第十二話 仲間がいてくれたなら
広場から少し歩き、大通りにある冒険者ギルドの前へとやってきた。
ファティナを連れて、ギルドの建物の中へと入る。
目的は冒険者登録と、ファティナの能力の鑑定を行ってもらうためだ。
「ここが冒険者ギルドなんですね。初めて来ました」
ファティナはギルドの中を珍しそうに見回している。
村はボルタナの近くなので町自体には来たこともあるようだが、冒険者ギルドには行ったことがなかったようだ。
「ここで冒険者登録をすると、無料でレベル上限とスキルの鑑定を行ってもらえるんだ」
「そうなんですね! じゃあ早速登録したいと思います!」
俺はいつものようにカウンターの前に向かい、受付嬢に話しかける。
「この女性の冒険者登録を頼みたい」
「あっ、あなたは……!」
受付嬢は俺の顔を見た途端、何か言いたげにしていた。
キリングベアの買い取りの時を思い出したのだろう。
だが、受付嬢はしばらくして素の表情に戻った。
「こほん……それでは名前を教えてください。そして、こちらの水晶玉に手をかざしてください」
「ファティナです。よろしくお願いします……これでいいですか?」
そう言ってファティナが水晶玉に右手をかざすと、水晶玉が輝き紙に文字が浮き上がった。
受付嬢は紙を手に取ると、それを読み上げ始めた。
「ええと、あなたのレベル上限は……10? えっ!? ウソっ! レベル上限100!?」
その声に、ギルド中の冒険者が一斉に俺達を見た。
正直、俺も驚いてしまった。
レベル上限100の冒険者なんてこれまで聞いたことがなかったからだ。
「えっ? それって何かおかしいんですか?」
きょとんとした顔でファティナが受付嬢に尋ねる。
よく考えれば、彼女は冒険者の一般的なレベル上限に関する知識がまだないのだった。
「おお、おかしいなんてものじゃないですよ! 今までこのギルドからレベル上限100の人なんて現れたことがありません! しかもスキルは……全部で四つ!」
『はあああっ!?』
『なんだそりゃ!? そんなの聞いたことねえぞ!』
『ちょっと待てよ! 二つでも珍しいのに、四つだって!?』
『いくらなんでもすごすぎじゃないか!! 一体何者なんだ!?』
「あなたのスキルは、【剣聖】、【破魔】、【成長補正】、【治癒魔術】です!」
「えっと、どれがすごいんですか?」
「【剣聖】は類稀なる剣技の才能に恵まれるという、とても珍しい剣士の最上位スキルですよ! 持ち主が成長すれば素晴らしい剣の達人になれると言われているほどのものです!」
「よかった! アーク様、これであのモンスターを退治できますよね!」
ファティナはそれを聞いてとても喜んでいる。
確かに、【剣聖】のスキルであればあのモンスターに対抗することが十分にできるはずだ。
更に剣士でありながらファティナには【治癒魔術】のスキルがある。
自分を回復しながらモンスターと戦うことができるという持続力が高い有用な能力だった。
【破魔】は、魔術に対して強い耐性を得ることができる。
モンスターの繰り出す攻撃の中には魔術に属するものもあるため、抵抗力が高まるはずだ。
そして、【成長補正】はレベルアップ時のステータスに追加補正がかかり、より大きく上昇するというスキルだ。つまり1レベルあたりの成長率が他の人間よりも高くなる。
レベル上限100のファティナとの相性は非常に良いだろう。
彼女の能力は、剣士としては完璧だった。
「なあアンタ! 俺達とパーティを組んでくれよ!」
「いや俺達とだ!」
「俺達のパーティに決まってるだろ!」
ファティナの能力を聞きつけて、ギルド中の冒険者達が彼女の下へと押し寄せてきた。
「えっと! す、すみません! もう組む人は決めていますのでっ!」
このままではとんでもない騒ぎになってしまうだろう。
俺は彼女の手を引いて素早くギルドの建物から出て、大通りの少し先まで移動する。
「ふう……ありがとうございました」
(だがファティナの能力だったら、俺と組むよりも強いパーティに入って鍛えたほうが彼女のためになるのかもしれない)
村を襲ったモンスターを倒すという目的はあるが、それでも彼女のために最良の選択をすべきだろう。
「そういえば、アーク様はどのような鑑定結果だったのか聞いてもいいですか?」
「俺はレベル上限が1で、【即死魔術】という魔術しか使うことができない」
「そうなんですか。でも、私はパーティを組むならアーク様とがいいです。私の能力ではだめでしょうか?」
「え?」
俺の即死魔術について細かい話をまだしていなかったので、予想していなかった言葉に思わず面食らってしまった。
そんなことを言われるとはまったく思っていなかったからだ。
「今朝、聞きました。私をベッドに寝かせるために、夜中にアーク様が宿屋を探し回ってくれたと。私はアーク様を誰よりも信頼できる方だと思っています。だから、パーティを組んで一緒に戦って行きたいんです」
「……」
返す言葉が思い浮かばず、俺はただファティナの顔を見つめることしかできなかった。
「そんな理由じゃ、だめですか?」
「いや、分かった」
俺は改めてファティナの方に向き直る。
「ファティナ、俺とパーティを組んでほしい」
「はいっ! こちらこそよろしくお願いします!」
ファティナは笑顔で大きく頷いた。
「では早速ですが、これからどこに行きますか?」
「まずはモンスターと戦うための装備を整えないといけないだろうな」
村を襲ったモンスターを倒すには、ファティナのレベルを上げなければならない。
そのためには武器と防具が必要だ。
「あ、でしたらゲイルさんのところですね」
「ゲイル?」
聞き覚えのない名前が出てきたので、思わず聞き返す。
「え? 裏通りの店主さんですよ?」
今だにあの店主の名前を知らなかった。
そうして俺達は、裏通りの店へと戻ったのだった。
「よう、結果はどうだったんだ?」
扉を開けて店の中に入ると、いつものように店主がカウンターから声を掛けてきた。
「はい、私はレベル上限100で、【剣聖】のスキルがあったので戦えそうです!」
「レ、レベル上限100っ!? なんだそりゃ!?」
店主はあまりにも驚きすぎたようで大声を張り上げた。
「しかしとんでもない嬢ちゃんだな……しかもスキルに【剣聖】か。これはもう例のモンスターを倒すために、兄ちゃんと組むしかないんじゃないか?」
店主はニヤニヤしながら俺の方を見ている。
「……ああ、さっきパーティを組んだ」
「そうかそうか、それは良かったな。そういえば今まで聞いていなかったが、兄ちゃんの能力はどんなものなんだ? 魔術師なんだよな? 確か」
「俺はレベル上限1、スキルは【即死魔術】だけだ」
俺がそう告げると、店主は驚いて目を丸くした。
「まさか兄ちゃんが噂の最弱冒険者だったのか!? でも十分強いじゃねえか。それにしても、レベル上限1と100の組み合わせなんて面白いパーティができたもんだな。ハッハッハ」
店主は笑いながら、様々な品をカウンターの上に揃え始めた。
置かれたのは、指が抜けるようになっている黒革のグローブ、銀色の小手とブレストプレート、剣など様々だ。
「これからレベル上げに行くんだろ? ウチで装備を揃えてきな。嬢ちゃんの装備は剣士用で、兄ちゃんのは魔術師用だな」
「あ、あの……、でも私、お金は無くて……」
「ああ、それなら心配しなくていいぜ。この兄ちゃんにたっぷりともらってあるからな。金はとらない」
「え? どういうことですか?」
「まあ、色々あってな」
どうせ盗品だと思っていたあのスケルトンオーガの素材のことだろう。
「でだ、上層までなら防具はそれなりでいいが、剣は上等なものでないとすぐに刃こぼれするからな。特に【剣聖】のスキルに耐えられるようなものだと、銀の剣がいいだろう」
店主はカウンターに置かれた剣を鞘から抜き放った。
銀色の刀身が鈍く光る剣だった。
「こいつはアンデッドにも効果的だ。今のところうちで一番の品だな」
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
「なあに気にするな、二人とも頑張ってな!」
ファティナは店主から渡された剣を大事そうに抱えた。
店主の計らいで装備を整えた俺達は、早速レベル上げに向かうことにしたのだった。