第43話 『夕暮れ模様:冷めた夕食』
今日の夕食はホワイトシチューだった。
ゴツゴツ――大まかにブツ切りにされた野菜や肉の歯ごたえと。
とろ~り――乳製品ではお馴染みの『モミールク』、そしてマルチーズ地方ならではの特産品・『ヂーツマ(チーズに似た食べ物)』を混ぜ合わせ、じっくり煮込むことで完成される濃厚な味わい。
フランカの手料理の中でも、絶品に入る料理の一つだった。
一口食べれば天にも昇ってしまうような、美味しく温かいそれを、俺はもちろん大好きだった。
温白色の光が落ちる食卓に、フランカの持ってきた大きな寸胴の鍋が置かれており、それを挟んで二つの白い湯気が立ち上っていた。
「…………」
「…………」
カタン、と俺は席に着く――。
カツカツ、コツコツと……皿に食器が当たる音が、無音の狭間で不規則に鳴っている。
カツカツ…………カツカツ…………。
…………コツコツ…………コツコツ。
「…………」
「…………」
……ポケットの中にある例のペンダントをぎゅっと握り締める。
言わなければならないのに……。
村長からのリカード王国への配達依頼のこと。
俺が店を離れてリカード王国へ行ってもいいのかということ。
「…………。…………あ」
「…………」
…………。
右手で頬を掻く。
「…………。……。……あ、あのさ」
「……。……? はい、なんですか?」
「……あ。え、っと……」
分かっているのに。
「えっと…………」
「……。何か、お話ですか……?」
「……あ、いや……その……」
左手で後ろ頭をさする。
…………。
「…………」
「…………。……………………」
ナディアさんも一緒に連れて行っていいのかということ。
ルミーネからの配達依頼もあること。
……言わなければ、ならないのに。
ぎゅっと、ペンダントを握り締めていた手の力が、段々と、抜けていく……。
「…………」
「…………」
コツコツ…………コツコツ…………。
…………カツカツ…………カツカツ。
コツコツ、カツカツと……皿に食器が当たる音が、無音の狭間で不規則に鳴っていた。
――カタン、とフランカが席を立った。
「…………」
温白色の光が落ちる食卓に、フランカが持っていった大きな寸胴の鍋は無くなっていて……白い湯気が立ち上っていた皿からは、もう、温もりは消えていた。
美味しいそれを、俺は大好きなはずなのに……一口食べると、むしろ嫌いになりそうだった。
フランカの手料理の中でも、絶品に入る料理の一つのはずなのに。
とろ~りとした、濃厚なクリームの味わいも。
ゴツゴツとした、野菜や肉の歯ごたえも。何も感じないまま……。
今日の夕食は、あまりにも暗い影を落として終わった。
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