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全学校生徒がカードゲームになって俺のランクが最高のSSだったのに……

作者: ニアル

 ある日、生徒会長が朝礼で叫んだ。


「これより、この学校をカードゲームの舞台とする! 優勝者は賞金300万円だ!」


 その言葉とともに、ざっと配布されたのはスマートフォンだ。よく見るとちょっと古い機種だけど、十分使えそうだ。

 生徒会長の説明によれば、ここに生徒手帳をかざすと、自動的にクラスと名前、レア度が決定されて、スマホの中にひとつだけインストールされているゲームとリンクするらしい。おもしろそうだ。優勝の300万円はとても魅力的だし、やらない理由がない。

 数日前から生徒手帳を用意しろと言われていたので、みんな持ってるはずだ。俺も胸ポケットに入れてある。それをスマホのカメラにかざすと、ピっと高い音がなって登録が完了したと表示された。


 ゲームルールはこうだ。

 生徒はそれぞれ自分のカードとフレンドのカードから二枚を選択して使うことが出来る。フレンドだけで二枚使うことも可能だ。

 フレンドのカードは、フレンド利用券という回数を消費してフレンド登録することが出来る。これは3回分だ。

 カードには予めカードの能力が攻撃、防御、特殊効果に分けて記入されており、自分のカードとフレンドのカードの能力を合計して、強いものが勝利することが出来る。

 なお、地形効果があるそうで、教室や廊下、図書館からトイレまで、あらゆる場所が特殊地形として登録されているそうだ。

 自分に有利な土地で勝負を挑む必要があるが、ひとつの場所の土地効果は最大10回までしか使用できないため、その回数を終えたら地形効果は無になる。

 カードにはレア度に応じて特殊効果が在るが、レア度が高ければ絶対に勝てるかといえばそういうわけでもないそうだ。カードには相性があるため、いくら高レアのカードを使っても相性が悪ければ負けることもある。

 ゲームの開催期間は今日の18時まで。その時点で一番勝利ポイントの高い人が優勝者になる。


 フレンドの人数や地形も考えて勝負しなければならない。

 みんなが静かに興奮しているのがわかった。

 会長がぱっと手を上げた。


「尚、このゲームで全敗した者、参加しなかったものは私直々に一週間の特別指導だ。朝から晩までみっちり勉強漬けにしてやるから覚悟しておけ!」


 その瞬間、地面に何かを叩きつける音がいくつも響いた。見れば恍惚とした笑みを浮かべる男子生徒がいる。生徒会長は頭が良くて美人で有名だ。そんな会長と一週間、朝から晩までみっちり勉強。彼らにとってはこの上ないご褒美なのあろう。

 その気持は痛いほど分かる。俺もすっごい悩んだけど、ここは300万円ゲットできる可能性にかけたい。


「即断で破壊するとは潔い者がいるな……では、ゲーム開始だ!」



 わっと、皆が騒いだ。



 何をするにも、まずは自分のカードの能力を確認しよう。

 アプリの自分のカードを見てみる。

 ランクは……SS! 最高レアだって! やった! 300万円も夢じゃないかも知れない!

 俺は興奮しながら、震える指でカードの能力詳細をタップする。


御堂みどう 隆史たかし SSランク』

『攻撃力300・防御力300』


 300ってのは高いのか? 耳を澄ませてみると、そこかしこから100とか、180とかの数字が聞こえてくる。おおお! 高い、高いぞ!!

 良し、素のステータスが高いのは素直に喜ばしいことだ!

 次は特殊効果だ。


『特殊効果・むっつりスケベ(神)・女子生徒への攻撃をプラス1000』

『デメリット・男子生徒と戦闘すると、全ステータスが200低下する』


 ……は?

 なにか、目がおかしかった。

 俺はいっかい目の間を指で揉むようにマッサージをして、もう一度見た。


『特殊効果・むっつりスケベ(神)・女性への攻撃をプラス1000』

『デメリット・男性と戦闘すると、全ステータスが200低下する』


 見間違いじゃ、ない、ようだ……。

 ……なんだろう、この名前。全然、喜べない。

 いや、強いんだけどさ。デメリットあるけど、強いんだよ……、けど特殊効果の、名前……。いや、俺むっつりじゃないし……全然、オープンだし。なんならちょっと露出入ってる……いや、それはないんだけど……。

 タイミングよく、生徒会長の声が響いた。


「ちなみに、諸君のカードにある特殊効果は、諸君らが先日行った心理テストの結果から判明したものである。例えば特殊効果『リア充』の者は、リア充レベルの低いものは人、リア充レベルの高いものは神と表示されるだろう。4段階あるレベルによって、効果の数値が変化することを覚えておきたまえ」


 すると俺は、心理テストの結果、最高レベルのむっつりスケベということが判明したってわけか。

 ちょっと目頭が熱くなった。泣いてない。これはなにかの間違いだ。

 泣いてなんかない。

 ちなみに、レベルは低いものから人、地、天、神の順らしい。ああそうかい。


 俺が放心している間に、そこかしこでざわめきが生まれた。


「俺はAランクだ! 同ランク以上のやつは手ぇ上げろ! フレンドを組もう!」

「私はBランクだけど特殊効果が凄いわ!」

「僕も特殊効果が――」


 誰かが叫んだのを皮切りに、全校生徒が集まる体育館は騒乱の渦に巻き込まれた。けが人が出そうな勢いだ。巻き込まれたら大変だ。

 俺は壁際に避難した。

 見れば、同じことを思ったのか生徒の何人かが人混みから抜け出している。

 あの中でもしスマホを落としたりしたら、誰かに踏まれて壊れてしまうかも知れない。そうすれば強制でゲームオーバーだ。


 さて……どうしようか。

 俺が悩んでいると、人混みの中から小柄な女子生徒が逃げ出してきた。その顔を見て、反射的に俺は声を掛ける。幼馴染の西守優花だ。優花は俺の声に気づき、こちらへ歩いてきた。


「あ、たかちゃん」

「大丈夫か、西守」

「うん、平気。それにしても、すごいことになっちゃったねぇ」

「ホントにな。生徒会長の考えることは相変わらず予想がつかねぇよ」


 俺は壇上で生徒たちを見下ろしている生徒会長に視線を下げた。その背後には、開幕放棄をしたのだろう男子生徒がひれ伏している。異様な光景だが、生徒会長は背後を気にすることもなく、お祭り騒ぎの体育館を楽しそうに眺めていた。

 ふいに、一瞬だけ視線があったが、すぐに逸らされる。


「あ。ねぇ、たかちゃん、私とフレンドにならない?」

「え……?」

「私、こういうのよくわからなくて、弱いかも知れないけど……」

「……」


 むっつりスケベ(神)よりはましだろうよ。


 とはいえ、ここでフレンド登録を承諾すれば、俺は幼馴染にむっつりスケベ(神)がバレてしまう。いや、絶対これ何かの間違いなんだけどさ。それは避けなければいけない。

 俺は心を鬼にして、その申し出を断る事にした。


「すまん。フレンドには、なれない……」

「んー、そっかぁ……」


 しゅん、と俯く――西守の胸元に僅かな隙間ができていた。身長差で見下ろす格好になっている。俺の視線はそこに高速かつ全自動で固定されたがそれは西守を心配してのことだ。まったく、西守はガードが甘い。これはいつか叱ってやるべきだろう。制服のブレザーの下に着ているのは萌黄色のキャミソールだろうか。ブラのヒモらしきモノもチラリと確認できる。白か。素晴らしいな。レース生地は素晴らしいが西守には少々早いのではないか? けしからんな。


「たかちゃん?」

「西守、そのたかちゃんってのは、できれば学校では止してくれ、あまりほかの人に聞かれたくない」

「そう? いいと思うんだけどなぁ」


 ちょっと残念そうな西守から視線を外し、俺はさてどうするかと頭を悩ませた。

 ふいに、ゲーム画面の隅の表示を見つける。


『地形効果(人)・フレンド人数に応じて防御力プラス30』


 なるほど。こういう内容か。こうなると、ここにはフレンドがいない俺たちはいないほうが良いかも知れない。


「西守、俺は別の場所に移動するが……お前はどうする?」

「あ、なら私も一緒にいくよ」

「わかった」


 まだほとんどの生徒は体育館にいるのだろう。俺はとりあえず、教室に戻ることにした。自分たちのクラスにはまだ誰も着ていない。

 ふと地形効果を見てみる。


『地形効果(人)・クラスメイトの攻撃、防御力をプラス50』


 なるほど。試しに廊下に出てみると、表示はすぐに切り替わった。


『地形効果(人)・女性の防御力マイナス30、男性の攻撃力マイナス30』


 デメリットの地形効果もあるのか。気を付けねばいけないな。地形効果にも人や神といったレベルが存在しているのだろう。ほかに何があるのか調べたいところだが……、まぁ、ひとまずここに居るのが良いだろう。


「ところで、西守」

「な、なにかな?」


 西守はきょろきょろと落ち着き無くあたりを見回していたが、呼べば隣にきた。

 ただの教室だというのに、なぜ見回しているのか全くわからないが、とりあえずの疑問から片付けていこう。


「それで、西守も300万円狙いなのか?」

「違うよ。私はこういうの苦手だから。でも、一週間の特別指導は嫌だなって……」

「そりゃそうだよな」


 あれを喜ぶのは基本的に男子だ。一応、生徒会長に心酔している何人かの生徒会の女子も背後にいた気がするけど、あれは例外だろう。

 たしか、生徒会長による強制特別指導の条件は……「全敗」「不参加」だったな。ってことは、少なくとも一回は勝利しなければいけないわけだ。


「すまんな、西守……俺の特殊効果だと、おそらく西守に負けてやることは不可能なんだ」

「そっかぁ……ちょっと残念だなぁ」


 西守が、少しだけ気落ちしたように見えた。


「ちなみに……西守の特殊効果って何か、訊いてもいいか?」

「うん、いいよ。……はい」


 そっと、スマホのゲーム画面が俺に見えるように差し出された。特殊効果どころか全部見えてしまうが、まぁ、見せてくれるなら見させてもらおう。


西守にしもり 優花ゆうか Aランク』

『攻撃力140・防御力160』

『特殊効果・マイペース(天)・相手の地形効果を無効化し、自身の地形効果の不利を打ち消す』

『デメリット・特殊効果の使用回数残り20回』


 うーん。結構変わった特殊効果だな……。いまのところ地形効果があんまりぱっとしないから、使えるのか使えないのか、少々判断が難しい能力だが、デメリットらしいデメリットが存在しないからに、使い勝手は良さそうだ。

 でも、変わった特殊効果であることは間違いないだろう。デメリットを打ち消せるなら、体育館でも不利にはならなそうだ。

 とはいえ、このゲームは二枚のカードで勝負する。一枚だけの西守には、いま勝負したら勝つのは難しいだろう。俺は……女子相手なら負ける気がしない。逆に、男子相手だと勝つのは難しいだろう。

 しかし女子相手に勝負して、相手に特殊効果の内容がバレてしまえば俺は笑いものだ。

 つまりどっちの勝負も受ける訳にはいかないということだ。

 なんて地雷……くそ、やっぱり泣きそうだ。せっかくのSSランクも、日の目を見ることもなく終わりそうだ。


「あ、たかちゃんのカードも見せてよ」

「そ……それはできない」

「えー、ケチー」

「……」


 見せたらお終いだ。

 ちらり、と時計を見る。まだ昼前だ。 俺はとりあえず、することがある。


「トイレに行ってくる」

「ほーい」


 体育館にいる間から、実はちょっとだけトイレに行きたかったんだ。

 いろいろあって忘れかけていたけど、尿意が強くなってきた。

 俺は早足になりつつ、トイレに向かう。

 手早く用を足していると、背後に人の気配を感じた。


「……くくく。勝負!」

「な、なに?! 誰か知らんが、マナーというものを知らんのか!」

「俺の特殊効果に関わっている故に。御免!」


 勝負は互いの同意がなくても出来るのか――いや、すばやく片手でスマホを操作すると、画面に拒否の文字が出ていた。ただし、よく見るとその下に拒否すると敗北扱いになり、通常の半分のポイント減点がされると書いてあった。

 くそ……しかし、相手は男。このまま勝負しても敗北は濃厚だ……!

 ちらり、と地形効果にも目を走らせる。


『地形効果(天)・性別反転』


 おっしゃー!! 勝ったぁ!


 俺はさっと勝負開始をタップする。すると不思議なエフェクトが出て、画面内でカードがぶつかりあう様子が描かれた。


『攻撃側の特殊効果発動! 相手の攻撃力と防御力を150ダウン!』という表示とともに、俺のカードの防御力が300→150へダウンした。攻撃力も150まで下がる。


 おお! 特殊効果の名称は表示されないのか!


『防御側の特殊効果発動! 攻撃力を1000アップ!』


「な、ご、1000だと?! 俺の『不意打ち(天)』能力では歯が立たない! ばかな、こ、こんなのバランスブレイク過ぎるだろうっ!」

「ふふふ、相手が悪かったな……」


 俺の攻撃力が1150になり、背後の襲撃者の防御力分だけマイナスされた。結果は、990。圧倒的な攻撃力で相手のカードを破壊してしまった。


 圧勝だ。あまりにも圧勝だった。しかし、この胸に残る悲しみはなんだろう。

 ……俺はようやく収まってきた勢いを実感していた。けっこういっぱい出た。


「す、凄まじい特殊効果だ……ばかな……俺は、夢を見ているのか……」


 敗北した背後の誰かが、ふらふらと個室に消えていく。あそこで獲物を狙っていたのか……。

 相手の能力は不意打ちだと漏らしていたな。おそらく、それなりに面倒なしばりがあるんだろう。作業中に勝負を申し込む、とかそんなカンジか?

 攻撃防御マイナス150は、かなり強い能力だと思っていいだろう。だが、相手と地形が悪かったな……。

 それに、早々に陣取ったのかフレンドカードを持っていないのもこいつの敗因だ。

 ふ。男子に勝負を挑まれそうになったらトイレに逃げ込もう。

 俺、勝てるわ……。

 優勝一直線だぜ!




 俺はトイレを利用して、順調に勝利を重ねていった。

 女子生徒相手にはトイレから出て、廊下で戦う。男子生徒相手には、一歩トイレに入って、トイレで戦う。

 地形効果は10回までしかできないため、この方法で男子を撃退するのは10回までだが、みんな圧倒的な俺の強さに恐れをなして、早々に勝負を申し込む者がいなくなった。

 俺は女子に積極的に勝負を仕掛け、地形回数を減らさずに勝利を重ねる。


「つ、つよい、強すぎるわ、御堂隆史……!」

「ふふふ……すまんな。強者は強者として生まれ落ちる。これは世界の真理なのだよ」


 ノリよく答えてみたが、背中には嫌な汗をかいていた。

 俺の特殊効果は「むっつりスケベ(神)」故に。本来自慢など出来るはずもない。あまりにも無双しすぎて、早くもバレたら学校生活に影響を与えそうな勢いだ。ちなみに、何人もの人にフレンド申込みをされたが、俺は全て断っていた。

 そうすると、俺の特殊効果がソロで発動すると考えたのか、しばらくしてフレンドを諦めるようになったのは幸運だった。


 俺は快勝を重ね、すぐに勝利ポイント上位に食い込んでいた。思ったよりも女子の勝負が多かったこともでかい。地形効果の残りは3回。

 ほかにも上位者はいるが、神レベルの特殊効果持ちはどうやらいないようだ。

 いける。このまま300万も夢じゃない。

 300万貰ったら何をしよう。そうだ、まずはネットであんなものやこんなものを注文して……ムフフ。


「ずいぶんと調子に乗っているようだな、御堂!」

「む、そういうお前は……俺と同じく上位の田中……!」


 さりげなく、俺は一歩下がってトイレの中に入る。地形効果をちらっと確認し、性別反転が発動していることを確認した。

 田中は堂々と俺の前に立ち、ニヤリと笑う。


「悪いが、御堂。俺はお前を越えさせてもらう。これまで無敗の、この俺がな」

「……何人も俺の前で散っていった。田中、お前もそのひとりよ」

「吐かせっ! いざ、勝負!」

「応ッ!」


 単純に、俺の攻撃、防御を合わせた数値は1600だ。この数値を越えられない限り、たとえ相手が二枚カードでも負けることはない!


「俺の特殊効果を発動! この田中様を舐めるなよ!」


『攻撃側の特殊効果発動! 相手の攻撃上昇を半分にする!』


「な、なに?!」

「ふふふ、ばかめ、御堂! 調子に乗った貴様の負けだ! さらにフレンドの特殊効果を発動!」


『攻撃側、二枚目の特殊効果を発動! 相手の防御力をマイナス200!』

『攻撃側、最終攻撃540・最終防御――』



 つ、強い!

 こっちのステータスを合計700も下げてきた、だと……!?

 こっちの残りは……900。

 それでも普通なら十分な強さだ。しかし、相手のこの自信……これは!!


『――最終防御、400!』


 合計940だと!! なんて高ステータス!

 おそらく、相手はフレンドを含めてランクはS以上だ! 畜生!

 スマホの画面には、初めて見る「YOU LOSE」の文字。


「ば、ばかな……!」

「ふふふ……貴様を倒すため、最高のフレンドを探して遅くなったが……所詮御堂、お前はひとり。ソロでしか発揮できない特殊効果では、この主人公ポジの田中様には敵わないのさ……300万はこの俺のもの。さらばだ」


 田中はモブ顔の癖にやけに清々しい笑みを浮かべて、立ち去っていった。

 くそ……くそっ!

 俺の特殊効果が……むっつりスケベ(神)なんて名前でさえなければ……!


 悔しい、悔しすぎる。

 俺は廊下の床に崩れ落ち――誰かの足が視界に入った。

 この足首の細さ。足の大きさ。これは……優花だ。顔を上げるまでもなく誰かを判別した俺の頭の上に、ポン、と小さな手のひらが乗った。


「頑張ったけど、負けちゃったね」

「ああ……」

「300万円、残念だったね」

「……ああ……」


 優花は俺の前でしゃがみ、俺と視線を合わせてきた。


「負けた男の顔なんて、見るもんじゃないぜ……」


 俺は視線を逸らす――先に偶然にもあったのはひらひらとスカートの端がギリギリで隠す優花のスカートの中だ。膝を立てるように座っているから、かなり際どい格好だ。俺の視点からだとギリギリ、あとほんの僅かなところでパンツが、みえ、見えない。風よ、噴き上がれ。奇跡よ起これ。頼む。……頼む!


 俺が純粋な知的好奇心のもとに祈りを捧げていると、優花が俺の顔をもう一度覗き込んできた。


「ねぇ、さっきの勝負、2人だったら負けなかった?」

「……そうだな。フレンドカードがあれば……勝てただろう」

「ソロじゃなくてもいいの?」

「……ああ。俺のカードの効果は、ソロじゃなくても発揮できる」


 ざわり、と俺の言葉を聞いていた周囲がざわつく。いままでソロだからこその攻撃力上昇だと思われていたのだから、その衝撃は凄まじいだろう。


「俺は……SSランクだ」


 ざわり、ともう一度周囲に衝撃が走る。ほかにSSの話は聞いていない。

 どうやら、SSランクは校内に俺一人のようだ。

 最高ランクのSS。そして圧倒的な特殊効果。


「まさか……あえて、フレンドを作らない縛りプレイだったのか……?」


 そんな推測が立つのはある意味、当然の流れだろう。

 俺はまるで肯定するかのように小さく微笑んだ。


「まぁ……負けちまったんだけどな」


 先ほどとは別種の、感心したような空気が広がる。

 嘘はついてない。

 むっつりスケベ(神)を隠すためだなんて、きっと誰も思わないだろう。っていうか、俺自信がもうそういう流れでいいじゃん、と思っていたりする。


「だが、これでいいんだ。田中とフレンドのコンビネーションは強かった。それで、いいのさ」

「御堂……お前……」


 フ。いいぞ。すっごく良いぞ。

 なんでか知らんが俺がフェアプレイの精神を持つ優良男子として認知され始めている気がする。

 実際そんなこと全然ないのにな。


「さて、それじゃ、俺はもう引っ込むとしますか――」

「た、大変だっ!」


 俺がさり気なく有耶無耶にしようとしていたところに、ある男子生徒が息を切らせて走り込んできた。


「ま、負けた!」


 その尋常じゃない様子に、周囲の空気がひりつく。

 俺も、その必死な様子につい、声をかけてしまった。


「落ち着け。誰が負けたんだ?」

「た、田中だ! 田中が負けたんだ!!」


 ざわり、とどよめきが走った。あの、田中が負けだ……?

 フレンドまでSランクで揃えたはずの、田中が負けただと?!


「い、一体誰に?!」


 俺はその男子生徒の方を掴んで揺さぶった。

 男子生徒は顔面蒼白で、いまにも倒れそうだ。


「相手は……生徒会長ッッッッ!」

「なん……だと……?!」

「し、しかも……」

「しかも、どうした? 答えろ!」

「会長は……気が変わったと笑って……会長に誰も勝てなったら、全生徒の体操服を金色に塗り替えると言い出したんだ……」


 俺はその衝撃の内容に絶句する。周囲にも混乱が広がっていた。


「な、なんて恐ろしいことを!」「会長、狂ったか!」「金色の体操服なんて……ボランティア活動で着るのは体操服なのよ?!」「俺たち、来週には課外活動が在る……ど、どうしたら良いんだ……」


 ずん、と重い空気の中、男子生徒の視線が俺を捉えた。


「なぁ、頼む……もう、お前しかいないんだ、御堂」

「俺……?」

「聞こえてたんだ。御堂。フレンドがいれば……田中にも勝てたんだろう? 頼む。田中に勝てるやつはほかの上位にもいない……あいつは本当に無敵だったんだ。

頼む。金色の体操服から俺たちを救うことができるのは……御堂、オマエだけなんだ……!」


 頼む、と小さくつぶやき、男子生徒は気を失った。

 おそらく、それほどまでのプレッシャーを感じていたのだろう。生徒会長の武威に曝されながらも、彼はここまで耐えて、俺達にその情報を伝えてくれたのだ。


「御堂……」「御堂くん」「御堂……!」

「俺でよければ、フレンドにさせてくれ!」


 ひとりが、意を決したようにスマホの画面を突き出した。

 Aランク。効果の名前は『厨ニの申し子(地)』とあった。

 ……ッチ。まだましじゃねーか。

 つられたように、次々とスマホを突き出される。

 どの特殊効果も、甲乙付けがたい強力な効果だ。力になれると信じて名乗りを上げてくれているのだ、弱いはずがない。

『万能動画職人(天)』『女王気質(天)』『加虐体質(地)』『悪戯妖精の親友(地)』『リアクション芸人(人)』『成金趣味(地)』『重症ゲーマー(神)』ほかにも、多数。


「……お前ら……(なんで俺より酷いヤツいねぇんだ)」

「御堂、頼む。どうか、会長を……金色体操服を、止めてくれ」


 俺は、その中から一つだけ、スマホを突き出した手を握った。

 そいつは驚いたような顔をしていたが、すぐにうなずく。


「みんな……行ってくる」

「ば、場所は分かるのか?」

「はは……生徒会長がいるって言ったら、生徒会室しかねぇだろ……!」


 俺とソイツは、2人で生徒会室に向かった。

 扉の前の廊下には、無残にも倒れ伏した田中がいる。かろうじて胸が上下している。まだ、生きているようだ。


「……田中、お前の無念は俺が……」

「……」


 生徒会室の中に入ると、さっと立ち上がった生徒会メンバー。

 俺は身構えたが、どうやら勝負を挑まれるわけではなさそうだ。

 敵わないことを確信しているようだ。

 それは、彼らが俺に敵わないのか。

 それとも、俺が生徒会長に敵わないと思っているのか。


 この期に及んで、もはやどっちでも良かった。俺は生徒会室の更に奥――普段は倉庫として使われているはずの部屋への扉を開ける。

 そのには、生徒会長室、という札がご丁寧にも立て掛けられた、簡素な椅子と机が置いてあった。

 当然、そこにこちらに背を向けるようにして、その人物は居た。


「……生徒会長。聞きました……体操服のこと」

「素晴らしいアイディアだろう?」

「……なるほど。あなたは危険だ」


 生徒会長はこちらに振り返る――ばったんばったん、と椅子を少しづつ浮かせて跳ねるようにして――と、ニヒルな笑みを浮かべて机に肘をついた。


「止めてみるかね?」

「もちろん」

「出来るかな……キミに。見てみたまえ、ここの地形効果を」


 俺はその言葉に促され、スマホに目を向ける。

 そこには、驚愕の文字があった。


『地形効果(神)・生徒会長は勝利する』


 こんな……こんなの、勝負にすらならない――!!


「わかったかな? これが生徒会長の私と、一般生徒のキミとの明確な差だ。埋めようのない、格の違いなんだよ――御堂くん」


 俺は、震える足に力を入れた。

 それは……武者震いだ。

 こっちには。

 こっちには、俺のフレンドがいる。


「いくぞ、優花――」

「――うん、任せて!」




『特殊効果発動! 地形効果を無効化!』

「なにっ!」

『さらに特殊効果発動! 攻撃力を1000プラス!』

「ばかなぁ! そんなわけが!」

『故に、ダイレクトアタック!!!』

「きゃぁぁぁあああああ!」



 なんて、数秒で勝負は決まった。

 これは賭けだった。生徒会長が絡め手抜きで強かったのなら、負けていたかもしれない。しかし、なんとなくそういう流れだと、だいたい序盤に気付いていたのは正直なところだ。



 翌日。

 うっかり口を滑らせた優花が、俺の昨日の特殊効果がむっつりスケベ(神)であることを暴露してしまった。

 俺は恥ずか死んだ。

 わかってたさ。ッケ。


最後まで読んでしまったかた、すいません。思いつきです。お目汚し申し訳ないです。ほんとごめんなさい。

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