どうやら既に取得しているものに隣接する能力しか得ることができないらしい。
消費半減の先にあるシンボルを叩くと、また消費半減だった。
ただし、必要となるポイントは5だった。
取得する能力は、中心から離れるほど消費するポイントが大きくなる仕組みなのかもしれない。
先に、《デス》から派生する別のシンボルを調べることにする。
次に、右隣にある円を何重にも描いたようなシンボルを触る。
『有効範囲アップ:即死魔術の有効範囲が広がり、現在の倍になる 消費ポイント:2』
「あっ、そうか」
確か《デス》の有効範囲は異常に狭かったはず。
ステータスが低い俺はモンスターから離れて戦闘をしなければならないので、この能力も重要だ。
俺は有効範囲アップの能力を取得し、今度はまた違う系統のシンボルを触る。
今度は《デス》と同じシンボルだ。
『成功確率アップ:即死魔術の成功確率が上昇する 消費ポイント:2』
成功確率は即死魔術においては恐らく最も重要になるはず。
これについても魔力消費と同じように何段階かに分かれているようなので、二段階分取得する。
『成功確率アップ:即死魔術の成功確率が大きく上昇する 消費ポイント:5』
二つの能力を取得すると、またシンボルが光った。
ここまでで使ったポイントは12。残るポイントは8だ。
「ん……?」
成功確率アップの先は二つに枝分かれしており、派生している方には棺のシンボルがあった。
『死者の棺:即死魔術で倒した対象の体を別の空間に保管することができるようになる 消費ポイント:3』
「こんなのもあるのか」
俺はすぐそばに横たわっているキリングベアを見る。
キリングベアの体はかなり大きい。
このままギルドに持っていくにしても時間がかかるだろうし、目立ってしまうだろう。
この能力も取得するため、[はい]を押す。
するとシンボルが光った。
俺が手をかざすと、目の前にあったキリングベアの巨体が瞬時に消えた。
かなり便利な能力だ。
そして、『死者の棺』の先に繋がっていたのは、また別の系統のようだった。
今度は幽霊のようなシンボルだった。
『魂の回収:即死魔術で倒した対象の能力を自らの能力値に変換する 消費ポイント:5』
この能力は消費ポイントは高いが、性能としては破格だ。
吸収できる上限があるかどうかは不明だが、レベル1の俺が能力値を高めることができるようになるからだ。
迷うことなくポイントを消費して取得する。
これですべてのポイントを消費しきった。
『すべてのスキルポイントを消費しました。結果を表示します』
新たなメッセージと共に数値が表示された。
======================================
【基本ステータス】
名前:アーク
職業:魔術師
レベル:1
HP:15
MP:10
攻撃:2
防御:4
体力:4
速さ:3
知性:3
【所有スキル】
・即死魔術 Lv20
【所有能力】
・魔力消費半減 Lv1
・有効範囲アップ Lv1
・成功確率アップ Lv2
・死者の棺
・魂の回収
======================================
所有する能力については、それなりにバランス良く割り振れたように思える。
だが実際、即死魔術がどの程度成功するようになったのかは試してみなければ分からない。
「……そういえば体が痛くないな」
ボードを見るのに夢中で気付かなかったが、キリングベアに吹き飛ばされた時の痛みはすっかり消えていた。
もしかしたら、スキルのレベルがアップすると体力が全快するのかもしれない。
表示されている能力一覧を消すように手を振ると、視界から消えた。
先程までとは違い、俺の心はとても穏やかだった。
最弱であったこと。
大勢の人間に笑われたこと。
幼馴染に見捨てられたこと。
それらに対して、もう何とも思っていない自分がいる。
そんな過去など、最早俺にはどうでもよくなっていた。
歩き出そうとした時、ふと視界にスライムの姿が映った。
相変わらずふるふると震えている。
「さっきは悪かったな。俺は、お前の代わりに行くよ」
最弱である俺が目指すものは、ただ一つ。
──俺は、この力で最強になる。
そうして俺は、町へと帰還するのだった。