第二十三話 中層の探索開始
店主から新しい剣を受け取った後は、ポーションや携帯食料を買い揃えながら明日に備えた。
そうして次の日の朝、リュイン達との待ち合わせ場所になっている町の入り口に、ファティナと一緒に向かった。
既に三人は俺たちよりも早く到着しており、こちらに気付いたリュインが大きく手を振ってきた。
「おはようございます! リュインさん」
「おはよう、ファティナさん、アークさん。それじゃあ全員揃ったことだし、早速行きましょうか!」
俺達は町を出ると、緑翠の迷宮に向けて移動を開始した。
「歩きながら、私達の能力について説明するね。私の職業は剣士、レベル上限は80よ。スキルは【剣士】と、【全属性魔術】ね。この二つのスキルのお陰で【剣聖】ほどではないけど剣技が扱えるし、属性に縛られずに魔術が使えるわ。基本は前衛だけど、時には後衛として戦うこともできる」
(なるほど、どんな相手でも有利な手段で攻撃できるというわけか……)
パーティにも色々な形があるが、大抵はモンスターを攻撃する火力役が二人以上いる構成が多い。
リュインのパーティは魔術師がいない編成なので火力役が不足しているのではと思っていたが、剣と魔術が両方とも使える彼女が一手にその役を担っているようだ。
そして更にリュインのレベル上限は80。攻撃役としては十分な強さだろう。
「じゃあ、次はリオネスの番ね」
「ああ。俺の職業は聖騎士で、パーティの盾役だ。レベル上限は80。スキルは【挑発】と【不屈】だ。基本的な戦い方としては、【挑発】のスキルでモンスターの注目を集めることができるから、まずはこれを使う。【不屈】のスキルで吹き飛ばしに耐性ができているから、攻撃を防いでモンスターに隙ができた時にリュインに倒してもらっている。今後も大抵はそうなるだろうから、怪我をしたり敵の攻撃が激しい場合には俺の後ろに来てくれ」
そう言ってリオネスは自信あり気に笑いながら、重そうな鎧に覆われた胸を腕で叩いてみせた。
その見た目からして盾役だと思ってはいたが、どうやらその通りだったらしい。
下層の探索を終えるまでは、俺は彼の後ろから即死魔術を使うことが多くなるだろう。
「……私のレベル上限は60で、スキルは昨日見せた【鑑定】、それに【治癒魔術】。【鑑定】でモンスターの弱点も見れるから、都度伝える」
次にベロニカが淡々と説明した。
彼女は二人と違ってあまり表情が豊かというわけではない様だ。
ベロニカは二人に比べるとレベル上限は若干低い様に思えるが、直接攻撃に参加しない神官だということと、そして何よりもリュインとリオネスであればそういったことは気にしなさそうだ。
ひとまずは、今の説明でこのパーティにおける立ち位置は大体把握した。
リオネスが盾役として前に出て、ベロニカが敵の弱点の見極めと回復、そしてリュイン、ファティナ、俺がモンスターを攻撃するという流れだろう。
そういえばSランクのステータスを今まで知らなかったが、レベル上限90のアレンの腕力を超えていたということは、リュインよりも俺のステータスの方が高いということになるのだろうか。
であれば、俺は率先してリュインとファティナの援護のために前に出ても良いかもしれない。
「まあ、基本的にはリオネスが集めたモンスターを一匹ずつ私達が倒していくっていう感じね」
「……でもリュインはすぐ頭に血が上るから、冷静な判断ができない場合がある」
「そ、そんなことはないでしょっ!」
無表情で語るベロニカに対して、リュインが顔を真っ赤にしながら抗議する。
「実際、この前もリオネスよりも先にモンスターの群れに突っ込んで行って怪我してた」
「そういえばあったな、そんなことも」
「さ、さあ何のことだかっ! 二人は真に受けないようにね!」
三人はこれからダンジョンに向かうというのに、飄々と会話をしている。
俺の隣にいるファティナはそれを見てくすくすと笑っている。
こういう姿を見せてくれることも、俺達への配慮の仕方なのかもしれない。
それからまたしばらく歩いて緑翠の迷宮に到着した。
上層には相変わらずモンスターがいないため、全員で一気に駆け抜けて時間短縮を図る。
そうしてとうとう中層の入り口の前までやってきた。
前回は見るだけ見て帰った中層の始まりの目印となっている大きな石製の階段を、全員でゆっくりと下りていく。
長い階段を下り切ると、その先にまた広い一本道が現れた。
周囲はツタなどの植物に覆われてすっかり風化してはいるものの、上層のように土でできたものではない。明らかに人工的に作られた石壁と床だった。
更には、下に降りたというのに石壁から露出した輝きを放つ水晶がそこかしこに点在しているため、そのお陰で暗くはない。上層の空洞に存在していた水晶と同じものだろう。
(上層はどちらかといえば、迷宮の外といったところか……)
上層は褐色の土しかなく自然にできたかのような見た目だった。だが、中層からはすっかりそんな雰囲気は抜け、巨大な建物の中にでもいるような錯覚に陥る。
「ここからはリオネスを先頭にしましょう。恐らくモンスターが出てくるはず……」
リュインが手を上げて全員に促した。
リオネスは何も言わずにただ頷き、パーティの先頭になって迷宮を進んでいく。
俺達もそれに続いた。
そうしてしばらく進んだ後──
「気を付けてください! 何かの音がこちらに近付いてきます」
ファティナが耳を動かしながら警告した。遠くの音を何か聞き分け、敵を発見したようだ。
やがてゆっくりと進むと、目の前からやってきたのは骨のモンスター、スケルトンだった。
その数は全部で十体程で、それぞれが剣や斧を持って襲い掛かってくる。
「スケルトン! 弱点は火!」
「任せろ!」
ベロニカがモンスターの弱点を叫ぶと同時に、リオネスが前に出て大きな盾を地面へと突き立てた。
すると、スケルトン達はリオネスに向かって一直線に走り始めた。これが彼の【挑発】の効果なのだろう。
(……新しい能力を試してみるか)
俺はリオネスの後ろから跳躍し、群がるスケルトン達に向けて即死魔術を放つ。
ポイントを割り振って有効範囲アップのレベルを2に上げたことにより、多少距離があっても即死魔術が使えるようになった。
「《デス》」
シャドウキメラから得た新たな能力、『マルチプルチャント』によって一度の詠唱で複数の漆黒の波動が展開される。
放たれた波動がスケルトン達に命中すると、彼らは何もできないまま一斉にカラカラと音を立てて地面に崩れ落ちた。
「こ、これが噂の【即死魔術】ってヤツなの? ちょっと強すぎない……?」
剣を構えてすっかり臨戦態勢に入っていたリュインは、バラバラになった骨を見ながらぼそりと呟いたのだった。




