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Ⅱ リメンバー(5)

 図書館に着くと、岳たちは閲覧に必要な手続きを済ませて、パソコンルームへとやってきた。

 部屋には三十台ぐらいであろうか、デスクトップ型のパソコンがずらりと並んでいて、デジタルフォーマットの資料やソフトなどを閲覧できるようになっていた。

 それなりに席は埋まっており、時折、マウスをクリックする音や、キーボードを叩く音が小さく響いていた。

 二人は指定されたパソコンまでやって来ると、ログインをして専用のアプリケーションを立ち上げる。

 すると、すぐに目的のフォルダが現れた。

『北海道単幌町爆発事故被災者名簿』

 フォルダの中には画像ファイルになった名簿がずらりと並んでいた。

「これ、一個づつ開いて見んのかよ?」

 千恵が渋い顔をしながら尋ねてくる。それは、確認するというよりも、抗議するといった方がよさそうな声音だった。

「だからさ、大変だって言っただろ?」

 そんな千恵に向かって、岳はからかうように目配せをしてみせた。

「あっ、でも、こういうのってさ、五十音順だろ、きっと? だったら、ま行だけ確認すればわかるんじゃねーのか?」

 いいことに気が付いたといった感じで、千恵が声を弾ませながら岳の顔を覗き込んでくる。

 しかし、岳はそんな千恵に向かって、嬉しそうに否定してみせた。

「いや、彼女が当時も三島木だったかはわからないからね。その後に、親戚や知人に引き取られて改姓しているかもしれない。だから、ひと通り確認する必要はあるよ」

「ちぇっ、バーンと検索できねーのかよ」

「画像から文字を読み取るOCR機能はないんだ。そういうわけだから、蒔山は終わりの方から見ていって」

「うへぇ……」

 その後、LEDのモニタと睨めっこをすること約二時間。岳はようやく生存者をすべて確認し終わった。

 しかし、目的の三島木花音の名前を見つけることはできなかった。

 岳は椅子に座ったまま伸びをすると、首を巡らせて向こうの席にいる千恵の様子を窺った。

 すると、ちょうど顔を上げた千恵と眼が合った。

「堂崎。ちょっと……」

 千恵が手首の先だけを動かして手招きをしてくる。

「どうかした?」

 千恵の見ているモニタを覗き込んだ瞬間、岳は千恵が声をかけてきた理由がわかった。

 ――『篠宮花音』

 そこには三島木花音と同名の名前が映し出されていた。

 また同時に『たんぽろ幼稚園』という文字も眼に入ってくる。

「これだっ!」

 岳は興奮して身を乗り出す。

 しかし、すぐ横の千恵は困惑したような表情を浮かべていた。

「いや、それがさ、これって、さっきまでの名簿とは違うんだ……」

 千恵はそう言うと、画面の左上に表示されているタイトルを指差した。

『北海道単幌町爆発事故犠牲者名簿』

「犠牲者っ――!?」

 岳は驚きのあまり、思わず大きな声を出してしまった。

 周囲の利用者からは、じろりとした批難の視線が向けられる。

「ちょっ、静かにしろよ。でさ、行方不明者の名簿はたくさんあるのにさ、犠牲者の方は少ししかないんだけど……まぁ、だから試しに見てみたんだけどさ」

 千恵は言いながら、アプリケーションを操作してフォルダ直下の階層を開いて見せた。並んだファイルは確かに犠牲者の方が少ない。

「……最終的に、町全体が蒸発するようになくなったから、ほとんど遺体が残ってないんだ。身元の確認ができたのは、一部の地下施設と、爆発の威力が弱まっていた遠隔地の分だけ……。こういう時、遺体が見つからないと行方不明者ってことになるんだよ……。あぁ、そんなバカな。ここまで一致したのに違うだなんて……」

 岳はもう、この名簿が意味するところを悟っていた。

「って、ことはさ、この篠宮花音って娘は……」

 千恵が恐る恐るその事実を口にする。

「身元が確認できている。そうだよ、既に亡くなっている」

 岳は深いため息と共に、千恵の言葉を引き取った。


「まぁ、そう落ち込むなよ。三島木花音は無関係だ。それがわかっただけでも収穫じゃんか」

 図書館を後にしながら、千恵は肩を落として歩く岳へと声をかけた。

「……この虚無感は、蒔山にはわかんないよ」

 呟くようにして岳が力なく答える。

 テンションが一気に上がっていただけに、その落ち込みようも激しかった。

 自分の中にある積年のわだかまりと疑問が、三島木花音によって氷解するのではないかと期待をしていたのだが、それも幻想だったらしい。

 知らず、ため息が洩れ出てしまう。

「しょうがない。ほら、じゃあ、この千恵ちゃんが奢ってやるからさ、ジェラート。元気だせよ」

 千恵は複雑な心境だった。

 失意に沈む岳を眼にすると、この結果が残念でならなかったが、一方では、これで岳が三島木花音への興味を失うのではないかと、どこかで期待する自分もいた。

 そして、そういう自分を、千恵は嫌なやつだと思わずにはいられなかった。

「ホントはそっち持ちなんだからな?」

 そんな自己嫌悪の念を振り払うように、千恵は岳の背中を強めに叩いた。

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