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問題がありすぎて何が本当に問題なのかが見えてこなくなる737MAXという存在と787という傑作機の差異

 LEAP-Xのエンジン特性の問題については当初より不安視される部分があった。

 それは何かというと圧縮率が低いゆえに急激な失速をするとストールを起こしやすいというもの。


 なんだかもう事故原因が見えてきた気がするが……


 LEAP-Xというのは正面のファンで後部のタービンへ送り込む風流の圧縮率が低く、一定の風流が流れないとこれまでのエンジン以上に容易にエンジンストールしてしまう。(特に737型用のものにその傾向が強いとされる)


 無論通常時の飛行においてはめったにそのような事にはならないが、その不安定さをコンピューターによる精密制御でなんとかする事に対し――


 ――"基本設計が半世紀前の737の胴体構造でそれをやるのか!?"という疑念は当初から技術者によって不安の種であるとされた。


 特にLEAP-Xの場合、もっとも効率の良い状態を目指すと737の胴体構造では駄目なのだ。

 胴体全体を1から設計しなおす必要性があった。


 737maxが搭載するLEAP-Xはあくまで737に合わせた特別構造が施されたものとなっており、具体的には通常仕様から比較して低圧タービンが2段も減っている。


 その上で低圧タービンが大型化した。


 低圧タービンの仕事は高圧タービンが生み出した風流を受けて推力となる後部気流を生み出すこと。


 ここが2段減ったということは、その分高圧タービンから受ける低圧タービンへの風流の圧力が1つのタービンにおいて高まることを意味する。


 低圧駆動が売りのLEAP-Xであるが、737MAX搭載型ではその売りを削いでいるわけだ。

 なんでそんなことをしたのか。


 そもそもLEAP-Xは正面のファンがターボプロップとかと同じくそれなりの推力を持つ新世代エンジン。


 後部タービンに送り込む圧力ある風流こそ構造的に少ない量となっているが、そもそもが前面の炭素複合繊維で構成されたファン自体が後部で生まれた軸流を受けて推力を発生させる構造。


 問題はこいつは航空機の胴体構造にモロに影響をうけるものであるということ。

 最近の航空機というのが航空機の胴体自体が風流を大幅に制御する仕組みとなっている。


 それこそ戦闘機のダイバータレス式エアインテークと呼ばれるような存在などがそうであるように、機首形状、胴体形状というのはエンジンにとって非常に重要なファクターをもつ。


 ことジェットエンジンにとっては取り込みたくない空気が昔からある。

 流体力学でいう層流という存在だ。


 これは私の描く別作品でも触れたことだが、機首や翼にぶつかった空気というのは運動エネルギーを削がれて運動エネルギーが0に近い空気となって滞留してしまう。


 これを一般的に層翼というのだが……

 こいつはとても粘着性が高いくせに運動エネルギーがないせいで推力に変換し辛い。


 航空機エンジン、とくにジェットエンジンにおいては滞留して空気の流れを乱すこいつの存在は非常に厄介。


 この層流をいかにして推力に変換するか。


 それが現代の新世代航空機において重要なのだが……戦闘機を中心に、ここ最近注目されてきたのが"機首とエンジン手前の構造物"で圧縮させてしまおうという考え方。


 これこそが戦闘機でごく最近採用されるようになったダイバータレスと呼ばれるエアインテーク構造の基本理論。


 ダイバータというのは層流を外に流すため、エアインテーク内に多数の小型制御翼を設けて速度に合わせてインテーク形状を可変させ、内部の翼の角度も調整して層流を逃がそうとする1970年代からの戦闘機の主流となったインテーク構造なわけだが、


 近年ではより進んだ流体力学により固定式インテークであるダイバータレス式が主流となりつつある。


 簡単に言えば機首で空気を圧縮。

 さらにその後ろのコブ状の構造物でさらに二段圧縮。

 こうすることで死んだはずの運動エネルギーを再び保たせることができるというもの。


 この構造は戦闘機で主に採用されており、旅客機では応用されたものしか用いられていないものの……


 787なんかは機首で受けた風流がエンジンの効率を低下させないよう配慮された全体設計がなされている。


 エンジンがより高効率に稼動することで燃費が良くなるが、それは一見すると他とあまり違わないような787の機首などの一連の胴体構造によってなされたものであるのだ。


 おかげで787はこれまでより大幅に低燃費な航空機として登場することができた。

 正直現在のボーイングの技術を証明するに足る傑作機である。


 そんな787の技術を737に応用しようとしたのが737MAXなわけだが……


 結局は低価格が売りの737は設計的に既存の状態からそこまで大きく逸脱できないという理由から胴体構造を従来から変更できず、737MAXではそのためにエンジンの効率を下げなくてはならなくなり……


 古い設計のままである737MAXの胴体構造が微妙すぎるために、本来なら15%以上の燃費改善が可能である所、10%未満に留まるという……787がいかに優れた胴体構造であるかを証明する機体となってしまった。


 また、そうなった原因は胴体のもつ空力性能だけではない。

 737は近年の新世代旅客機と比較して翼の位置が低い低翼配置。


 787を見てもらうとわかるが、より高効率のエンジンとするには正面のファンを巨大化する必要性がある。


 しかしそうなるとエンジンは巨大化していくわけだが……


 翼に吊り下げるのが当たり前である旅客機において巨大なファンを搭載する場合は、787のように中翼配置といわずともより胴体の上側に主翼を供えねばならない。


 737MAXは構造的に1から作り直しとなるのでそれができず、結果的にそれがLEAP-Xが特別仕様となる原因の1つともなっている。


 一応、主脚を延長することで地面と翼との空間クリアランスをより広く設けているが、それも機内スペース的な問題で限度があるのである程度で妥協しているわけだ。


 ちなみに運行メーカー曰く燃費効率は737NGから6%程度しか向上しないという。

 費用対効果として737NGから買い替える理由に足るかは不明。


 正直なところこれでLEAP-Xの評価が下がるのを筆者は懸念しているほどだ。


 そもそも航空機がエンジンと翼だけで大幅にパワーアップするわけがない。


 ジブリ作品である紅の豚では、そんな事をやって「じゃじゃ馬になった!」――だとか騒いでいたが、時代が違う。


 1980後半以降の航空機ならまだしも、737MAXなんて胴体構造はアナログ計算時代の産物そのまま。


 それを787の技術を応用してパワーアップさせましたとはいうが、古すぎる胴体によってエンジンが本来の性能を出せないなど多くの問題を抱えた。


 そして胴体構造によってデリケートになったエンジン特性により737MAXにはあるシステムが搭載されている。


 MCASと呼ばれる操縦補助システムである。


 その存在が仄めかされた当時、本国を含めて炎上事件を起こしてボーイングが釈明に追われたシステムだ。


 簡単に言えば戦闘機などと同じ操縦補助システムなのだが、機体特性を改善し、迎え角などが大きくなった際に自動で補正して機体を安定させようとするもの。


 エアバスでは結構前から標準搭載されているシステム。


 しかしそれはどう考えても負のイメージを737MAXに植えつけた。

 本来そんなものが必要ないはずの737に、なぜそんなものが搭載されたのかと批判されたのだ。


 ボーイングはこれまでの歴史の中でこういった操縦補佐システムを出す場合は機体操縦が難しくなっている時に限られていて、そういうものを出す機体は何か大事故を引き起こす事が多い。


 だから「ま た か」と思われたのである。

 実際そうなってしまうのだから"またか"なんてレベルではない。


 これでそっち面に関しては株を落としたと言えるだろう。


 このシステムに関してボーイングは"普段は動作しないから!"――と言っているが、果たして本当にそうだったのかは後述する。


 私はハッキリ言ってこのシステムが事故の原因になっていると考えているといまのうちに書いておこう。


 ボーイングは周囲の不安に対して不安を払拭しようと努めたが、結局周囲の不安が的中した事になるのだろう。


 さて、そんな737MAXの操縦特性が変わった原因の2つ目だが、操縦システムの一新というのが挙げられる。


 前述したMCASもそうだが、そもそも737MAXは操縦方法がかなり変化したという。

 737に関してはNGシリーズで777のようなグラスコックピットが導入された。


 しかし737MAXではここからさらに最新鋭のグラスコックピットが導入。

 見てわかるとおり明らかにボタンやスイッチ類が大幅に減っている。


 国外の雑誌を見る限りボーイングは初期737から3分の1へ、NGシリーズからは3分の2にスイッチ類を減らしたというが……


 どうもボタン操作方法がNGとはまるで違うらしいのだ。(スイッチ類が減った影響)

 737から737NGはボタン・スイッチ配置がほぼ同じであった。

 そのためスイッチ類は削減されてもある程度は対応可能だった。


 しかしボタンの大幅な削除により、操作方法すら一新されてしまったのが737MAXなのだという。


 そのため737はただでさえエンジン特性が異なるのに、操作感がこれまでの737シリーズと違うため操縦に慣れるのに苦労するという。


 双方の事故においては事前に操縦士が運行会社にクレームを出していたことがわかっている。

 どちらも"操縦方法がわかり辛い" "覚えずらい" というものだった。


 筆者にはどれほどの違いがあったのかわからないが……


 737MAXはこれまでの航空機より自動となっている部分が多く、ちょっとした操作を行うのにもスイッチ類をカチカチと組み合わせねばならず、操縦中に視線を正面から逸らす時間が増えるので危ないという声は事前にあった。


 そうなった原因はなるべく737のコックピットを流用しつつも、787で採用された最新鋭のグラスコックピットを中途半端に流用したため。


 787では小難しい操作を緩和するため、電子フライトバッグシステムなども搭載することで緊急時の操作を簡便なものとしていたりするのだが……


 737MAXには当然コスト的な制約もあってそんなものはなかった。


 結果緊急時の操作などは737や737NGと比較するとかなり面倒臭いらしく、その点については運行会社による運行前のテスト飛行時から指摘されていた。


 つまり操縦性は737や737NGから悪化していると言えなくもない。

 慣れの問題ではあるが737シリーズとしてみた場合は別物と言えるだろう。


 最後が翼の特性の変化。

 737MAXでは大部分において主翼構造の変更は行われなかった。


 というか、そもそもボーイングは737MAXはマイナーチェンジ機であると主張していて実際には多くの部分において大幅な設計変更をしていない。


 フライバイワイヤーを一部操作に留めたのも胴体構造の設計をNGから大幅に変化させたくなかったからだし、当初は大幅に見直すと主張していた主翼も結局大幅な見直しはなかった。


 だがウイングレットの構造と尾翼構造の見直しにより、翼のもつ特性は大幅に変わっている。


 ウィングレットはあの特徴的なV字型の構造。

 こいつは何なのかというと全部乗せラーメンである。

 既存のウィングレット等の構造をすべて組み合わせてそれぞれの利点を引き出そうとしたもの。


 歴史的に紐解くとNASAが考案したウィングレットの元祖に辿り着く。(半世紀前に考案され、最終的に空力的な欠点が見つかり従来型が採用されるようになった曰く付きの形状に近い)


 主翼構造を見直さない代わりに燃費達成のために乱流抑制を行おうとしてあんな事になった。


 元祖ウィングレットはすぐさま従来の一般的なウィングレットへと様変わりしていくが……


 その理由は下側のウィングレットが事実上の主翼延長と同様の効果を発揮し、ダウンウッシュや地面効果などの影響を強く受けて、着陸時にまるで滑走路に足が着いてくれないような特性となってしまったり(737MAXではそれに伴った着陸事故すらある)、ウィングレット自体が抵抗物であるのだが、上側との相乗効果によって揚力比が計算外に改善されて低速時において機首上げ気味になったからである。


 そしてもう1つ気になるのがバンク時の影響。


 これも元祖ウィングレットにおいては気流を主翼表面に巻き込まないようにするための下側の部位が主翼裏面を流れて胴体根元側へ強烈な乱流が向かい失速しやすくなることが指摘されていた。


 正直あの構造、ちょっとした流体力学を知る人間からするとバンクとった時の空気の流れが不安すぎる。


 問題となった元祖ウィングレットとは必ずしも同じ効果であるとは思われない。

 ただ1つわかるのは、実質的に主翼を延長したかった思惑があの形状より理解できるということ。


 そんなことして操縦性に影響を及ぼさないわけがない。


 ボーイングは水平飛行時の特性ばかり公開しているが、787ではバンクをとった際の効果を公開していたのに対してしていないのは、絶対にバンクを取った場合の動作状況がよろしくないものであるといわざるを得ない。



 実際問題、最初の事故を起こした機体は前日の飛行で水平飛行が極めて不安定になったと言っているが……


 上昇中の迎え角やバンク角によってはとんでもない失速を引き起こしているのではないかと疑っている。


 そもそもフラップやら何やらだけでエンジン全開で上昇しようとして降下するだろうか。

 上昇しようとして失速して降下する特性はエンジンに原因があるだろうか。

 推力が正しく発揮されている段階で失速するなど翼の表面剥離が激しいからではないのか。


 水平飛行時に理想的な数値を出すという、あのウイングレットは上昇中の段階でも効率的な働きを示すとは思えない。


 しかし原因は主翼だけではないかもしれない。

 737MAXにはHLFCと呼ばれる尾翼構造が導入された。


 これは何かというと別作品で筆者が触れたスリット吸引というもの。

 翼に穴を開けて空気を取り込み、層流を制御しようと試みるものだ。

 この世界には大気という存在があり、大気には気圧という存在があって互いに干渉しあう。


 この気圧差というものを利用するために翼に小さな穴を開けて層流を吸い込み、圧縮して放出しようとするシステムだ。


 航空機においては超音速機などがエアインテークなどに採用する構造だが、737MAXには787の新型モデルや777-Xに導入予定だったHLFCを先んじて導入した。


 787においては787-9にも採用されたものであるが先に登場したのはMAXの方。


 しかしこのHLFCシステム……

 従来機に搭載すると翼の表面を流れる層流が押さえ込まれるために尾翼の効果が増大。


 結果エレベーターなどの動作が敏感になり、コンピューター補助などが必要であるとされている代物だ。


 787-9では実際にコンピューター側が尾翼制御を補正。

 しかし737MAXにはそれが無い。


 無いのも当然。

 そんなものを装着するスペースなど737には無いからだ。


 737の尾翼はあくまで737NGから違わぬもの。


 そこにHLFCを強引に搭載しただけであり、従来どおりの油圧システムで動かすわけである。


 より鋭敏に反応する尾翼は操縦性を不安定にさせるものではないが、操縦者が先入観的に持つ機体特性のイメージを変えるに足るものであることは言うまでも無い。


 以上の3点の存在の影響により737は名前と胴体構造こそ1950年代の航空機だが、乗り手は707から737を作ったように737という名前だけの別物と評している。


 特に機体が姿勢を崩した後の建て直しが難しいらしく、気流が乱れると怖い航空機であるらしい。


 そして機体が姿勢を崩した後に建て直し辛いというのは、まさしく今回の2つの重大事故と重なるものがある。


 両者共に離陸から墜落まで10分程度。

 大した高度でもない中での墜落。

 まさに機体特性が引き起こした事故であると言える。


 ちなみに最初の事故であるライオン・エア610便墜落事故はすでに原因が判明している。

 その原因はMCASの誤作動。


 迎え角センサーがズレていたが、機体を自動補正しようとするMCASがそのズレた状態のまま補正しようとし、機長が何度も機体を立て直そうとしたもののMCASが最後まで悪さを働いて墜落した。


 ボーイングはこれを人為的ミスだと主張した。


 MCASは緊急時にカットできるものであり、問題があれば動作を停止してしまえばいいのであると。


 一方運行会社側は"緊急時の操作方法が難しく手順が多く覚えきれないため即応性が無い"として原因はMCASそのものであると主張しぶつかりあっている。


 ここについては正直運行会社の方が説得力があるが、事故機は前述に別の機長がMCASを解除して難を逃れているということもあり、結局問題は整備ミスや操縦ミスで片付けられた。


 しかしそうも言えなくなってきたのが今回の事故だ。


 今回の事故については現在判明している情報により、MCASが遠因になったことがすでにわかっている。


 現在までに判明している情報からわかることは、事故機はオートパイロット中に失速した結果立て直せず墜落したという事である。


 ここにおいて国外の専門家が指摘しているのは、オートパイロット中のMCASの介入である。


 MCASは失速回避システムでありながら迎え角センサーに頼り切った、人間で言えば目隠しをしながら体だけの平衡感覚でバランスを保とうとしようとする危険なものであるのは先の事故で判明した。


 今回の事故においては前回のような迎え角のセンサーに問題があったという話は出ていない。


 しかし今度の事故機はなんとオートパイロットを支えるための機体状態を伝える翼側に配置されたセンサーにズレがあり、そのズレをオートパイロットがどうにかしようとすることで上昇中に降下するという危険な兆候を示していた。


 問題はここから。


 BBCニュースなどが通信記録を入手した情報を公開しているが、通信状況を見るにエチオピアの事故機は離陸直後からオートパイロットに切り替えた際に機体制御に問題が発生。


 手動操縦に切り替えようとするも上手く切り替わらず、そこにMCAS動作の警告音が鳴り響き、MCASが発動したと見られることがわかっている。


 その後機体は急激に機首下げを何度も繰り返し、最終的に機体が失速して墜落した。

 まさしくそれは最初の事故ととても似ており、機長は立て直そうとしたものの結局立て直すことができず墜落してしまっている。


 この原因についてはボーイングの内情に詳しい専門家曰く、緊急時においては"オートパイロットよりもMCASが優先される"とのことだが、それが悪さをしたのではないかということなのだ。


 二系統ある自動操縦システムが互いに互いでぶつかりあうという恐ろしい話を出してきたのである。


 一般的にオートパイロットというのは機体の各部センサーすべての状況を見て姿勢を整えるもの。

 それこそジャイロセンサーやピトー管などによる速度センサーなど含めてすべてを勘案して動く。


 一方のMCASは迎え角しか見ていない。

 どう考えても優先すべきはMCASではないだろう。


 しかし緊急時にすべてを総合的に見たオートパイロットに対し、MCASは"いいや限界だ! 機首を下げるね!"といって落とすのである。


 でもこの時、オートパイロットが再び機首を上げようとしたら?

 そして機首下げと機首上げを繰り返した末に失速し、急激に降下して制御不能に陥ったら?


 答えはそこにあるんじゃないか。


 ちなみにまるで事故の対応のごとくボーイングはMCASをこの時期においてソフトウェアアップデートすることを宣言してたりする。


 ボーイングは事故とは無関係としているがリリースされるMCASのアップデート内容については専門家がすでにどういうものか先読みしているほどだ。


 MCASの優先度を下げるものだとされているが、もし本当にそうならボーイングはそれが事故に繋がる危険なものだと気づいていたと言える。


 そりゃ米国人をして"737は欠陥機"と言われても仕方ないよな。


 事故の状況を現在までに集められた情報から総括するとこんな感じだ。


 離陸時。

 機体は整備士によりオートパイロットの制御に多少の難があると伝えられる。


 機長はそれを了解の上で離陸。


 離陸したまでは上手く行った。

 問題はここからであった。


 離陸後の上昇時点において機長はオートパイロットに操縦を切り替え。

 すると突如機体がフゴイド運動のようなものを起こし、機体が上昇中に失速する。


 しばらくした後に失速の危険性を知らせる警報。

 それと同時にMCASのMCASを知らせる警報。


 機長はここにきて自動操縦から手動操縦に切り替えようとするも上手くいかず。


 機長は前日までに運行会社に対し737MAXの緊急時操作のマニュアルがわかり辛いとボヤいていたが、この時きちんと操作ができたかは不明だ。


 そしてMCASが発動。

 MCASはとりあえず現状の状況を打破しようと試みる。

 それは前回の事故と異なり正しい動きを示したかもしれない。


 しかしオートパイロットがそれを邪魔する。

 両翼のセンサーのズレによりオートパイロットは正常な判断を失っていた。

 そこに強引にどうにかしようとするMCAS。


 しかし機体はそれらの操作によりバンク角なども大きくなり、制御がより困難な状況に。

 高度が一気に落ちたところで何とか手動操縦に切り替え。


 しかし737は思ったような動きを示さない。


 エンジンパワーを調節しても反応がこれまで乗っていた737と異なり、おまけに操縦桿による操作感覚もまるで異なる。


 しかもなんだか失速した状態から戻らない。

 そうこうしているうちに……


 各国の専門家の情報、ニュースで判明した情報などを統合すると事故の状況は大体こんな感じだ。


 この時問題視すべきはどこか。


 MCASかオートパイロットかパイロットか。

 はたまた、世界でも突出して事故が多いとされる737を魔改造したものにすがるしかない運行会社か。


 ボーイングはY2計画でもっと安全な航空機を提案し、そしてその流れに全日空が乗ることで787が生まれた。


 少なくとも787ではこうはならなかったと言える。


 なぜなのか説明しよう。

 ほぼ同じ状況が787に起こったらどうなるかをこれから説明しよう。


 離陸前。

 整備士からオートパイロットに難があると伝えられる。

 

 787の機長は787の自己診断プログラムを動かす。


 これまで蓄積された運行データすべてを洗い出し、オートパイロットに問題があったかどうかを精査する。


 また機体自体がそれを自己診断する。

 診断結果がアウトなら離陸の取りやめも考える。

 この時に787が3つあるコンピューターのうち3つとも問題ナシと判断すれば離陸。


 離陸直後。

 オートパイロットにやはり問題があり上昇中に失速。


 すると787はどうするか。

 787は失速制御システムを発動。

 MCASとは異なり統括制御されたシステムにより787はエンジン出力を一旦最小に留める。


 これにより787は滑空モードに移行。

 自身の胴体と翼がもつ力を最大限に用い、エンジンを最小限出力とすることで失速時の制御不能状態を緩和しようとする。


 787のメインコンピューターはすぐさま現在の速度と高度などから降下速度などを勘定して、あとどれほどの距離まで飛べるのかをモニターに表示。


 パイロットはここでエンジンの出力を上げることもできるが、787は737が持ち得ない滑空能力があり、あえてグライダーとなることで付近の空港まで飛ぼうとする。


 機長はコンピューター状況を見ながら判断。


 するとエンジンストール発生。

 エンジンが停止。

 737より状況が悪化。


 しかし機長は冷静。

 787はすぐさま緊急セーフモードに移行。


 機内に残った電力を使い、ターボファンのファンの部分を回転。

 事実上のモーターグライダーとなることで航続距離を伸ばそうとする。


 機長は冷静にエンジンの再始動を行いつつも、電力確保のためにメインエンジンに直結している発電機の作動状況を確認。


 これはタービンが回転することでモーターが駆動するタービン発電機。

 正面のファンが電気で駆動すると多少なりとも空気が圧縮されて稼動するタービンによって電力が確保できる。


 まるで半永久機関のようだが飛び続けるだけの出力は得られない。

 片側のエンジンに2つ、機内に別途補助動力装置と直結した2つの発電機がある。


 しかし残念ながらすべて稼動しなかった。

 だがその状況に陥った時の最後の手段として787にもRATは搭載されている。

 元来は補助動力装置と並んだ唯一の手段たるRATの前の段階で4つも発電機を用意しているわけだ。


 たった1機のRATが無事に稼動することで787は電力を取り戻す。

 この間、リチウムイオン電池の豊富な電力により電力ロストするというような事はなかった。


 機体はモーターグライダーと化したまま、優れた胴体設計と翼によりすぐさま姿勢を制御。

 失速を取り戻した後は付近の空港へ緊急着陸。


 787は油圧を徹底的に排除した胴体構造をしており、油圧システムは各部でユニット化されている。

 急制動によってライオン・エアの737のように尾翼が吹き飛んで油圧全損というような事にはならない。


 そもそも尾翼自体の構造も先進的。

 垂直尾翼は水平尾翼の手前に配置されることでその力を最大に発揮できる代わりに、胴体との比率を考えると737からは小型化されたものとなっている。


 しかし重量比率的に言えば従来のものと変わらない。

 変わらない分、より頑強となったのだ。

 短く、頑強に。


 787においては開発段階から何度も失速テストをさせたが翼が折れるような事はなかった。


 仮に折れたとしても尾翼は3つに分割されていて、上半分が吹き飛んだとしても一番真下の部分が残っていれば通常時の2分の1の仕事率で仕事をしてくれるようになっている。


 つまり完全に尾翼が吹き飛ばない限り尾翼は尾翼としての仕事を果たすのだ。


 各部から徹底した油圧排除により、その分、軽量化が果たせたとばかりに電気ケーブルを大量に備えた787は、整備性の向上だけでなく各部の寿命が大幅に長くなることにも繋がった。


 最終的に787は持ち前の特性で着陸できる可能性が極めて高いだろう。

 これこそがLCC各社が拒否して頓挫したボーイングY2の完成系である。


 本当はこれほどのものを作れるにも関わらず、これほどのものを評価してボーイングに生産することを依頼したのは日本の航空機メーカーであった。


 私は運行会社やパイロットが悪いとばかりにやや強い口調で語るボーイングの姿はどうなのかと思う部分も多々ある。


 ただ一方でボーイングはそれだけの機体も同時に生産しているという事も考えれば、運行会社側の姿勢にも問題があるとする意見にもそれなりに正当性があると考える。


 そして操縦の癖が従来の737に違うという事に戸惑うパイロットに関しても、もっと訓練を積んでから運行に従事させるとかいろいろあっただろうとも思っている。


 結論から言えば現状で777と787以外乗りたくない筆者の考えが今回の事故でより伝わってくれることを望むと同時に、冗談抜きで古すぎる胴体設計の航空機の製造を禁止する条約を作ってほしい。


 きっと筆者の話を聞いたら737の大半のパーツの生産を行っている中国は凍りつくことであろうが、付け焼刃的航空機はもうやめようよ。


 長くなってしまったので次回を最終話とするが、最終話ではエアバス320と痛みを伴う経営に一石を投じたエアバス流の航空機製造術について語りたいと思う。

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