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異世界道中のお道具屋さん  作者: 一色創
第一章  普通でない日常の始まり
30/66

第27話 『夢から醒めて』

最初と後半の二回だけ、三人称視点に切り替わります。

 さかのぼること、今より少し前……。




 ――本日のお昼時。裸の太陽が南の空に高く昇っていた頃。

『リカード街道』の道中を、独りトボトボと歩く人影があった。


「あー……………………腹減った」


 ぐぅぅ~~~~!! と。


 人影はぼやき、それとほぼ同時に、そんな腹の虫独特の嬌声きょうせいが周辺に鳴り響く。

 その人物は、頭部をフードで覆い隠し、高身長の体躯全てを暗緑色のローブで包んでいるという珍妙な格好をしている輩で、片手で腹をさすりながら軽く項垂うなだれていた。

 額にはじんわりと汗がにじんでおり、傍目から見ると非常に暑苦しそうだった。


「あ~…………腹減ったなぁ」


 誰に喋りかけているわけでもなく……人影はまたもぼやくと、気怠けだるそうに頭を持ち上げて青天を仰ぎ、地にへばりついた両足をズルズルと引きるようにして歩く。


 そこは、『LIBERAリーベラ』からポルク村にかけての道のりの途上だった。

 道は幅に余裕のある一本道で、緩やかな左カーブを描きながら地の果てまで伸びている。

 またそれは、ほとんどの整備を自然に任したであろう、所々に凹凸おうとつが見受けられる粗雑な砂利道。けれど道端には、決して自ら存在を主張することはしない静淑せいしゅく可憐かれんな草花たちが、大地にしっかりと根を張り、たくましく生きていた。


 ハァ、と人影は晴れ晴れとした、空の底が突き抜けたような青天を恨めしく感じ、つのっていた鬱憤うっぷんを短い嘆息たんそくに変えた。


「……ポルク村の場所……。昨日イトバ君に聞いときゃよかった……」


 覇気の欠片かけらも無い声でそう言うと、人影は落としていた肩をさらに落とし、二度目の嘆息を――今度は自嘲も交えたものを盛大に漏らす。


 そうしてしばらくの間、人影はブラブラとあてもなく歩みを進め――ふと、視線を横に移し。

 そこで辺り一面に生彩鮮やかな田園風景が広がっているのを確認すると、「野菜? ……いや、穀物? 美味そうな色してるな。あれ食えるのかな」などと、いよいよ危うい思想に及び始める。

 が、しかし。万が一“略奪”などという行為に手を染めようものなら、それはわっちの沽券こけんに関わってしまう、と人影は口端より滴っていたよだれを服の袖で素早くぬぐった。


 実を言うとこの人物――ナディアという名を持つのっぽな女性は、中央大陸に存在する世界最大の王国・オーティマル王国に籍を置く、『魔術師』だった。


 ……とは言っても、実際には国や地域、または組織や派閥といった団体には一切属しておらず。

 だからナディアは、時たま素性を尋ねられた際に、自らを在野の“放浪魔術師”であると、そう名乗るようにいつも心掛けている。

 ちなみに、“放浪魔術師”というのは正式的な呼び名ではない。ナディアみたく魔術関連の仕事や役職にはつかず、世界各地をブラブラと放浪している魔術師のことを、ナディアと――その“同僚なかま”たちが『そんな風に呼称するんだろーなぁー』と勝手に命名し、好き勝手に自称しているだけである。


 ――けれど。

 今回、ナディアがこのセリウ大陸に降り立ったのには、一つの明確な、それでいて大きな目的があった。


 それは――“行方不明になった知人を探す”、ということ。


 そのために凡そ一ヶ月間、わざわざ中央大陸から無駄に広い『セリウ海』を一つ挟んだお隣の大陸――それも東のさらに東の片隅にまで遠路はるばる足を運び、この“知人探し”に協力しているもう一人の“同僚”と待ち合わせをする、はずだったのだが――


「ハァ…………。あいつはあいつでとっとと先行っちゃうし……それでこっちに着いたら着いたで、全財産盗まれて途端に一文無しになるわ、道を間違えるわ、変なオヤジに絡まれてバカにされるわ……」


 ブツブツブツブツと。

 おそらく無意識であろう、ナディアは陰鬱いんうつそうな様子でより前屈みになり、まるで息を吐くように小声で愚痴ぐちこぼす。

 ――と、今し方通った砂利道につまづきそうになり、数歩たたらを踏んだ。


「だけど。不幸中の幸いにも親切な尊老方に助けていただいて、非常に興味深くて面白い“地下鍛冶場”を見ることができた上に、あいつの情報も入手できたのに……。それなのに……ああ、どうしてこう、わっちというやつは…………」


 ブツブツブツブツと……。

 ナディアはさらに前屈みになり――ほとんどヘソを覗き込むような体勢で頭を抱えると、今し方彷徨い歩いてきた道程に愚痴を垂れ流し続ける。

 ぐぐぅ~~~~!! と、空腹の限界に耐えかねた腹の虫がそろそろお冠になってきた。


 そして、遂に――


「ンガアァ――――ッ!! も―っ! ここどこだよォ――ッ!! そんで『ポルク村』って一体どこにあんだよクソがァ――ッ!! つーか、それより半日以上歩き回ったせいで腹減ったあァァ――――ッ!!」


 ありとあらゆる感情が交錯こうさくし、い交ぜになっていた心境に、ナディアはとうとういたたまれず、爆発した。

 赤朽葉あかくちばの頭髪を両手でグシャグシャと乱暴に掻き乱し、今まで前屈みになっていた分だけ全力で体躯を反らすと、澄み切った青天に向かって本能の赴くままに咆哮ほうこうする。


 すると、その直後だった……。



 ――――ドゴォン!! と。



「――――ッ!?」


 唐突に鳴り響き、足元を駆け抜け――。

 大地が真っ二つに裂けた、と誰もが疑わずにはいられない、けたたましい轟音だった。


 そんなぼんやりとした意識を叩き起こすような衝撃に、ナディアは思わず肩を大きく震わすと、目をパチクリとしばたたかせ、息を呑む。

 自分の腹から絞り出した咆哮など蚊の鳴き声と同等に感じてしまうほど凄まじく、これはおそらく尋常でない“危険”をはらんでいそうだと、意識が完全に醒めていたナディアは直感的にそう悟った。


 何だ……。一体、何が起きた……?


 音源はどうも、左手の広闊こうかつな草原地帯の方からだった。

 ナディアは直ぐ様そちらへ振り向くなり、キョロキョロとあちこちに視線をくまなく行き渡らせる。

 しばし時を要し、そして、


「……!?」


 人間であるならばはっきりと目視できないような遠方の彼方に、ナディアは宙に薄く舞う砂煙と、草地から剣山のように突き出た幾多もの氷柱(?)と、大地を根こそぎひっぺがしたような、“えぐれた大地”を視認する。


 さらに、


「い、イトバ君……!?」


 その“抉れた大地”のかたわらで、ボロ雑巾の如く姿態で地に突っ伏していたのは、昨日ナディアが“地下鍛冶場”で出会い、親しくなった青年。


 ――なぜ今そんな所に……? ――どうしてそんな酷い姿に……? ――そもそも生命の安否は……?


 など、他にも突っ込める要素は満載なのだが……それよりも。

 その青年の眼前――丁度青年を上から見下ろすような形で佇立ちょりつしていた人物に、ナディアは驚愕を禁じ得ず、言葉を失いかけた。


「る、ルミーネ……ッ!!」


 それは、ナディアのよく知っている人物だった――いや、“よく知っている”などという間柄に収まる程度ではない。それ以上だ。

 なぜなら、彼女が正しく先述にあったナディアの“同僚”の“放浪魔術師”であり、このセリウ大陸で“行方不明の知人探し”を目的としている同士でもあったからだ。


 では、そんな彼女もまたなんでこんな所に、とナディアはいぶかしげに眉をひそめ、熟考じゅっこうし――――閃いた。

 ナディアには一つ、その答えに思い当たる節があったのだ。


 ――すると。

 ナディアが思案を巡らせていた一方で、その『ルミーネ』という人物は、地で仰向けに倒れてピクリとも動じない青年に背を向け、僅かに距離を取るとまた振り返り、静かに、片手を前にかざそうとする――。


 ……! あいつ、まさか――――ッ!!



 ヒュン! と。



 次の一瞬間で気付いた時にはもう、既にナディアの身体は頭で考えるより先に動いていて。


 突如巻き起こった一陣の疾風は、一瞬よりも早くと、目にも留まらぬ稲妻の如き迅速で此方こなたより消え去った。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「――――大丈夫かい? イトバ君」



「…………」


 眼前で、暗緑色のローブのすそがはためいていて――。

 それと同じく、血糊ちのりで重くなった俺の前髪も勢いよく掻き上げられた。


「…………」



 大丈夫? ――そんなはずはなかった。



 ――高身長の美丈夫びじょうふ、その全姿を包み込む暗緑色のローブ、背中まで緩やかに伸びた赤朽葉の長髪、ザクロ色の瞳。そして頭上に二本、大きく気高く生えている山羊のような巻き角。

 あの時頭部を覆い隠していたフードが今は取っ払われているので、ちゃんとした容姿を拝んだのはこれが初めてだった。

 と言うより、“暗緑色のローブ”、“赤朽葉の毛髪”、“ザクロ色の瞳”の三点が揃えば、眼前にいる彼女――ナディアさんが昨日『LIBERAリーベラ』の『ファクトリー』に来訪した“おっちょこちょいな旅人”であることは一目瞭然である。思い出すことなど造作もない。


 ……だがしかし。

 この現況を、俺はまるで把握できていなかった。


 ルミーネとの“命懸け”の勝負に完敗し、俺は今の今まで死のふちに立たされていたはずだった。

 それなのに、まるで漆黒の闇夜に一筋の光芒こうぼうが射し込んだかのように、突然目の前にナディアさんが颯爽さっそうと現れて俺を助けてくれて、でもその彼女は昨日出会った彼女と同一人物とは到底思えなくて……。


 いつ、どこで、どうやって俺の居場所を知り、タイミング良く助けに来ることができたのか――。

 そもそもルミーネとナディアさんの二人は、俺の考察通り、“同僚しりあい”ではないのか――。

 仮にそうだったとして、なぜ二人の行動は真逆で食い違っているのか――。

 二人の目的は……一致しているのではなかったのか――。


 そういった疑問も次々と浮上し、枚挙にいとまがない。


 そんな疑問符だらけの思考回路では『大丈夫だ!』と元気溌剌げんきはつらつに言える自信が無く、寧ろ正直に言って、全然大丈夫じゃなかった……。


「ナァァディィアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!!」

「――――ッ」


 突如、空間そのものが割れんばかりの凄絶せいぜつ咆哮ほうこうが彼方よりとどろき――。

 さらにそれに便乗するかの如くやって来たのは、人一人を軽く飲み込むぐらいの大きさを誇る、二発の鋭利な烈風の刃。


「あ……危なっ……!」

「フッ――――」


 が。


 俺がルミーネの強襲に気付いて注意を促すよりもずっと早く……。

 俺の方へ顔だけ振り向かせていたナディアさんは即座に体勢を構え直し、一発目にやって来た烈風を振り向き様に片手でいなすと、間を置かずに飛来した烈風は、一発目をいなした時の反動を利用して宙で身を横向きに一回転させ、そしてもう片方の手で地に叩きつけるようにして撲殺する。

 それは僅か、俺が一瞬きするか否かの間に繰り広げられた攻防だった。


「…………」


 よく見ると――気付いたのだが、彼女の両の手の内には刃渡りの長い、ククリナイフに似た形状の短刀が握られており、どうやらそれで先の攻撃と今の二撃をあしらったようだ。

 一方の俺はと言うと、その異次元のハイスピードな攻防にただ茫然自失ぼうぜんじしつとしており、情けなくも草地にへたり込んだままだった。


 ――ふと、ハッと我に返ると。ナディアさんが再び顔だけこちらへ振り向かせていた。

 そして一言、俺の瞳を見つめると、ニッと白い歯を覗かせ、笑ってこう言った。



「大丈夫。大丈夫だからホラ、安心して? ――――わっちが来たからには、イトバ君を絶対に死なせたりはしない。全力で守ってみせるよ」



「……っ!!」


 言い終えた彼女は、もはや振り返ってなどいなかった。


 俺はその時になって初めて、その一言――に加え、眼前にそびえる人並みより遥かに大きな、大きな背中にどこか強い安心感を抱いたと同時に、


 ――ああ。今俺の目の前にいるのは、“救世主ヒーロー”だったんだな……。


 と、ようやく現状を理解するまでに至った。


 直後、途端に全身の力が抜けて五感が麻痺し、妙に強敵な睡魔が『待ってました』と言わんばかりに俺の“意識”をむさぼり食い、口八丁手八丁、夢の世界へ誘う。

 俺はそれに対して、抵抗や反逆の余地すらまともに与えられず、とうとう意識が冥界の奈落へと真っ逆さまに沈んでいってしまった。

 現実からほぼ強制的に意識が引きがされ、乖離かいりする寸前、なぜかこんなにも場違いで、他愛もないことを想いながら――。


 ああ、やっぱり異世界人にじげんって……イケメンと美女しかいねぇんだな……。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 流石に、限界だったか……。


 チラリ、と三度背後を振り返り――一瞥いちべつし、青年が気を失っていることをナディアは確認する。

 珍妙な衣服や靴などは泥にまみれ、破れに破れ、素肌が露わになっている両腕や顔にはありとあらゆる外傷が生々しく刻まれていた。


 どうして、そこまでして……。


 普通に、全うに平和な世界を生きていれば、まずお目にかかることは無いであろう、“血”。

 けれどそれは、どこにでもいるような普通の『人間種』であるはずの青年を赤々しく凄惨せいさんいろどり、彼の肉体の各箇所から止めどなく流れ出ていた。

 誰が見ても――そもそも見るまでもなく、青年がボロボロの瀕死状態であることは自明の事実だった。


 ――しかし。


 仰向けになっている青年の表情は酷く晴れやかで、笑っていて――。

 悔いなんてさらさら無い、そんなどこか安心したような、満足気な寝顔だった。


「…………」


 それを見たナディアは、“どうしてまた、君はそこまでアイツとそっくりなんだ”と半分呆れ、やはり完全には青年の行動を理解することは叶わず……。

 でも同時に――


 そんなボロボロになってまで……命をけてまで、その二つの手で守りたいモノが……君にはあった。――――そういうことなんだよね。


「――――」


 よくやった、と。

 視線を戻し――キッと正面を見据え直したナディアは、最後まで己の“信念せいぎ”を貫き通した彼の闘いを、心中で大いにたたえた。


 そして、


「ナぁディぃアぁぁああああああああッ!!」


 彼方より、もはや本能的な憤怒に身をゆだねて叫び狂っている鬼神が、ナディアに向けてまたも空を裂くような咆哮をかました。

 それに反し、ナディアは努めて冷静さを保ちつつ、慎重しんちょうに言葉を発する。

 この、今にも途切れそうなか細い一本の糸を繋ぎ止めるように……。


「ルミーネ……」

「ナディアぁぁ……! テメェ、今の今までどこにいやがった!! 大陸到着に遅れるわ予定通り合流もできないわ、そうかと思えば今さらのこのこと顔を出して、びの一言も挟まずに私の邪魔をする気か貴様はァ!!」

「詫び……? お前こそ何を言ってるんだ。ウチの存在なんか丸っきり放置して、真っ先に中央大陸を飛び出すように出立したのは、紛れも無くお前じゃないか」

「……ッ! チィッ! ――ああ、クソッ!! とにかくお前には言いたいことが山ほどあるんだよ! 今はただ黙って端に退いてろ、“これ”は直ぐに片を付ける!!」 


 そう言っていきりたつルミーネに、ナディアはただ黙って――静かにかぶりを振った。


「それはできないよ。ルミーネ」

「……おい、それは何の冗談だ? 悪いが今はそんな冗談に構っていられるほど心が寛容ではない。後にしてくれ」

「――いいや。冗談なんかじゃないさ、ルミーネ。ウチはここを退かない」

「“私の邪魔をするな”と言ったのが聞こえなかったのか三流野郎ォ――ッ!!」

「いいや、ちゃんと聞こえていたよ。聞こえた上でそう答えてるんだ」

「黙れッ! なぁ……分かるだろ!? そうさ、お前は分かって当然のはずだ! この私の行動の意味が!」

「いいや、さっぱり分からないね」

「あの異界からやって来た下等生物イトバ・ユウは、“異端”なんだぞっ!? この世界においての! 本来であるならば、こちらの世界に存在してはならない存在だ! 約一千年もの間、びることなく保たれてきたこの世界の美しい均衡きんこうが、たかがアイツ一人の存在によって揺らぎかねないんだぞ!? アイツがこの先、この世界の人々とさらに交わり、生活・文化体系などにまで干渉して影響を及ぼし始めたらどうするつもりだ! たとえそうでなくとも、何かをやらかさない保証がどこにある!? つまりアイツは、こちらの世界にとっての“害悪”そのものなんだよ!! だから早急に始末する必要がある! 違うか!?」

「――ああ、違うね。君は間違っているよ、ルミーネ。ウチからすれば、今の君の方がよっぽど世界に危険を及ぼしそうな気がしてならないが」

「うるさいっ! 黙れ黙れッ! 私は“普通”だ! おかしなところなど何一つとしてない!!」

「いいや、おかしいよ。今の君は、明らかに平生へいぜいの君とは大きく異なり、かけ離れている。それこそ“普通”じゃないみたいだ……。だからこそウチは――君を止める。これ以上好き勝手に暴走させはしないし、勿論イトバ君を殺させもしない」

「ナ、ディ、アアアアぁぁ……ッ!!」


 鬼神は肩を怒らせ、不気味なほど血走っている血眼で射殺さんとするかのようにナディアをめ据えると、総毛を逆立て、本能をき出しにした獣の如くうなり、闘志を燃やしていた。燃えに燃え、燃えていた――。


「なぜだ……! なぜそこまでしてそいつに拘る!? とりわけ目立った特徴も能力も何も無い、ごく“普通”の愚鈍な『人間種』の一人ではないか……ッ!!」


 ナディアは「うーん」と暫し黙考すると、


「――どこにでもいそうな凡人だからこそ……なのかもね」

「なに……?」


 ナディアは自分の手元――手中に握られている二本の短剣に視線を落とし、戻すと、首を横に振った。


「……いや。やっぱりなんで、なんだろうね……。ウチにもよく分からないや。――でも、イトバ君を見ていると、不意にアイツを思い出すって言うか……被るって言うか……。なんか、知らぬ間に突き動かされちゃったんだよね。身体が自然に、“守りたい”って。――彼を“救いたい”、って」

「――――!!」


 鬼神は――ルミーネはそのほんの僅かな一瞬だけ、ハッと息を呑んだ。


 ――が、やはり一瞬で。

 こちらも、固く志した決意は、そう簡単には揺らがないようだった。


「……は。ははっ、ハハハハハハハハッ!! ――いいだろう。どうしても私の邪魔をしたいと言うのであれば――ナディア。貴様にもイトバ・ユウの時と同じく、最後の忠告をしておいてやる。――――邪魔だ。そこをドけナディアアアアアアアアアアアア――――ッ!!」

「いいや。生憎あいにくだけど、道は開けさせないよルミーネ。たとえそのために――多少強引な力尽くになったとしても!」

「死んでから後悔すんじゃねぇぞ、このド三流野郎がァッ!! 調子にノるなああああああああああああ――――ッ!!」



 次の瞬間――――。



 今日、この日一番の轟音を誇る二つの“衝撃”が真正面からぶつかり合い、この世界の片隅に小さな亀裂を生ませた――――。


 それについては誰も……当人の二人でさえ、今はまだ知る由のないことだった。


一応お知らせです。

第一章もこれを除いて、残り三話となりました。

今日から三日間ずつ空けて最新話を更新していく予定ですので、7月の11日に最後のエピソードを投稿できるかと思います。

この作品を書き始めてから、約一年強……。

この長ったらしい第一章にここまでお付き合いしてくださった読者の皆様、厚く御礼申し上げます。

そして、第一章の最後をしっかりとその目で見届けてやってください!よろしくお願いします!

以上、お知らせでした。


……あ。ちなみに最後の投稿日はたまたまですからね?

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