Ⅱ リメンバー(4)
岳たちの住む街からは、電車で二駅ほど行った場所に中央図書館はあった。
市庁舎や税務署などの公共機関をはじめ、シネコンなどの娯楽施設、アパレルショップや雑貨店などがひしめく、近隣でも有数の繁華街だった。
当然、学校帰りの学生の姿も多く、岳と千恵が並んで歩いていても特に目立つこともなかった。
学校がらみでは行動を共にすることも多い二人だが、こうして学外で二人きりになることはめずらしかった。
そのせいなのか、千恵は自分でも不思議に思えるほど緊張をしていた。
こんなところを誰かに見られるのは、何だか不都合がある気がする。
そんなよくわからない居心地の悪さを感じて、さっきから視界に入る学生の制服が、自分たちの学校の物ではないかと咄嗟に確認してしまう。
「蒔山、どうかしたの? さっきから妙にきょろきょろしてるけど」
不意に声をかけられて、千恵は思わず身体をびくりと強張らせる。
「えっ!? いや、なんでもない……ど、堂崎はこっちによく来んのか?」
千恵の妙な態度を不可解に思いながらも、岳は彼女の質問にそのまま答える。
「あぁ、中央図書館にはよく行くからね。でも、そんなこと知ってるじゃないか」
「んっ、あぁ、うん、知ってる」
一度焦って乱れたペースを、千恵はなかなか持ち直すことができずにいた。
普段ならそんなことはまったくないのに、千恵自身も不思議で仕方がなかった。
「しかしさぁ、やっぱり、オレの問題に付き合わせるのは何か違うような気がするんだけど」
千恵が図書館に行こうと言い出した時、岳は一度それを断ったのだが、千恵がどうしても一緒に行くと言って聞かなかったのだ。
しかし、こうして実際に図書館へ向かっていると、やはりその判断は誤りだったのではないかと思えてくる。
これは非常に個人的な問題であって、他人と共有すべき事柄とは違うのではないか。自身の傷を見せびらかすような、直視することを強要するような、ある種の暴力なのではないか。
岳がそんなことを考えていると、千恵が慌てたように否定をする。
「そ、そんなことねーよ。せっかくあたしが手伝ってやるって言ってんだからさ、親切は素直に受けとけよな」
事故にまつわる話題になると、いつも岳は内向的になって、直ぐに千恵を締め出してしまう。
なので、今回、一緒について行く流れへと自然に持ち込めたのは、千恵にとってはちょっとした僥倖だった。
岳の人格を形成する重要なファクターについて、関わり、理解をする、またとない契機だと千恵は考えていた。
「まぁ、確かに、名簿を調べるのは大変だからね。手伝ってもらえるのは助かるよ」
実際、岳にしても膨大な名簿から目的の名前を探し出すのは、骨の折れる作業だと考えていたので、千恵の申し出は素直にありがたかった。
「じゃ、じゃあさ、朝、話してたジェラートで手を打ってやってもいいぞ?」
ちょっと調子に乗りすぎかとも思ったが、千恵は今が押し時だと判断して、思い切って言ってみた。
「そうだねぇ、そのぐらいはしないとダメかもしれない」
岳は少し戯けた調子でそう言うと、柔らかい笑みを浮かべてみせた。
そんな岳が不意に見せた表情に、千恵は胸の奥をぎゅっと掴まれるような、昂ぶる感覚を覚えた。
「そ、そうそうダメダメっ! だから絶対に忘れんなよ!?」
念を押すようにしながら、千恵は嬉しさで叫び出したくなる衝動をぐっと抑えて、手にしたスクールバッグで岳を軽く小突いた。