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対局

「ご隠居様、ありがとうございました」

みんなが出発した後、カウンターに戻ってきたミュレーはご隠居様の横に座った。

新しい加工法が気になるランドはいたのだが、当然のように無視だ。

「なあに、礼を言うのは儂の方じゃろうて」

言うことは格好いいのだが、無くなったみそスープの底を名残惜しそうにのぞき込んでいる。

「こっちこそ商売なんだから気にしなくていいけど、こんなところにいてもいいの? お城の方は大変なんでしょう?」

「わかるか?」

ようやくご隠居様が顔を上げた。

「そりゃね。小麦の収穫が半分ということは収入が半分になるんだし、来年の領地経営が行き詰まることを予測できない人はいないでしょうしね」

「開拓は間に合わんか?」

「思うようには進まないでしょうね」

「馬と、一輪車だったか、それでもか?」

期待のこもった視線が来る。

「切り株一つとってみても、根は深くて広い。かなり掘り起こさないと馬の出番は来ないし、石や岩だって土の中。それなのに、公爵領にある広大な小麦畑と同じ面積を開拓しなきゃならない。どう考えても無理。絶対無理。逆立ちしても無理」

「無理、か」

ご隠居様が肩を落とした。

「しょせんは人力だしね」

「なるほどのう」

馬があっても、まだ見ぬ一輪車が活躍したとしても、人力で開拓するのには限界がある。必要とする耕作地があまりに広すぎるのだ。


ご隠居様はもしかしたらという思いでここに来たのだろう。

そして、それが駄目でもミュレーが直接話をすれば……。そんな期待があったはずだ。

ミュレーとて何とかしたい気持ちはあるものの、貴族はとかく面倒なので気のりはしなかった。

「諫言に耳を貸さないお方とは思えないんですけど」

「いろいろ申し上げてはみたんじゃが、街道や港の工事は我らの成果なのだそうじゃ。部下の成果を横取りする公爵にはなりたくないとおっしゃられた」

一応聞いては見たが、予想通り駄目だったようだ。

話が微妙に飛ぶところをみると、いろいろ頑張ってはみたがこの言葉で降参したということだろう。

「だからって、これはないでしょう? こんなもの、現場を知らない者が考えた卓上の空論よ。そして、ミリオン様はその現場を学ぶためにここに来られた。違う?」

「その通りなんじゃがのう。先ほどの話を聞いて良いのは分かった。いや、本当には分かっておらぬやもしれんが、我々では相談相手にすらならん。だからおひとりでお決めにならざるをえんのじゃ」

いくらか強い口調に変えて論破するも、再び話が飛んだ。

しかも、だからこそミュレーの出番なのだと言わんばかりだ。

「……」

「……」

ご隠居様の話術にしてやられた感じでおもしろくない。

「私はただの小娘よ」

「とても美しい娘に見えるがのう」

反撃の糸口もつぶされた。本当に食えない爺さんだ。

「やっぱり、本人に言うしかないか」

「おお、それは面白い。直言するには身分がいる。儂の娘になるか?」

途端にこれだ。

ため息をつくミュレーの耳に、台所のほうからガタンと音が聞こえた。

「お断りします。私には王国一のお父さんがいますから」

ふたたび音がした。

「普通は大喜びするもんなんじゃがのう」

「味噌スープの話をしてください。それでここに来たくなるはずです」

「うーん」

途端に渋い表情になるがここで引くわけにはいかない。

話をすると譲歩したのだから、お城から引きずり出すくらいはやってもらわないと割が合わないのだ。

ここは切り札を使わせてもらおう。

「お父さん。おかわりだって」

さすがのご隠居様もこれには苦笑いするしかなく、一件落着とするのが大人の対応というものだろう。


しばらくして味噌スープがやってくると、ホクホク顔になったご隠居様がポツリとつぶやいた。

「あれはどうする?」

カウンターから振り返るとランドがいた。忘れていたわけじゃない……たぶんだが。

「まだ居たんだ」

「五目並べの勝負をする約束だ。それとも全部嘘だったと白状するか?」

「分かりやすい挑発ね。いいわよ、遊んであげる」

ミュレーがテーブルに向かうと、ご隠居様も味噌スープを片手についてくる。

貴族としてどうなのかと言いたいところだが、気にしない人だった。


「デカ!」

ランドの前にある大きな板が目をひいた。マス目があるからこれを使うのだろう。

「時代遅れの十九路盤はしかたないにしても、中央の赤い線で囲みは何?」(解説1)

「ふふふ。これはな」

もったいぶったスナポンの説明だと、これはリバーシと五目並べの両方が出来るボード盤というらしい。

「ボード盤? あのさ、意味わかってる? 『いにしえの昔に、武士の侍が、徒歩で歩いていた』みたいなのりよ」

「なんだ、それは?」

「もういい。ちょっと貸して」

ひったくるようにボード盤なる木の板を手にする。

「かなりいい木を使っているのね。しっかり乾かしてあるから反りもない。削りもいいし、面取りも丁寧。線は浮いてないからインクね。仕上げもいい感じ。職人の腕は確かみたいね」

「分かった風な口をたたく娘だ」

ボード盤をテーブルに戻すと、白と黒に塗り分けた円柱の薄い木がバラバラと出てきた。

「これって? もしかして、リバーシの駒? まさかと思うけど、これで五目並べをする、とか?」

「盤も駒も兼用というすばらしいアイデアだ。知らないだろうがな」

これには頭を抱えたミュレーだった。

「大丈夫か?」

ご隠居様が味噌スープを手に聞いてくる。

「頭痛くなってきた。だけど、これだけは言える。ミリオン様は絶対、ぜーったい職人じゃない。」

気力を振り絞ってミュレーは断言した。

「当たり前だ。考えたのがミリオン様で、作ったのが職人だ」

何をいまさらと、スナポンが反論する。

「そういう意味じゃないんだけど。もういいわ」

もはや何も言うまいと、ようやく椅子に腰を下ろした。

「さんざん大口をたたいたんだし、俺が勝ったら木よりも軽い鉄の加工法を教えてもらうぞ」

「それは、まあいいけど。私が勝ったら小麦を馬車百台が先よ」

「勝てるものなら、な」

お互いがニヤリと笑いあう。


「ルールの確認よ」

「いいだろう」

三三さんさん四四しし長連ちょうれんは禁じ手」

「当然だ」

「これは先手の黒だけ?それとも後手の白も禁止?」

「先手も後手も禁止に決まっているだろう」

「了解」

今度はミュレーだけがニヤリとした。

「うん?」

「私に負ける要素が無くなったの」

ご隠居様が聞いてくるので答えたが、それはすごいと目を見開くのを見て、分かってないと思いながらも笑顔を返す。(解説2)

「大口をたたいた責任を取って、私が後手の白でいいわ」

「後悔するぞ」

「さあ、どうでしょう?」

そして対局が始まった。


黒第一打。その上に白第一打。

黒第二打は右斜め上。白第一打の右横。

+++++++

+++++++

+++○●++

+++●+++

+++++++

+++++++

「へーっ、花月と来ましたか。分かっているのか、いないのか。おもしろくなってきたわね」(解説3)

「ふん。また、わけの分からんことを言いやがって。惑わそうとしても無駄だ」

素早くミュレーと盤上に視線を走らせたランドが答えた。

「困ったわね。どうしましよう」

「やはりな」

思案顔を見てランドが笑う。

「ということは、あれが使えそうね。じゃ、ここはおためしで」

ランドの反応を見て決めたのか、心配顔のご隠居様をよそにミュレーが石を置く。


白第二打も右上。白黒仲良く斜めに並んだ。

+++++++

++++○++

+++○●++

+++●+++

+++++++

+++++++


黒第三打は黒第一打の左。白第一打の左下。

+++++++

++++○++

+++○●++

++●●+++

+++++++

+++++++

「斜め白二を止めつつ、自分の二を作る。五目並べの基礎はかじったみたいね」

「ふん。この戦法でミリオン様にも勝ったことがある。必勝法というやつだな」

「必勝法ねえ。じャ、これでどう?」


白第三打は白第一打の右下。黒第一打の右横。

+++++++

++++○++

+++○●++

++●●○++

+++++++

+++++++

「なるほど。横に伸びた黒の二を止めながら斜めに二を作る。まねをしたな」


黒第四打は白第一打の左上。斜めに伸びた白二を止めながら縦に二を作った。

+++++++

++●+○++

+++○●++

++●●○++

+++++++

+++++++

「やはり予想通りね。さてと、おためしその一は成功だから、おためしその二といきましょうか」


白第四打おためしは黒第一打の下。白はクネクネと斜めに並んだ。

+++++++

++●+○++

+++○●++

++●●○++

++㋑○+++

+++++++

「何が成功だ?」

そう口にしたランドの手が止まった。

三にしたいところ(㋑)は三三の禁じ手で打てないのだ。


勝敗はこのとき決したと言ってもよかったのだろう。

「石を止めずに筋を止めろ、ってね。このぶんだと、あと十個で私の勝ちかな」

盤上には黒白ともに四つあるだけだが、早々に勝利宣言をしたミュレー。

「生意気な娘だ」

そう言いながらも対局は進んだ。

そして、ランドの戦意が消失したのは、じつに宣言通り白石十個目の時だった。(おまけ)

「勝ったのか?」

「楽勝よ」

ご隠居様が二人の顔色を見ながら聞いてきたので、笑顔で返す。

「嵌め手なぞ、卑怯なやり方だ」

「あらら?負け惜しみしちゃうんだ」

 気が付いたら負けていたランドの愚痴には、おかしそうな笑いで返す。

「おためしは最善手じゃない。それどころか、はっきり言って悪手よ。強い相手なら私の負け。それでも勝てないあなたが、よ、わ、い、の」

 どこまでも容赦のないミュレーだった。



解説1

 囲碁で使われる碁盤のマス目は19で、19路盤といいます。現在の連珠盤は15路盤を使います。


解説2

 連珠では先手がとても有利になるので『先手にだけ禁じ手』を設けています。

 しかし、先手の有利さを生かせないレベルだと『両方を禁じ手』にしないと不公平になります。

 つまり、両方ともに反則というルールなら弱い。そう断言できるわけです。


解説3

 花月という必勝形ですが『強ければ』という但し書きが付きます。

 連珠では、これらの必勝形を禁止して対局を楽しむのが普通です。


おまけ

 黒がランドレベルと仮定しての実践譜で、終局前です。

 白番で、二手で勝ちを示してください。

 ヒント・白四と打ち、次が四三となります。(黒のななめ三は無視です)


++++++++

+○○+++++

++●+●+++

+○●●○+++

++●○●+○+

++●●○●++

++○○●+○+

+++●+●++

++●+++○+

+○++++++

++++++++


解答

 ㋑は飛び四で、㋺か㋩で飛び四三の勝ちとなります。


++++++++

+○○+++++

++●+●+++

+○●●○+㋺+

++●○●㋩○+

++●●○●㋑+

++○○●+○+

+++●+●++

++●+++○+

+○++++++

++++++++

分かりやすい嵌め手ならいけるかと書いてみたのですが、スマホでページ切れがあったらごめんなさい。

対局の実況は延々と描いたものの、読み返してみるとしつこいのでカットしました。

でも、カットしすぎたかな?期待させておきながら物足りないのでは?ちょっと不安です。


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