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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界樹の騎士

某所で没になった短編です。

良かったらお気軽にどうぞ。

「あれ? なんだここは」


 静寂に包まれた道場の中に正座し、黙想による稽古前の精神集中をしていた直衛は、目を開いた瞬間、飛び込んできた予想外の光景に上ずった声をあげた。

 真正面にあるはずの掛け軸が存在せず、代わりに小高い丘の上からの景色が広がっていたからだ。

 見慣れた道場内ではないどころか、室内ですらない。


「え、なんで?」


 戸惑いながらも、直衛は柔らかい草を踏みしめて立ち上がる。

 道場にいたときと同様に早朝なのだろうか。裸足の足元は朝露に濡れていた。


「うわっ、なんだよもう……」


 ひんやりとする足の裏に不快感を覚えつつも、直衛は稽古着の袴に張り付いた草の切れはしを叩き落とす。

 そして、眼前に広がる広大な草原の景色を眺めて首をかしげた。


「ここ、日本じゃない……? というか、地球じゃない?」


 少なくとも、直衛の常識ではワニのような口をした翼長二メートル超えの鳥など地球にいないはずだし、腕が左右二本ずつあるゴリラが集団で地上を闊歩したりしない。


「ええっと……あ?」


 困惑に何をいって良いかわからないまま、目の前の現実から目を逸らすように見上げた直衛の視界に、青々とした葉をたっぷりと抱えた太い枝が見えた。

 ぐるりと振り向くと、幹の太さが十メートルはあろうかという大木が眼前に迫っており、直衛は慌てて距離を取る。


「で、でかいなぁ」


『世界樹として広い世界を見守るのに、この大きさは不可欠なものです』


「えっ?」


 返事が聞こえた気がして、直衛は周囲に誰か人がいるのか、と見回してみた。

 だが、人の姿は見当たらない。


『私はここにいます。あなたの目の前にいる大木こそが、私です』


「おい、ちょっと……マジで?」


『事実です。証明となるかどうか、手を差し出してみてください』


 おっかなびっくり右手を出した直衛。


『良く鍛えられた手をしていますね』


 目の前の大木だと名乗る声がそう言うと、風もないのに1つの小さな実が直衛の手に落ちてきた。


『それは私の……世界樹の実です。』


「世界樹? ゲームとかで出てくる、世界のバランスをとっているとか、世界を支えているとかいう、あの?」


『概ね間違いではありませんが……あなたの世界にも、私と同じような世界樹がいるのですか?』


 驚いた様子で問い返された直衛は説明しにくいが、とゲームというものの存在を大まかに伝えた。


「そういうのに出てきて、有用なアイテムをくれたり、何かの依頼をされたり……」


『なるほど。私があなたをお呼びしたのも、まさにその依頼があるからです』


「呼び出した?」


 直衛は眉をピクリとあげた。


「ちょっと待て。だとしたら、お前が俺をここに?」


『正確には、あなたを指定したわけではありません。私の力は、この世界を救うだけの“能力”を持った人をこの世界へ呼び寄せることができるのみです』


 世界樹は世界の危機が訪れた時に、異世界からの救世主を呼び、この世界を救うことを依頼しているのだという。


『私が呼んだのは、あなたで三人目です。一人目は人間たちの町や村を作り、国の形を整えて最初の王として生涯をこの世界で過ごしました。二人目は、多種族からの侵攻を食い止め、防壁を築き上げて元の世界に帰りました』


「帰っただって?」


 異世界だというのは理解した直衛は、帰還の方法がある、と知って顔を上げた。

 さらさらと揺れる枝が見える。


「元の世界に帰ることができるなら、すぐにでも頼みたい。俺がこの世界を救う理由は無いし、命を落とす可能性だってあるんだろう?」


『残念ながら、それはできません』


「なぜだ?」


 目の前の世界樹に対して最初に感じていた畏怖が薄れてきた直衛は、睨みつけるように世界樹を見上げた。

 樹木の表情など知る由もないが、声の調子からすると直衛の視線を感じているのかいないのか、平坦な様子から少しも変わりがない。


『私の意思ではありません。私の呼びかけによってあなたが“世界樹の騎士”としてここへやって来た時点で、送り返したくても、できないのです』


 世界樹の力は限定的であり、世界が聞きに陥ったときに異世界から適切な人物を呼び寄せるだけで力のほとんどを使い果たしてしまう、と世界樹は説明した。


「世界樹の騎士?」


『私の呼びかけに応えて呼び出された者は、世界樹の騎士として私と魂の繋がりを持つことになります。そして、多少ですが私から特別な力が流れているはずです。その力を使って、人間を救ってくださったら、その時は私にまたあなたを送り出す力が蓄えられるでしょう』


 その時に、この世界に残るか、元の世界へ帰るかを選んでほしい、と世界樹は語った。


「……脅迫じゃないか」


 直衛は吐き捨てるように言った。


「勝手に別の世界から呼び寄せておいて、世界を救ったら帰してやる、とは……」


『では、どうするのですか?』


 世界樹は変わらぬ平坦な口調で問う。


『あなたが動かなければ、この世界の人間たちは多種族によって滅ぼされてしまうでしょう。そうすれば私も枯れ絶えるのみです。その時、あなたはどうなっていますか?』


「……ちっ!」


 選択肢など最初から無いのだ、と世界樹は遠回しに言う。世界樹の話が真実であるならば、帰る方法は一つしかない。


「いずれにせよ、ここにいるだけではどうにもならない、か」


『その通りです。さあ、旅に出る前に武器を授けましょう。あなたが一番使いやすい武器を想像して、手を出してください』


 訝しむ目をしたまま、直衛は右手を出した。


「これは……!」


 彼の右手には、道場で習得した様々な武器術のうち、最も使い慣れた物が乗っていた。

それは長いかいだ。百八十センチ近い直衛の身長をも超える長さがあり、全体の四割にわたる範囲が平たくなっている。


『それが何かは私にもわかりませんが、きっと本来のそれよりも頑丈でしょう。そして、あなたに備わった私からの力は、どのように発現するかはわかりません。戦いの中で探り、力を解放できた暁には、この世界であなたの敵はいなくなるでしょう』


 信用できない、と直衛は思った。しかし、実際に武器が現れたことで、世界樹が言う“力”の存在が気になっているのも確かだ。


『さあ、旅立つのです。丘を下れば人間たちの村があります。彼らは世界樹の騎士についての伝承を守り続けている人々であり、あなたを歓迎するはずです。そこから旅を始めると良いでしょう』


「わかった」


 仕方がない、と直衛は右手に握られた櫂をしっかりと握りしめた。

 縦に持ち直し、ガツンと地面に立てる。


「こうなった以上は仕方がない。帰還の件、忘れるなよ」


『もちろんです。どうか気を付けて』


 白々しいことを、と直衛は世界樹を一睨みしてから、丘の上から旅立っていった。



 御堂直衛みどうなおえは、当年とって十七歳。高校二年生の夏休みを満喫しており、中学生の頃から通っている道場で朝から一人稽古をやっているところを召喚されてしまった。

 古流武術を中心に武芸百般あれこれと教えてくれる、幾分怪しい道場ではあったが、実戦的かつ厳しい稽古が、妙に直衛の性格にうまく嵌った。

 中には「殺される」かと思う程に殺気を孕んだ攻撃を仕掛けてくる兄弟子などもいて、放課後はハードな日々を過ごしていたが、充実感は強かった。


「帰りたい」


 ぽつり、と直衛は呟く。

 確かに、普通の人間よりは強いかも知れない。戦う術を知っており、不必要なまでに鍛えて来た。特に才能がある、と師匠から太鼓判を押されていた兄弟子に気に入られ、事あるごとに組手の相手をしてきたことは、彼の身体に技術と経験という形でしみこんでいる。

 しかし、だからと言って“本当の殺し合い”ができるかと問われると、わからない。

 そうしなければ日本へ帰れない、と頭ではわかっているものの、心はまだ迷っていた。自分のために、誰かを殺すことができるのだろうか?


「あれか」


 濃紺の道着に黒袴、そして裸足のままという格好でで丘を下った直衛は、下り坂が終わるかというところで一つの集落を見つけた。

 異世界へ来て初めて人と会う。多少の緊張感はあったが、世界樹などという話す樹に比べたら同じ人間であるだけ気楽だった。悩みを一旦頭の隅へ追い遣って、直衛は歩を進める。


「とにかく、色々聞かないとなぁ」


 まずはこの世界について。あとは食事や金銭についても聞かなくてはならない。そして、肝心の“人間の危機”についても。

 世界樹から聞くという手ももちろんあったが、今一つ信用が置けないというのがあったし、あのまま話していたら苛立ちで攻撃をしそうだったからだ。

 余計なことをやって、帰還の可能性を潰すわけにもいかない。


「しかしまあ、見事にファンタジーの世界だな」


 見えて来た集落は、いくつかの建物をぐるりと木製の柵で囲んでおり、村の中心を流れる川の先には、畑が広がっている。

 村へと近づいていくと、木製の門を背にして立っていた男が驚いた顔をして村の中へと駆けこんでいった。

 すぐに村の中からわらわらと人が出てきて、畑仕事をしていたらしい村人たちも小走りに集まってくる。それぞれの表情は希望と不安が綯い交ぜになったものだったが、直衛の姿を見て落胆しているらしい者もいる。


「なんだかなぁ」


 どうやら、直衛が持っている武器が少し変わった形をしているだけの木の棒に見えることが問題なのだろう。


「実際、棒なんだけどな」


 櫂という武器は名の通り船を漕ぐための棒で、棒状の部分を掴み、平たくなった部分で水を櫂て船を進める道具だ。

 櫂が一見して見くびられやすい武器であるというのは直衛もわかりきっていたことなので、目くじらを立てるようなことはない。

 それよりも、誰にどう話しかけて良いかを迷っていた。


「えーっと……」


 直衛が迷っていると、一人の老人が集まった数十名の村人たちの中から進み出て来た。その傍らには、一人の少女が寄り添っている。


「§Γ、ΘЕ……?」


「そうきたか……!」


 言葉が通じない。異世界である以上は当然のことかも知れないが、そこは召喚された際に理解できるようにするとか、あるんじゃないかと直衛は頭を抱えた。


「参った。これでどうすりゃ良いんだ」


「“世界樹の騎士”さまですか?」


 老人から何かを伝えられた少女が、進み出て流ちょうな日本語で語り掛けた。


「あれ? 言葉がわかるのか」


「私の家は……私は、“世界樹の御子”として、世界樹の世話をする役目を仰せつかっています」


 少女はミーアと名乗った。

 大きな翠の瞳は不安げな揺らめきを讃えており、同じく翠色をした髪は長く、後ろで簡単に結ばれて揺れていた。年のころ十五歳前後といったところだろうか。華奢な身体にシンプルなワンピースを着ている。


「私の役目の中に、“世界樹の言葉”を覚えるという役目もあるのです」


 世界樹に呼ばれた者たちは、一定の言語を話すと言われており、その言葉を理解して翻訳をするのも重要な役割である、とミーアは説明する。


「それは助かる……が、あまり他の連中は俺を歓迎していないようだ」


 助かるというのは直衛の本心だった。

 異世界で言葉も通じないというのでは、これから先、戦う以前に生活すらままならない。


「詳しい説明をさせてください。私の……」


「Σξ、φЭ∂」


 ミーアの言葉を遮り、老人が何かを伝えた。


「……こちらはこの集落の長です。長の家で、詳しい話をしたいのですが」


「わかった」


 何か怪しい、とは思った直衛だったが、今は従うべきだろうと判断し、集落の中で最も大きい―――と言っても三部屋程度の間取りの―――建物へと案内された。

 テーブルに、長と向かい合うように座った直衛。その隣へミーアが立った。


「座らないのか?」


「いえ、私は大丈夫です」


 二度勧めても断られ、直衛は諦めて長と向かい合う。


「率直に聞く。世界を救うために世界樹は俺を呼んだらしいが、具体的に何をやれっていうんだ?」


 ミーアが翻訳をして長に伝えると、彼は白いひげを揺らして頷き、話し始めた。やはり言葉はわからなかったが。


「世界樹の騎士様が世界へ旅立つための用意をするのがこの村の役目であり、存在意義であります。その後、騎士様が何を成すのかは自分にはわかりませんが、今の人間が抱えている危機は明白です」


 ミーアが訳してくれた長の話を、直衛はじっと聞いていた。その様子を見て、長はさらに話を続ける。


「人間の国と隣接する森に住むエルフからの攻勢が激しく、すでにいくつかの村や町が落とされたそうです。それぞれの町で個別に防衛はしておりますが、町からの噂では結果は芳しくない、と……」


 森林地帯に住むエルフとの間には明確な国境などは存在せず、深い森から神出鬼没に現れるエルフの軍勢に対して水際で止めるという対策は採れない。人間の国側は各地の町で防衛を固めているという。

 それに対し、直衛は首を傾げた。


「人間の国? ちょっと待て。世界の危機というのは……人間の立場から見て、ということか? 俺にエルフと戦え、と?」


「その通りです。このミーアを連れて……えっ?」


 翻訳していたミーアが途中で言葉を止め、長へと何かを話していた。だが、長は残念そうに首を横に振り、何かを言う。

 言葉の内容はわからなかったが、有無を言わさぬ圧力が込められているのは直衛にもわかった。


「ミーア。悪いが翻訳を頼む。状況がわからないと俺も反応のしようがない」


「あ、すみません。わかりました……」


 ミーアは俯き気味になり、長の言葉を訳した。


「長はこう言っています。“このミーアを連れて町へ行き、そこで人間たちを助けてほしい”と」


「なに?」


 直衛は長を見る。


「……この集落はどうするつもりなんです?」


「長はこの集落に残るそうです。世界樹の騎士が現れたとき、御子は騎士様に付き従って旅を補佐することになっています。そして、残った者たちは集落を守らねばならない、と」


 翻訳が終わったことを感じたらしい長は、一つのバッグをテーブルの上に置き、直衛の方へと押しやった。


「騎士様へお渡しするための資金と食料です。あと、靴も用意しているそうです」


「……大丈夫なのか?」


 直衛の言葉が訳されたのを聞き、長は笑顔で頷く。


「お優しい方ですね。ですが、心配ありません。町は近くにあり、別に隠れ場所も用意しています。万一エルフたちがこの集落に来たならば、一目散に逃げますよ」


 ミーアは笑っている長の言葉をそう訳して、自分も旅の用意をする、と言って家を出て行った。

 その場に残され、しばらくの間じっと長の顔を見ていた直衛。


「笑っていられるあたり、あんたは大した人なんでしょう。エルフというのが俺の想像通りの相手なら、見た目は大して人間と変わらないだろうし、戦うのは気が引ける。だが、あなたたちを守るためなら、戦える気がするよ」


 まだ殺せるかまでは踏ん切りがつかないが、と直衛は立ち上がり、長の近くへと進んだ。

 簡素な木の柵があるだけの集落だ。多人数の軍隊に襲われて無事でいられる保証はない。逃げる術もあるのだろうが、全員が無事というのは難しいのだろう。

 そして、長はきっと最後まで残るつもりなのだ。ミーアもそれがわかっていて、訳するのを躊躇ったのだ。

応えるように立ち上がった長へと、直衛は道着の懐から汗を拭うために持っていたタオルを取り出し、手渡した。

 柔らかな布地に驚いていた長に、伝わらないと知りつつ直衛は頭を下げた。


「今は何も寄る辺が無いので、ありがたく厚意に甘えさせてもらいます。とりあえず他にお礼もできないんで、これを差し上げます。また戻ってきた時には、ちゃんとお金は返しますから」


 握手の習慣はあるだろうか、と直衛が右手を差し出すと、長はしっかりと握り返してきた。

 その目は、暖かな笑みと共に固い意思を持っている。

 直衛は、すぐに村を後にした。歓迎の用意があるとも言われたが、あまり食料に余裕があるとは思えない村を見た直衛は甘える気にはなれなかった。


「早く目的を達成して帰りたい」


 と伝えて、日が暮れる前には町へ付けるうちに出発した。



「騎士さま」


 貰った靴は多少硬かったが、問題なく歩き続けられるな、と櫂を背負ったまま確かめるように地面を踏みしめていた直衛に、ミーアが話しかけた。


「様はやめてくれ。直衛で良い」


「では、直衛様」


「だから、様は要らないって」


 困ったような顔をして、ミーアはしばらく悩んでから、再び口を開く。


「では、直衛さん、でよろしいですか?」

 呼び捨てでも良かったが、と直衛は考えたが、いきなり年上を呼び捨てというのも難しいだろう、とそのままにしておいた。


「なんだ?」


「過去の“世界樹の騎士”は世界樹から武器を授かっていたと聞きます。一人目は美しい片刃の細い剣で、二人目は遠くの敵を一瞬で殺せる黒い筒であった、と」


 一人目は刀だろう。二人目はライフルか何かだろうか。随分と即物的な武器をファンタジー世界に持ち込んだものだ、と直衛は苦笑していた。


「そうだな。世界樹から貰った」


「直衛さんの武器は、その……なんというものなのですか?」


「質問は単刀直入に聞いてもらう方が答えやすい」


 歯切れの悪いミーアの質問に、直衛は立ち止まって彼女へとまっすぐ視線を向けた。二人の身長差は三十センチ近い。ほとんど見下ろすような格好になる。


「あ、あの……」


「脅しているわけじゃない。この武器が刃物でも何でもないから、気になるんだろう?」


 集落の連中も同じだった、と背負っていた櫂を掴み、直衛はくるりと回転させると脇に挟んで構えた。

 ミーアは頷いている。


「不安は当然だ。まあ、俺の武術がこの世界で通用するかはわからないが、使い方次第でこれも結構使えるもんだぞ?」


「はい。頑張ってください!」


 直衛はミーアのかわいらしさに気を取られていたが、ふと気づいたことがある。


「じゃあ、次は俺から聞こう。ミーアは急に家を出たけれど、ご両親に挨拶はちゃんとしてきたのか? というより、俺も一言伝えておくべきだったんじゃなかったか?」


「それは……」

 ミーアの表情が曇ったことで、直衛は自分が迂闊な質問をしたと悟る。


「いや、答えにくいなら良い」


「いえ、聞いてください。私の両親は、すでにいません」


 直衛の顔を見上げ、彼が話に耳を傾けていることを確認して、ミーアは続けた。


「私の家は世界樹の御子の家系ですが、そのために他の種族からは狙われやすいのでしょう。両親は町へ向かう途中、何者かに殺されてしまいました」


 数十日前、町へと買い出しに行った他の者たちと共に、道の途中で無残な死体が発見されたらしい。集落で留守をしていたミーアは助かったが、その時から一人で家を守っているらしい。

 魔物がいるこの世界では、柵や防壁がない場所は危険だ。そのために人は武装して移動するのだが、この時は魔物の仕業ではなく、明らかに刃物で切られた傷があり、矢が突き立った死体もあったらしい。

 しかし、結局何者が犯人かはわかっていない。


「ですから、もし世界樹の騎士さまが現れなかったら、もうすぐ私はお婿さんを貰って家を存続することになっていたかも知れませんね」


 おどけて見せたミーアだったが、まだ両親を失ったショックから完全には立ち直っていないのだろう。その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。


「じゃあ、このままエルフを撃退したとしたら、どうなる?」


「その時は……その時も、集落に帰ったらやっぱり家を存続しなければなりませんから」


 集落か、他の町や村から適齢期の男性を探して結婚することになるだろう、とミーアは言った。この世界では当然のことなのかもしれないが、直衛は違和感に顔を歪める。


「好きな男とかは?」


「うーん……集落の男性は年上すぎる人ばかりなので」


 困ったように笑うミーアに、直衛は「そうか」としか言えなかった。

 本当の意味でこの世界が平和になれば、彼女も自由に恋をしたりできるようになるのだろうか。

 そう考えている間に、前方から野犬のような何かが迫って来た。


「あれは、敵で良いんだな?」


「は、はい! この辺りではあまり見ない魔物ですが……!」


「敵だとわかれば良い。人型じゃないだけ、まだマシだな」


 二匹で現れた魔物は、犬のような姿だがその大きさは直衛と大差がない。鋭い牙からはだらだらと涎をまき散らし、いかにも飢えているという様子だ。

 これが人間型であれば躊躇しただろうが、狼が相手ならば命を奪うことに戸惑いは少ない。


「早速、俺の腕の見せ所というわけだ」


 不思議と直衛は落ち着いていた。初めての実戦ではあるが、ミーアを守らねばならないという気概を込めて、櫂の先を突き出して構えた。


「下がっていろ」


「は、はい……」


 ミーアが充分に距離を取ったことを確認した直衛は、自分から敵へ向かって近づいていく。

 相手が動くのをただ待っているのは愚策だ、と耳にタコができるほどに聞かされいた。


「先にこちらから相手を決める。これが先手を取るということ!」


 飛びかかろうと身を低くしていた一頭の真横を通り過ぎるように走った直衛は、遅れて攻撃態勢を取ろうとしていた残り一頭に対して、真上から櫂を叩きつけた。


「ぶぎゃっ!」


 悲鳴を上げて地面へと叩きつけられた狼型の魔物は、両眼を飛び出させて昏倒した。放っておけばそのまま死ぬだろう。


「直衛さん、危ない!」


 肩透かしを食らったもう一頭が背後から迫り、ミーアの叫びが聞こえた。

 しかし、直衛は少しも慌てていない。こうなることがわかっていたからだ。

 というより、わざと無視するように背を向けて、こうなるように仕向けた。


「飛びかかりってのは、確かに速いし牙を剥き出しにした攻撃は如何にも怖い」


 直衛は左足を引き、腰をぐるりと回転させて振り向きざまに櫂を振るう。


「ぎゅびゅっ!」


 奇妙な叫び声は、わき腹を櫂で殴られて肋骨と共に内臓にまでダメージを受けたせいだろう。

 血反吐を吐きながら転がった魔物は、地面に横たわるとぴくりとも動かなかった。


「ふぅー……」


 呼吸を整えるために大きく息を吐きながら、直衛は最初に殴りつけた魔物へと注意深く目を向けたが、完全に息絶えていた。


「す、すごい……。大人数人でも苦労する相手なのに……」


「どうだ?」


 櫂を背負いなおした直衛は、近づいてきたミーアに笑顔を向ける。


「この武器も悪くないだろう?」


「はい! それに直衛さんの動きも格好良かったです!」


「そりゃ、良かった」


 ミーアの言葉に嬉しくなった直衛は、櫂という武器について存分に語りながら町を目指して歩いた。

 長物武器の優位性と、刃物がなくとも殺傷力は充分にあること。重量を活かした動きの楽しさと難しさなど、直衛が思うさま語るのを、ミーアは笑顔で聞いていた。

 そうして四時間ほど、休憩をはさみながら歩き続けた二人は、ようやく町へとたどり着いた。

 そして、そこではすでに戦いが始まっていた。



「そんな、もうこんなところまで戦火が……?」


「戸惑っている場合じゃないな。ミーア、悪いがわかる範囲で状況を教えてくれ」


 戦っているのは正規の兵士たちなのだろう。高い防壁を備えた町を背にして、敵を撃退しようと奮闘している。

 そして、対するは小型の馬に乗って弓を構えている者たちだ。色白で細身、きらきらと輝く長い金髪を揺らし、その間からちらりと見える耳は先がとがっている。

 金属の鎧を着ている人間側の兵士たちに対し、エルフ側は革製の簡素な鎧だけであったが、どうやら優勢なのはエルフの方らしい。


「あれがエルフです。森に住み、小さな馬で素早く移動しながら弓を使うのが得意と聞いています」


 その機動力に人間側は同じように馬を使って対応しているが、弓の腕では敵わず、槍や剣で戦おうとしてもなかなか追いつけないという。

 ミーアの説明を証明するかのように、人間側の兵士たちは追っては置いていかれ、追われては逃げきれず、という光景を繰り返していた。


「あれだけの防壁があって、なぜ籠城しない?」


「わかりません……すみません……」


 申し訳なさそうに言うミーアを労おうとした直衛だったが、直後にエルフたちから発見されてしまったらしい。

 何かを叫びながら数名のエルフが直衛たちの方を指差し、すぐに矢を射かけてくる。


「くそっ! 問答無用かよ!」


 櫂を振るい、自分たちへと向かってくる矢をどうにか叩き落した直衛は、ミーアをかばうようにして町の方へと向かった。とにかく壁になるものがなければ、徒歩の自分たちが馬を相手にして勝ち目は無いと考えたのだ。

 しかし、ミーアの速さに合わせて進んでいた直衛は、町まであと百メートルほどの場所で、後方から迫るエルフたちにとうとう追いつかれてしまった。


「ミーア、行け!」


「でも……」


「早く!」


 直衛が突き飛ばす様に押したミーアを、駆け付けて来た兵士たちが庇った。そのまま町の方へ送っていくのを見た直衛は、追ってくる馬上のエルフたちへと振り返り、放たれた矢を櫂で受け止めた。

 ガツン、と強い衝撃を受けたが、櫂はしっかりと矢を止めている。


「§Э∂!」


「何を言ってるかわからん! わからんが、攻撃するならこっちも反撃せざるを得ん!」


 叫びと共に直衛は馬へ向かって走る。

 まっすぐではなく、ゆらりゆらりと左右に揺れながら走る直衛は狙い難く、焦れた挙句エルフが破れかぶれに放った矢はかすりもしなかった。


「馬の弱点は、足……だったはず!」


 師匠から教わった話を思い出し、直衛は馬の横を通り過ぎながら、前足の膝あたりを思い切り櫂で殴りつけた。

悲鳴を上げて棒立ちになった馬から、敵のエルフを引きずり落とす。

 落馬したエルフは生きていた。

 立ち上がろうとする敵に対して、直衛は櫂を振りかぶった。


「Еφ……!」


 言葉はわからずとも、エルフが命乞いをしているのは直衛にもわかった。一瞬だけ動きを止めた彼は、戸惑いながらも櫂を振り下ろし、エルフを気絶させた。


「……ちいっ!」


 この期に及んで相手の命を奪うことに迷いを抱いている自分に唾を吐き捨て、直衛は流されるままに周囲のエルフと戦い続けた。


「世界樹め! 力をくれたとか言いながら、使い方も教えねぇで、どうしろってんだ!」


 世界樹に対する呪詛の言葉は、理不尽な現状に対するものだったが、ほとんどが説明不足に対するクレームだった。

 叫びと共に奮戦する直衛の活躍はすさまじく、一時は呆然としていた人間側の兵士たちも鼓舞されたかのように奮闘した。

 そして、ようやくエルフの部隊が引き上げ、町の中に入れたのは一時間ほど後になってからのことだった。



「こちらは、この町の兵士さんたちの隊長だそうです……直衛さんに、ありがとうと感謝を述べられています」


 一人の男性がやってきて、ミーアの翻訳を通した謝礼を受けた直衛は、礼はありがたいが今後の話を聞きたい、と返した。


「これからどうするつもりなんだ?」


 ミーアが直衛のことをあらかじめ“世界樹の騎士”であると紹介していたらしく、兵隊長は素直に翻訳された質問に答えた。それを、すぐにミーアが翻訳する。


「先ほどの襲撃で多くの兵を失いました。負傷兵を含めて町の中にはまだ沢山の民衆がおり、脱出もままなりません」


 エルフたちは退いたようだが、監視の目は間違いなくある、と兵隊長は語る。


「民衆を連れては逃げることも適いません。このまま籠城して、近くの町へ応援を頼みに行った部下が、味方を連れて帰ってくることを待つしか……」


 ミーアの翻訳を聞いた直衛は、腕を組んで考え込んだ。


「援軍が来る可能性は?」


「同じ人間の国の町です。相互に協力するのは当然です」


 兵隊長はそう言ったが、表情はすぐれない。

 その理由は直衛にもわかった。もしエルフの軍隊が同時に近くの町も襲っていれば、援軍など出す余裕もないだろう。

 あるいは、援軍を呼びに行った者たちが敵に捕まるという可能性もある。

 しばらく悩んでいた直衛だが、この場で自分とミーアだけ逃げるのは“人間を救う”という目標からすれば当然悪手だろうし、人道的にも選べない選択肢だった。

 だが、直衛は個人の武芸はさておいて集団戦闘に関する知識は浅い。経験は皆無だ。


「俺も協力する。何をすれば良いか教えてくれ」


 おお、と兵隊長がようやく明るい表情を見せた。


「では、申し訳ありませんが、防御の態勢が整うまで、しばらく門の前で見張りをお願いできませんか?」


 この言葉を訳しながら、ミーアは少し不満げだった。


「どうした?」


「直衛さんを矢面に出して、全てを押し付けるような真似ではありませんか?」


 自分のために怒ってくれていることに直衛は礼を言うと、ミーアの頭をそっと撫でた。


「今のところ、俺はここで役に立てるとしたら戦うしかないんだ。それよりも、ミーアは安全な場所に……」


「嫌です。私は騎士さまの補佐をするため、お供をするのが使命なのですから」


 どうやら意志は固いらしい、と直衛は同行を許可せざるを得なかった。但し、戦闘が始まったらすぐに町の中へ逃げることを約束させる。


「それだけは、頼むよ」


「……わかりました」


 ミーアは勉強ばかりしていて、戦いに参加する技量を持っていないことを悔やんでいるらしい。しかし、直衛はだからこそ良かったと思っていた。

 戦場でミーアが隣にいたら、常に気を配っていなければならないからだ。


「ところで、どうして“世界樹の騎士”ってだけで兵隊長たちは歓迎していたのに、国はミーアたちを保護していないんだ?」


 兵隊長の指示に従って移動し、門のすぐ外側に立てられた簡素な大楯の後ろに座った直衛は、チラチラと周囲を確認しながらミーアに尋ねた。

 周囲には数名の兵士が直衛と同じように周囲を見張っていたが、何か遠慮しているようで直衛に話しかけてこようとはしない。


「俺にそれだけの実力があるかはさておいても、“世界樹の騎士”と言えば人間の国を救う英雄なんだろう? 本当かどうかは知らないが、前の二人は随分活躍したらしいし」


「それが……直衛さんは世界樹の騎士としては数百年ぶりなので……」


 兵士たちのように戦闘に携わるものたちにとっては英雄であり、ミーアの家系も何かと個人的に気を配っている者たちもいるらしい。しかし、国としては眉唾な伝承とされているらしく、国の予算が割り振られるようなことは無いのだという。


「ん? じゃあ、集落の長がくれた金は?」


「それは、私たちが民芸品などを売った分から、こつこつ溜めていたものです」


 一部は先代が残した宝石も含むそうだが、長い年月で貨幣は使えなくなり、骨董品のようなすぐに現金化できない部分もあるため、そうして蓄財していたらしい。


「ああ、そんなに苦労して溜めたんだなぁ」


 なるべく早く稼いで返さないと、と直衛は再び盾の陰から顔を出しながらボヤいた。


「戦いで活躍したら、多少なり報奨金とか貰えないもんかな」


 いずれにせよ、先立つものは必要だ。そう考えた直衛は、なるべく預かった分のお金に手を付けないでおきたいと思っていた。


「いずれにせよ、何か稼ぐ方法を考えないと……ん?」


 直衛は、遠方から馬の蹄が地面を踏み鳴らす音が聞こえ始めたことに気づいた。


「ミーア、町の中へ」


「敵ですか?」


「わからないが、念のために兵隊長へ連絡を頼む」


 ミーアが頷き、場所を離れたことで直衛は再び音がする方向へと向き直った。

 数十秒を待って、ようやく姿が見えて来たことで、直衛は奥歯を噛みしめた。

間違いなく相手はエルフだったのだが、彼らが十数名の少数であることよりも、大量の矢が収まった矢筒を背負って戦う気満々でいることよりも、彼らの先頭を進む人物がロープを使って引きずってきたものが直衛の視線を釘付けにする。


「あいつら……!」


 それは人間だった。それも、直衛にも見覚えがある人物、ミーアがいた集落の長だった。

 長い間、荒れた大地を引きずられてきたのだろう。腰から下は血だらけになって衣服は穴だらけになっている。

 生きているのか死んでいるのか、両腕を縄で括られた状態で、仰向けのままぐったりと動かない。


「なんてことを!」


「ЕΓνΣ!」


 直衛の言葉の直後、兵士の誰かが叫び、一斉に矢を放つ。


「ま、待て!」


 直衛は止めようとしたが、言葉が通じず、必死でエルフを撃退しようとする兵士たちは直衛の動きを見る余裕などない。

 十数発の射撃がエルフたちを襲った。


「危ない!」


 まだ生きているかも知れない長にも矢が当たるのでは、と直衛は矢を追いかけるようにエルフたちへ向けて駆けだした。


「くそっ!」


 当然だが、矢の速度に間に合うはずもない。

 矢は雨のようにエルフたちを襲い、そのいくつかは長にも届こうとしていた。

 しかし、矢は全て叩き落される。


「なにっ!?」


 直衛には何が起きたかわからなかった。

 何かを使って矢を防いだようだが、どうなったかは見えなかったのだ。


「ふん、この程度の攻撃しかできないか」


 エルフの先頭にいる人物が鼻で笑ったように言うと、前に向けて右手を振るった。

 直衛はその光景に違和感を覚えたが、直後、エルフたちがそれぞれに矢をつがえ、直衛や、その後ろにいる人間の兵士たちに向かって一斉に放ったことで、思考は後回しになる。


「うおっ!」


 掴んでいた櫂をまっすぐに立て、直衛は右足を前に出した半身の構えをとる。射撃武器に対して投影面積を最小限にする動きだ。

 ガンガンと矢が当たる音が響き、地面と右手でしっかりと支えた櫂に数本の矢が突き立つ。そうして直衛は無傷で矢をやりすごせた。だが、後方にいた兵士たちの声は途絶えた。


「ほう、単なる棒きれを持っているだけの雑兵かと思ったが、なかなかやるな」


 直衛は、エルフの声を聞いて先ほどまで感じていた違和感の正体に気づいた。


「言葉が……通じる!?」


 直衛の言葉に、エルフのリーダーと思しき人物は目を丸くして驚いていた。


「お前が、人間族側の“世界樹の騎士”か。これは丁度良かった。……放て」


 リーダーの合図で、エルフたちは再び矢を放つ。

 今度は直衛に集中して射撃が行われたが、逆に狙いが絞られていることで直衛にとっては避けやすくなった。

 櫂を掴んだまま右へと滑るように移動した直衛は、そのまま円を描くように足を踏み出して身体を捻ると、横なぎの一撃を馬上のエルフに向けて放つ。

 だが、その攻撃も先ほどの矢と同じように見えない何かで弾き返されてしまった。


「ぐっ!?」


「どうやら、世界樹の力を引き出せていないようだな。なら、始末するのは容易い」


 エルフは掴んでいたロープを引き上げ、倒れていた長の身体を持ち上げた。


「貴様……!」


 露わになった長の背中は皮が破れて肉が露わになっており、ぐったりともたげている頭部にはすでに生気は無い。


「なんで、こんな真似を!」


 二度、三度と直衛は櫂を振るって攻撃を加えたが、全ての動きははじき返された。しかし、今度は攻撃の正体がわずかに見えた。

 エルフのリーダーの背中あたりから、細いひも状の何かが素早く飛び出したようだ。先端は速度が速すぎて見えなかったが茶色の根元あたりがかすかに視認できた。


「何かの、紐か?」


「ほう。随分と目は良いらしい。だが、世界樹の力を引き出せていない以上、お前に勝ち目は無い。折角、世界樹の御子を探して辺鄙な村まで訪ねて行ったというのに、こうなるなら無駄足だったな」


「あの集落に何をした!」


「潰したさ。人間側の騎士が現れる前に、と思ったが、すでに御子はいないと来た。そして、素直に行先を答えなかったから、こいつはこんな目にあった」


 放り捨てられた長の死体が、直衛の目の前に落ちた。


「人間側? 潰した?」


「何も知らないのか。まあ良い。そのまま死ね」


 そう言ったエルフのリーダーの腰から、ずるずると数本の茶色い蔦が伸びて来た。


「これが、さっきの……」


「そう。俺がエルフ側の“世界樹の騎士”として得た力だ。お前も自分の力を呼び起こすことができていれば、もう少しましな戦いができたかもな。では、死ね」


「ぬうっ!」


 直衛は櫂を縦に掴んで、右からの蔦をどうにか防いだかに見えた。だが、木製の櫂は真っ二つに折れた。


「ぐ、ぶぅっ!?」


 櫂をへし折った蔦は、そのまま直衛のわき腹をしたたかに殴りつける。

 べきべきとあばら骨が折れる音がはっきりと聞こえて、直衛は口から大量の血を吐きだした。

 べしゃり、と音を立てて倒れた直衛を、エルフのリーダーはつまらなそうに見下ろした。


「止めを刺さないのですか?」


 一人のエルフがそう問うと、リーダーは「不要だ」と答えた。


「内臓にあばらが刺さった。放っておいても、こいつはもうすぐ死ぬ」


 直衛を打ち捨てたまま、エルフのリーダーは固く閉ざされた門の前へと近づき、大音声を上げた。


「俺はエルフ側の“世界樹の騎士”トゥマナだ! お前たち人間側の騎士は死んだ! 大人しく“世界樹の御子”を差し出せ! そうすれば他の者たちの命は助けてやろう!」


 町の中でざわめきが起きるのをはっきりと聞いたリーダーはニヤリと笑った。


「明日、また来る。その時には町の前に御子だけを出して置け。そうでなければ、お前たちは皆殺しだ」


 言葉が終わると同時に、トゥマナの腰から伸びた蔦が頑丈な町の門を殴りつけ、いくつもの穴を開けた。

 その破壊力に、悲鳴が轟く。


「俺が持つこの力を、その身を以て、命を対価にして味わいたければそうすれば良い。隠すなら、全員を殺すだけだ」


 兵士たちも城門の前にいたが、誰一人としてトゥマナに対して反撃はできなかった。先ほどまでの戦いですら互角以下であったのに、さらに強力な相手に対抗しようが無いからだ。

 ようやく兵士長たちを連れて戻って来たミーアが、気を失っている直衛を泣きながら背負って町の中へと連れ戻し始めた時、すでにトゥマナたちは去った後だった。



「う……」


 うめき声を漏らしながら口の端から血を零す直衛を不安そうに見下ろすミーア。町の中のどこの建物にも入れてもらえず、直衛は地面に敷かれた布の上に寝かされていた。

 エルフの襲撃から一夜明けた今、ミーアが世界樹の御子であることは兵士たちを始めとした誰もが知っており、周囲からの視線は冷たい。


「あの娘がいるから、この町が狙われたのでは?」


 と、疑ってかかる者も少なくない。

 そして、直衛の実力に対しても落胆の色が広がっていた。

 彼を頼りにしていた兵士たちも、期待外れな結果にあきれ顔で、中には同僚が死んだことを直衛のせいだと主張する兵士もいる。


「直衛さんは、命がけで人間のために戦ったのに……」


 ミーアはそんな民衆たちに対して落胆していた。

 彼女は幼少から騎士のために役立てるように、と努力していた。両親を始めとした一族の多くの者たちが、身に着けた知識を使うことなく死んでいった中で、彼女は御子として旅に出るという機会を得られた。

 これは人間の危機を救う旅であったはずだ。

 それなのに、人々は騎士を悪し様に扱い、手当すらせずにまるで罪人かのように白い目を向けている。


「御子殿」


「あ、兵士長さん……」


 兵士長だけは、直衛をあの場所へ配置した責任を感じているのか、敷物を用意したり、ミーアたちのために食べ物を用意していた。

 しかし、兵士たちの手前、兵たちのための場所を分けることもできずにいる。

 そんな兵士長は何かを伝えようと口を開いたが、言葉が出ないようだ。


「なんでしょう。はっきりと言ってください」


「むぅ……。実は、民衆たちからの意見もあって、町の責任者が御子殿を差し出して事態の打開をする決断をくだしたのだ……」


「なんてことを!」


 ミーアは激高した。怒りは彼女自身が犠牲になるからではなく、責任者の認識の甘さに対してだ。


「そんなことをしても、町が襲撃されない保証はないでしょう!」


「御子殿の言うことももっともだが、私としては責任者の決定に従わざるを得ない……。御子殿を犠牲にすることを進んでやりたいわけではないのだが……」


 兵士長はそう言っているが、背後にいる彼の部下たちは殺気立った目をしてミーアたちを見ていた。掛け声一つで彼女を捕まえられるように構えているのだろう。


「代わりと言っては何だが、騎士殿は私が責任を持って医者に診せると約束する。なんなら、今すぐに連れて行っても良い」


 兵士長は町の責任者からそれだけは許可を得ている、と命令書を見せた。


「……わかりました」


 命令書が出ている以上、兵士長は任務として直衛を医者の所へ連れていくだろう。呼吸すら苦しそうで、かなり危険な状況ではあるが、助かる見込みが無いとも言い切れない。

 何より、他に直衛を救う手立ては無い。


「私は医者のところへはついていきません。すぐにでも町の外へ出て、エルフたちが来るのを待ちます。私が自分を犠牲にしても良いと思ったのは、あくまで騎士さまのために時間を稼き、回復の可能性を増やすためです」


 町の人たちと共にいるのも嫌だという態度を露わにして、ミーアは宣言した。

 そして、兵士長へと深々と頭を下げる。


「どうか、直衛さんを……騎士さまをお願いします」


「わかった。間違いなく、最優先で治療させると約束しよう……すまない」


「いえ。これが運命だった、と受け入れます。直衛さんが目を覚まされたら、『楽しい時間が過ごせました』とお礼を伝えてください」


 伝言を託し、背を向けたミーアに兵士長は声をかけた。


「聞けば、御子殿が騎士様とは昨日知り合ったばかりだとか。だというのに、どうしてそこまで自分を犠牲にできるのだ?」


「そんなの、決まっています」


 ミーアは振り向いた。

 その表情は陰りなど欠片も無い笑顔だった。


「直衛さんは押し付けられた役割を命がけで全うしようとしました。私はその姿に惚れたのです」


 時間の長さや結果ではなく、彼女はただその意志と姿勢を美しいと思った。


「役割を……全うしようとする、意志か」


 兵士長が自らを省みて顔を俯かせているのを放って、ミーアは誰にも止められることなく、町の外へと出て行った。

 その時、直衛は目覚めていたが、身体は動かせず、誰にもそのことは気付かれなかった。


「ミーア……」


 直衛はかすかな声で名を呼んだが、周囲の音に容易くかき消されてしまい、兵士たちが乱暴に戸板へと彼の身体を乗せたところで、再び気を失った。



「人間とは、随分と愚かなものだな」


 再び数名の部下と共に馬に乗って現れたトゥマナは、一人立ったままで待っていたミーアの姿を見て、そう呟いた。


「私が死んだからと言って、人間が必ず滅ぶとは限りません」


 ミーアの目は強い意思を感じさせるものだった。

 エルフの兵士たちは「生意気」だと憤ったが、トゥマナは面白いと感じていた。


「だからこそだ。“世界樹の騎士”は世界樹がある限り召喚される。だからこそ、お前たち御子の家系を絶やすことにしたのだ」


 エルフの御子は、一族ではなく複数の集落から騎士が現れたときに最も優秀な者が選ばれる。彼らは長寿であり、以前の御子が召喚された頃に生きていた者が残っていることで、人間たちの国のように騎士の話が風化しなかった。


「人間どもは、愚かにも騎士の存在を忘れかけた。だからこそ人間を絶やす機会を得たのだから、我々にとっては都合が良かったのだが、な」


 トゥマナは腰から蔦を伸ばし、ミーアの目の前に突き付けた。


「せめて苦しまずに殺してやろう、人間の御子よ。騎士に恵まれなかったことを悔いて死ぬが良い」


「いいえ。私は御子として最高の騎士に恵まれました。それは間違いありません」


「ふん、強がりもここまでくれば立派だ」


 一度引いた蔦が、ぐるりと大きく回ってミーアの首を目掛けて斜めに振り下ろされる。

 隠しようが無い恐怖に目を閉じたミーアは、死の瞬間が訪れるまで、直衛の無事を祈っていた。

 しかし、その瞬間は来なかった。


「あれ……?」


 本当に痛みを感じないままで殺されたのだろうか、と恐る恐る目を開けたミーアは、すぐに驚きで目を見開く。


「な、直衛さん!?」


「……おう……」


 折れた櫂を両手に掴み、ミーアに向けて放たれた攻撃を受け止めていたのは、直衛だった。

 苦し気に息をしている姿は、全く回復しているようには見えない。むしろ、大量の血を口からだらだらと流している姿は、いつ死んでもおかしくないほどだ。裸になっている上半身。その脇腹は青く変色している。


「死にぞこないめ。御子と共に死にに来たか」


「いや、礼を言いに来た」


「礼だと?」


 ふぅ、と息を吐いた直衛は、大胆にもトゥマナへと背を向けてミーアへ向き直った。


「ありがとうな、ミーア。俺のために命まで投げ出してくれて」


「直衛さん……」


 大粒の涙を浮かべたミーアに、直衛は微笑む。


「おかげで、自分が何をしに来たのか再確認できた。それと、力の存在も理解できた」


 直衛は、再び振り返る。

そして、自分へと向けて伸びて来た蔦による叩きつけを、櫂を振るうことではじき返した。

 右手に握られていた櫂は、いつの間にか一本につなぎなおされており、掴んでいる部分の周囲や折れていた場所には、太い枝のようなものがからみついている。


「その武器は……! 貴様……ちっ!」


 トゥマナは直衛を見て、舌打ちする。

 口から流れていた血は止まり、痛々しいまでに腫れあがっていたわき腹にも、同じように枝がからみついていた。


「守ること。それが俺の使命だ。そのための力が、ここにある」


 直衛は自らの身体の中に生み出した根を張ることで内臓を守り、折れた骨を支えている。痛みはあるが、気付と思って放っていた。そして、櫂にも根を張ることでがっしりとつなぎなおしたのだ。

 右手に握った櫂を振り上げ、トゥマナが繰り返し攻撃してくるのを直衛は片手ではじき返した。

 前日には簡単に叩き折れたはずの櫂だったが、今度は傷一つ付けられない。


「お前の攻撃は確かに早い。それに威力も高いが、馬鹿の一つ覚えのように叩きつけるだけじゃあ、簡単に受け流せる。強化された俺の櫂を折るのは無理だぜ」


「抜かせっ!」


 さらに速度を上げる叩きつけを捌きながら、直衛はミーアに声をかけた。


「今度こそ、俺に任せてくれないか」


「直衛さん……」


「大丈夫。任せておけ。ミーアが無事じゃないと、困る」


 直衛の言葉は正直なものだった。ミーアに対する特別な感情があるかどうか、本人も判然としなかったが、言葉が通じない世界で彼女がいなければ困る、というのは間違いない事実だ。

ミーアは戸惑っていたが、直衛の視線を受けて決意した。


「わかりました……!」


「待て!」


 町へ向けて走り出したミーアに向かって、トゥマナの蔦が伸びた。

 だが、それも直衛の櫂に叩き落された。


「おっと。お前の相手は俺だ」


 両手に握った櫂。その先端を突き付けるように構えた直衛は、注意深くトゥマナの動きを見ていた。


「エルフの世界樹とか言っていただろう? どういうことか聞かせてもらおう」


「……実力で口を割らせてみろ!」


 叫びと共に馬から飛び降りたトゥマナは、複数の蔦を使って直衛を叩き伏せんと攻撃を仕掛けた。

 対して、直衛は冷静に相手の動きを見ていた。


「そんな棒きれで何ができる!」


「何でもできるんだよ!」


 櫂という武器は、数多くの武器術を教え込まれた直衛が特に気に入っている武器だった。

 細い握り側でも平たい先端でも突き、斬り、叩きつけの攻撃ができ、相手の足を救ったり、武器を引っかけて奪うこともできる。

 自在の武器であり、使い方次第で可能性が広がる武器だと直衛は考えていた。


「こんな風に、な!」


 蔦の一つをわざと櫂に絡みつかせた直衛は、相手の勢いをそのまま引き込むように退きつけた。


「ぬぅ!? ぐおっ!?」


 バランスを崩したトゥマナに対し、直衛の櫂がくるりと回って突きを入れる。

 平たい部分で突かれたトゥマナは、半回転して膝への打撃をもまともに受け、転倒する。


「騎士様!」


 そう声をかけたのはエルフの御子なのだろう。

 すぐに周囲のエルフに命じ、直衛へと矢を射かけるように命じた。

 いくら世界樹の力を使えると言っても、矢に貫かれてはひとたまりもない、と倒れたトゥマナに追撃を加えるのを諦めて距離を取る。


「放て!」


 そう言ったエルフの御子に応えて矢が放たれようとしたとき、直衛の背後から多くの足音が迫った。


「な、なんだと!?」


 ふらふらと立ち上がったトゥマナは、目の前の光景に驚いていた。

 人間の兵士たちが町から飛び出して来て、まさに攻撃しようとしていたエルフの兵士たちに襲い掛かったのだ。


「§φ!」


「あんた……」


 奮闘する人間の兵士たち。その先頭には、あの兵士長がいた。

 直衛の顔を見て笑みを浮かべた彼は、槍を掴んで一人のエルフ兵に対峙したまま何かを叫んだ。


「助太刀か。ありがたい!」


 実のところ、兵士長は「自分の役割は民衆を犠牲にすることではなく、民衆を守ることだと今さら気付いた」と叫んでいたのだが、直衛は単に手助けしてくれた、と感じていた。


「おのれ……」


「どうやら、俺たち世界樹の騎士は俺たちだけで決着をつけなくちゃあいけないらしいな」


 憎々しげに周囲を見ていたトゥマナは、直衛の言葉に不愉快だと叫んで蔦を伸ばし、さらに腰の細い剣を抜いて斬りかかってきた。

 蔦はさておき、刃の相手は直衛も日々繰り返し稽古してきたことだ。直衛の身体は、繰り返してきた稽古の内容をなぞるようにして軽やかに動く。

 突きに対して直衛は櫂を添えるように逸らし、そのまま櫂の先端を向けてトゥマナの顔面を強かに叩いた。

 振り下ろしに対しては櫂を回して横から叩きつけることで逸らし、腹を突く。


「ぐふぅ!?」


「刃が無くても、充分に使いこなせれば武器になるんだぜ」


 腹に強烈な打撃をトゥマナは、直衛の言葉に反論を向けることもできず、ふらついた挙句にとうとう仰向けに倒れた。


「騎士様!? あうっ!?」


 声を上げたエルフの御子も、兵士長の槍を受けて転倒する。

 血煙を上げてもんどりうった御子の姿を見たトゥマナは、両手を広げて大の字に横たわった。


「……俺を殺しても、他の種族からの騎士がお前を狙う。終わりなき戦いに巻き込まれたお前は、死ぬまで戦い続けるしかない……」


「やっぱり、他の種族にも“世界樹の騎士”がいるのか」


 世界樹はそんな話を一切しなかった、と直衛は苛立ちを感じながら問う。


「いる。全ての種族にはそれらの上に君臨する世界樹があり、それぞれの種族に近い者を他の世界から呼び出しては、自分の眷属である種族を守るために戦わせる」


「俺たちは駒扱いというわけだ」


「そう。ゲームの駒と何も変わらない」


 トゥマナの表情からはいつの間にかすっかりと毒気が抜け、さっぱりとしたものに変わっていた。


「随分と素直に話すんだな」


「……もう、うんざりしたからだ。エルフ社会の中で地位を守るのも、他の種族と戦うのも……。御子も死んだ。もう、俺も解放されて良いだろう」


 トゥマナは長命のエルフとして長い期間種族の取りまとめを行うために戦い、さらに人間との戦いを主導してきたという。

 彼は一通り語り終えると、仰向けに倒れたままでおもむろに握っていた剣を持ち上げた。


「強烈な一撃だった。今度は俺の方があばらを折られたようだな……」


「おい、何をするつもりだ?」


 嫌な予感がした直衛が問うと、トゥマナはにやりと笑う。


「このまま無様に殴り殺されるなんて、御免だからな」


「おい!」


 殺すつもりは無い、と直衛が言うよりも早く、トゥマナは自分の剣を首筋に当てて引き裂いた。

 頸動脈を引き裂いた傷は、噴水のように血を噴き出している。


「……せ、かいじゅ、は……おれ、たちの……てきだ……」


「……ちっ!」


 騎士も御子も死んだ、とエルフたちは武器を捨てて一目散に逃げだした。

 息絶えたトゥマナを見下ろしていた直衛の周囲では、人間の兵士たちが勝利に沸いている。遠く、町の方からも歓声が聞こえた。

 だが、直衛の表情は暗かった。



「直衛さん、身体は大丈夫なのですか?」


「ああ、問題ない。自分の一部が木になったってのは変な感じだが、もう苦しさは無いよ」


 直衛は不安げに気遣うミーアに笑みを見せた。

 彼らは、手のひらを返したように喜色満面の民衆たちに迎えられ、最高級の宿を用意された。

 夜になるとたくさんの料理が並べられ、町の責任者だという男が顔色を窺うかのようにちらちらと視線を向けながらねぎらいの言葉をかける。

 そんなうんざりするような場所から逃げ出すように用意された部屋に戻っていた。

 そして、今、二人は町をひっそりと出ようとしている。


「人間を守る使命はさておき、俺はもう少しこの世界を見て回ろうと思う。そして、世界樹の本当の狙いを探り、どうするか決めるつもりだ」


 そう決意した直衛に、ミーアも同行すると決めている。

 彼女がいなければ会話もままならない直衛としては助かるのだが、自分の都合で連れ回すことに引け目も感じる。


「本当に良いのか?」


「はい。それが私の使命……いえ、私の意志です!」


「わかったよ。この二日間で、ミーアの意志がどれだけ強いか知らされたからな」


「お互い様です」


 ミーアが笑うと、直衛もつられて笑う。

 ロウソクの灯りだけがある暗い部屋で、しばらくクスクスと笑い合っていた二人は、落ちついたところで、ドアをそっと開いて外へ出ると、そのまま町の外へと飛び出した。


「まずはどこへ行こうか?」


 何も決めていないが、世界樹の使命とは関係なく自由な旅がしたい。

 直衛はそう思って、ミーアに尋ねた。


「人間の王様がいるところを見に行こう」


 それが、彼らが始めた旅の、最初の目標となった。

お読みいただきましてありがとうございます。


他の作品も、ぜひよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界樹からの使命を全うするわけではなく、使命に従う中で自分の感覚を信じて動いたところは面白いと思いました。特に主人公が好戦的というわけでもなく、中盤でエルフと戦うという展開になった時には肯…
[良い点] あけおめです( *・ω・)ノ 気になるとこで終わったぞい…続きが気になりますね(^^)
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