ステージ:ネオトーキョー「外界-廃ビル群」
かつて、世界はひとつだった。その中で最も栄えていた人類は空を地を踏破し、遂には遥か空の彼方、星々が煌めく大海原さえも手中に収めていたという。
だが、その栄華も今は昔。世界は数多に存在し、それらと繋がってしまったことで人類は空を奪われ地を追い回され、仕舞いには地中へと追いやられてしまった。
そうして地上には荒廃した都市が残され、人類の生存圏は地上にはもう数えるほどしかない。そんな“設定”の荒廃した都市の一角、廃ビル群の中のひとつ、その屋上で二人の人間が相対していた。
片方は年若い男である。とは言え、鋭い目つきや立ち振る舞いには既に貫録があり、その精悍さは戦士を彷彿とさせる。
もう片方はそれよりもさらに年若く、未だ少年の年頃を抜けきっていない。だが、身長こそ相対する男よりも頭一つ分低いものの、その瞳からは勝るとも劣らない闘志が窺えた。
両者の間にはカウントダウンを映すホログラムが投影されており、それを見ながら青年と少年は静かに闘志を滾らせる。
そうしてカウントダウンが三十を切った時、男は虚空に手を翳し、一枚のカードを手に収める。そして、そのまま握りしめてカードを砕いた。
パキン、と硝子が割れるかのような硬質な音が響き渡り、男の身体を光が包む。そして、一瞬の後にはその身体は漆黒の全身鎧に覆われていた。鎧は雄牛をモチーフにした威厳のある重厚なもので、マントを翻すその姿からは所謂「ラスボス臭」が溢れ出ていた。
それを見た瞬間、少年はあからさまに嫌そうに顔を顰めた。
「げっ、ノクスの礼装かよ」
「む、一目で看過されるか」
「友達が使ってるんだよ。つうかアンタこの前はダーインスレイヴ使ってたろ。いくつLR持ってんだよ」
「ふっ。社会に出てからゲームに注ぎ込める時間がどんどん減り、フォースの暗黒面に堕ちたこの私にそれを聞くか?」
「この重課金者め……」
そんな溜息を吐きながら少年も同様にカードを呼び出しすかさず砕く。すると、黒と銀の棺桶のような箱が現れ、底部に付いている剣の柄にも見える取っ手を掴んで振り下ろす。
ガシャン、という音を発し、箱の側面から刃が飛び出し、箱は片刃の大剣となった。少年の身の丈ほどもある大剣は重量がありそうな一品であったが、少年はそれを軽々と振り回し、やがて調子を整えるように肩へと乗せた。
「ふむ、可変武器か。出来て新しいカテゴリ故、まだ使ったことは無いな。聞き及ぶ限りでは扱い難い類の武器だったと思うのだが」
「この前手に入れてな。まあ俺好みのロマン武器だ」
「君は相変わらず変な方向に突っ走っているようだな」
「暗黒の課金道を進むよりは向いてるもんでね」
互いに一枚ずつ手札を見せ合い、軽口を叩く。そうしている間にもカウントダウンは進み、やがて秒数は一桁台へと突入する。
そうして、長く短い最後の10秒が過ぎ去り、カウントダウンは0を刻み―――
「“魔王の円卓”所属、パラキート」
「“お嬢と愉快な仲間たち”仲間その一、ブルースカイ」
「参る」
「行くぜ!」
―――戦いの火蓋は切って落とされ、滅びた都市で両者は激突する。
◆ ◆ ◆
20XX年、技術進歩が著しい現代で、今新たな技術が注目されていた。
仮想現実、略してVRと称されるその技術は、始めこそ軍事、医療目的で開発されたものの、今では生活の中に浸透するほど発展を遂げ、人々に親しまれている。
中でも人気なのは娯楽分野への活用で、特にVRを利用したゲームは多くの企業が参入し群雄割拠の混沌とした市場を見せている。需要が多種多様化した現代、仮想現実はそれらを根本的なところから一気に叶える可能性を秘めているのである。
そんな訳で、VRゲームは今や世界中の人々に親しまれる娯楽であり、それは日本でも変わらない。と言うよりも、むしろ日本だからこそ親しまれている。
毎度お馴染み、色んな意味での変態国家ジャポンでは、その性質やら何やらにVRゲームはマッチしたのか、世界でも類を見ない程に多種多様な成長を遂げている。オンラインやオフライン、ジャンルもRPGから恋愛シミュレーションまで、今ではVRゲームのために海外から旅行者が訪れるほど、少々他国とは格が違う発展を見せていた。
そんな中で、今ひとつのVRゲームが注目を集めていた。ゲームのタイトルは「Broken Phantasm」。略して「ブロファン」と親しまれているゲームである。
ジャンルはアクション要素の強いMMORPG。レベル制でもスキル制ない特殊なシステムは玄人好みするものだが、現実と見間違えるほど精巧なグラフィックや、独自のシステム“思考操作エンジン”を採用したことによって運動が苦手な人でもアクションを楽しめるため、今じわじわと利用者が増えているゲームタイトルである。
◆ ◆ ◆
先手を取ったのは茶髪に蒼眼の少年、ブルースカイだった。開始直後に二枚目のカードを叩き割るや否や、物凄い勢いでパラキートへと接近し、超重量の可変武器“フォーマルハウト”を叩き下ろしたのである。
轟音と破砕音が響き、廃ビルの屋上に亀裂が走る。だが、そこにパラキートの姿は無く、カードを砕く際の独特の金属音を舞い上がった砂埃の向こうに聞き、ブルースカイは舌打ちをひとつしてフォーマルハウトを掲げる。
掲げた大剣にパラキートが振るう赤黒い片手剣が噛み合い、甲高い音を鳴らす。そのまま斬り込んでくるパラキートを馬鹿でかい大剣を振るって防ぎ、ひとっ跳びで屋上の縁まで移動した。
「ふむ、やはりタラリアを装備していたか」
「当たり前だろ。どっかの暗黒卿と違って俺は無課金だっつーの。そんないくつもLR持ってないから」
パラキートが目を向けたのはブルースカイの足元、正確には彼が履く靴である。先程までの普通の運動靴とは異なり、現在彼が履いているのは金の装飾があしらわれたブーツ。空を駆ける靴で有名な神話級装備、“タラリア”である。
装備者に絶大な速度アップの恩恵を与え、さらに空を飛ぶ逸話から空中を蹴る能力を備えた伝説の名に相応しい防具である。もっとも、バランス調整のために空中歩行のスキルは連続使用不可の制限があるが、それでも余りある性能を持つ。
くるぶしの辺りから後方へと伸びる金色の翼は、霞のように揺らめき幻想的な魅力を一層高める。備える能力もビジュアルも人気な装備だ。
「ふっ、いずれ君も経験するさ。この道を選ばざるを得ない闇の誘惑をな」
「リアルが忙しくなっただけだろ」
格好をつけて言うパラキートにブルースカイは素っ気なく返す。そうして陥った膠着状態だったが、先程とは異なり先に動き出したのはパラキートだった。
パラキートが一度足を踏み鳴らすと、その周囲に闇夜のような昏い影が広がる。影はパラキートの周囲1メートルほどまで広がり、円を作り出してその中で渦を巻いて蠢く。
その光景にブルースカイは再び顔を顰め、いつでも踏み出せるように腰を落として足に力を込めた。
「では、行くぞ」
呟くようにパラキートが言った瞬間、足元の影から同色の太い鎖が飛び出した。鎖はそのまま伸び続け、一瞬前までブルースカイが居た屋上の縁に衝突し、そのままその一角を吹き飛ばした。
空飛ぶ靴の付与するスキル“移動速度アップⅣ”の恩恵でそれを躱したブルースカイは、二つ目の恩恵“空中歩行Ⅰ”で空を蹴ることで続く第二の鎖を躱し、屋上に着地したところで到来する第三の鎖は身を捻ってギリギリで躱す。
三本の漆黒の鎖はパラキートの、正確に言えばパラキートの装備する“ノクスの礼装”の足元に発生する影から伸びており、一度伸びた後は溶けるように虚空に消え、再び影の中で射出の時を待つ。
「やっぱ面倒だな、鎖」
「そうでなくては困る。コストを13も使っているのだ。その時点で残り7しかコストが残っていないとなると、やはり多局面に対応できる能力でないと割に合わん」
「対応出来過ぎるせいでウィキじゃ最強候補に挙げられてるけどな」
言葉を交わしつつもブルースカイは狭い屋上を飛びまわり、時に躱し、時に手に持った大剣で鎖を弾く。そして、パラキートの頭上へと大きく跳んだところで、大剣を真下に構え、付属しているレバーを引き込んだ。
すると、大剣の刃が棺桶の中に引っ込み、代わりに棺桶が展開されて巨大な砲塔が姿を見せる。そして、姿を変えた砲塔を構え、再びレバーを引いた。
ドウンッ! という重く響く砲撃音が奔り、砲弾は身を翻したパラキートのすぐ傍へと着弾する。外したことに舌を打つブルースカイであったが、純粋な射撃武器ではないため外れることも予想範囲内だ。すぐさま二射三射と続けざまに砲撃を放つ。
対するパラキートだが、展開していた鎖を虚空へと消し、今度は鞭のようにしならせて射出した。すると、砲弾は射線を遮るように展開された鎖に当たり、その全てが射線をずらされパラキートから外れて着弾する。
屋上の一部が黒煙に包まれる中、無傷なパラキートを見てブルースカイは思わず目を剥いた。
「げっ、そんなのありかよ!」
「もちろんありだよ。ほらお返しだ」
既に空中歩行を使い切り、空中で無防備に身を晒すブルースカイに、リロードされた三本の鎖が迫る。
だが、ブルースカイは慌てずに三枚目のカードを呼び出し砕く。すると、ブルースカイの足元に半透明の小さな足場――正確には足場ではないのだが――が出現し、それを蹴って悠々と回避した。
「ピンポイントガードか。防御スペルを足場として活用するとはな」
「ありだろ?」
「うむ、ありだ。ピンポイントガードは確かコスト2だったかな。タラリアが5、その可変武器は……そうだな、8よりは上だろう。残りコストは最高でも5。武器の重量を考えると牽制用の魔法あたりと予想するが……どうかな?」
「あー、まあ教えねえけどさ」
着地したブルースカイは歯切れ悪く答える。その表情は苦々しい物であった。
欲を言えば、この回避手段はまだ隠しておきたかったのだ。まさか先の砲撃が完全命中するとは思っていなかったが、追撃の隙もないほど完全に防がれるとも思っていなかったのだ。
「そういうアンタだって礼装13で残り7だろ? その剣で終わりじゃねえの」
「まあ当たりだ。レア度が高かろうと流石にコスト7以下の剣は頼りない。欲を言えば最低でも8は欲しいところだが」
「言っちゃうのか」
「言っちゃうのだ。この礼装を使っている時点でデッキ読み対策は諦めているからな」
砲塔を変形させ、再び大剣形態へと戻すブルースカイ。
「あー、そうだ」
「ん?」
「そういや言っておきたいことがあって―――」
思い出したかのように言の葉を紡ぐブルースカイにパラキートは疑問符を浮かべる。
そして、ブルースカイは棒立ちの状態から事前動作を見せずに一瞬でパラキートへと肉薄した。
「なっ、君それは卑怯だろ……!」
「課金魔王に慈悲は無い。吹き飛べ」
パラキートの抗議をバッサリと切り捨て、そのまま本人も切り捨てようと大剣を振り降ろす。だが、ギリギリで間に合ったパラキートの剣に割り込まれ、斬撃は辛うじて回避された。
そのまま攻勢に移ろうとしたパラキートであったが、カードが砕かれる音と共に、トンっ、とブルースカイのエフェクトを纏った左手が鎧の中心を叩いた。
その動作に、パラキートは思いっきり顔を歪めた。
(魔法……この距離だと“ゼロ・インパクト”か! 軽装なら瀕死だが、この礼装なら耐えられ―――)
そこまで思考したところで、パラキートはトラックに正面衝突したかのような衝撃を前方から受け吹き飛ばされる。重量のある全身鎧を装備しているため多少の減衰はあるはずなのだが、既に身体はビルの屋上から大きく飛び出し、遥か下方の大地へと落下を始める。
つまり、パラキートが受けた魔法は本人が予想した射程を犠牲に威力を増大させた超近接魔法“ゼロ・インパクト”ではなく、対象を吹き飛ばす効果を持つ異なる魔法だったということである。
「なっ、“バースト・ブロー”だと!? それ魔法型が敵を引き離すための物だぞ! 流石に意味が分からんぞ!?」
「安心しろよ。俺のデッキのカオスさは俺にも理解できない」
「―――っ!?」
思わず上げた叫びへの返答は、予想外に近いところからあった。
声の方向に視線を向けると、吹き飛び続けるパラキートに並走するように飛ぶブルースカイの姿があった。だが、それはつまり、自身が吹き飛ばした敵に追い付いたということである。しかも、吹き飛ばし専用の魔法で飛ばした相手に、だ。
要は自分で投げたボールに後から走って追い付くかのような暴挙なのだ。まさに絶技。神速の靴を履いていなくては出来ない埒外の行動である。
「ちゃっちゃか墜ちろ」
「ぐぅ……ッ!!」
そのまま流れるように大剣の一撃が振り下ろされる。パラキートも手に持った剣で防ぐが、ここは空中。踏ん張ることも出来ずにそのまま遥か下方へと叩き落とされ、それどことかあまりの衝撃に剣を取り落としてしまった。
しかも、先の魔法でパラキートの身体はビルの屋上から弾き出されてしまっている。このまま地面に到達してしまったら強制リングアウトで敗北である。
状況は絶望的。だが、パラキートが装備しているのは最強装備の候補に名が挙がる至高の一品。コストと引き換えにしたその万能性は他の追随を許さない。
「舐めるなッ!」
背後の空間から二本の鎖を射出し、それをビルに突き刺すことで支えとし、ビルの側壁に着地する。
落下が止まったことでようやく一息つくが、ふと頭上を見上げ再び驚きを露わにした。
そこには、空中に飛び出したブルースカイがパラキートを追い、メカメカしい大剣を片手にビルの側壁を駆け下りる姿があった。
「その首よこせぇぇえええッ!!」
「悪魔か何かか君は!?」
鎖をリロードし、今度は一本射出し振り子のように移動することで大剣の一撃を回避した。
その途端、ドゴンッ!! という轟音を響かせ、大剣は一瞬前までパラキートが居た地点に突き刺さり、辺り一面に亀裂を走らせた。
大剣は根元近くまで側壁に埋まり、起こした亀裂からしてもう何発か放てばビルを倒壊させられるのではないかという威力だ。パラキートの装備でも不可能なことではないが、それを実際に喰らいそうになった身としてはそう単純なことではない。ゲームとは言え、肝が冷えるのは仕方がない。
そうして冷や汗を拭うが、大剣がめり込み身動きが取れないらしいブルースカイの様子を見てチャンスを察し、一瞬で気持ちを切り替えここぞとばかりに残る二本の鎖を射出した。
だが、それに対するブルースカイの返答は小憎たらしい笑みであった。
「―――ッ!! しまっ……!?」
パラキートが言い切る前に、ブルースカイは大剣の中から細身の剣を引き抜き、それを持って残りの大剣部分を蹴りつけ、金色の軌跡を残して空を駆けた。
途中で鎖が襲い掛かるが、不安定な姿勢から放たれた鎖は容易く細剣でいなされ、パラキートへと向かって一直線に向かってくる。
パラキートの敗因は二つ。ひとつはメインフィールドであるビルの屋上から落とされたこと。もうひとつは可変武器との対戦経験の不足により、咄嗟の時に普通の大剣と同じように扱ってしまったことだ。
ブルースカイの扱う可変武器“フォーマルハウト”は、大剣、砲剣、そして双剣の三形態を持つ。普通の武器と比べて色々と制約はあるが、それでもその状況対応力と相手の意表をつく奇襲性能は群を抜いている。
「終わりだ!」
空を蹴ったブルースカイがパラキートに迫り、双剣の一振りを掲げる。
鎖のリロードは間に合わず、剣は既に取り落としている。打つ手がないパラキートは苦い笑みを浮かべ、降参の意を示すように軽く両手を上げた。
剣閃は放たれ、パラキートは横一文字に両断された。
◆ ◆ ◆
WINNER、という文字と祝砲を受け取ったブルースカイは、リザルトを見ずに消してそのままウィンドウを操作し、対戦モードを終了させる。
ブゥン、という昔のテレビが消えるかのような音を発して周囲の光景が歪み、やがて荒廃したビル群は消え去り、現れたのは何の変哲もない白い部屋であった。
無駄に凝ってるなぁ、と感心するような、もしくは呆れるような微妙な気持ちで苦笑し、少し離れたところで座り込んでいたパラキートに手を差し出した。
「よ、お疲れさん。これで俺の勝ち越しだな」
「む、聞き捨てならんな。この結果はあくまで君にステージを選ばせてやっているからだぞ」
「勝ちは勝ち、負けは負けだろ。それに、『魔王たるもの弱者の挑戦を受けるのは義務である。好きに選べ』とか言ってたのはどこの誰だよ」
「対等になったのなら話は別だ。次やるときはランダムで行くぞ」
「ええー、そしたらLR連打で俺が死ぬじゃん」
先程まで本気で斬り結んでいたとは思えない気軽さで会話をしながらトレーニングルームから出る。すると、部屋の前の長椅子に座っていた少女が二人を見るや否や勢いよく立ちあがった。
「ソラ! よくやったわ! 流石はあたしの手下ね!」
「せめて仲間って言ってくれませんかねぇ」
「これであたしたちは“魔王の円卓”に加わったりなんかしないんだからね!」
「無視ですかい」
金髪の少女はブルースカイを無視して啖呵を切り、指をパラキートへと突き出した。
対するパラキートは軽く口角を上げるだけという音なの余裕を感じさせる態度で、「ではな、ブルースカイ君。機会があったらまた戦おう」と言い残して去って行った。
軽くあしらわれた形になる少女は見目麗しい外見にそぐわない形相で去りゆくパラキートを見やり、その様子にブルースカイは溜息交じりの息を吐いた。
しばらく経ってようやく気を取り直した少女は、さて、と手をひとつ叩いた。
「じゃあそろそろいい時間だし、今日はこの辺にしましょうか」
「ああ、そうだな。明日は集まれるんだっけ?」
「ええ。今日は二人だけだったけど、明日は全員集まれるみたい」
と言うか、と少女は半目になって声を落とす。
「シチューさんは主婦だしこの時間無理なのはわかるけど、残りの二人は何なのよ! マミヤさんは友達とナンパに行くって言うし! ナンパ!? ナンパて!!」
「どうどう、落ちつけお嬢様」
「な、ナンパて、そんなふしだらな! あとパンダの奴に限っては『パンダ道の修練のため』ってふざけてるのっ!? 気分が乗らないなら気分が乗らないって言えばいいのに、パンダ道て!! 前々から思ってたけど何なのよパンダ道て!?」
「どうどう、パンダが謎なのは毎回だし、マミヤさんがチャラいのもいつものことだろ? そこら辺潔癖だよな、お前って」
ぐるるるる、と吠えるお嬢様を押し留め、ブルースカイは苦笑しつつもログアウトの準備を進める。
「ま、何にせよ全員揃うのは久しぶりだろ? 何やかんやみんな忙しいしな。その分明日は楽しんで行こうぜ」
「……そうね。みんなあたしについて来てくれる大事な手下だものね」
「仲間な」
最後に溜息を吐き、ブルースカイはログアウトボタンを押す。
その様子を見て少女は「にしし」と笑い、自分も同じようにメニューを操作する。
「じゃ、また明日ね」
「ああ、また明日な。おやすみ、カレン」
そして、いつものように眠るように意識が暗闇の中に落ちるや否や、水中から身体が浮上するかのような感覚を得る。
その感覚に身を任せ、少しして瞳を開く。そこは既に様々な世界が連なる非現実ではなく、殺風景で薄暗い、見飽きた自分の部屋であった。
「また明日、か」
“タラリア使いの戦士”ブルースカイこと、“普通の高校二年生”青井空は、頭から取り外したヘッドギアを撫でながら軽く笑みを浮かべた。
明日もまた楽しい一日になるだろうと、まだ見ぬ未来に思いを馳せて。