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第二話 最強の能力

 ギルドの建物を出た俺は、なんとか気力を振り絞って町の外にある森へと入った。

 ここに来た理由は、俺の持つ【即死魔術】の効果を試すためだ。


 俺のレベル上限は1。どんなに戦っても一生能力値が上がることはない。

 これから先、冒険者として生きていく事はできないだろう。

 そして何より……リーンもいなくなってしまった。


 だから、故郷の村に帰ることにしたのだった。


 だが村へ帰るためには路銀がいる。

 金は片道分しか持ってなかった。


 村へ帰るためには、レベル1の俺でもこなせる簡単なモンスター討伐依頼で金を貯めなければならなかった。


「いた……」


 しばらく森の中を歩くと、水色のぶよぶよとした物体が見つかった。


 この世界で最弱と言われるモンスター、スライムだ。


 スライムは村人でも倒せるぐらい弱いモンスターで、たまに跳ねたり体を伸ばしたりして攻撃してくる程度で危険はほぼない。俺の【即死魔術】を試すにはうってつけの相手だった。


 俺は少しスライムから離れた位置で右腕を突き出し、スキルを発動させるために叫ぶ。


「《デス》!」


 すると、俺の手の平から骸骨のような顔がいくつかくっついた漆黒の波動が現れ、スライムに向かって飛んでいく。


 これが【即死魔術】の魔術、《デス》のようだ。


 だが、波動はスライムに当たると同時に、何事も無かったかのようにすうっと消えてしまった。

 スライムはさっきと同じように、ぷるぷるとその場で震えている。


 要するに、失敗したのだ。


「なんだよこれ……」


 普通の魔術であれば、炎だろうが氷だろうがスライム一匹ぐらい一発で倒せる。

 一方俺の《デス》は、そもそも成功するかどうかも分からないただの運任せだ。


 初めて魔術を使ったせいか、異様に疲れた。

 多分、体内の魔力が減ったからだろう。


 しばらくの間、その場で呼吸を落ち着ける。

 やがて疲れも取れてきたので、再びスライムに向かって魔術を使う。


「《デス》!!」


 だが、先程と同じように漆黒の波動はすぐに消え失せた。


 また疲労が溜まったので、その場に腰を下ろす。


「どうしようもないスキルだって聞いてはいたが、これほどまでとはな」


 あまりの効率の悪さに苦笑するしかなかった。


 座りながら、ふと先程の冒険者ギルドでの出来事を思い出す。

 最初に頭に思い浮かんできたのはリーンの顔だった。


 彼女は俺と一緒にいることを拒み、Sランク冒険者だというアレンと一緒に行ってしまった。

 今頃、装備を揃えてあいつのパーティメンバーとして戦っているのだろうか。



 そして、きっとあいつと……。



 そんなことを考えたら、急に自分がみじめに感じられてきた。


「はっ……ぐっ……うう……」


 悔しくて、自然と涙が溢れ、地面へと流れ落ちた。


 リーンも。

 リーンを連れて行ったアレンも。

 ギルドで俺を笑った冒険者達も。

 俺のことをゴミと呼んだあのバルザークとかいう男も。


 誰も俺を人間として見ていなかった。


 俺にもっと力があれば、そうはならなかったのに。


 だが過去は変えられない。

 リーンだけじゃない。俺のそばにはもう誰もいてはくれない。


 気持ちがおさまるまでひとしきり泣いた俺は、急に何もかもが嫌になりその場を後にすることにした。


 地面にはいまだ元気に震えているスライムがいる。


 思えばこのスライムだって俺と同じ最弱だ。

 最弱が最弱の命を奪う必要なんてないじゃないか。


 そう思い再び町に戻ろうとしたところで、目の前に大きな影ができていたことに気付く。


「え……」


 それは、俺の身長の二倍以上はあろうかという大きさの真っ黒な熊のモンスター、キリングベアだった。


 キリングベアはEからSまである冒険者ランクのうち、Bランク以上の熟練冒険者がパーティで相手をするようなモンスターだ。


 間違ってもレベル1の俺が勝てるような相手ではない。


 だが逃げようとした時には既に遅かった。

 キリングベアは後ろ足で立ちながら、その恐ろしく太い腕をこちらに向けて振るっていた。


「ぐああああッ!」


 振るわれた腕をなんとかガードするも、そのまま体は宙に浮き、木の幹へと激しく叩きつけられた。


「ガハッ! アアァァァ!」


 その瞬間、身体中がバラバラになりそうなほどの痛みが走る。


 木の根元に背中を預け、荒く呼吸する。


 でも、もう逃げようとは思わなかった。



(そうか、これがレベル1である俺の強さなんだ)



 レベルの高い相手には一切手も足も出ず、ただやられるだけの最弱冒険者。

 それが俺のすべてだった。


 キリングベアはゆっくりと俺に近付くと、今度はその腕を上に構え、一気に振り下ろした。


 この爪が体に当たった時、間違いなく死ぬことになるだろう。それは頭の悪い俺でも理解できた。


 だが。



 理解はできるが納得は出来なかった。



 ──本当に、俺はこんなところで終わるのか?



 幼馴染に捨てられ、他の冒険者達からは馬鹿にされ、折角この町に来たのに冒険の一つもせずにあっけなく死ぬ。


 最弱だからって、そんなの納得できるか?



 そう思ったら、急に怒りが沸々とたぎってきた。



 ふざけるな。


 こんなところで死んでたまるか。


 まだ俺は、何も始めてない。



 俺はキリングベアを見据え、右手を前へと突き出す。



 ここで死ぬのは俺じゃない──お前のほうだ!!



「《デス》!!!」


 俺の右手から放たれた漆黒の波動はキリングベアの体に直撃すると、まるで体の中に吸い込まれるようにして消えた。


『グオオオォォォォォッ!!』


 すると突然キリングベアは雄叫びを上げ、泡を吹きながら仰向けに地面に倒れた。


「ハァッ! ハァッ!」


 痛みを堪えながらも呼吸を整え、ゆっくりとキリングベアに近寄る。

 奴はぴくりとも動かず、命の灯火は完全に消えていた。


「まさか……倒したのか……? 俺が」


 安心した俺は、その場にへたり込んだ。

 何故こんな奇跡が起こったのか。考えられる可能性は一つしかない。


 《デス》が効果を発揮し、キリングベアを一撃で倒したのだ。


「は、はは……やったぞ、ざまあみろ」


 俺はまだ生きている。

 ただ生きていることが、こんなにも嬉しいことだなんて今まで一度も思ったことがなかった。


「とりあえず路銀は確保できたな」


 キリングベアの体はとてつもなく重いが、ボルタナの町は目と鼻の先だ。

 こいつをギルドまで持ち帰り、素材として売ればかなりの金になるはずだ。


「……ん?」


 突然、視界に四角い謎の半透明の物体が現れた。

 そこにはこう書かれていた。


『スキルレベルがアップしました。ポイントを割り振ってください』


「なんだこれは?」


 半透明の物体は、俺が視界を動かすと一緒についてくる。何故か動きに連動しているようだ。


 それにスキルレベルがアップしたとは一体何だ?

 通常のレベルが上がったのではなく、スキルのレベルが上がるなんて話は聞いたことがない。


 試しに物体を指で触ってみると、それが消えて今度は新しい物体がまた現れた。


 先程よりもだいぶ大きく、内容もまるで違う。


 中心で光を放っているドクロのシンボルから蜘蛛の巣のように張り巡らされた線が、他のシンボルと繋がっている。


 そして、半透明の物体の一番上には【能力一覧】と、【レベル:20 残りポイント数:20】と記されている。


「……そういえばポイントを割り振れとか書いてあったな」


 試しに中心にあるシンボルを指で触れると、右上に文字が表示された。


『デス:即死魔術スキルの最初の魔術。有効範囲は極めて短く、範囲外からでは成功確率が大きく下がるため対象のすぐ近くで使用する必要がある。ポイントを消費し、派生する能力を取得することで様々な追加効果を得ることが可能』


「有効範囲だって? もしかして、それがあるからスライムにすら成功しないって言われてたのか?」


 パーティでの戦いの場合、魔術師は必ず後衛にいる。

 だから当然対象との距離は遠くなる。


 さっき、キリングベアの体はたまたま俺のすぐ近くにあった。

 だから成功したわけか。


 そして、キリングベアを倒した後に表示されたこのメッセージ。

 上がったスキルレベル。


 これはつまり。


「──俺だけレベルが上がるんじゃなくて、スキルレベルが上がるのか」

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