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復讐の黒き獣  作者: 椎木唯
序章 復讐を誓ったあの日
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第0.5話 最初で最後の約束

『ガルルルルルガァ!!!!!』


俺が吠えるのと大剣の男が動くのはほぼ同時だった。

大剣の男は俺に飛ばされたにもかかわらず、何処にも傷らしき痕は無かった。

俺が吠えたのを聞くと勢い良く飛び出し大剣を上段に掲げ、俺はそれを見て肩に生える腕を動かし受け止めようとした...だが何故か受け止められず左肩の腕を切り落とした。

相手が持ってる剣をよく見るとほんの少し、僅かだが金色のオーラを纏っている事が分かる。これが原因か...

そう判断したのは一瞬で切り落とされた腕が再生されたのも一瞬だった。

『超速再生』

俺達魔獣化発症者は人それぞれだが再生能力が携わっている。

これは魔獣と呼ばれる獣の亜種、まぁ異常種がもつ特性だ。

魔獣とは獣が高濃度の魔力を浴びる事によって生まれる異常種なのだ。魔力によって強制的に強化された肉体は時に一国さえも滅ぼしてしまう程強力になる個体もいる。

短期的に強くなった魔獣は体内に魔力を溜める事ができる特殊な器官があり、空気中の魔力を吸収→限界まで溜め込む→一気に開放、と言う攻撃方法があり単独で国を壊せる事が出来るのもこの力が大きい。

でもこの器官は再生能力とは全く関係性を持たない、全くの別物だ。

再生能力は魔力により強化されたその肉体にある。

魔力により短時間で強力になった肉体には個体差はあるものの微弱な魔力が通っている。それを利用し自分の意思関係なく傷を癒やすことができる。

魔獣化した獣と同じ様に作られた魔獣化発症者は同じように肉体。いや、皮膚に纏わりつくように魔力が存在する。

これをつかい理性ではなく本能で傷を瞬間的に回復する。

その中でも『超速再生』保持者は魔獣と同レベル、それともそれ以上の魔力との適性があり、回復能力もスピードも段違いだ。


っとそんな事を考えながら攻防を繰り返していると、相手は次の技で決めるっという感じで23歩一気に離れ力を溜め始めた。

これを見た俺は罠、と言う考えも浮かんだがソレは杞憂になった。

「...ッ!?」


戦闘中バレないようにこっそり背後に忍ばせていた鎌状の尻尾が相手の首を掻っ切ったようだ。

『クッソ!!!』


喜びも束の間、聞き慣れた声が微かに聞こえた。コレは父さんの声だ。

その声を聞いた俺は声が聞こえた方向へと急いで向かう。

先ほどまで戦っていた男は自爆覚悟で突っ込んだ村の人と共に爆破して死んだようだ。リュク爺が死んだ事によるショックが大きかったようで何故か村の人...中が良かった友人の死に顔を見ていても何も感じ無い。

もう既に父さんからのあの言葉は胸になかった。








火の手が回ってきてる家の上を急いで駆ける。

少しだが赤黒い肌が焼けてきた感覚があった。だけど気にせずただ急ぎ父さんの声が聞こえた場所に向かう。

俺には『超速再生』がある...だから...ッ!!

リュク爺すらも褒めた俺が持つ、俺だけの力。

ただそう考えるだけで何でも出来そうな絶対的な力をに思えてきた。



後もう少し...

これを越せばいるはずだ。そう思うと自然と四肢に力が入った。

リュク爺に黒の化物と呼ばれた俺の顔にほんの少し笑みが溢れる。

父さんどうしたの!?そんな声上げて?

そう言う筈だった俺の喉は詰まり、今見ている光景に息を呑む。

その場所には見るも無残な姿にされ原型を留めていない母さんだと思う死体。

銀色の甲冑に身を包み片手剣を振るう女と鬼の形相で一心不乱に斬りつける男。

いくら姿形が変わっても見間違えることのない俺だが女に斬りかかっているのが父さんだとわかるのに数秒の時間がかかった。

父さんの魔獣化はちょっと特殊で怒れば怒るほど力が増し、姿が変わる。と言うものだ。

恐らく甲冑の女に母さんを殺され自我を忘れ一心不乱に戦ってる真っ最中なのだろう。

と言うか何故俺が飛び出さないのかわからない、リュク爺が殺され母さんも、父さんはもう瀕死だ。

この状況を見て狂ってしまったのだろう、俺の頭は。

だが何時までもここにいる訳にはいかない、そう思い後ろ足に力を込め甲冑の女に飛び掛かった。

だが当たる直前に気がついたのか間一髪で避け、頬に軽い傷しかつけられなかった。

「ちっ、また増援ですか...」


頬の傷を気に留める事なく剣を構え、それを見た俺も攻撃を加えようとするが。

「ックガ...オマエハニゲロ...セメテオマエダケハ...」


と手で俺を止めそう言った。

今思えばあの時父さんに「お前は行くな!」と言われていたのにその事を今言わないのは母さんを失った悲しさで頭が回らないからだろうか。

父さんの手を退かし目で「俺も戦う」と伝えたが効果はなかったようだ。

無理矢理にでも...と思ったが突然。

父さんが俺の前に立って甲冑の女の攻撃を背中で受けている。

何故!?と言おうとしたが父さんの優しげな顔を見て言う気が何処かへ飛んでいった。その表情は、いや、その姿は魔獣化による凶暴な肉体ではなく、ごく一般的なごく普通な人間の男で、どこか貫禄があり何故か不思議と惹かれてしまう優しさがある俺の自慢の父さんの姿だった。

呆気に取られる俺とは別に父さんは攻撃を受けながらも俺に優しげな微笑みを浮かべ言った。

「くるなって言ったんだけどなぁ...まぁいいか、お前は先に逃げとけ。後でお前を叱りつけるため追っかけるからな。覚えてろよ?今回の説教は長くなるぞぉ?...クッ...はぁはぁだから先に森の奥に行っとけ。絶対に見つかるなよ?後でこの女をちょいちょいって捻って直ぐ行くからよ...」


そう言っていつの間にか魔獣化が解けていた俺の頭を撫で立ち上がった。

「俺が向かいに行くまで絶対に泣くんじゃ無いぞ」


これが俺とお前の最初で最後の約束だ。そう言った父さんの背中はいつも以上に大きく見え、それ以上に切なさを感じた。

父さんに泣いている顔を見せたくなくて一心不乱に走る、どんなに辛くても切なくても俺の涙で前が見えなくなっても走った。

「うおおおおおおお!!!」


父さんの大好きな声がどんどん小さくなってきているのが分かる。それに小さいながらの母さんの応援する声が聞こえたような気がした。

まさか...?

そう思い後ろを向いた。

ただの気のせいだった。父さんは甲冑の女の剣に突かれていた。近くで見なくてもわかる。死んでいると。

俺が見ているのに気がついたか、甲冑の女は父さんだったものを捨て、その剣を俺に投げてきた。突然の事に驚き一瞬回避が遅れおでこから顎にかけ一直線に切れ、左目が一瞬で見えなくなった。

追ってくる、と思い魔獣化し思いっ切り走った。

だが左目の傷は癒える事なくそのまま残った。まるでその日の出来事を絶対に忘れないように、と俺がずっと思っていたからかもしれない。

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