第59話 『リカード王国道中記:神さまに見捨てられた午後』
ちょっと遅れてしまい、申し訳ありませんでした。。
「ところでイトバ君はさ――」
「のぉぅわっ!? な、なんスか急に……」
今度の”襲撃”は横合いからだった。ビビクゥっ! と驚き、思わず頓狂な声を上げてしまう。
しかしナディアさんは、俺の反応に対して特に気にしていないようだった。
「いや、これはさぁ……なんていうか、ホント個人的な興味でしかなくて……差し支えがなければ教えてほしいんだけどさ……――あっちでどんな商売をするつもりなんだい? と言うのも、走っていたときに、イトバ君が『配達だけじゃなくて、ついでに軽く商いもしていく』~……みたいなこと言ってたから、少しばかり気になったというか……」
「……っ。…………。……フフっ」
「? なに笑ってるんだい?」
「フっ……よくぞ、よくぞ聞いてくれましたナディアさん。フッフッフ……フハっ、フハハハっ……アハっ……!」
「……。申し訳ないけど、素直な感情を口にするね――気色が悪いよイトバ君」
「お気になさらず。いつもフランカに言われていることですので。それに――むき出しの果実というのは、一見するとひどく暴力的で、研ぎ澄まされたナイフのようで……けれど結局、偽りの”皮”を被っているよりはずっと良いものですから……って、ハハっ何言ってるんだろ俺。そしてなぜだか目の端から涙があふれ出て止まらないハハっ…………」
ゴホンゴホン! と、俺は咳払いを挟み気を取り直す。
「基本的には、『LIBERA』で売っている道具類とか……あとポルク村の食材を一部売りさばく予定でして……。まぁ、そこまでは普通なんですけど、”宣伝”にちょいと力を入れてみようかと思いましてですね……」
「……?」
俺は言葉を切り、身近に置いてあった手荷物を手繰り寄せると、ガサゴソと中身をまさぐり……
「コイツらを使ってねェッ――――!!」
ババァーン! と、そいつらの内の一つを取り出してみせた。
「テッテレ~! 『ポットテールのからくり木箱』!! 木箱の外側に付いている扉を任意の数たたけば、その数だけ一定時間、扉の内側から”魅惑の鳥”が出てきて、あらかじめ設定したセリフをしゃべってくれるという優れモノ……! セリフをしゃべる回数・セリフの内容・出てくる時機は自由自在! セリフの文字数は十文字前後! 設定した当人の声でしゃべるぞ!」
「おぉ……!」
続けて、間を置かずに二つ目を取り出す――。
「テッテレ~! 『ムキマキオマキの万能手袋』!! ただの手袋だと思っちゃあダメダメよ……!? 一度つければアラ不思議! どんな重い物でも楽々チンチ――おっと失礼、らくしょーに運べちゃうぞ! 子供や女性には嬉しい一品! もしかすると、手にしたその怪力で目の前の高い壁だってよじ登れちゃうかも……!? なんつって」
「豪快だね……!」
三つ目――
「テッテレ~! 『カラガラクーネーの妖しい常夜灯』!! 爬虫類もどきの何かが”灯”の丸い胴体を呑み込んでいるという、コワ~イ見た目は見た目だけ! きれいな御手手でていねいに、ナデナデすればポツポツと、火照る光はふんわり優しく、色とりどりに七変化! たちまちにして、あなたの体温・心根・人格までをもすっぽんぽん! 悪用厳禁ッ、気になるあのコをのぞいちゃえ……!」
「変態だね……!」
そして――
「テッテケテ~! 『ウィースゥーウィーの遊泳補助器具』!! 手ヒレに足ヒレ、肘・膝・胸の保護用具、さらには水中眼鏡、耳栓までもオマケ付き! ……………………面白そうなのでなんとなく持ってきたぞ!」
「正直だね……! というか、これらって……いわゆる”魔道具”じゃあないのかい? うまく扱うには”魔術”に関する知識と、知識を活かすための相応の技能が必要なのに…………へぇ……やるじゃないかイトバ君! これらをどのように使ってひと儲けするのか、ぜひとも教えていただきたいのだが――」
「…………」
「む……?」
俺は、取り出した四つの代物をおもむろに拾い上げ、再び袋の中へと戻していく――。
「どうしたんだい?」
「いや、その……いちいち言葉で表現してたら長くなると思ったんで。実践して見せた方が、俺のヘタクソな”取り扱い説明”より分かりやすいでしょうし。だから詳細はまた、実際に使用する時にでも、と……」
「ほぅ……なるほど……。んまっ、何にせよ、上手く儲けられるといいよね~」
「……。ところでナディアさん。食事の方は……もうお済で?」
「ああとも。最後の一欠片は、さっき君に話しかけた直後に喉を通った。見たまえ、ホラ」
ナディアさんはそう言うと、口をグァーッと大きく開ける――と同時に、空っぽになった木籠を両手で持ち、ゆさりゆさりと振ってみせる。
まるで自身の言葉の真実性を見せつけるように。
恐るべし、全身胃袋魔人。
”胃袋に穴が空いてる”とか生易しいレベルじゃなくて、もはやブラック・ホールだな……。
「…………」
空を見上げる。日はまだ高い。
しかし、俺の足のケガを治療していたせいで、予定より遅れてしまっている。最低でも、今日の日没までには『リカード王国』に到着して、王国内の宿で暖を取るのが理想的か……。
いくら年中日向ぼっこができる気候の『セリウ大陸』と言えど、さすがに夜は冷える。だから、できれば”野宿”は避けたい。万が一、寝ているところを飢えた獣だとか盗賊だとかに襲われても嫌だし。
いま俺の背中に吹きつける強めの風も、俺の意思に同調してくれているようだった。
さてと、と俺たちは腰を上げた。
『荷転車』は、進むべき軌道へと戻る。
そしてまた、ゆっくりと走り始めた………………………………。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
が。
ほどなくして、止まった。
今度は『荷転車』のどこかがイカれて故障発生……とかではない。――また、俺の足だ。
しかも、足の痛みが、さっきよりも酷くなっている……。ブワッと全身の毛穴から脂汗が噴き出てきて、患部は小刻みに痙攣もしている。
治療法が間違っていたとか、ナディアさんの『回復魔術』が効いていなかったとかではなく……単純にケガの具合がよろしくない方向へ進んでいるという”警告”のような気がした。
これはマジにヤバイやつかもしれない――そう思うと、冷や汗も上乗せでドバドバ出てくる。
一応、ケガには前回と同じ処置を施した。
……痛みは引いた。
やはり適切な処置を施せば痛みは引くのだから、こんな風に治して、それから走って……を繰り返せばいいのだろうが、前回よりもさらに痛みが酷くなっているうえに、救急道具の数にも限りがある。使い切った時点でまだ『リカード王国』に到着していないとなれば、かなり絶望的だろう。
すると、ナディアさんがこう提案してくれた。
「ウチが代わりに漕いでやろうか?」
その言葉を耳にしたとき、俺は自分の浅はかな知恵の程度を嘆いた。
そうだ、なぜ今までそこに気付かなかったのか、と……。
早速、頼れる助っ人・ナディアさんに、代わりに『荷転車』を漕いでもらったところ…………
ドビュゥゥゥゥウウウウウウウウ――――ンッ!! と。
とんでもない速度で、瞬く間に地平線の彼方へ消え去った。
あんぐり口を開けて唖然としていたのもこれまた束の間――ドビュゥウウンッ!! と、土煙を巻き上げながらナディアさんが戻ってきた。
「ふいー」と、ナディアさんが爽やかに額の汗を手で拭う一方で、『荷転車』は……ひと漕ぎする度にギチギチとかキュイキュイとか、気持ち的に耳をふさぎたくなるような音で、しきりに鳴いており……。
「ち、力の加減が、ウチには難しいかもなぁ~……」というのが、ナディアさんの結果に対する素直な感想と……おそらく弁明でもあった。
せっかく乗ってもらってなんだが……このままだと『荷転車』がやがては空を飛び、イーのティー的なヤツと遭遇する前にバラバラに分解してしまいそうなので……すぐさま降りてもらうことに論を挟む余地は無かった。
……調べたところ、”踏板”の周辺と、前輪ふたつと後輪の一部が破損していたため、次はその修理に追われることに。
昼食時みたく『荷転車』を道の端に寄せてから、修理をおこなった。ナディアさんも手伝ってくれた。
「ちなみに、聞きたいんだけどさ……」
「……っと。はい? 何をですか?」
「……。今さら言っても仕方のないことなんだけど……どうして馬を買わなかったんだい? いや……これはただの質問なんだけどね」
「あー……っと、まぁそうですよね……『ごもっとも』と言うか。でも、買うとなるとやっぱり高くつくものだし、きちんと世話もしなくちゃいけないから大変だと思いまして。なにせ俺の場合、馬を世話した経験も無けりゃあ、初めての”旅”で不安材料がいっぱいなわけですし……ちゃんと面倒見れるのかなって。じゃあ、あらかじめ移動手段を別で手配できるなら、コイツを準備しておこうと閃いたのが、そもそもの始まりなんで……。自分を過信しましたかね、ハハハ」
「ふーん……なるほど、ね。よく分かったよ、ありがとう!」
「いえいえ。修理……手伝わせちゃってすいません」
「フッ、なーにを今さら水くさいことを。……。いろいろ、事情があるもんだねぇ……フゥ……」
ナディアさんの助力もあって、『荷転車』はなんとか鳴き止み、元通りに走れる状態になった。
しかし、あれだけ天高い場所にあった球体は世界のすみっこの方へ転がっており、そちらの空はもうすっかりときれいな茜色に染まっている。
……こちらの空は、なんだか重々しく、もしかすると落っこちてくるのではという不安は胸を圧迫してきた。
――地図を広げる。
念のために自作して持ってきておいて正解だった。
”現在地”――距離的には、半分を過ぎて……ちょい、といったあたりか。
明日の朝、今日の時間帯ぐらいに起きて出発すれば、どれだけ遅くても昼までには『リカード王国』に到着する計算だ。
「…………」
世界はさらに色を潜める。
足の具合もあるし……とにかく、今日はこれ以上走れそうにないな……。
となると、
「どこかで一泊せねば……」
必然的に”野宿”の文字が頭をよぎる。
周辺に目を凝らせば、ぽつぽつと民家の存在を確認できるが……いきなり余所者が二人も押し掛けるというのは……人の性として遠慮しちゃう部分が出てくるというか、相手も相手で驚くだろうし、なんなら警戒心が禍いしてうっかり攻撃されちゃうかも……。
いずれにせよ、”民泊”の望みは薄い。
幸い、食料はまだある。ナディアさんが食い過ぎなければ、の話だが。
売るための食材も、塩と、魔術的細工の施された特殊な保冷剤みたいなやつが生きていて、きちんと保存できていることを確認した。鮮度が少々落ちてしまうのは癪だが、こんな事態になってしまった以上、仕方がないと割り切ろう。
となれば、残す問題は――
「風呂と「トイレ……」「便所、か……」」
偶然にも声が重なり……『荷転車』のとなりで並んで座っていた俺とナディアさんは、顔を見合わせる。
すると、ナディアさんはヘラヘラっと表情を崩し、パタパタと手を上下に振り、
「いやぁ、ウチは……大丈夫だよ。慣れてるから。……イトバ君こそ、大丈夫かい?」
「あ、はいっ、平気です。便所はともかく風呂は……まぁ……。男なんで、一応」
「そっ……か。そうだよね! 男の子だもんね、イトバ君は。…………」
言い終えると、ナディアさんは俺から顔をそむけた。
それからナディアさんは、ローブの襟元――その内側に指をつっこみ、ローブ全体を前後に動かして風を取り入れるような仕草をした。
てらてらと鈍く光る横顔に、湿り気を帯びた髪の毛が何本かくっ付いており……わずかに目を細め、「ハァ……」と吐息を漏らすその姿は、どこか憂いを含んでいるように見えなくもない。
「…………」
「…………」
ん……? んん……?
「…………」
「…………」
いやいや……。
いやいやいやいやいやいやいやいや……………………。
「…………。ハァ……」
「! っ…………」
なんだ……? なんですか、この反応は……?
風呂……やっぱし入りたいの? そういう女性特有の『察しろ』的な反応なのコレ……? 出たよコレぇ……寸分たがわぬ”都合良過多過増々”を答えられなきゃ即ゲームオーバーの究極の心理戦キタよコレぇ……。ついでに回答内容で”都合察知能力”ならぬ”女心理解知能”の有無を能力検査されちゃって、ここでアレコレ”男”を試されちゃうの俺ェェ…………?
こ、これまでもこんな経験あって『慣れてる』って言ってたし、たぶん大丈夫だよな……? いけるよな……?
「……………………」
おい待て。考え直せ。
果たして本当にそうか……?
あんっっなスーパービューティーが、本当に風呂に入らなくて平気とか言うのか……?
ナディアさんって、いつも竹を割ったような爽快さがあるから、たいていのことに関しては大雑把でいい加減な性格だと思ってたけど(まことに失礼ながら……)、そういえば髪とかもツヤがあるし、顔とか手とかの肌もゆでタマゴみてぇにキレイだし……もしかせずとも”キレイ好き”、なのか……? じゃあやっぱり、あのどこかしおらしい反応は”風呂に入りたい”のポーズ……!?
まさか俺が日本人だからそう解釈してるだけ……? 海外じゃ頻繁に風呂に入る習慣はないって聞いたことがあるし…………。
だぁー……分かんなくなってきた。コレもう分っかんねぇよ! なんでこんなところで、伊藤さんもおったまげの壮絶な心理戦始まってんだよォォォォ……!!
まぁ仮に、だ。
ナディアさんが”風呂に入りたい”としてもだ。この近くに水場はない。
トンデモ魔術で急きょ用意できたところで、こんな布切れ一枚落ちていないだだっ広く大っぴらな平野のド真ん中で、俺はど、どどどどうすれぶぁ…………!?
「イトバ君――」
「び、びゃいッ……!?」
風船のような沈黙を突き破る声に、俺は驚かないわけにはいかなかった。
バッ! と、素早く横を向く――と……ん?
ナディアさんは、なにやら前かがみの体勢になっていて……そして腹を抱えるようにして、両腕を内側に折りたたんでいた。
「……ど、どうしたんですか?」
先ほどの思考の残滓を引きずっているのか……発してみて初めて、自分の声がかすかに震えていることと、喉が渇いていることに気付いた。
一瞬間の空白があった。
「……。…………は、腹が……………………」
「は……”はら”…………?」
ナディアさんにしては似つかわしくない、か細い声が聞こえ眉をひそめた――直後。
まるで石化されてしまったかのように、ナディアさんは前かがみで丸まった体勢のまま、頭から前に倒れていった。
それを見て、「っ! 大丈夫っスか、ナディアさん!」と、俺が咄嗟に手を伸ばした――。
その時だった。
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるゥゥ~~~~、と。
…………。
……先に断っておく。俺ではない。
おそらく――いいや間違いなく、音源はナディアさんからだった。
「…………………………………………」
”前かがみ”という体勢……。
『……。…………は、腹が……………………』という言葉……。
開放的な空間に響き渡る、この世で作られし音だとは思えないほどの、えげつない爆発……。
も、もしかして……………………
「い、イトバ君……」
ハッと我に返ると、ナディアさんがこちらを見ていて……目が合った。
改めて、別人なのではと見まがうほど、ナディアさんの顔はげっそりとしていた。華やかさの”は”の字もない。
現在の薄暗さでも”本人である”と視認するのがちょっと怪しいのに……あと一刻も経たないうちに、俺はこの人を完全に見失ってしまうかもしれない。
そして、ナディアさんは次の言葉で、俺の予想の答え合わせをしてくれるはずだ。
「いやホント、さぁ……急で悪いんだけどぉ、な、何でもいいからさぁ……空箱でも樽でも……も、もも持ってきては、くれないかぁぁい――クォォォォ……ッ!! …………ハァ……ハァ……さ、さすがの私でも、さぁ……も……。……。もっ、もももっ、もっもっももっ、もも”漏らす”という失態はさぁ……恥ずかしいしさぁ……いろんな立場の上でぇ…………避けたいんだよねぇ、うん…………」
「…………。し、失礼ですけど……変なモノとか拾い食いしてませんよね……?」
「いやぁ~……してないと思うけどなぁ~……あはは――ハァァゥゥゥゥッ……!! ……ッ! ハァ……ッ! ハァ……ッ! …………おそらく、なんだけどさぁ……昼間、ね……普段使い慣れない『回復魔術』を、に、二回も使ったわけだしぃ……それから、さぁ……荷車を漕いだときと、修理を、手伝った、とき、に……力んだから……? かも…………。……わっちもよく分かんない――ホォゥァァァァアアッ……!! クゥワァァアアアアッ……!!」
結び口をほどいた風船のように徐々に力尽きていく語尾とは対照的に、ナディアさんの顔には……足の痛みを訴えた昼間の俺と同じような脂汗が、珠のようになっていくつも浮かんでいた。
アレコレと、あれやこれやと……。
ぐるぐる渦を巻いていた俺の思考は、”焦燥感”という一滴の刺激が垂らされた瞬間、見事にすべてがそれ一色に染まり――――
「あんなに食べるからでしょうがァァァァッ!! だーから、程々にしときゃあ良かったんですよッ!!」
「腹が減ったら食い満たす――それは自然の摂理であって仕方のないことでしょうがッ!!」
「そこは譲らねぇのかよッ!!」
「ああともさッ!!」
ゼェー……ゼェー……と、肩で大きく息をする。
大声を出したことで、逆に冷静になってきたかもしれない。
とはいえ、まったくバカげてる。話にならない。
「クハァァ……また腹がァァ~……。ノォォォォォォ……」と、ナディアさんはより悶えている。
ナディアさんの申し出通り、いっそ箱や樽の一つを空にして、そこにやってもらうか……?
いや、しかし俺はどこまで離れれば……ってか、ンなことより紙は!? 十分な紙が無ぇじゃん!! 紙が無ぇのは、女性的にも衛生的にも問題ありまくりローリングなんですわコレが!?
これまでも、道中でちょいちょい用を足してはいたけれども……スモールの方だったから何とかなったんだよなぁ~……。ちょうどいい”茂み”みてぇなのもあったしよぉ~……。
けどさぁ――今回はビッグなんでしょ!? ビッグ!! しかもメガ盛りてんこ盛りのウルトラ・スーパー・デラックス級なんでしょう!? どうやって拭き取るんだよォ~、そんなブツをよォ~!! ここにチョモランマでも築けってのかよォ~~!! 朝ぼらけに地平線の彼方からでも拝めちゃうやつをよォ~~~~ッ!!
ヌォワァァァァ――ッ!! と、背中を反らし頭髪を掻きむし……って――あれ? なんだか俺も……意識が……。疲労か……? それに、腹も減って…………。
ナディアさんはナディアさんで、俺がそうこうしている間にも、顔色はますますカオスな状態になって……赤くなったり青くなったり緑になったり……信号機の明滅を高速で繰り返しているみたいだった。
く、クァァ…………。
俺は……俺たちは、どうすればいいんですか、神さま……!
俺たちは、こんな広野のド真ん中で、見捨てられてしまったのですか……!
俺たちの旅は、こんなモノなんですか……!
俺の祈りはッ……!
「――――――――ッ」
”救い”はないのですかァ~~~~~~~~!!
「そこに誰かいるのかしら」
と、一筋の光が俺たちを照らす。
……否、当てられていたのだ。
取り乱していて、そんなことにさえ気付かなかった。
「グォォォォ……!!」と、未だ地に這いつくばっているナディアさんは、気付いていないようだが……。
――人だ。
”光”の正体は、その人の手に持たれている”灯”のものだった。
ハッキリと視認できないが……その人のすぐそばに馬車らしき陰があるのが目に映った。
ちょうど馬車から人が降りてきた、ということだろうか……。
その人は”灯”をわずかに上へ持ち上げた。
相手の顔が見える……はずなのだが、いつしかその懐かしい刺激を忘れていた俺は、反射的に右手を顔の前に出してしまう。
「あら……? ……。あらまあ。もしかして……げっそりしてらっしゃるけど、あなた……イトバさん?」
「っ! あ、あなたは……!」
そこにいたのは、『LIBERA』の常連客の一人であるロプツェンさんという人だった。




