第31話 『トラウマ』
ここから、第二章の開幕です。
※半年と二ヶ月ぶりに帰って来ました。
ただ一言だけ言わせてください。
お待たせしました。
『一つ、君に忠告しておこう』
――暗い、闇の底へ落ちていた。
『フランカ――――あの小娘と関わるな』
暗く、深い……そこはとても冷たい場所だった。
そう、例えるなら水の中で、しかしそんなに良いものではなかった。
『――――お前が“異端”だからに決まっているだろ』
……息苦しかった。
そこに陽の光は無く、また自分以外誰もいない、寂しい場所でもあったから。
そんな静かな場所を、ただゆっくりと……落ちていた。
『解せんな。お前があの小娘に固執していることが』
そこでは自分は、一つの泡沫に過ぎなかった。
見ることも聞くことも話すこともできない、ただそこに存在するだけの感覚。
仲間はいた。でも、他のみんなは自分とは少し違う。そのことに、しばらくして気が付いた。
自分の身体の周囲から絶え間なく溢れ出す同胞は、自分を置き去りに天上へと昇っていく。
笑うこともなければ泣くことも、あるいは怒る表情なんて一つもなく……。
『相手もお前のことを“信頼している”と、なぜそう言い切れる?』
その先に何があるのかなんて知らずに、次々に昇っていく。まるでそれが、生まれた時に与えらえた使命であるかのように。
ぷかぷか浮かび、ゆらゆら揺れて、闇に吸い込まれ――消えた。
『――お前は、己が“異界人”であると、そういう“異端”の存在であるということを、いつしか忘れてしまったのではないか?』
自分も興味本位で、手を伸ばしてみようとはした。だが無理だった。
なぜなら自分には、元々伸ばすための手足が無かったからだ。
だから、こうして身動きせず重力に従い、一人落ちざるを得なかった。
『――――ところで、君は一体誰なんだ』
誰かが……囁いていた。
聞こえるはずのない声で、自分に語りかけていた。
『――――君は、どこから来たんだ』
……いや、もしかするとこれは声ではなく、“思考”なのかもしれない。
耳で直接音を拾っているのではなく、脳内の“意識”が思考を呼び寄せている。
だからこんなにも鮮明に、はっきりと響いているのだ。
『――――君は、この世界に何を望む……?』
でも、声の内容は不明瞭で、何を言っているのか全然分からなかった。
ただ少しだけ、少しだけ……怖かった。
『…………これが最後の忠告だ。――後悔するぞ、この選択にお前は。必ず』
音も無く。
『…………そうか。なら――――』
声は最後に一言だけ、こう告げた――。
『――――死んでくれないか』
「うわァああああああああ――――ッ!!」
ガララララララッ!! というけたたましい音を耳にして――。
俺は目が覚めた。
「…………っ」
鼻から大きく息を吸い込んで、手を握って。
俺は“自分”という存在を知る。
「……夢、か」
そして、もう一度手を握って。
俺は“俺”という存在を確認する。
――糸場有。
“普通”であるが故に“普通”を嫌う、勉強も運動も顔も普通の、自他共に認める凡人大学生。
そんな“普通”過ぎる自分を変えるべく約半年前に始めたプロジェクト――通称『OIY計画』によって、深夜のコンビニバイトと二次元だけが生き甲斐となり、大学生満喫ライフをまあまあエンジョイしていた。
……が、いつものようにバイトをしていたある日のこと。俺は……なんかよく分からんが凝り固まった体をほぐそうと伸びをしていた最中に異世界へと転移してしまい、そこで雑貨という雑貨に溢れ珍妙な雰囲気を醸し出す雑貨店・『LIBERA』と、その『LIBERA』の第百代目店主こと我が愛しのマイエンジェル――フランカ=バーニーメープルと出会った。
それから一ヶ月……この異世界について勉強したり、初級魔術・『指火』を習得したりしつつ、“店員見習い”として雑貨店の雑務や配達に明け暮れる日々を過ごし、そして一週間ほど前にようやく“雑貨店店員”としてフランカに認められ、フランカと一緒にキャッキャウフフな異世界雑貨店生活を送っていた。
送っていた、はずだった…………あの日までは。
「…………」
思考はそこで途切れた。
なぜなら、ひんやりとした冷気が肌に纏わりついている違和感に気付いたからだ。
「ここは、どこだ……?」
ガララララララッ!! という騒音は未だ止んでおらず、鼓膜を激しく叩いている。
視界一帯は冷たい闇に覆われていた。元々目があまり良くないのもあるが、それでも現状を把握するのに、この闇はあまりにも重々しいものだった。全てのモノを不明瞭にし、よもや俺の目から光そのものを奪うような……そんな無慈悲。
現時点で分かるのは、先程体感していた、あの落ちていく感覚のみ。
しかし一つ違うのは、今度は背中ではなく足の裏という点である。
足の裏に取り付けられたN極が、闇の底に落っことしたS極に導かれるように、一定の速度で真っ直ぐそこへ向かっていく。
思わず魂が抜け出てしまいそうなその感覚が、どうも気持ち悪かった。
――ふと、赤い灯が一つ、下から上へ縦断した。
また、そいつのおかげで一瞬間明るく照らされた俺の視界に映り込んだのは、直径十メ―トル程の四角い木柱。
そして、その木柱に彫られていたのは数字――『9』
「……地下倉庫」
一目見て、即座に脳が理解した。
――地下十四階まで広がる『LIBERA』の地下倉庫。
身に覚えのある場所で、来たことも何度もある。
おそらくそこで間違いなかった。
そうして現況が分かると、この空間の空気が段々と肌に馴染んでくる。
つまり、俺は地下倉庫の木製エレベーターに乗って下降していたのだ。
この『LIBERA』の地下倉庫を移動するには、まず今乗っている“木製エレベーター(『ファクトリー』にあるやつとは少し違う)”に乗り、それから予め行きたい階層を宣告し、エレベーター横に取り付けられてある緑のツタと銀のベルを同時に引っ張って鳴らすことで、作動する仕組みになっているのだが……はて俺は一体何階を指定したのだったか。
それに――
「俺はなんで、こんな所にいるんだ……?」
今一度記憶を掘り返してみても、いまいち判然としないものだった。
――何の目的で地下倉庫へと赴いたのか。
地下倉庫に来るとすれば、とりわけ欲しい物とか急を要するので必要な物などを取り揃える時だけだし、店内の雑貨の備品は、今日中に既に調整済みのはずだ。
そもそもよく思い返してみると、俺はとっくに寝たはずだった。
今日も雑貨店での業務を終え、若干筋トレをし、フランカの作る夕飯に舌鼓を打ち、風呂に入り、フランカに愛の投げキッスを送ってから自室へ戻り、アフィス・モーゲルの童話集を読み進め、欠伸をしたところでカンテラの火を消し、明日への希望を抱きつつ寝床に入った……はずだ。
「11…………12……って、どんどん下がってるな」
そうしている間にも、木製エレベーターは沈黙を保ったまま下降する。
俺も手を引かれて連れられるような感覚を携え、共に落ちていく。
……幾つか不思議なこともあった。
まず、仕事場での作業着――『ヤブン・ヨレブン』の制服を着ていること。当然のことかもしれないが、俺は寝る時にはきちんと寝間着に着替えて寝ている。業務を終え、さらには就寝時であるこんな時間帯に、頭の天辺から足の爪先までフル装備の正装でいることはまず有り得ない。
それともう一つ。俺が立ったまま寝ていたことだ。床に倒れていたとか、どちらかの方向に傾いていたとかではなく、作為的なまでに真っ直ぐな姿勢と均整の取れた足幅で。エレベーターの中央――正方形の床の中心点――にいることを付け加えると、それはもはや神様の悪戯と相違ない。
それに俺は、“立って寝る”などという器用な芸当ができる人間ではない。
この奇妙な不自然さに、ジワっと掌に嫌な汗が滲み出てきた。
汗がひんやりとした外気に触れ、触れたことで……全身がやや汗ばんでいたことに初めて気が付いた。
そして、
「!」
今し方、気付いたことがもう一つ。
――本来エレベーターに乗る際に引っ張られて長く伸びているはずの緑のツタが……伸びていなかった。
ということは、つまり――
「自動で、動いてる……?」
まさか、そんなはずは、と。
口には出したものの、頭ではその荒唐無稽な仮説を否定しようとしている自分がいる。だが実際、目の前で起きている出来事は疑いようのない事実で……。
途端に全身が総毛立ち、背筋に薄ら寒いものが走った。
――これではまるで、エレベーター自身が意思を持って動いているみたいではないか。
しかし幾ら事の真相を尋ねようにも、堅牢な彼の“口”を探そうとするのは非常に困難を極め、妥協点を見い出すにしても、小さな籠の中の木目ぐらいだろう。仮に意思が宿っていたとしても、どうやら勝手が良いわけではないらしい。
「…………」
そう考えると、彼もまた俺と同様、何かに導かれているのだろうか。その先に何があるとも知らずに。
ただなんとなく、たった今縦断した――意識が戻ってから数えて――五つ目の火の灯が縦断する前に、俺はどこへ向かっているのか、薄々感付き始めていた。
「――――」
なぜこういう時に限って予感は当たるのか、眼前の景観がガラリと一変した。
階層番号を示す木柱も、等間隔を空けて規則的に並んでいた火の灯も消え失せ、視界は再び冷たい闇一色に覆われる。心なしか、闇の色が一層濃くなったような気がした。
ここから先は、未知の世界だ。
それでもやはり、彼は一言も喋らないまま無感情な“木製エレベーター”に成りすまし、俺を闇の底へと誘う――――。
――――チーン……と。
場にそぐわない軽やかなベル音が周囲に反響した。
その音に心臓の拍動が早まるも、すぐに平生さを取り戻した俺は、木製エレベーターからおもむろに降り立った。
「ゲホッ、ゲホッ、埃くさ……っ」
すると、ポッと、真横の壁面に取り付けられていたであろうウォールランプ(みたいなやつ)の微弱な灯りが二つ、点灯した。
これは、先程木製エレベーターに乗っていた俺の視界を時々縦断していたやつと同じものだ。けれど、この灯りだけはどこか弱々しい。何年も笑顔の作り方を忘れていた人が見せる笑顔……と形容できるだろうか。
よく見てみると、灯りを包む入れ物自体が随分と埃を被っている。長年、誰も訪れていなかった証拠だ。
その微弱な灯りは俺の周辺を仄かに照らし出し、また壁面に刻まれていた数字を克明なものにした。
――『14』。
ここは、『LIBERA』の地下倉庫――その最下層である。
俺が地下倉庫内で今まで立ち入ったことのない唯一の場所。フランカに地下倉庫を初めて案内された時に『ここだけは立ち入り禁止になってるので、くれぐれも近付かないようにお願いします』と注意を促された場所でもある。
当時のフランカが妙に真剣さを帯びた表情でそう言ったこともあってか、好奇心旺盛な俺でもなぜかあまり興味をそそられず、一ヶ月経った今日まで一度も立ち入ったことはない。
要するに、ここはそういう場所なのだ。
「でも、一体何があるんだ? 見たところ何も無さそうだが……」
俺は小首を傾げつつ、そろそろ暗闇に順応してきた目で辺り一帯に視線を配る。声は木製エレベーターのベル音と同じく、いやに反響した。
――天井と左右は無機質な鉛色の石を敷き詰めた壁面、それと似通った構造で造られたであろう深藍色の石を敷き詰めた床。
しばらくして掴んだ景観には、たったそれだけしか映っていなかった。俺が今いるのは、それらで取り囲まれて形成された、人一人が少し余裕を持って動ける程度の空間である。
が、やがて俺は視界の先に新たな発見をする。
「……?」
――一つの木製トロッコと、一本の線路。
他のと比べて年季が入っていることを除けば、それは地下倉庫内の各階に配置されているのと全く同じものだった。
「…………」
逡巡するも、そちらに歩みを進める。
カツン、カツン……という甲高い靴音が未知の世界への不安を増長させ、後ろめたさを覚えた。
と、トロッコとの距離がほんの数メートルまで縮まったその時――ポッ、とトロッコに予め取り付けられていた灯りが、これまた覇気に欠ける挨拶をこちらに寄越す。
「てか、これってちゃんと作動するのか?」
俺はトロッコを軽く小突いてみたり、膝を折ってしゃがみ車輪や線路の状態を一通り確認してみる。
所々錆び付いてはいたものの、存外まだ稼動しそうだ。
そしてゆっくりと視線を、丁度線路の端から端へなぞるように持ち上げると、前方に茫漠たる闇が口を開いて待っていた。
先程からの音の反響具合で大体予想は付いていたが、今目視できている線路の先はどうも途方がない長さみたいだ。少なくとも鬱屈とするような、安易に行って帰れるほどの旅路ではないらしい。
特にその先へ赴く理由も無く、ましてや危険の伴う未知の世界なんぞ、実はホラー耐性皆無の普段の俺であれば秒で引き返しているところだが、
「はぁ……」
なぜか身体はこの先を催促し、欲している。『ファルシェの呪符』の時みたく、“未知”という名の魔力が放つ魅惑的な何かに惹き付けられるように。
この世界は、俺に少々冷たかったりする。
「…………ッ」
ゴクリ、と。生唾を飲み込み――。
俺はトロッコに乗り込んだ。
カッタン、コットン、と揺られ続け、あれからどれぐらい経っただろうか……。
体感時間で言えば、かなりこうして長く揺られ続けている気がする。途方もない長さというのは、いかんせん間違いではなかったようだ。
というよりこのトロッコ、他の各階に設けられている暴走トロッコに比べ、非常に穏やかな安全走行を心掛けている。本当に同じトロッコなのか? と疑わずにはいられないほど、快適な列車旅行を俺に提供してくれていた。
故に現在、危うくトロッコの中で眠ってしまいそうな安心感が俺を包み込んでいる。
「まぁこんだけの長旅なんだから、この際寝ちゃっても良いのかもしれんが……でもやっぱ何が起きるか分からねぇ所だし、万が一睡眠中に脱線事故なんて起こされたらたまんねぇしな……。ゲロねむだが、起きとくのに越したことはないだろ」
そう結論付け、トロッコが発車してからずっと起きてはいたのだが、代わり映えの無い景観が延々と続いていると流石に飽きてくるもので、
「なーんか起きねぇかなあ……」
トロッコ発車当初の感情とは矛盾した感情が芽生え始め――。
――――音を耳にした。
「ん……?」
その“音”というのは、ただの音ではなく……いわゆる“音楽”だった。
それもオルゴール調の優しいメロディーで、未だ最果ての見えぬ闇の先端より微かに漏れ聞こえてくる。
俺の心臓が一瞬飛び跳ね、驚きに目を見開いた。眠気なぞたちまちにして吹き飛んだ。なぜならそれは――
「――『LIBERA』の、オルゴール……」
朝の開店、昼休憩、そして夕方の閉店と、一日に三回鳴る仕組みになっている『LIBERA』のオルゴール。
いつも決まった時間が来れば店内全域に鳴り渡り、異世界に一ヶ月滞在している俺もすっかりと耳に馴染んだ、あのラプソディ調の緩やかな音色。
それが今正しく、未知の演奏者の手によって奏でられている。あの音色が、いつもの音調を全く変えずに、柔らかく俺を抱擁している――。
「なん、で、この音が……?」
慈母の抱擁を寛容しつつも、俺の脳内は軽いパニックに陥り、瞬時に疑問符の山で埋め尽くされた。
しかしそうしている間にも、トロッコは一定の速度で走行し続け、またオルゴールの音色は徐々に闇へと溶け込み、空間を満たした。
徐々に音は大きくなっていく。
そして、
「――――!」
カッタン、コットン、カッタン、コットン……キィィーー…………と。
掠れた悲鳴を上げ、トロッコは停止した。
ポッ、と二つ。
出発地点の時と同様、二つの灯りが前方で点灯したことが分かると、俺は恐る恐る顔を上げた。
するとそこには、
「?」
――古びた木製の扉が一枚。それ以外は何も無かった。
「……これだけ、なのか?」
俺はトロッコから降りた。出発地点にも増して、ここは一段と埃臭かった。
ぐるっと周辺を見渡し、最後に今来た道を振り返って一通り確認するも、本当に何も無い。ミニマリストもビックリの殺風景だ。
空間自体はさほど広くもなく、やはり人一人が余裕を持って動ける程度しかない。
オルゴールは相変わらず鳴り続けていた。……というか、
「この中からだ……」
視線を戻し、俺はその扉を睨め据える。
これまた随分と年季が入っている。オンボロさで比較するならば、トロッコと線路との差異はない。
銀の取っ手が一つ付いているだけの、どこにでもあるような実に簡素な扉だった。
――この中に、一体何があるんだ……?
ドクン、と心臓が跳ねた。
これは先程の驚愕とは違う。少し危うい好奇心だ。
――何が、待っているんだ……?
ドクン、ドクンと急激に加速しだす拍動を宥めるように、俺は一度大きく深呼吸する。
全身が、この中にある“何か”を知りたい、見たいと垂涎している。もはやこの虜からは、二度と脱せないとでも言わんばかりに。
――ドクン、ドクン、ドクン……。
ゴクリ、と。生唾を飲み込み――。
俺は、取っ手に手をかけた。
――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。
回そうと、ゆっくりと、手に力を込める。
――ドクン、ドクン、ドクン……!
右に、回していく。
――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……!
回り切ったところで、最後に扉を――――
――ドクン! ドクン! ドクン……!
押す――――
ドクン! ドクン! ドクン! ドクン……!
直前。
「……………………うさん」
「え――――?」
ポン、と。
誰かが俺の肩に手を置いた。
「…………ユ……さん……」
ピタリ、と俺は扉を開けようとしていた手を止め、
「さん……ユ………………ッ!」
ゆっくりと、背後を振り返り、そこにいたのは――――
「――――死ンデクレナイカ」
血一色で彩られた、ルミーネがこちらを……
「うわァああああああああ――――ッ!!」
カッと目を見開き、俺は飛び起きた。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
ドクン! ドクン! と荒立った拍動は冷静さを失い、俺は左胸を手で締め付けたまま激しい呼吸を繰り返す。
額から汗が幾つか滴り、眼前の白い布に小さなシミを形作った。
「ハァ…………ハァ…………」
何が起きたのかもいまいちよく分からず、肩で息をしたまま、俺はその場で呆然としていた。
すると、
「お、おはようございます……ユウさん」
今し方聞いたばかりの声が、俺の耳を撫でた。
声のする方へ、俺は顔を向ける。
「もう、開店時間……なん、ですけど…………」
――フランカだ。フランカが、そこにいた。
俺から距離を取った場所で尻餅をつき、丸々とした翡翠色の瞳を瞠目し、強張った表情で俺を見上げている。髪や衣服は少々乱れていた。
「…………っ」
もう一度視線を元に戻し、汗まみれの掌を見やる。
ギュッと、握ってみた。
「…………………………………………夢、か」
全身は、汗でびっしょりだった。
次回の更新はそんなに日を跨がないと思います。
あと、第二章のタイトルはもう少ししてから掲載しようと思います。