─因縁─
それから色々気持ちや情報を整理して、5分程経ったろうか。
未だにサイガと盗賊狼はお互いに睨み合っている。
若干昨日と同じことになりそうな雰囲気だ。さて…どうしたものか…
「確カニ狙ッタ我々モ悪カッタカモシレナイ。ダガスライムハ五千年前ニ起キタ前回ノ世界調律ノ再変化ニヨッテ陸上怪物系統ノ食物連鎖ノ最下層ニ落チタ。狙ウノハ当然デアリ、ソレハ我等ト剣歯虎トデ同ジデアロウ。ナノニ何故共ニ行動スル?少ナクトモ数年前ノオ前ノアノ姿カラハ──」
「──黙れよ!」
聞いたこともないような声で怒るサイガ。
盗賊狼の言うこと等に気になる単語は幾つかあったが──
「どうして昔の話を出すんだよ!」
──今はそれどころじゃ無いようだな…
「お前達はいつもいつもそうだ!オーモンの街の時も、始皇帝の里の時も!いきなり襲いかかって来る!その上負けたら示談に持ち込もうとするじゃないか!昔話なんかして、気をそらさせて…一体お前らは何人犠牲にすれば気が済むんだ…!」
昔に何かあったのだろう。盗賊狼はそんなに悪い存在だったのだろうか…
何か原因があるんじゃないのか…?
「ヤハリナ…一ツ言ッテオクガ、我々ハオマエガ挙ゲタ二ヶ所ノドチラモ襲撃シテイナイ。オマエハ勘違イをシテイル。イカニモ我等ハ盗賊狼ダ。ダガ、剣歯虎ガイル所ハ愚カ、食料ヲ得ル為ノ狩猟以外デ他種族ヲ襲ッタコトハ1度モナイ。オーモンノ街モ、始皇帝ノ里モ、襲ッタノハ後先ヲ何モ考エテイナイ若僧ドモダ。同種族トシテ謝罪スル。本当ニスマナカッタ。謝ッテモ許サレル行為デハ無イコトハワカッテイル。本来ナラバスグニデモ止メル所ナノダガ、老イタ我々ニハアイツラニ歯ガ立タナイ。襲ッテオイテコンナコトヲ頼ムコトガ無礼ダトイウコトハ重々承知ダ。頼ム。ドウカ、ドウカアノ阿呆達ヲ止メテハクレナイダロウカ…」
予想外の返しに怒っていたサイガも言葉に詰まっている。
そもそも、年取ってたのか…?
戦ってる時は年取ってるとは思えないスピードだったのに…
だとしたら通常時の盗賊狼はどんだけ速いんだ…?
というか、もし年老いてたのだとしたらとても悪いことをしたな…
意図せずに俺は年老いたおじいさんの片方を幻の世界に送り、もう片方も計55発の粘波で憂さ晴らしした不届き者となってしまったようだ。まんまと嵌められたぜ…
あとさっきから粘波で仕留めた方の盗賊狼しか喋ってねぇな。ご年配の方を幻送りにするのはやり過ぎだったかな…
…今更配慮しても遅いか。
疑問や後悔は増えるばかりだが、一番気になっていることを聞いた。
「1つ聞いてもいいか?」
「ナンダ?」
「お前のアビリティを教えてくれ。」
合言葉だ。仕組みを知る者だけが知る合言葉。
あんなに会話出来ていたのだし、エキスパートのはず。
幻送りにした方の盗賊狼も念話で話していたし、恐らくそちらもエキスパートなんだろう。
片言だったってのも引っ掛かる所ではあるが、恐らく何か理由があるんだろう。
「アビリティ…?何ノ話ヲシテイル…?」
「いや、えっ?」
しかし、盗賊狼達はエキスパートの合言葉を知らなかった。
それに驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。
「あー、スイ。まだ教えてなかったけど、盗賊狼はエキスパートじゃないよ。」
「ど、どういうことなんだ…?」
それと、朝からずっと何かを忘れている気がするんだよな…
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─あー…スイさん絶対昨日の約束忘れてると思います…─
あれ?約束なんかあったっけ?
─い、いえ、何でも無いです…─
この後ラプラスが3日程めちゃくちゃ強い人に目をつけられてたというのはまた別の話である。