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第十四話 シャドウキメラ

 レベル上げの予定を早々に切り上げてボルタナの町に戻った俺達は、状況を確認するため冒険者ギルドに入った。


「ああもうっ! 一体ダンジョンで何が起きているっていうの!?」


 カウンターでは、椅子に腰掛けながら受付嬢が一人呟いている。

 恐らくダンジョンの変容ぶりについて、多数の冒険者から報告を受けたのだろう。


『いきなりオークどもがあちこちから湧いて出てきたんだよ! 絶対おかしいだろ!』

『さっき町を出た奴らがすぐに戻って来たからどうしたのかと思ったら、上層なのにオーガとかスケルトンが徘徊してるって!』

『これだけやばいことになってるんだったら、もう別の町に移動したほうがいいんじゃない?』


 ギルドの中はダンジョンの情報を交換している者や実際に事態に遭遇して動揺する者達でごった返しており、喧騒が渦巻いている。


「なんだか、大変なことになっていますね……」


 その様子をファティナが不安そうに見ている。

 少なくともここ最近までは、このボルタナ周辺ではこんな出来事はなかったんだろう。


(それにしても、なぜダンジョンがモンスターを生み出しているのだろうか……)


「よお! アンタも来てたのか!」


 思案していたところを不意に後ろから声を掛けられたので振り向くと、見覚えのある人物がいた。

 スケルトンオーガを退治した際に一緒だった盗賊だ。


「無事だったか。あの時は世話になったな」


 その後ろから、盗賊と同じパーティのメンバーであった鎧の男も現れた。

 神官の女性も一緒だった。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はガストン。この冒険者パーティのリーダーで、今はCランク冒険者だ。お前のお陰でな」


 ガストンと名乗った鎧の男は、そう言って軽く笑った。

 俺の代わりにスケルトンオーガを倒した報告をしたことで、ランクがDからCへと上がったのだろう。


「俺はアークだ。ダンジョンについて何か知っているか?」

「ああ、あちこちからモンスターが湧いて出てくるという話だったな。俺達は運良く鉢合わせしないで済んだが、一体どうなっているのかさっぱり分からん。ただ、不安なのは……」



「た、大変だ!」



 突然息を切らせた男が入ってきたかと思うと、大声で叫んでから床へと倒れ込んだ。


「ど、どうしました!?」


 受付嬢は何事かと慌ててカウンターから出てくると、男に近寄る。


「モ、モンスターの群れがこっちに向かってきてるんだ! しかもすごい数だ!」

「なんだと!?」


 苦しそうに話す男の言葉を聞いて、その場にいた全員が思わず息を飲んだ。


『ど、どうすりゃいいんだ……?』

『大群って……』

『もう逃げるしかないじゃねえか』


「いや、今からではもう遅いだろう。それに、手立てはなくはない」


 動揺する冒険者達に向かって、ガストンはそう告げる。


「こういったモンスターの大群には、必ずそれを率いている『指揮官』がいるはずだ。そいつを倒すことができれば、奴らは散り散りになって逃げ出すだろう」

「だ、だがあの中からいったいどうやってその指揮官を見つけるんだ?」


 他の冒険者が尋ねるが、ガストンは首を横に振った。


「それは分からない。だがとにかく探すしかない。大抵は群れの中で最も強いモンスターである場合が多い」


 それを聞いた俺は、すぐに出口に向かって歩き出す。


「アーク様? どこへ行かれるのですか?」

「町の外へ行ってあのモンスター達を倒す」


 ガストンが言うことが事実であれば、俺がそのモンスターを倒せればこの騒ぎは収まるはずだからだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 受付嬢がギルドを出ようとする俺を引き留めた。


「あなたはレベル上限1でしょう!? やられに行くようなものだわ!」

「レベル上限1……? そうか。アーク、君が噂の冒険者だったのか」


 受付嬢の言葉にガストンは合点がいったようだ。


「アークは確かにレベル上限1かもしれない。だが信じられないかもしれないが、恐らく今ここにいる誰よりも強い。とはいえ、いくら何でもこの数を相手にするのは無茶だ」

「そうだぜ! もう西に撤退するしかねえよ!」

「俺の魔力はほぼ無限だ。一人でもずっと戦える」


 魔術が効く相手なら、《デス》で仕留めながら『魂の回収』の効果で魔力を回復しながら、戦い続けることができる。


「ファティナはここで皆と待っていてくれ」


 敵にはCランクも多い。

 この戦いに、まだレベルがそれほど高くないファティナを連れて行くことはできない。


「いやです」


 だが、きっぱりと彼女はそう答えた。


「なぜだ?」

「だって私達は──パーティじゃないんですか?」

「それとこれとは話が」

「違わないです! わざわざ危険な場所に仲間を一人で行かせるなんて、そんなのパーティじゃないです!」


 頑として譲らない態度で、ファティナは俺をじっと見つめている。


「ダメだと言っても勝手についていきますからね」


(これはもう、話を聞いてくれそうには見えないな)


「……好きにしてくれ」

「はいっ! では行きましょうか」


 結局ファティナに押し負け、俺達は二人でギルドの外へと出た。


 町の外からは地鳴りのような音が響いてきており、それが段々と大きくなっている。

 急いで町の門へと向かい、その現況を視認する。


 東の森の方角から押し寄せてきたのは、波のようになって走って来るモンスターの大群だった。


 その数は千か二千か……いや、それ以上いるかもしれない。


 モンスターはゴブリンやオーク、それに黒い狼型のモンスターであるドレッドウルフなどEからDランクのものが一番多く、オーガやスケルトンなどもいくらか見える。


 上層だけではなく、中層のモンスターも混じっているようだ。


「絶対に無理だけはしないでくれ」

「はいっ」


 俺は鞘からブロードソードを引き抜き、ファティナと共に全速力で大群に向かって疾走する。


「《デス》」


『グアアアアッ!!』


 先頭を走るオーガを即死魔術により一撃で倒す。

 『魂の回収』により、更に体が軽くなった。


 続けざまに、剣で周囲のゴブリンやオークを斬り続ける。


「《デス》、《デス》、《デス》……」


 左手で魔術を使い、右手で剣を振るいながら何度も繰り返す。


 《デス》はなるべくオーガなどの大型のモンスターに、そして剣でオーク達を狙う。


『グォォォッ!』


 一太刀を浴びせられたオークは、叫び声を上げながらその場で光の粒子となって消えた。


 ダンジョンが生成したモンスターは、体が残らないようだ。

 だから先程も数が合わなかったのだ。


「ふっ!」


 ファティナも無理に強敵を狙わずに、町に向かおうとするモンスターを優先して倒している。


 向かってくるモンスター達は倒せないことはないが、問題なのは数が多いことだ。


 残ったモンスター達は町の方へと向かいつつある。

 このままでは時間の問題だろう。


「二人を援護するぞ! 弱いモンスターを優先して撃破し、数を減らすんだ!」


 その時、町の方から声が聞こえてきた。


 町の門の前には、いつの間にか大勢の冒険者達がいた。

 その先頭には、ガストンがいる。


「アーク様! 他の冒険者の皆さんが来てくれましたよ!」

「……そのようだな」


 他の冒険者達は一斉に俺達の横を通り抜けて行くモンスターを攻撃し始めた。


 中にはCランク以上の冒険者もいるようで、オーガを魔術で倒す者もいた。


「この調子なら、町を守れます!」


 あとは大群を率いている指揮官さえ見つかれば、なんとかなる。



『グゴオアアアアアッ!!!』



 そう思った矢先、一際大きな咆哮が辺りに響き渡った。


「な、なんだあれはっ!?」


 大群の後方に突然姿を現したのは、巨大で全身が真っ黒な四つ足のモンスターだった。


 正面を向いて真っ直ぐにこちらを見据えるのは、獅子の頭部。

 そのすぐ後ろ、背中にあたる部分から飛び出しているのは、山羊の頭。

 そして、尻尾があるべき場所では骨だけになった蛇が口を開いたり閉じたりしながら蠢いている。


 このような容姿のモンスターを、冒険者達はこう呼ぶ。


 キメラ、と。


「く、黒いキメラだと……!? Aランク級のモンスターがなぜこんな場所に!?」


 俺はその時はっきりと認識した。


 奴がこの現象を引き起こし、そしてモンスターの大群を率いる指揮官なのだと。

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