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即死と破滅の最弱魔術師  作者: 亜行 蓮
第一章

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第二十話 もう一つのSランクパーティ

 上層の終端から地上へと帰還すると、外はすっかり暗くなっていた。


 ダンジョンの入り口で待っていたクレティア兵達はいくつかのテントを張って野営をしている。

 テントの近くでは焚火と松明が暗闇を明るく照らしており、そのすぐ近くには見張りをしていたと思しき兵士がいる。


 兵士は俺達に気付くと、ゆっくりと近付いてきた。


「おお、無事に戻ったようだな。想定していたよりも大分早かったが、中の様子はどうだった?」

「ああ、冗談に聞こえるかもしれないが……上層にはモンスターが一匹もいなかった。だからすんなりと歩いていけたぜ。これなら別に冒険者や騎士じゃなくても進めそうなぐらいだ。もっとも、いつまでこうなのかは分からないが」


 兵士の質問に、冒険者の一人が答えた。

 それに対し、兵士は何も言わずにただ考え込んでいるような様子だった。


「なるほどな……。少し待っていてくれ」


 兵士は後ろにあったテントの一つに入っていき、しばらくしてからまた俺達の前に戻ってきた。


「調査についてはこれで完了とする。諸君らの協力に感謝する。報酬はギルドから受け取ってくれ」


『やれやれ、折角ポーションやらを準備してきたのにまったく拍子抜けだぜ!』

『毎回こういう楽で儲けられる仕事ばかりならいいんだがなあ!』

『さて! 帰って酒場で一杯ひっかけるとするか!』


 依頼完了の連絡を聞いた途端、冒険者達は思い思いに話しながら町へと戻り始めた。


 今までこの森は危険だったので安全な場所で夜を過ごすのが定番だったのだが、キメラ討伐後はモンスターはほとんどいない。だからこのまま帰っても特に問題はないだろう。


「アーク様、私達もボルタナに帰りませんか?」

「そうしよう。どのみちギルドが封鎖を解いてくれないとどうしようもない」


 冒険者達の後に続くようにして、二人で森の中を歩き出す。


「それにしても、急に兵士さん達がやってきたので驚きましたね」


 不意にファティナがそんなことを言った。


「実際に東のダンジョンのモンスターが暴れて色々と被害が出てしまっているから、国も本腰を入れて調査をし始めたんだろう」

「そうですね! この辺りもすっかり平和になりましたし!」


(……だが、果たして本当にそうなのだろうか?)


 ファティナにはああ言ったものの、どこか国の対応が今までよりも早い気がした。


 結局、その日は何事もなく町に戻った。

 時間が時間だったので宿屋はもう埋まっているのではないかと思ったが、その日は運良く空室があったので泊まることができた。


 そうして翌朝、俺達は状況を確認するため冒険者ギルドを再び訪れた。


「あっ。アークさん、ファティナさん。おはようございます。丁度良いところにいらっしゃいましたね」


 受付嬢と目が合うと、彼女はわざわざカウンターから出てきてこちらに駆け寄ってきた。


「おはようございます! エリヴィラさん。昨日の依頼の報酬を受け取りに来ましたけど、丁度良いって何がですか?」

「ああ、そうでしたね。昨日はお疲れ様でした。クレティア王国の兵士の方から依頼達成の連絡が来ていますので、参加者のお二人にも報酬をお渡しします。こちらで手続きをお願いしますね」


 受付嬢がカウンターに戻ったので、それに続く。

 カチャリという金属同士がぶつかる音とともに、金貨が六枚、そして報酬を受け取った旨を示す書類がカウンターへと置かれる。


 俺は報酬受け取り確認の書類にサインをし、金貨を革袋にしまった。


「えーと、それで話って何でしょう?」

「それなんですが……実は少々特別な依頼が来ておりまして」

「特別な依頼? ですか?」

「ええ、ここではちょっと何ですので奥へどうぞ」


 受付嬢はそう言って別の職員にカウンターを任せると、カウンターの右横にある普段は閉まっている扉を開け、建物の奥へと俺達を案内してくれた。


「実は……東のダンジョンを攻略するために、また別のSランクパーティの方々がこの町を訪れているんです」


 廊下を歩きながら、受付嬢が話す。


「またSランクパーティが?」


 アレンやバルザークとはまた別のパーティがやってきたというのか。


 しかし、いくらボルタナの近くにダンジョンがあるからといって三組ものSランクパーティが集まるなんて、偶然にしては出来過ぎている気がする。Sランクパーティは世界でも確か数えるほどしか存在しないはずだからだ。


「それで、今丁度その方達がお見えになっておりまして。お二人と直接会って話をしたいと仰っているのです。とりあえずお話だけでも聞いていただけませんか?」

「はあ、そうですか……」


 俺もそうだが、ファティナは更に乗り気ではなさそうでまた耳がしおれてしまっている。

 多分、Sランク冒険者ということを聞いてアレンのパーティでも連想したのだろう。


(それにしても、Sランクの冒険者が一体何の用だ?)


 俺自身はただのEランク冒険者だ。

 キメラにトドメを刺したのは確かに俺だが、それはあの時一緒に戦った冒険者全員の努力によるものだ。

 だとすれば、Sランク冒険者が接触しようとしてくる理由は俺ではなく──


(ファティナの勧誘、か)


 レベル上限100でかつ【剣聖】のスキルを持つファティナは、他の冒険者パーティでも仲間に迎えたいと思っている者も多いはずだ。


 やがて、廊下の一番奥にある扉の前まで来ると受付嬢が立ち止まった。

 そして扉をコンコンとノックしてから開く。


「お待たせしました。お二人をお連れしました」


 部屋の中は何らかの待合室のような形になっており、豪華そうなソファーが部屋の中心に向かい合うように置かれている。


 そして、部屋の中には面識のない三人が立っていた。

 女性が二人に、男性が一人。


 女性のうち一人は、燃えるような紅い髪を後ろで一つに結っているのが印象的だった。

 背は俺よりも少し低い程度だが、Sランク冒険者だということは多くの経験を積んでいるはずなので、俺達よりかは年上だろう。

 彼女は腰に剣を差しており、白い金属と革を組み合わせた軽鎧を身に着けているため剣士か何かに違いない。


 その隣に立つもう一人の女性は、神官の定番であるゆったりとした白のローブではなく、黒を基調とした修道服を着ており、かぶっているウィンプルからは茶色の前髪が出ている。

 この中にいる誰よりも背が低いせいか、年齢も若く見える。彼女がこのパーティの神官だろう。


 そして最後に、俺よりもかなり背が高く、濃い青色の全身鎧を着た男。

 彼の近くの壁には重厚な盾が立てかけてある。いわゆる敵を集める盾役の職業だろう。


 俺達が部屋に入ると、剣士の女性が近づいてきた。


「初めまして。私はリュイン、この冒険者パーティのリーダーをやっているわ。こっちの子が神官のベロニカで、こっちの奴が聖騎士のリオネス」


 ベロニカとリオネスは、リュインの説明に続くようにこちらに向かって少しだけ頭を下げた。


「俺はアークだ。よろしく」

「ファティナです。よろしくお願いします」

「よろしくね、アークさんにファティナさん。急に呼び出して悪かったわね。早速だけど、少し話をさせてもらってもいいかしら」


 三人がソファーに座ったので、俺達も向かい合うようにして座る。


「私達はつい数日前にこのボルタナの町に来たばかりなんだけど、あなた達の活躍をギルドで聞いたわ。冒険者になりたてのEランクだというのに黒いキメラを倒したんですってね」

「あの時は大勢の冒険者がその場にいた。だから俺達だけで倒したわけじゃない」

「それも確かにあるかもしれないけど……じゃあベロニカ、よろしく」


 リュインに何かをお願いされたベロニカという少女は、俺の顔をしばらく眺めた。


 そしてその後、目を見開いたまま硬直した。


「ど、どうしたのベロニカ? 大丈夫?」

「リュ、リュイン……この人、めちゃくちゃ強い。レベル1なのにモンスターみたいなステータスしてる……」

「うーん、話を聞いて普通じゃないとは思っていたけれど、ベロニカが驚くなんてよっぽどね……」


(鑑定スキル持ちか……)


 数多あるスキルの中でも珍しい部類に入るのが、【鑑定】と呼ばれるスキルだ。


 このスキルは攻撃や回復とは違い、直接何らかの効果を及ぼすものではないが、様々な道具の正体や生物のステータスを確認することができる。

 簡単に言えば、ギルドのカウンターに置かれている水晶玉と同じ効果をいつでも発動できるというわけだ。


 そのスキルによって、俺のステータスを覗いたのだろう。


「ごめんなさい、失礼だとは思ったけどステータスを見させてもらったわ」


 リュインは改めて俺達の方に向き直り、そして告げた。


「そのうえでお願いするわ。東のダンジョン──いいえ、『緑翠の迷宮』の探索を手伝って欲しいの」

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