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異世界道中のお道具屋さん  作者: 一色創
第二章  リカード王国滞在記
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第43話 『夕暮れ模様:冷めた夕食』



 今日の夕食はホワイトシチューだった。


 ゴツゴツ――大まかにブツ切りにされた野菜や肉の歯ごたえと。

 とろ~り――乳製品ではお馴染みの『モミールク』、そしてマルチーズ地方ならではの特産品・『ヂーツマ(チーズに似た食べ物)』を混ぜ合わせ、じっくり煮込むことで完成される濃厚な味わい。

 フランカの手料理の中でも、絶品に入る料理の一つだった。

 一口食べれば天にも昇ってしまうような、美味しく温かいそれを、俺はもちろん大好きだった。


 温白色の光が落ちる食卓に、フランカの持ってきた大きな寸胴の鍋が置かれており、それを挟んで二つの白い湯気が立ち上っていた。


「…………」

「…………」


 カタン、と俺は席に着く――。

 カツカツ、コツコツと……皿に食器が当たる音が、無音の狭間で不規則に鳴っている。


 カツカツ…………カツカツ…………。


 …………コツコツ…………コツコツ。


「…………」

「…………」


 ……ポケットの中にある例のペンダントをぎゅっと握り締める。


 言わなければならないのに……。


 村長からのリカード王国への配達依頼のこと。

 俺が店を離れてリカード王国へ行ってもいいのかということ。


「…………。…………あ」

「…………」



 …………。



 右手で頬を掻く。


「…………。……。……あ、あのさ」

「……。……? はい、なんですか?」

「……あ。え、っと……」


 分かっているのに。


「えっと…………」

「……。何か、お話ですか……?」

「……あ、いや……その……」


 左手で後ろ頭をさする。



 …………。



「…………」

「…………。……………………」


 ナディアさんも一緒に連れて行っていいのかということ。

 ルミーネからの配達依頼もあること。


 ……言わなければ、ならないのに。


 ぎゅっと、ペンダントを握り締めていた手の力が、段々と、抜けていく……。


「…………」

「…………」


 コツコツ…………コツコツ…………。


 …………カツカツ…………カツカツ。


 コツコツ、カツカツと……皿に食器が当たる音が、無音の狭間で不規則に鳴っていた。

 ――カタン、とフランカが席を立った。


「…………」


 温白色の光が落ちる食卓に、フランカが持っていった大きな寸胴の鍋は無くなっていて……白い湯気が立ち上っていた皿からは、もう、温もりは消えていた。


 美味しいそれを、俺は大好きなはずなのに……一口食べると、むしろ嫌いになりそうだった。

 フランカの手料理の中でも、絶品に入る料理の一つのはずなのに。

 とろ~りとした、濃厚なクリームの味わいも。

 ゴツゴツとした、野菜や肉の歯ごたえも。何も感じないまま……。


 今日の夕食は、あまりにも暗い影を落として終わった。



経過途中の感想も知りたいので、最新話をお読みになられた方は、是非お気軽にコメントなどを「感想」として残してくださると幸いです。

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