第61話 『リカード王国道中記:雑多な問答』
「……。ご夫人は、”魔術”が苦手……お嫌いなのでしょうか?」
「……!」
眉が自然と曲がる。
なんだその質問は、という驚きは無論として、なぜそんなことを聞くのか、という疑念も同時にあった。
卓上にて灯るロウソクの火が、かすかに揺れた……。
それに対し、ロプツェンさんも面食らったような反応になる予想は、さほど難しいものではなかった。
頬を掻き、胸の前で腕を交差させ、そして告げる一言も『オホホ……。まあまあ、なぜそんなことをおっしゃるのかしら』と予想通り…………
ではなかった。
「……。……その質問では、なんとも答えられないわね」
フゥ…………と、ロプツェンさんは、ため息のような吐息をもらす。
それから、ナディアさん――加えて俺の顔にもチラッと視線を送り、
「技術的には苦手ではないけれど、心情としては苦手意識が多少ある……というところかしら。まぁ、半分は当たっているわね。……理由を尋ねてもよろしいかしら」
食卓に両肘をつき、重ね合わせた手の甲の上にアゴを乗せるロプツェンさん。
わざわざ食事を中断させて、ナディアさんに向き合っていた。
細まった目元、怪しげにニヤリと笑う口元……。
揺れるロウソクの火に横顔を照らされていることも相まって、不気味な印象をより強く感じる。
……その一方で、爛々と輝き、あまねく光を吸い込もうという瞳の様子は、ナディアさんという人物に興味津々であると語っているようだった。目尻に刻まれるシワまでもが、ある種の”喜び”を訴えているようだった。
「ええ」と、ナディアさんは特にためらう素振りを見せなかった。
「料理は……本当にすばらしい。ロプツェンさん……あなたの手腕を疑うことは、もはや失礼に値するでしょう。これをあらかじめ断ったうえで聞いていただきたいのですが……――料理に魔術的な細工が一切なかった。これが理由の一つ目です」
「……っ!」
「……! え、そう……なの、か……?」
眉をピクリと動かし一驚するロプツェンさんに対し、俺はずいぶんと大袈裟な反応を返してしまう。両手で食器を持って、あちこちから覗き込んでしまう有り様だ。
ロプツェンさんは、そんな俺の反応に首をかしげ、おまけに怪訝そうな顔付きでこちらを見ていた。
……パッと食器から手を離し、ナディアさんの方を見ると。
薄っすらとした頬笑みを返してきた彼女は、再びロプツェンさんに向き直った。
「……異世界では、もうずいぶんと前から、日々の生活に”魔術”が浸透しています。生活の質や利便性を向上させることはもちろん、時には礼儀作法を守り、あるいは成り立たせるために用いられることがあります。……そう、例えば……――『客人をもてなす際に、料理の旨味を”魔術”で増幅させる』とか。しかし、わっちの舌はそれを感じなかった……。…………そうですよね?」
「…………」
「……? なにか?」
「ふふっ、いいえ」
ロプツェンさんは指を遊ばせた。
「面白いご考察だと思いまして。……それと、まだ何か話し足りていないようだと……」
「おっと、これは失敬。……。――”厠”です」
言って、ナディアさんは親指で背後の――窓の外を示した。便所用の小屋がある方向だ。
ロプツェンさんも俺も、つられてそちらへ注目した。
「最近のそれって、たぶん……ほとんどが水洗式だと思います。手の形にくり抜かれた木の”くぼみ”に手をはめて、水が出て……ってやつです。けれど、ここはそうじゃなかった。旧式の……穴がスポンって掘られてるやつでした。水洗式は、少量とはいえ個々人の『魔力』の発露を必要不可欠とします――」
「だから、私が”魔術”を嫌っていると……?」
「……。……根拠は不十分だと思っています、が。そこで違和感を覚えたのは、確かだったので。……それで、料理のコレときたものですから…………。ご自分の田畑も、所有されていませんよね?」
「あー……そうか、なるほど。ふふっ、本当に面白いお姉さんね。なんだかまるで、すべてを見透かされていそうな気になるわ……」
「し、失礼しました……。ただの興味本位です」
「いいのよ。私も意地が悪かったわ、ごめんなさい。……で、それに対する答えだけれど……さっきすでに言った通りよ。『技術的には苦手ではないけれど、心情としては苦手意識が多少ある』……だったかしら。それだけの情報で半分も当てるだなんて、すばらしい観察力と洞察力をお持ちのようね。これは素直な称賛だから、素直に受け取ってちょうだい」
「……ありがとうございます」
ふと、ナディアさんと目が合った。
そのザクロ色の輝きは、やはり普段の闊達な印象とはかけ離れ、夜の底に沈みそうなほどの沈着な印象を強くこちらに与えてくる……一方で、わずかに下がっている眉尻は、思わず笑みがこぼれそうになるぐらい分かりやすい意思表示をしていた。
だから俺も、肩の力がフッと抜けたのかもしれない……。
「ただ」
と、そんな俺とナディアさんの間に割って入るように、ロプツェンさんが言葉を続けた。
「野暮ったいかもしれないけれど、あえて一つだけ指摘をするなら…………『旧式の”厠”だから、”魔術”が嫌いであろう』というのは、いささか偏った物の見方をしているわね」
食卓から両肘を離したロプツェンさんは、今度もまた似たような格好で片肘を食卓につき、ニヤリとした口元も含め、その先のてのひらの上にアゴを乗せた。
ナディアさんも今一度ローブの裾を払い、居住まいを正す。
「……と、言いますと?」
「……。……用を足した後、横に据え置きしてある灰色がかった……粉末。穴に落とすように上からかけて、それから少量の水を垂らしてくれたかしら?」
「ええ。扉の注意書き通りに」
「ふむ……。――『帰化剤』、と言えば、あなたぐらいの人であればもう分かっちゃうかしら」
「……ッ!? え、いやっ、しかし…………たしかアレは――」
「――私は買える。中央で、その資格を持っている」
「……………………」
「きか、ざい…………?」
聞き慣れぬ言葉が出てきたことで、途端に置いてけぼりを食らう俺。
宇宙に放り出されたままではかなわないと、苦し紛れにしぼり出したものが”単語の復唱”だった……。俺の声に反応したナディアさんは「あっ、そうか……」といった感じで、申し訳なさそうな表情をした。
「『帰化剤』っていうのはね……」
ありがたいことにどうやら説明してくれるようで……ロプツェンさんの声に、俺とナディアさんは顔を戻す。
俺の方を向くロプツェンさんは、至極穏やかな表情をしていた。
「灰色を帯びている、白い砂みたいなものでね……不要になった物や廃棄する物の上にパララっとまぶして……そう、ちょうど料理によく使われている『ティーソル』とか『ガシュー』みたくね…………あと上から少量の水をかけると、どんな物でも自然に還元してくれるっていう便利品なの。どう? すごいでしょ~? ――ただ、入手が困難でね。あと、ちょっとばかし取り扱いが厄介なところがあったりするの……」
「へ、へぇ……。そうなんですね……」
説明をされても、いまいちピンとこなかった。
というのも、たいていの道具類であれば何でもそろっている『LIBERA』にいる俺でさえ、やはり聞き覚えのない代物だったからだ。
『LIBERA』の道具類を把握していない、というわけではない。さすがに端から端までというわけにはいかないが、店主であるフランカの手を煩わせることのない程度には、道具類の名前と用途を一致させて来客に説明することはできる。
仮にもそれができなければ、普段の業務がまともに成り立ってはいないだろうし、こうして”雑貨店店員”などという肩書きをぶら下げて外を歩いてはいないだろう。
とはいえ、『LIBERA』にはまだ、俺の把握しきれていない”端”がある……。
その『帰化剤』とやらが”端”にあるという可能性は、無きにしも非ずだ…………。
「――さてそんなことより。私はね……もう一つ、気になるの」
ツンとつららの先端のように鋭い声と、食卓を三回叩く指の音……。
それらのおかげで、俺の意識は現実に戻らざるを得なかった。
音の発生源はロプツェンさんにあった。
だが、ロプツェンさんは、俺の方を向いていなかった。
穏やか……よりは若干引き締まった口元で。
アゴを引き、下から見上げるようにして、ナディアさんに視線を投げていた。
「――――『ご夫人』、と言ったわね? あなた。……どうして私に夫がいると分かったのかしら」
「あ…………」
反射的に動いた手が、口元を押さえかけた。
俺も、本当にそうだと思ったからだ。
俺はこれまでナディアさんに、『ロプツェンさんは独り身の中年女性である』などと話したことは無論ないし、ましてや旦那さんがいる・いない、結婚している・していないなんてことは、すでに顔見知りである俺でさえ知らないことだ。
おまけに……。
ナディアさんとロプツェンさんは、これが初対面である…………。
「…………」
ナディアさんは――目を閉じていた。
その内側で何が起きているのか、それは当人にしか感じることのできないものだ。
……彼女が自分の世界から出てくるのに、体感的にほとんど時間はかからなかった。
「それについては、簡単なことです。――”席”です」
「…………せき? ……ふふっ、どういうことかしら」
「ここの……座席の数ですよ。独り身にしては四つに五つと、多すぎる……」
「……。……”椅子の愛好家”、だったりしたら?」
「ならば、わざわざ余所者をやすやすと座らせたりはしないでしょう。もしウチがあなたの立場なら、そうです。――加えて言うなら、食器も……全体的にどことなく使い込まれている感じがします」
「……。――」
「無論。”愛好家”という可能性は、極めて低いと思われます」
「……………………」
――ジジッ、と火が鳴いた。
見ると……食卓の真ん中に置いてあるロウソクが溶け切って、今にも火が皿の底に触れそうになっている。
…………ロプツェンさんは、静かに席を立った。
立つ直前に、洋盃に入っている飲み物に口をつける以外、何も口にしなかった。
その皿を手に取ったロプツェンさんは、おもむろに暖炉の方へと歩いて行った。
手前までたどり着くと……腰を少し屈め、ほとんど火の塊となっているロウソクを指で摘まみ、暖炉の中へ放り込む。
ボウッ! と、暖炉がまた活き活きと遊び始めた。
「……。どうしてかしらね……」
ポトリと……こぼれ落ちたのは、ロプツェンさんの声だった。
「ここ最近、面白い子たちに巡り合う機会が、多い気がするわ……。これも、豊穣の女神さまからの……何かしらのお告げなのかしら」
腰を上げ、踵を返すロプツェンさん。
手元から灯りを失ったロプツェンさんの表情は、こちらからは窺い知れなかった。
なぜか…………どうしてだろう……。
床を踏むロプツェンさんの足音が――意図的ではないのだろうが――一歩一歩、やけにゆっくりと聞こえる。
「…………」
ナディアさんの顔と眼は、その動きを追っていた。
そこに感情の類は乗っかっていないようだ。
……俺は、そんなナディアさんを横から見ていた。
ギシ……ギシ……と。
…………やはり、ナディアさんは何も言わない。
「……お、”面白い子”、というのは……?」
俺はたまらず声を発していた。
ちょうどロプツェンさんがこちらに背を向け、戸棚から新しいロウソクを取り出したときだった。
「最近のことよ。…………ええ、本当に――」
こちらを振り向くロプツェンさんの左手には、そのロウソクが握られており……。
ロウソクを斜め下へ軽く傾けると、握っている部分から先端にかけてなぞるようにして、手を滑らせた。
親指の爪あたりが”芯”をかすめ、斜め下へと流れた直後――ポッ、と。
そこに新たな灯りが生まれた。
となりで、かすかに息を呑む音がした。
ロプツェンさんは、皿と一体になった灯りを掲げるようにして見せ、
「思い出すことがこれくらい簡単なほど、最近のこと…………。あなたたちのような旅人が、ここを訪ねたの」
カッ……コンと、皿が食卓の真ん中に帰ってくる。
「……そういえば…………ふふっ。フフフ……。いま、思い出したわ。その子も、たしか妙なことを聞いてきたわね……。『”魔術”についてどう思っているのか』だったり、『”魔術”が怖くないのか』だったり……。まことに身勝手ながら”慈善事業”と呼ばせていただくけれど、私は”民泊”の真似事をして長い……。そんな中でも、あんな独特な雰囲気を持つ子は初めてだったわ…………。……。そう、ちょうど、その子も――――”ローブ”を着ていた……」
「――っ」
息を呑む音は今度は鮮やかに、はっきりとしたものだった。
……ナディアさんは、顔を真正面に向け、キュッと口元を引き結んでいた。食卓の上に置いてある二つの手も丸まり、クッと硬くなっている。
対してロプツェンさんは、相変わらず自分の速度で動いていた。
椅子に腰を落ち着かせると、片肘を食卓につき、その先のてのひらの上にアゴを乗せた。
下…………胸…………首…………目…………頭……。
ツー…………と、上下に動くロプツェンさんの目線は、俺から見るに、どうもナディアさんのそこら辺りに特に注がれているようだ。
その時――本当にその時になって気付いたのだが、俺のこめかみには汗があった。
大粒のそれが、頬にまで伝ってきた。それも今、気付いた。
フゥ……………………という吐息は、果たしてため息か。
ロプツェンさんは目を閉じ――開け。
ほとんど”ささやき”に近い声で、こう言った。
「”魔術師”……………………。……なるほど。あなたが警戒するのも、一理あるわね…………」
ふと、ロプツェンさんが俺に視線を投げてきた。
ギョッと身を引く反応に加えて、思わずギチギチに張り詰めた表情を投げ返してしまう俺……。
天敵を前にしたネコのような……てのひらを上にして握ったナイフのような……鋭いモノを向けてしまっている事実は、鏡を見ずとも、表情筋を通して痛いほど理解できた。が、どうすることもできないのもまた事実だった。
「…………」
ロプツェンさんは、そんなカチコチボーイに何かを言うわけではなかった。
というより、目的をそこに据えている風ではなさそうだった。
ロプツェンさんは……。
フッ、と聞こえそうな笑みをこぼし…………ニ~~ッコリ。口元を横へ引き延ばした。
それは、ロプツェンさんのいつもの表情で間違いなかった。
「…………そこまで聡明なのに。不思議なのは、どうして道のド真ん中であんなことになっていたのかしら……ってことね」
言って、ロプツェンさんはナディアさんと俺を交互に見やった。
穏やかな声音で耳を撫でられ――意識も目も口も、もう平常通りに動くという事実に気付いた。
また、気付かされたことがあった。
俺はロプツェンさんに、”ケガやら不調やらで身動きが取れない状況”の説明はしたが、”なぜ状況に至ったのか”の説明をしていなかったということだ。
俺は、柔らかく動く口元を二、三度ペロッとなめると、
「その……恥ずかしながら…………じ、実は、ですね……」
ここまで良くしてもらっている立場上、俺の胸中には申し訳なさも多分にあったため、話さないわけにはいかなかった。……さすがに、配達の商品に関するアレコレについては伏せさせていただいたが。
ということで……。
”俺たちはこれから配達作業のために『リカード王国』へと赴き、そのついでに、移動販売という形式で『LIBERA』の商品をいくつか売りさばく計画を立てている”――――と、旅の目的も交えた、現況に至るまでの経緯を大まかに説明したわけである。
ご静聴してくださっていたロプツェンさんは、「そう……ふーん……。なるほどね……」と、納得してくれたのか、首を縦に振り……。
そして、右手の人差し指をピンと立て、
「ここらの街道は、よく行商人の馬車が通っているわ。……もしかせずとも、あなたたちの行き先と同じ『リカード王国』へ向かうためのね。明日もまた、そうなるでしょう。……。これは老婆心、というか部外者なりのお節介…………だから止めはしないけれど……イトバさんの脚の具合と相談しながら、無理せず旅を続けることが賢明だわ。豊穣の女神さまのお眼鏡にかなって、誰かに拾ってもらうことがあるかもしれない。あそこで商売なんてしようとする行商人の階層を考えれば、馬を二頭以上連れてたりすることは何らおかしいことではないし……――あぁ、行商人は良い人たちばかりよ。なんだか最近はピリついている人も多いようだけれど……。……――さ! 夕食はいかがだったかしら? 食べ残しがあるならさっさと食べてしまって、今日は早く寝てしまいなさいな。”食事”と”睡眠”……”適度な胸のトキメキ”は、最も古く最も自然に根差した『回復魔術』…………。つまり、ぐっすり寝て身体を癒やすことは、”旅”をするうえでの基本事項ってわけね」
パン! と。
ロプツェンさんの両手から生じた乾いた音が、ぼうっと生温かい空気の膜を突き刺し、割った。会話が終わったのだ。
ロプツェンさんは椅子から腰を上げると、先ほどとは打って変わり――俺にはそう見えた――、今度はテキパキと空の食器類を片付け始め、
「――最後に一つ、いいですか」
ロプツェンさんが食器類を持ってこちらに背中を向け、立ち去ろうとしたときだった。
その足を止めたのは、ナディアさんだった。
「あら……? 何かしら」
ロプツェンさんは素直に立ち止まり、クルリと振り向いた。
声も、顔も……いつものロプツェンさんで待ってくれている。
また変なことを言うんじゃあないだろうな……と、背中の温度が徐々に下がっていく気がして仕方がなかった。
一方で、ナディアさんは挨拶でもするかのように、ごく自然に口を開き、
「結局のところ……ご夫人は、ご夫人なのでしょうか?」
ロプツェンさんは、ぱちくりと目をしばたたかせ……。
しかしすぐに細まり、
「…………さぁ……どっちでしょう……。”ヒミツ”、ということにしておくのも、悪くはないわね。――それに。あなたなら、もうどっちか分かっているのではなくて?」
「……………………」
「……。ホホホ、寝具を用意しておくわね」という言葉を残して、ロプツェンさんは姿を消した。
スッ……と、頭を下げるナディアさん。
一拍遅れて、俺も「あ、ありがとうございます……」と、ペコリと頭を下げる。
フゥー…………………………………………。
……………………。
なんだか、いろんな話が聞けたなぁ…………。
担いでいた荷物を下ろしたときのような脱力感を得ると同時に、ふと右脚の方に目線が移った。
ポン、と太ももに手を置いて軽くさする。
左側からグルッと頭を巡らせ――窓。
月明かりはないのか、窓の外は黒一色に塗りつぶされていた。
ロプツェンさんに拾われていなかったら今ごろ、深海の底に月が落っこちてしまったようなこの闇のなか、俺たちはどうなっていたのだろう……。どうしていたのだろう……。
「……っ」
ブルルッと寒気を覚える思考に支配されなかったのは、俺の存在そのものを大きく照らしてくれる”灯り”たちが背後にあったからだ。
実に大きく、どこか温もりも感じられそうな照明が……。
それから目線を戻し――
「…………」
チラッと、ナディアさんを見る。
最初に”違和感”としてとらえた時よりも、今し方よりも、さらに研ぎ澄まされているのか…………ナディアさんはいやに落ち着いた面持ちで、ロプツェンさんに言われた通り、食事の残りに手をつけていた。もうすぐ食べ終わりそうだ。
それを確認して、俺も急いで自分の食事に手をつける。ずいぶんと冷めてしまっていたが、味は問題なく美味しいままだった。
”ありがたい”という言葉が、改めて胸に染み込んだ。
…………。
ガタッと、ナディアさんが先に席を立ち、離れる。
スープのわずかな残りを最後に飲み干すと、俺もパン! と両手を合わせ――
「…………ゼィ~~………………………………」
……ん? 今なんか聞こえたか……?
……………………。
……気のせいか……?
まぁ、いいか。
「ごちそうさまでしたッ……!」
パンっ! という乾いた音が、暖炉の声に負けないぐらい部屋に響いた――。
夜は、さらに深くなっていく――――。
あと1~2話で道中記編は終わる予定です。




