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異世界道中のお道具屋さん  作者: 一色創
第二章  リカード王国滞在記
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第55話 『出発前夜。そして――』

 

 明日、持って行く旅の荷物(生活必需品など)――よし!

 配達する”長剣(ロングソード)”と紹介状二枚――よし!

LIBERAリーベラ』の宣伝商品と商売道具――よし!

 体――異常ナシ!

 心――……たぶん問題ナシ!



 明日の準備――――よーし!!



 ……最終確認である。

 俺は、明日から始まる旅に必要なアレコレについて、思い返したり実際に確認したりして……きちんと不備がないよう細心の注意を払っていた。

 そして、たったいま片手の指がきれいに折れ曲がったところで、その最終確認は済んだ。


 あとは……


「寝るッ!! のみ!!」


 寝間着(ねまき)姿の俺は、自室のド真ん中にいた。

 そして――とうっ! と、ブレイクダンスにおける基本のフットワーク・『一歩』のような、足で床に”円”を描くような動きをし、直後スチャッと正座におさまり背筋を伸ばす。

 向かい合うは、寝床のすぐとなりにある窓……――――その果てしなき彼方からこちらを見守っておられる、まんまるとしたお月様だ。(あお)く柔らかな夜の明かりは、俺を優しく包み込んでくれている。


「…………」


 ――誠心誠意。

 スッ……と、俺は静かに手を合わせると、目を閉じた。


 ……祈っているのだ。

 無論、明日から始まる旅が平穏無事でありますように――というのもあるが、それよりも切に願っているのは、フランカへの惑星規模の愛が実ることだ。

 ちなみにそれは、毎夜の習慣……もはや”儀式”である。いつもであれば、ギュゥゥゥゥ……! と、ラップル(リンゴに似た果実)など造作もなくひねりつぶせるぐらいの(ちから)でおててをニギニギし、「一刻も早く叶えておくんなまし!」と、血と汗と涙を小一時間ほどボロボロこぼしているわけだが……今日は違った。


 というか、”愛情”というのとも少し違う……。それはまるで、想いを告げないまま初恋の人と別れて独り立ちする切なさ……あるいは、故郷の風景を見て感じるアレに近しいものだった。

 だから、握るてのひらに乱暴な熱さは無かった。むしろ室内をただようかすかな夜気が手の隙間からすべり込み、冷たかった。


 願うは、俺もフランカも無事でありますように――――ただ、それだけだ。


 ……それと、ナディアさん。

 どこにいらっしゃるか分かりませんが、ちゃんと来てくださいね。出発する日程伝えてないけど。

 よろしくお願いしますよ、ホント……。


 ――目を開け、顔を上げると、ふとナディアさんの横顔が……お月様に映っているように見えた。


「フハッハッハッハ! なんのなんの! お安い御用さイトバ君!」


 ……なんて、高らかに笑いながら言うのだろうか。グッと、サムズアップなんかしたりして。キラッと一瞬白く光ったのは、星のきらめきなのだろう。


 まぁ、なにはともあれ、


「みなさん、おやすみなさい」


 あいさつの直後――ポンと、俺は跳ねるように立ち上がる。勉強や作業、魔術の実験などでよく使う机の元へ向かい、その上に置いてあるカンテラを消してから、寝床へ向かった。

 毛布の中に体をすべり込ませる――と、そういえばと。寝床の脇に置いてあるカンテラも消し、再び寝床に入った。

 考える間もなく、すぐに全身の(ちから)がガスのように抜けた。ここ何週間、俺は旅の準備に没頭していた。それによる疲労が、思っていたより蓄積していたのか……ふらりふらりと、いつもより早い段階で、意識の暗い部分から睡魔が忍び寄ってくる。


「お。こいつは、すぐに眠れそう……ねむれ……そう…………むにゃ……。………………………………すぅー…………」


 俺は素直に感覚に身をゆだね、寝た――――。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ――――はずだった。



「寝れんッ!!!!」



 毛布を蹴飛ばし、ガバッ!! と起き上がる。


 寝床に入って小一時間……いや、もう少し経っている気もする……とにかく寝付けなかった。

 正確に言うと、睡魔がやって来てはいるのだが、あと一歩のところで立ち止まり、クルッとUターンをして帰ってしまうのだ。そしてまたやって来て――Uターンをして……の繰り返しなのである。俺はその見事なターンアンドスピンを、まざまざと見せつけられていた。


「ち、ちくしょう……! 今日に限って、なんで寝付けねぇんだよ……! 遠足前日の子どもじゃあねぇんだぞ……!」


 思い返してみても、ネガティブな感情で胸がいっぱいになって寝付けなかったことはあっても、ポジティブな感情に支配されている状態でのそれは無かった。例えば、旅行の最中であったとしてもだ。

 ”旅”という未知の領域に踏み込む前に、俺は未だかつて経験したことのない現象に苦しめられていた。

 両手で頭を()き掻き、なんとか寝る方法はないものかと知恵をしぼる。しかし、そうすればするほど、かえって目は()えていった。


「ええい! 目をつぶっとけば俺の身体が勝手になんとかしてくれるわい!」と、ほとんどヤケクソになって、毛布を頭までかぶり直した。


 睡魔が来て……からのターンアンド――って、おめぇはもういいんだよッ!!


「ハッ……!」


 勢いで、また毛布を蹴飛ばしてしまった。

 目と頭はさらに、ギンギラギンに冴えわたり……。


「ぬぅぐわぁああああああ……!! 俺は……俺はどうすれぶぁああああっ……!!」


 深夜、俺は寝床の上でひとり(もだ)える。

 あんな睡魔のスリラーもどきなんか延々と見ていたら、頭がおかしくなるのは必至(ひっし)……せめてフランカみたいなカワイ子ちゃんが来てくれれば……――ん? いや、待てよ……。そ、そうだ……! その手があったぜ……!


「メリーさん戦法だ!!」


『メリーさん戦法』とは、夜なかなか寝付けないときに、寝床の中で目をつむり、頭の中でヒツジが短い木の柵を順番に飛び越えていく数をカウントしていたら、いつの間にかムニャムニャ……の()()である。”古典的・おひとり様こもり唄”と言い換えても可である。

 それの”ヒツジ”を”フランカ”に置き換えれば済むだけのこと! なーんだバカバカしい、やはり灰色の脳細胞有する天才の前では、睡魔も裸足でタップダンス踊っちゃうというわけかッ!


「さーてさて、それでは早速……」


 毛布をかぶること三度目。

 今度こそ上手くいってくれよと、俺はいざ『メリーさん戦法』に打って出た。

 モワワンと、ぼんやりとした頭の中で、夢想(むそう)夜霧(よぎり)が立ち込める――。


 おぉ……見える見える。まるで目の前に立っているかのように、フランカの姿形がくっきりと鮮明に……! というか、くっきりしすぎてあんなトコやこんなトコまで――おおっと! いかんいかん。そんな目的のために、フランカを呼び出したのではない。ここはあくまで紳士的に、だ。

 さぁてフランカちゃま、遠慮せずどんどこ柵を飛び越えてくださいな。


 まず、フランカがひとーり……


『ふっ、フフフフっ、ふふっ……。なんですかぁ、それ。ふふっ。もう……フフフフフフ…………』


 フランカがふたーり…………


『ほ、ホントですか!? うれしいですー! えへへ~』


 フランカがさーん――………………


『ん?』


 ふ、フランカが……………………


『なんですか?』



「どゥわァああああああああ……!! 余計寝れんわッ……!!」



 な、なんてヤツだ……フランカ。

 あまりある魅力は、優しく寝かしつけるどころか、心の奥に眠りし猛獣(ビースト)の鼻息を荒立たせてしまうなんて……。

 これでは、俺の神経がさらにビンビンになったり、全身がさらにギンギンになったりで――


「ぬォおおおお……! それだけはマズイっ……! ただちに阻止せねばッ……!!」


 とうっ! と、俺はほとんど飛び跳ねて寝床から離れると、即座に”腕立て伏せ”の構えに入る。

 そしてそのまま、「うぃやっふゥううううー!!」と、高速で上下に運動を始める。

 寝付けないときは、こうして少々体を動かして意識を()らした方がいいと、どこかのエライ人が言ってた。……気がするっ。


「俺のカラダよォおおおお~~! 眠くなぁれぇ~、眠くなぁれぇええ~~!」


 こうして、俺はしばらく腕立て伏せを続けた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…………」


 結果、余計に眠れなくなりました。

 単なるアホでした。


「ハッ……! そうだ、カラダに訴えかけてもダメなら、”頭”に訴えるのだ……!」


 次の策を練った俺は立ち上がり、作業机のもとへ近付き――カンテラの灯りを()ける。

 何か読んでいればそのうち眠くなるだろうと、適当に”魔術”に関する本を手に取り、目を通した。

 お馴染(なじ)みの、『魔術基礎 〜これであなたも一流魔術師〜』である。


「ほむほむ……。なるほど、ここでピーヒャラピーヒャラ、パッパパラパと…………」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「…………へぇ~。”魔術”と”魔術”を組み合わせることで、さらなる応用がねぇ……。なるほどなぁ~……――って!! 読みふけってどうすんだ俺ェ!!」


 おっと危ない。勢いそのままに、本を投げてしまうところだった。

 ええい、こうなればもう――


「小さな箱へ投じる我が身に、少しばかりの快楽と無窮(むきゅう)の静寂をもたらしたまへ……!! ハァッ!!」


 ”催眠魔術”の詠唱である。

 大きくパーに開いたてのひらを自分の方へ向け、一時(いっとき)の幻想をかけてみた。

 ボワワン、と。



「…………………………………………」



 しかし、一向に何の変化も訪れない。

 とりあえず、一旦落ち着こう……。


「ぐぬぬ……。しかし、どうしたものか……」


 ふりだしに戻った俺は、寝床の上であぐらをかき、腕を組む。

 ……夜はまだ続いている。しかし、いつもの何倍にも増して、時間が早く過ぎているような気がする。

 大切に過ごさなければならない時間が、こぼれ落ちていく、というような……。

 その感覚が、俺の背中をジメっと湿らせた。こうしてまた、寝るのに最適な状態から離れていく。


「! ……そういえば、『寝付けないときは別の部屋へ行くと良い』みたいなことも、どこかのエライ人が言ってたな。……たぶん」


 そう思い付いたものの……腰が重い。貧乏ゆすりをしてしまう。


 サラリと、呆気なく。

 口に含んだ水のように、また俺の中の時間が流れ、どこかへ消えていった――。


 とはいえ、こうして安静にしていても、眠気などこれっぽっちも()いてこないのが現状である。

 それよりも、何かしら行動に移し、その”思い付き”の正否(せいひ)を確かめる方が……今の俺にとっては、よっぽど有意義ではないだろうか。


「……。……よしっ」


 俺は立ち上がり、部屋の出入口まで足を運んだ。


 キィィ――――……(とびら)を開け、そろーり……顔を出す。


LIBERAリーベラ』の”三階”である。(あか)りは落とされているため、ほとんど何も見えないぐらい真っ暗だ。

 ゾワゾワッと、背中に鳥肌が立つのを感じた。


 ”三階”の全体的な印象は、『ファクトリー』へと続く渡り廊下がある”二階”と、ほとんど同じである。

 ――レンガで()き詰められた、洋風な造りである茶褐色(ちゃかっしょく)の壁。

 ――そのレンガの隙間から生え、辺り一面にびっしりと張り巡らされている、大量の木の根のようなもの。

 ――そして、無駄に長い廊下の端から端に敷かれている、紫檀(したん)色の絨毯(じゅうたん)

 とはいえ、”三階(ここ)”はさすがに生活空間であるため、”二階”のように、大量の雑貨が廊下を埋め尽くし、”(ほこり)とカビの住居”になっている……ということはない。

 他にも”二階”との違いを挙げるなら、廊下の幅がやや広いことや、”洗面所”や”便所”といった空間に通じる曲がり角がいくつかあることなど、生活面に配慮された構造に目が留まる。


 俺が今いる自室も含めて、部屋はいくつかある。

 フランカの部屋は……たしか、自室から出て向かって左、廊下の突き当たりだったか。


 おっと、まさか「眠れないから」と言って、こんな時間にフランカの部屋へ突入し、ヨシヨシされたりバブバブされたりしようなどとは断じて思っていないぞ。

 いくら目の前に色気ムンムンの秘宝があるからといって、愚かにも一線を越えてベールを()ぎ、その匂いで腹をいっぱいに満たそうなどとは、考えてはならないのだ。

 こんな眠れない夜なんかには、”常識”というチョークをしっかりと持ち、片時も離してはならない。”美しさ”を秘めるモノには特に、それによる線引きを(おこた)ってはならない。


「ゆっくりとおやすみなさい、マイハニー」と、俺はただ胸の中で敬意を表するばかりである。


「じゃあ、どこへ行こうかって話なんだけどな……。…………。……遠くへ行くのは論外だな」


 ぼやき、チラリと左――すぐとなりの部屋を見る。

 そういえば……以前フランカに聞いたところによると、現在使用していない部屋は、有り余る雑貨の一時的な置き場所になっているか、倉庫になっているかがほとんどらしい。となりの部屋も、そうなのだろうか……。

 もしかすれば”埃とカビの住居”になっているのでは、と考えると二の足を踏むが、


贅沢(ぜいたく)は言ってられねぇよな……。”選べる立場”でもねぇんだし……」


 俺は廊下の右側へ顔を向け、暗闇だけがそこにあることを確認すると、一旦(いったん)部屋の中に戻る。

 作業机の上に置いてあるカンテラを左手に取った。カンテラの内側では、か細くちっぽけな(いのち)が揺らいでいる。


 スッ……と。

 俺は透明な壁の外側から、それを包み込むような形で右手をかざす。


 目を閉じ――開け。

 すると、カンテラの内側で灯る火は、風に吹かれた()き火のごとくボウッと勢いを増した。

『強化魔術』である。


「さーて、と。まずは、部屋の様子見といきますか……」


 俺は再び部屋の出入口まで足を運び、扉を開けた。

 キィ――……と、音がする。背中がブルルッと震えた。

「この音嫌いなんだよなぁ~……」と、俺は不平を言いつつ、そそくさと自室から出て、扉を閉める。けれど、完全に閉めるのではなく、ちょびっとだけ開けておく……。


 ――途方もない”闇”に呑まれた。

 とはいえ、俺の手には今、小さな太陽が握られている。そして、自室からとなりの部屋までの距離は、せいぜい数歩分……。

 さっさと行って、部屋の中の状態を確認してこよう。


「……。……。扉に異常なし……と」


 となりの部屋の前に立っている俺は、左手のカンテラを持ち上げ……腰まで下げ、胸の位置に戻す。

 誰かがこの部屋に入る瞬間を、俺はこれまでに見たことはないが、古びた印象が特に目立っているわけではなかった。


「では、お邪魔しまーす……」


 右手を、扉の取っ手に持っていき、触れ――――



「!?」



 ブワン、と。

 突如、透明な頭の中はモヤがかかったようになり、正常な思考が(さえぎ)られてしまう。(おり)の中で素直に言うことを聞いていたヒツジたちが、その檻が壊されたことにより、あちこちに散らばっていくような……。頭が重い。


 その直後、背後から強烈な睡魔が襲ってきた。

 ぐんにゃりと、視界が歪む。


 ――ドタタッ!! ――ガタンッ!!


 俺はたちまちにして(ひざ)から崩れ落ちた。床にうつ伏せの状態になる。

 その際に、カンテラは手元を離れたか……物が落下して(かた)い床に当たる大きな音を、耳が拾った。

 なんとかそれを探そう、あるいは起き上がろうと試みるも、全身が脱力しきっていて、筋肉がまったく仕事をしてくれない。(まぶた)までもが、その最小限の役割を放棄しようとしている。


 おいおい……。こりゃあ一体、どうなっていやがるんだ、よ…………。


 ハタから見ても現状は、”異常”なのは間違いないだろう。しかし、気持ちの良い睡眠欲が、身体をやんわりと支配している。それは、”睡眠に入る前兆”だった。

 またそれは、俺が本来最も望んでいた状態でもあった。

 しかし、決して少なくはない、自分の身体とは思えない気持ち悪さも同時にあって……。


 ……そう。

 ”()()()()()()()()()()()()()()()()……………………。


「な、に……が……………………――――」


 次の瞬間にはもうすでに、俺の意識はそこにはなかった。







 …………。

 ……。

 ……………………おい。


『……おい、話を聞いていたのか』

『……。ふごっ。……あん? あんだって?』

『……。貴様は……なにゆえ鼻クソなぞほじっているのだ、このボンクラめが』

『ンなこといったって、ここ埃くせぇからよ……なんつーか、鼻がムズムズしちまうんだよ。てか、ほじって何がいけねぇんだよ。ただでさえ空気の通りがワリィってのに、鼻まで詰まっちまったら、いよいよ俺ぁ窒息しちまうぜぇダンナ』

『ダンナと呼ぶな。ったく……その汚ねぇ手であちこち触りまくったら、首をもいでやる。覚悟しておけ。……で、今し方の俺の話は、理解できたのか(オオ)ボンクラ』

『おてては洗って清潔にするに決まってんだろ、ドアホウシルバーパレードが。くぁ~、ぺぺっ。……さっきの話って、”作業時における三つの基本魔術”のことか?』

『説明は?』

『…………』

『…………。もう、製作に協力しなくてもいいか? 俺は』

『あー、はいはい! すみませんでしたァ! もう一度、ご指導のほどよろしくお願いしますよボッフォイ先生よォ!』

『チッ、やれやれ。もう一度だけ説明する……よく聞いておけ。次はないからな。――まず、物質を手ごろな大きさに切る「切断(スライス)」、それを手中に収め、想像と……時には道具も(あわ)せながら、限りなく理想に近い形状に(かたど)る「調整(シェイプ)」……。そして――』

『物質そのものの強度を底上げする、あるいは性質の良さをさらに引き出す「増強(インクリーズ)」……だろ?』

『……覚えていたのか?』

『まぁね』

『……。言っておくが、この三つの基本魔術は、あくまでも()え物だ。”補助”の域を出ねぇ。……根っこの部分をつくり(おのれ)を支えるのは、”自分の腕”……。日々(みが)き練度を向上させた”技術”に他ならない……。じゃあ、実際にやってみろ』

『よしきたっ! むォほんゴホンっ! えーでは……最初からぁ……――「スラァイス」!! 「シェイプッ」!! 「インクリィィーズ」……』

『おい、なんだその変な動きは。独自に付け加えるな、やめろ。それと根本的な話だが、一挙手一投足に無駄が多すぎる』

『だァー! オメェはいちいちいちいち、人のやることなすことにケチ付けすぎなんだよッ! これが俺のスタイルなんだから、いいだろ別によ!』

『いーや、お前は何にも分かっちゃいない。もう一度、説明する。そこになおれ。かしこまれ』

『いいってもう、分かったから。それより作業しようぜ、さ~ぎょ~お~』

『ダメだ。お前に基礎をみっちりと叩き込む』

『ゲェ……。分かってるってのに……』

『いいや、分かっていない』

『……。分かったって。しつこいなぁ……』

『わかってない』

『わかった』


『……てない』


「わかっ……た……」


『――……ない』


「…………………………………………」



 わかってない。



「……っ。ああ、もうッ――――!」




「分かってるってばよォ!!」




 ドバサァ!! と、勢いをつけ跳ね起きた。

 ハッ、と我に返る。



「……………………」



 見知った天井(てんじょう)……真っ白な光に包まれる空間、部屋――”自室”…………。


 ……俺は、寝床の上にいた。

 いつもの場所で、目覚めを迎えていた。


「…………」


 首を下げ、腹部に視線を向ける。

 なんとはなしに、ペタペタと、手で体を触ってみる。


「……。ゆ、夢か……。ん? ……だったのか…………?」


 疲れは……どうやら持ち越されていないようだった。

 健康ピンピンだった。

 

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