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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第二十七話 酒場での歓談

 中層の扉を守っていたゴーレムを倒した後、ボルタナの町に戻った俺達五人は酒場へと入った。


 あの時、ゴーレムが撃破されると鉄の扉は軋んだ音を立てながら自動的に開いた。


 扉の向こうには更に下へと続く古びた階段があり、その先はこの緑翠の迷宮の下層へと続いているであろうことは容易に想像できた。


 だが、リュインはメンバー全員が疲弊した今の状態で下層に行っても良い結果にはならないと考えたようだ。


 だから一度町に引き返すことにしたのだった。


 上層からモンスターがいなくなったお陰で移動は早かったが、地上に出た時にはもう夜になっていた。


 探索に時間がかかることを見越して早朝に出発したのだが、ダンジョンの中に長く居たためか町に着いた頃には既に真っ暗だった。


 酒場の中は多くの冒険者達で賑わっている。

 俺達は運良く空いていた席に座ることができたが、しばらく経つと徐々に立ち飲みの客ばかりが増えていっていた。


『それにしても、最近はモンスターの数が減ったなあ』

『ああ。そのお陰でこの辺りも安全になって、馬車で通れる新しい道を増やしてるって話だぜ。でも結局東のダンジョンはどうなったんだろうな?』

『この間の調査隊に加わってた奴の話によると、上層のモンスターはすっかり消えちまったらしいぞ』

『ってことは……次は中層に行くしかねえな!』


 やはり冒険者達の間で直近の話題といえば、緑翠の迷宮で起きた異変のことのようだ。


「それにしても、あのダンジョンはやっぱり普通じゃないわね! まさか中層であんな強力なモンスターが出てくるなんて思わなかったし!」


 リュインが木製のコップに入ったワインを飲みながら少し怒り気味に言う。


 とりあえずで向かった先でいきなりあんなモンスターに遭遇したから驚いたのだろう。というか、彼女の顔はすっかり赤くなっており、酔っぱらっているように見えなくもない。


「確かにさっきのゴーレムは強かったですね! 私の剣も通りませんでしたし……」


 俺の隣に座るファティナが、注文した果実酒の入ったジョッキを両手で持ちながら少し残念そうに言った。

 ちなみに酒はリュインに勧められて飲むことにしたらしい。


 ファティナは俺と同じぐらいの年齢だと思うので、多分成人はしているから大丈夫だとは思うが何となく不安になってくる。


「ファティナさんはまだレベル上限に達してないから、単純にレベル差の問題もあったと思う。私達はもう上限まで上がっているけどね。成長の余地はあるし気にしないでね?」

「まあ正直、俺も岩にまで魔術防御がされてるゴーレムなんて見たことがなかったから驚いたな。というか、あのダンジョンを作った人物はもしもあのゴーレムが暴走でもしたらどうするつもりだったんだろうな?」


 リオネスは焼かれた骨付き肉に豪快にかぶりつきながら笑って話す。


「……案外、そのせいで無人になったのかも」

「ハハハ、そりゃあり得るな」


 リオネスの隣に座るベロニカは、いつも付けているウィンプルを脱いで、皿に切り分けられたチーズをひたすらに食べている。好物なのだろうか。


「でもあのゴーレムが破壊されずに残っていたということは、過去に扉よりも先に行った人間はいないのかもね? だとすると、どこにも情報がないというのも分かる気がする。挑んだはいいけどさっさと逃げちゃったんでしょうね。多分、あれ追ってこないタイプだから」


 ゴーレムというのは基本的に体が石や金属などで構成されているため、物理攻撃に強いという特徴がある。


 だから魔術が有効だという話なのだが、今回のゴーレムはリュインが扱う強力な風の魔術ですらダメージを与えることができなかった。


 Sランク冒険者であるリュインのパーティですらそうなのだから、他の冒険者が挑んだとしてもどうなるか分からない。


「それにしても、今回は二人にとても助けられたわ。ありがとう!」

「い、いえいえっ! リュインさん達に任せっきりで……」

「俺の魔術もたまたま効いたにすぎない。それに全員で戦った結果だ」


 実際、リオネスが敵の強さを測り、リュインが魔術を使っていなければゴーレムの特性が分からず、コアを砕くことは難しかっただろう。


「ハッハッハ、冒険者の割には随分と謙虚なんだな。いや、欲がないとでもいうべきか? それにしても、まさか岩の継ぎ目に【即死魔術】が効くとは思いもしなかったぜ! もう何でもありだな」


 リオネスはもう何杯目かも分からない酒を飲んでいる。そのせいか機嫌が良さそうだ。

 継ぎ目に対して即死魔術が効くかどうかは、俺としても賭けだったが、《デス》によって岩石同士の結合ができなくなったことは新たな発見だった。


 それに、俺のスキルレベルアップも重要ではあるが、ファティナのレベルを上げることも大事だ。今回のゴーレムとの戦いでレベルが上がったようなので良かった。


「さて! それじゃあそろそろ明日からの話をしましょうか!」

「おう、そうだな」

「明日はこのまま一気に下層の奥まで探索するわっ!」

「ぶぶっ!?」


 それを聞いたリオネスが飲んでいた酒を噴き出した。


「……きたない!」

「お、おいおい本気か!? 下層にはどんなモンスターがいるのかまだ分からないんだぞ? さすがに無茶じゃないか?」

「またこの前みたいに黒いキメラみたいなモンスターが地上で暴れたら大変でしょう? モンスターの数が減っている今のうちに調査をしておいた方がいいと思うの。まあ、もちろん危険だと思ったらすぐに引き返すけどね」

「ま、まあそう言うなら構わないが……」

「二人はどう思う?」


 リュインに尋ねられて、俺達は互いに顔を見合わせた。


「俺は下層の探索をしたいと思っている」

「私も探索に向かいたいです。リュインさんの言う通り、まだ何が起こるか分かりませんから」


 俺達の意見を聞いたリュインは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう! じゃあ明日はまた頑張りましょう!」

「はいっ! 頑張ります!」


 ファティナは腰に手を当て、持っていたジョッキに注がれている酒を一気に飲み干し始めた。


 そんなに飲んで大丈夫なのだろうか……。


「やれやれ、またリュインの考えなしが始まったか」

「……」


 言いながらリオネスは苦笑いしている。

 ベロニカは相変わらず無表情のままだった。


 明日は緑翠の迷宮の下層を探索することに決まった。

 これでようやく、あのダンジョンで何が起こっているのかが判明するかもしれないな。


 結局、ファティナは慣れない酒を飲んで酔っ払ったため、宿屋まで背負って帰った。

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