─スライムの初陣─
「もう朝…?」
木陰から日が差して、それで俺は目覚めた。
「昨日は本当にさんざんだったな…」
「Zzz...」
さんざんだった元凶は未だぐっすりだ。
そうため息をついたのも束の間、俺は周りの空気がいつもより違うのを感じる。スライムは嗅覚がいいらしい。
(獣臭いな…)
目を閉じて音に集中する。すると初めてこの世界に生成された日と同じ物を感じた。仕組みを知る者ではないスライム達のあの会話と同じ感覚だ。
念話って呼ぶのが正しいのだろうか?わからない今は念話と呼ぶことにしよう。
(オイ、聞コエルカ?)
(聞コエルゾ。獲物ガイタノカ?)
(アァ、スライムガイタ。大キサモ充分ダ。)
ほうほう、獲物を探しているのか。それでスライムを見つけたと。
……スライム?
あれ、この辺にスライムっていたっけ…?
……見渡してもいないよな…?…てことは…俺?
え、ヤバくね…?
(イタノカ。ヨクヤッタ。デハ食スカ。)
(御意。参ルゾ。)
やべぇ、こっちに来る…!
「サ、サイガ!く、来る!起きろ!」
「Zzz...」
ダメだ…サイガの野郎ぐっすりだ…
「何か戦える策を考えねぇと…!サイガがいるから逃げる訳にもいかねぇし…でもまともに戦いに使える技なんて何も…」
そう呟きながらステータスを開くと、そこには俺の知らない新しいスキルがあった。
|ステータス|
Lv50
HP319/319 SP900/900 攻撃10 防御40 俊敏80 魔攻90 魔防40
|スキル|
1―粘波: 粘質の波動を放つ。身動きが取れなくなり、相手の行動を封じる。ダメージも与える。
消費SP20
2―夢幻粘道: 対象に幻を見せて、同じ道を巡らせる。対象がスキルに気づけば解ける。粘質によって身動きが取れなくする効果があり、10巡もすれば、補食可能状態にまで身動きが取れなくなる。
消費SP700
「…何故に?一回も戦闘してないのにレベル上がってるし、やっぱり無駄にSP多いし、新しく覚えたスキルはすげぇSP使うし…」
何でこんなに急成長したんだ…?
「まぁ理由はわからねぇけど、強くなったんだ、対処できるかもしれねぇ!やるか、この世界で初めての戦いをよ!」
念話を使ってた奴らの姿が見えてきた。
見た感じ狼だ。念話で聞こえた通り2人いるな。片方は粘波で、もう片方は夢幻粘道で対処しよう。
(ヤルゾ。)
(ソンナ意気込ムナヨ。相手ハ只ノスライムダ。)
(ソレモソウダナ。マァ一応ダガ、二手ニ散ルゾ。)
二手に別れた。俺としては好都合だな。1匹ずつ対処できるし、こいつにも気付かれにくいだろうし。
こちらも動くか。
「…夢幻粘道!」
左側に移動した方を幻の世界に送ってやった。
残り1匹だ。
「アイツノ気配ガ、消エタ?アイツハ何ヲシテイルノダカ…コウナレバ俺一人デモ…」
予想通りだ。一人いなくなると焦ってこっちに向かって来ると思った。
足元になど見向きもせずに。
「ナ、ナンダコレハァ!クソッ、取レナイ!」
「あぶねーあぶねー…良くも狙ってくれたな…!粘波!」
すかさず粘波で動きを封じる。猟奇的かって?まぁそう見えるかもな。昨日のラプラスさんとサイガの一件と、サイガが全く起きないという怒り込みでこれだから俺的にはしょうがないと思ってる。狙ったこいつもこいつだろ。
「ナンダコノ波動ハァ!ウゴケナイ!ソシテ微妙ニイタイ!」
微妙にという単語に反応して粘波を増量する俺。
とっくにSPが尽きるはずなんだが、レベルアップしてたので追加で45発。御愁傷様です(やったの俺だけど)。
「マ、マボロシカッ!ナ、ウゴケナイ!」
「オマエモ捕マッタノカ…全ク…」
もう一人の方も無事捕まえれたようだ。
俺の勝ちだ。
「ふあーあ。おはようスイって盗賊狼!?まさかスイのことを襲ったのか!」
「ケ、剣歯虎!?ナゼスライム等ト剣歯虎ガ共ニ行動ヲ成シテイル!食ウ食ワレルノ関係デアルトイウノニ!」
「え、何この険悪ムード…」
また俺入る余地無いパターンですか…?
聞きたいことは色々あったが事のあらましをサイガに教えた。
「またかよ!全く…お前達も懲りない奴らだね…」
「え、知り合い…?」