間話 『糸場の読んだ御伽噺:オーティマル街道の不思議なお道具屋さん』
昔々、中央大陸を統治していた『オーティマル王国』という国の町外れに、一軒の道具屋がありました。
オーティマル王国と言えば、五つの大陸全土を統括している世界一の大国で、その名を知らぬ者などこの世に存在しません。
故に王都に軒を連ねる店々はどれも高級で、貴族でないと立ち入ることに二の足を踏むとまで言われています。
しかし、その町外れにある道具屋は酷く質素で、あるいは見窄らしいという印象を受ける人もいるでしょう。
町外れと言えど、そこは高級住宅街も同然の場。その道具屋の三軒隣にある、純金の瓦で外壁を彩った豪邸が良い例です。
比べて道具屋は外壁は赤レンガ一色に、どこから生えているのか、草のツタが張り巡らされておりました。
加えて、所々塗色の剥げた緑色の扉に白い窓枠のガラス窓。落ち葉の乗った黒い屋根には煙突も付いており、もくもくと白煙を立ち上らせていました。
非常に珍妙なその道具屋の名前は『LIBERA』。
店先に出されている立ち看板に、いつもそう書かれていました。
おそらく、中々に立派な三階建ての外観と、それを包み込む怪しい雰囲気が客を惹きつけたのでしょう。客足は上々でした。
「あそこに行けば何でも揃う」
「あそこに無い物は無い」
「あそこは安い上に店長が親切だ」
そこへ行って帰ってきた人々は、皆口々にそう言ったそうです。
オーティマル王国の物価が高いだけに、王都の大通りに立ち並ぶ露店商より、町外れにある『LIBERA』の方が物を格安で手に入れられたのでしょう。
少し歩くだけの代償なら、という客が増えたのです。
そんな“何でも揃う”が売りの『LIBERA』でしたが、ある日突然店を畳みました。
人々の話によると、昨日まで『LIBERA』があった場所は荒れ果てた平地と化しており、店ごと綺麗さっぱり無くなっていたとか。
ただ、平地の真ん中に一つだけ取り残されていた物がありました。
それは、馴染みの立て看板でした。
『本日限りで、LIBERAは閉店致します。ですが、これで終わったわけではありません。豊穣の女神が微笑む時、必ず皆様と再会できることでしょう。長らくのご愛顧ありがとうございました。
LIBERAは、求める人と共に。
LIBERA店主:ウェヌス』
閉店なのにも拘らず、あっさりとした短文。
――なぜ突然辞めたのか、なぜ何の前触れもなかったのか、なぜ店が消えたのか。
残る疑問は多く、しかしそのことについては一切触れていませんでした。
また、店主――ウェヌスが最後に伝えたかった想い。無論、理解できる者などいるはずがありません。
結局、何もかも分からず終いのまま、『LIBERA』はオーティマル王国の町外れから姿を消しました。
(アフィス・モーゲル著『オーティマル街道の不思議なお道具屋さん』より ※短編童話の中から一部を抜粋)