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異世界道中のお道具屋さん  作者: 一色創
第二章  リカード王国滞在記
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第41話 『夕暮れ模様:そして響く。』

こういうシーンを書くのは、やっぱり少し苦手だったりする。。

 元気だった。


 午後の営業が始まって以降も、フランカはずっと元気だった。

 ――午後に来訪した客人は計九人。

 その“九人”全て――もっと言えば午前も含めて――に、いつもと変わらず、明るく屈託のない笑みを添えて応対していた。


 別にじろじろと観察するように彼女を見ていたわけではないが、活気溢れる声を聞く限り、少なくとも俺が懸念けねんしているような不安は微塵みじんも感じられない。



『ところで、フランカはあれから達者にしているかい?』



 やはり分からない……。

 どうしてあの時、俺は言葉を詰まらせてしまったのだろうか。



『――君が、あの子の良心になってやれ』



 これもそうだ。――いやしかし、こっちの方は意味がまるでよく分からない。

 なぜナディアさんは、そんなことをあのタイミングで俺に言ってきたのか……。

 声音も平生の気軽な調子とは打って変わって、どこか真剣味を帯びていた気がしなくもないし……。


「…………」


 良心? “良心”とはすなわち、物事の善悪や正邪を判断する精神のことだ。

 俺がフランカのそれになるということは……逆に言えば、フランカがその良心とやらを欠いている、あるいはこれから欠くということになるが……。


「……」


 梯子はしごを上った吹き抜けの二階にて、品数が不足している雑貨の補充をしようと備品を確認していた俺は、階下にいるフランカを一瞥いちべつする。


 丁度、フランカ特製のコヒノコを堪能していた貴婦人との世間話に決着がついたのか、今度は親子連れの客人の接待をしようと慌ただしく動いていた。

 ちなみに、俺が今補充しようとしている雑貨は、その親子連れの客人が注文した雑貨も含まれている。


「んなわけないよなぁ……」


 ため息交じりにぼやき、手早く雑貨を手に取ると、俺は足元に注意しながら梯子を下りていく。


 そして足が床面に着いた時、フランカと親子連れの客人もカウンター前へとやって来た。


「ねぇちょっと、いつまで人を待たせる気?」

「す、すみません……! 直ぐにお品物の包装と会計に移りますので……!」

「ハァ……。早くしてよね」


 見たところ、こちらも毎度の如く談笑に花を咲かせていた――とはいかず、珍しく険悪な雰囲気がただよっている。


 フランカが頭を下げている相手は、口元をムッと“へ”の字に曲げ、額に三本ほどシワを寄せている気難しそうな『人間種』の女性だ。

 外見的に特筆するような派手さは無いものの、しかし若干鋭い目付きと薄黒い目尻、それとその表情筋が強張ったような顔貌がんぼうはどこか印象的に映えた。

 ……と、一方の少女こどもは何やら内気なのか、母親の服の陰に身をひそめてもじもじと落ち着かない様子でいる。


「…………」

「……?」


 視線を感じて顔を上げると、母親と目が合った。やはり相手を身構えさせるような鋭い眼光だ。

 しかし射殺すまでには至っていない。そういう眼差しというのは、例えば“あの日”のルミーネのような“眼”のことを言うのである。


 どうも俺にとってこの母親の眼差しは、敢えて言うなら恣意しい的に向けられているものではなく、無意識な自然体として表出しているものだと思えるのである。

 だからと言って危機感を覚えないわけではないが、俺が目をらさずに小首をかしげることができる理由はつまりそういうことだ。


「……っ」


 が、目を逸らされた。同時に、何か物申そうとしていたのか、薄く開きかけていた口元もきゅっと引き結ばれた。

 ……そんな横向きの目付きは、さらに険しいものへと変化していた。


「ユ、ユウさんっ! 何をボーっとしてるんですか。早くお客様のお品物を包装してください!」


 会計をしようと、少し慌て気味に硬貨の枚数を数えていたフランカに力強く袖を引っ張られたことで我に返る。


「えっ? あ、ああ……悪い。そうだな」


 間抜けな声がうっかり漏れ出てしまった。

 俺は膝を折ると、直ぐにカウンターの下から包装紙を引っ張り出してくる。



「…………チッ。ボサッとしてるなよ……」



「…………」


 そんな声が、頭上から降ってきたような気がした……。

 そう、でも“気がした”だけに過ぎない。


 だから俺は立ち上がると、カウンターに包装紙を広げ、雑貨をいつも通りの手順で包装しようと試みる。――が、


「え……ちょっ、ちょっと待ってくださいユウさん! そ、それって本当にお客様がご注文なされたお品物ですか……!?」


 フランカが大声で待ったをかけたのは、俺が『ピポナッツ・グレイス』という、この世界においては化粧品の“香水”に該当するモノを包装しようとしていた時だった。


「は、えっ……? 『ピポナッツ・グレイス』、だろ? 香水の。二階の戸棚の左奥から三番目って……」

「違いますよっ!! 確かに場所はそう言いましたが、お客様がご注文なされたのは“グレイス”の方ではなく、『ピポナッツ・リリルケ』の方です! ほら、“グレイス”は中身が紫色じゃないですか! “リリルケ”は黄色で、容器もこれより一回り小さいはずです! 私、きちんと伝えたはずなんですけど……」


 身振り手振りも交えて必死に説明してくれるフランカ。

 彼女にしては珍しいその気迫に俺は鼻白み、思わず頭を掻いてしまう。


「え、いやぁ……そうだったか? 俺の聞き間違いだったのかな……」

「なっ……私が間違えたって言うんですか!?」

「ち、違ぇよ。そうは言ってないだろ。落ち着けってフランカ……」

「私は十分落ち着いてますっ! 落ち着くべきなのはむしろユウさんの方です! 普段ならそんな些細ささいな不注意なんて絶対にしないはずなのに……。それに、時たまボーっとしてることも多くなりましたし……と、とにかく、最近のユウさんは何か変です……!」

「は……そ、そんなこと言ったらお前だって――!」



「――いい加減にしてちょうだい」



「「!!」」


 空気が震え、張り詰めた。


 正に横槍よこやりで突き刺すような鋭い一声が、俺たちの会話を中断させる。

 俺とフランカの顔はほぼ反射的に声の主――客人の女性へと向けられた。


 女性はそんな俺たちの表情を交互に見比べると、「ハァ…………」と心底呆れたように首を振り、指でこめかみをなぞった。

 そして、


「ハァ……。あなたたち、売る気あるわけ?」


 もう一度嘆息を交えると、開口一番に女性はそう言った。


「そうね。私は別に自営して店を構えた経験なんて今まで一度だってなかったし、普段から商売を生業なりわいとしているわけでもないから……あまり大きいことは言えない。これは、ただの意地の悪い客の苦情の一つに過ぎないわ。でもね……そんな“ド”のつく素人でも目に余るのよ。あなたたち二人の接客が」

「……!」

「…………」


 見た目に反して、静かに、それでいて雄弁に言葉を語りつむぐ女性。

 頭ごなしの説教を喰らう覚悟を固めていただけに、俺はある意味で拍子抜けし、フランカと共に素直に口をつぐんで耳を傾けることにした。


「まず、私たちが入店してきた時点でロクな挨拶も寄越さなかった……まぁ、してなかったわけじゃないから、これはまだ許せるわ。――けれど、そこからは一体何? 散々人を待たせるわ、注文した品物を取り違えるわ、挙句の果てにはお互いに責任の泥を被せ合うように喧嘩を始めるわ……。客を前にしているにもかかわらず。……呆れて物が言えなくなるのも当然よね?」

「そ、そんな……! 私たちが責任を押し付け合うなんてことは――」

「言い訳なんてするんじゃあないわよっ!!」


 バン!! と女性が平手でカウンターを強く叩いた。


「ひっ――!」


 フランカは突然の大きな音に驚いたのか、ビクッと身体を強張らせ、一歩後退した。


「……?」


 左肩が若干ながら下がった。

 加えて尻尾の先がかかとに当たる感触と、袖に何かが引っかかっている違和感を覚え、俺は左下を見やる。


 ――二本の指だった。

 正体は、女性から見えない位置で俺の袖を小さく摘まんでいるフランカの指だった。それの振動が小刻みに全身へと伝わってくる。


 ピクリ、と無意識に左のまぶた痙攣けいれんする。


 結局また“コレ”かよ……。


 俺はフランカに掴まれていない方の右手で後ろ頭を掻く。

 そんな俺たちの内心など知る由もない女性は、不平の熱を飛ばし続けた。


「理由があるのなら納得できたわ……待たされたことに関して言えばね。そこのお嬢さんが『後で対応しますので』と繰り返していた理由が、例えばあそこの椅子に腰掛けているご婦人との商談を先に済ませるためだとかね」

「…………」

「さて、蓋を開けてみたらどうかしら……。何ですって? “談笑”? ――フッ。ふざけるのも大概にしてほしいわ。人様ひとさまの貴重な時間を何だと思ってるのかしら。それともあなたたちの目には、私が昼下がりに呑気に買い物をたしなんでいる暇人にでも映っていたのかしら? え?」


 問いかけに、無論俺たちは正否などを答えられるはずもなく、沈黙が背中に重くのしかかってくる。


 その時、俺の袖からほんの小さな重みが消失した。

 左下を見やると、フランカが未だ戦慄わななく両手を前で重ね合わせ、そんな臆病な自分を叱咤するようにギュッと力を込めていた。


 口元が縦に、横にと動き、引き結ばれた後――フランカは失われた一歩を取り戻そうとした。


「……。ご、ご不快な思いをさせてしまい……大変、申し訳ありませんでした…………」


 ペコリ、と頭を下げた。

 謝罪の意の度合いを表現するためか、フランカは深く深くこうべを垂れていた。

 その時なぜか、俺はそんなフランカをただ呆然と隣で眺めていることしかできなかった。


 そして、ある程度予測していたことではあるが、丁重な謝罪に対して女性が満足するはずもなく……。

 フン、と軽く鼻を鳴らしただけだった。


「別に私は謝ってほしいわけじゃないの……。ていうか、そもそも謝るぐらいだったら、最初からそんなことしないでちょうだい」

「はい……。申し訳ありませんでした……」


 女性にそう言われ、フランカは頭をそのままに、再度謝罪を行った。


「…………」


 俺は……今、俺の心中は不思議な感覚を得ていた。

 俺は今どうするべきなのか、何をするべきなのかがまるで分からなかった。頭の中も真っ白だった。


 ……ただ。

 それらの白紙の上に紅一点――赤い水滴が滴り落ち、たった一つのとある感情に染め上げた。


 感情……それは止めようと思っても止められない類のものだった――。


「――――!」


 キッ、と顔を上げた――



「お、お母さん……! もう、止めてよ……」



 が。

 その直前、女性の服の陰に隠れていた少女が、女性の服を小さく引っ張りながら弱々しい声音でそう訴えた。


「イーシャは黙ってなさい」


 けれど、その甲斐虚しく……。

 女性はピシャリと少女の発言をさえぎった。


「……?」

「……!」


 ――と、その時。

 たまたま俺と女性の視線が、再び合ってしまった。

 ただでさえ鋭い目付きがさらに歪む様子が、ありありと見て取れた。


「……なに睨んでるのよ、あなた」

「……へ? いや別に、俺は睨んでなんか……」


 女性の口から意外な言葉が飛び出たことに、俺は驚きを隠せなかった。

 そんな戸惑い気味の俺を他所よそに、女性は一歩前へ足を踏み出し、威嚇いかくするかのようにクイとあごを持ち上げると、こちらを改めて睨み据えた。


「何も分かってなさそうだから、一応言っておくわ。私のこのどうにもぶつけようのない苛立ちを生み出している根本的な要因を……! 確かに、お嬢さんもその一部には含まれているわ。でもね……大半を占めているのはあなたなのよ! そうよ、“あなた”よ“あ・な・た”!!」


 ここへ来て、女性の口調が一段と強いものになった。

 さらに言葉と同調するように、俺に向けられていた女性の指が三度うなる。

 頭の中がぼんやりとしていたこともあるが、俺は女性の鬼気迫る形相――片目が歪んでいる――に言葉を失い、続く怒声に喉の奥を遮られた。


「お嬢さんがあそこで呑気に談笑していたのなら、どうしてあなたが代わりに応対してこなかったのよっ! 私が注文した商品をさっさと持って来ていたならまだしも……見たところ、あなたはそこの二階でちんたら商品の補充をしていたか、ボーっと突っ立ていただけじゃない! ……いいえ、それだけじゃあないわ。それに加えて、結局取りに行っていた私の商品を取り間違えてくるこの始末……! 客を舐め腐ってるにも限度ってものがあるわ……!」

「お、お客様……少し落ち着いてください」

「逆になんであなたはそんなに落ち着いていわれるわけ!? 自分のせいで今こういう現状になっているってことが、まだ理解できていないのかしら!?」

「…………」


 息巻く、というのはこういう状態のことを指すのだろうか。

 女性は興奮しきっており、まともに俺の言葉を受け取ろうとしない。


 ……面倒臭いことになってきたな。


 以前にもこういった、苦情クレームを挟む客人が来訪したことは何度かある。彼らは決まって我欲の赴くまま、主義主張を前面に押し出すだけだった。

 どこにでもいるのだ。異世界の、しかも『LIBERAリーベラ』というこれ以上ないぐらいの安らぎと笑顔に満ち溢れた職場においてさえも。

 そしてそういう時、俺は決まって――


『あはぁ、そうですよね~。お客様の言う通りでございます。誠に誠に、大変申し訳ございませんでした。以後、こういうことのないよう留意致しますので、今後ともご愛顧くださいませ!』


 ……などと、張り付けられたような笑みを添えて、なるたけ客人の琴線に触れないよう、臨機応変に対応していた。

 できていたのだ。これまでのコンビニバイトでも、少し前までの『LIBERAリーベラ』でも。

 が、


「…………」


 今はそう言えないでいた。

 幾度となく口にし、もはや思い出さずとも勝手に口から飛び出ていたその言葉を、俺は言えないでいた。

 ……いや、客人を否定できないでいたのだ。


 そして答えられない理由もなんとなく分かっていた。

 それは、女性が正論を言っているからだった。

 ただの感情任せに吐き散らかす暴論ではなく、きちんと理にかなった忠言クレームを。


 それに、理由はそれだけではない気もしていた……。


 …………。


「……っ。もういいわ」

「えっ……?」


 俺が女性の言葉に何も返せないでいると、女性はため息交じりにそう言った。


「時間の無駄だと言っているのよ。こっちはあなたたちみたいな体たらくにいつまでも付き合えるほど暇じゃないって、さっきも言ったでしょう。――ほら、さっさと商品を渡しなさいな」


 片手を前に差し出し、クイクイと、女性は気怠けだるそうに商品の授受を要求する。

 それに対し、ハッと真っ先に我に返ったのはフランカだった。「す、すぐにお持ちいたします……!」と、吹き抜けの二階へ通ずる梯子を駆け上り、本来女性が注文していた『ピポナッツ・リリルケ』を手に取ると、これまた梯子を飛び降りるような勢いで戻ってきた。


「包装……!」

「ッ!」


 そこで俺もようやく我に返った。

 カウンターを陣取っていた“グレイス”を端に退け、代わりに手渡された“リリルケ”の方をいつも通りの手順で包装していく。けれどどうしてか、焦りから急いで包装しているにもかかわらず、内心では丁寧さを心掛けていた。……よく見ると手がかすかに震えていた。


 俺がそうしている間、フランカと女性は金銭のやり取りをしていたようで、偶然にも完了したタイミングが同時だったようだ。


「…………。……フン」


 そして、女性は俺の手からひったくるように商品の入った袋を受け取ると、背を向け、


「評判が良いからと来てみれば……ウワサとはえらく違ったものね。――二度と来ないわ」


 最後に俺とフランカに鋭い一瞥をくれ、生唾を吐き捨てるような物言いで心を冷たく刺すと、肩で風を切りながら店を後にしようとした。


「大変、申し訳ありませんでした……」

「…………」


 フランカは、そうやって頭を下げ、女性の背中にいつまでも謝罪の意を表明し続けていた。見るはずもない、受け取るはずもない、謝罪の意を……。フランカは止めようとしなかった。


「ふ、フランカ……もう――」

「ユウさんも謝ってください」


 とても見ていられなかったので、フランカに声をかけたところ、フランカは下げた頭をそのままに、俺にそう指示をした。

 言葉を遮られ、いささか強く言い返された俺は戸惑い、


「い、いや……でも、フランカ……。もうそれぐらいに――」


「――――謝ってください!!」


「――ッ!」


 今度は完全に遮られたどころか、巨大ないかずちを脳天から落とされた。

 ビクッ!! と全身が強張り、強く震えていることを俺は理解する。

 そして何物も、今この気迫の前では従順な下僕に成り下がるしかないことを、俺は本能で悟った。


 嵐の去った後のような、まだ激動の尾を引く静寂が、一瞬ではあったが一帯を支配していた……。


 ――やがて、


「……お願いしますから……ユウさんも、謝ってください……。…………お願い、しますから……」


 普段の彼女からは想像もつかない、消え入りそうなか細い声だった。

 歯噛みし、一時は理性との葛藤があったものの、結局“本能”にかなうはずはなかった。


 フランカにならい、俺も直立した状態で身体を正面に向けると、ゆっくりと頭を下げていく。

 地面がこれほどまでに遅く近付いてくる感覚は、初めてのものだった。



「……。……誠に……申し訳、ありませんでした…………」



 腹の奥底から絞り出すようにして、俺は謝罪を述べた。

 身体の横の拳が、無意識に固くなっていた。


 それから、俺とフランカはしばらく頭を下げたままでいた。

 カランカラン! という店を後にした合図が聞こえたような気もするが、フランカも俺も頭を上げることはなかった。

 いつまでこのままでいればいいのか、という無粋な疑問も、とうとう起きる気配を見せなかった。



「「……………………」」



 すると、


「あ、あの……」

「「――!」」


 か細くはあるが、フランカの先程の声質とはまた違う、気弱な声が随分と鮮明に俺たちの耳へ届いた。

 俺とフランカがほぼ同時にハッと顔を上げると――そこにいたのは、先程の女性の同伴者であり、女性の服の陰でじっと身を潜めていた、例の内気な少女だった。

 名前は確か……そう、『イーシャ』と言ったか。


「ど、どうしたんですか……? お母様は、もうお店の外へ行かれましたよ?」


 驚きはするものの、直ぐに柔和にゅうわな口調でやんわりと対応するフランカ。

 膝を曲げ、少女の目線に合わせてあげていた。


「あっ、えっとその……あの……」


 やはり内気なのか、フランカの顔が一気に近付くと、頬を少し赤らめてうつむくイーシャ。

 言葉を選んでいるのか、両の手の指を交差させ、もじもじと落ち着かない様子でいる。


 一体何なんだ……?


 俺とフランカは、おそらく同じ疑問を抱いていた。

 それは、フランカが俺の方へ振り向き、困った顔で見つめてきたから分かることだった。

『何も分からない』という意味合いを込め、俺は静かにかぶりを振った。


 間もなくして、イーシャは口を“ヘ”の字に曲げると、フランカを見据え直した。

 俺たちがその表情にギョッとしているのも束の間、次にイーシャは片足を一歩ずつ後ろへ引いた。

 そして、口からわずかに息を吸い込むと――



「ご、ごめんなさい! お母さんを、ゆるしてあげてください……!!」



 全力で謝られた。


次回はそれほど遅くならないと思います。

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