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Chatter Box

 ―――ぐつぐつと鍋が音を鳴らす。


 ゆっくりとお玉で鍋の中身を掻き混ぜながら、小皿を手に取り、小皿の中に少しだけ鍋の中身をよそい、そこから味見してみる―――少々塩気が足りない気がする。塩を加えて味を調整しつつ、シチューを料理する。ダンジョン攻略や旅をする上でシチューという料理は物凄い馴染みが深い。材料は大体いいし、味付けし易いし、何よりパンと一緒に食べられるからお腹にも溜まる。まぁ、異世界オンリーだった頃の話は解らないが、地球側の保存食や携帯食の技術は非常に発達しており、それは今も存在するものだ。ダンジョンの中で食べる食事も、それなりに豪勢に食えるという事もあるのだ、今は。だから今作っているシチューもほとんど趣味の産物である意味が大きい。こんなもの作らなくても十分に美味しい携帯食料があるのだから。


 まぁ、それでも食事をするなら出来るだけ美味しく、そして料理したい、という話だ。そうやって晩飯のシチューを作りつつ、しっかりと耳は三人の会話へと傾けてある―――というかちゃんと会話に参加している。内容は簡単だ。


「―――本当にダンジョンかどうか疑わしいって感じだな」


 本日の調査に関してだ。あの巨大な腕を倒してからプラットホームの一番奥へと、約一キロほどの距離を歩いて到達した。だがその間、あの戦いの様に闇の追跡者が出現する様な事はなかったし、あの鋼鉄の巨腕が出現する事もなく、本当にダンジョンらしくないダンジョンという情報以外、新しい発見がなかったのだ。プラットホームから下りれば線路の上を伝って暗いトンネルの中を歩くという事も出来たのだが、まだ調査初日だ。そこまで深入り馳せずに、今日はここまでにして印象や情報の整理などを行おう、という事で今、食事の時間となっている。


「……ダンジョンというよりは……遺跡っぽさは感じた。あの巨腕は……守護者(ガーディアン)で、魔物を排除しようとしていた?」


「面白い考えだけど、ここはただのダンジョンだしな、そういう事はねぇと思うわ。まぁ、どっちにしろ、不気味だって事にゃあ変わりはねぇわ。とりあえず異常に魔物が少ねぇ、電灯が赤く染まる事、そして鉄の巨腕の出現ってのがポイントだな。アレをぶった切った時、取っていた行動は上へと体を引き上げようとしていた、って事だ。……つまりは腕だけじゃなくて本体がありそうだよな、って話な訳だが」


「線路の上を探索するならどうしてもその本体と戦う必要になってくるかもしれない……しかし、あの線路にあの巨腕に見合うだけの大きさを持った体が入る空間はあったか……?」


 それこそやはりダンジョンの不思議という奴だろう。


「まぁ、そこらへんは考えてもぶっちゃけダンジョンが特異である事を考慮して考えるだけ無駄だろうとは思うよ。とりあえず線路の上にラットを投げ落としても特に反応がなかった当たり、線路の上に乗る事自体はそこまで危険だとは思わない。それよりも怖いのは線路を歩いて、逃げ場がない所で電車が来る事なんだよなぁ。まぁ、進める道がアレしかない以上、警戒と準備をするだけして進むしかないんだけど……はい、完成。シチュー配るからパンを好きに取ってくれー」


「あいよー」


 完成したシチューを器の中に移して配り、そのまま床の上に座りながらダンジョン攻略の話は続いて行く。もはやこのダンジョンのイレギュラーは無視できないものとなっている。なぜなら”機械は死んでいる”のが普通だからだ。機械が生きているダンジョンは存在しない。たとえ侵食されているダンジョンがあり、そこに機械があるとしよう、その場合、機械は死んでおり、そして遺跡やダンジョンの機構と融合しており、”魔導によって動く様になっている”のだ。つまりマシン、ではなくゴーレムという風に、機械型の魔物は動いているのだ。だから機械が生きており、完全に機械によって構成されていたあの巨腕はありえない存在なのだ。


 現在の魔導・機械混合型の文明、人の生活圏であればまたみられるかもしれないが、ダンジョンという完全に異世界文明の領域で、生きた機械を見る事はありえないのだ。電気が通ってないのだから当たり前だ。だから、このダンジョンは一言で片づけるなら”異常”という言葉に尽きる。だがまた、異常である事は普通ではないという事であり、それはダンジョンから普段とは違う成果を得られるかもしれない、という事でもあるのだ。漂着物を発見者が自由に取得していい、というルールが存在するこのダンジョン内では普通ではないダンジョンは普通ではない成果をくれる―――つまり、頑張れば何か、面白い成果を得られるだろうという期待もあるのだ。


 だから慎重にはなっても、諦める様な言葉は吐かない。


「とりあえず明日は装備を変えて線路の奥……トンネルの中を調査って事になるのかな? となるともっと軽装にする必要があるかもしれないなぁ……」


「”デンシャ”だったっけ。線路の上を走る乗り物。それ、俺達で止められないのか?」


「最高速度で130km/hを出す大質量の鉄の塊を正面から止める自信があるのならどうぞどうぞ」


「死ぬわ」


 迷う事無くそう言いはなったラカンの言葉に笑う。超重量の鉄の塊が速度を乗せて体当たりをしてくるのだ。ドラゴンの突進で人間の胴体は簡単に引き千切れるのだ、そんなドラゴンのたいあたりよりも重く、そして早い電車の衝突を受けたら、人間なんてものは簡単にミンチになってしまう―――人身事故に遭遇した事のある者なら、そのイメージはあまりにも解りやすいだろう。とてもだが耐えきれるものではない。流石のエリーナでも死ぬだろう。


「……死ぬよな?」


「……たぶん? 試さないと解らない」


 エリーナに確認してみると、末恐ろしい返答が返って来た。そのエリーナに質問する、


「つかそんな重そうな武器を片手で振り回しているけど、エリーナの体ってどうなってるの。答えにくい事なら別にいいんだけど」


 シチューにパンを浸し、それを口に運びながらエリーナが答える。


「生まれつきの体質。私は他の同族とは違って魔導の才能は欠片もなかった。数年努力して基礎を覚えられた程度の才能か、或いは適正しかなかった。だけどその代わりに、肉体はその才能を喰ったかのように強靭に成長した。体は鋼よりも頑丈だし、鬼よりも怪力に育った。お蔭で手に逢う武器を探すのに大変苦労した―――振るうそばから耐えられずに砕けてばかりだったからな」


「あー……」


 まぁ、大体予想していた通りの話だった。世の中にはエリーナみたいに”素の身体能力が高く、防具や武器を必要としない種族”が存在する。その筆頭こそがまず神々の存在だろう。神話の力を振るう彼の至高の存在はその素肌で大砲の一撃を受けても傷つきはしない。拳を振るえばそれだけで大地が割ける。ただそういうレベルに到達しなくても、ドラグーンやドラゴニュート、或いは魔人の様な種族は生物としてトップに立つだけの能力を持つ存在がある。先天的にデメリットを負ったが、それらと匹敵する様な身体能力を得たのがエリーナなのかもしれない。


「その斧はどこで手に入れたん? やっぱダンジョン?」


「神様が下賜してくれた。タダじゃ渡せないからたくさん貢献して漸く貰った」


「あぁ、神器の類なのかそれ。なるほど、道理で異常な耐久と力を感じる武器だったのか」


 サムズアップを向けてくるエリーナから視線を外し、彼女の大斧へと視線を向ける。両刃のそれはその見た目よりも重く、鋭さではなく重量と筋力で押しつぶすように切り裂く様に出来ている。その為、あの大斧は見た目以上に重く出来ているらしい。それこそ俺のような人間には持ち上げるどころか動かす事さえできないほど重い。しかしそれだけ筋力があるのならあの鋼鉄の巨腕に指を喰い込ませて動きを止めたのには納得がいく。素の筋力と耐久量が鎧よりも上なら、もはや鎧は必要はない。後は環境に対応する為の道具だけを用意すればいい。


「……ち、ちなみにご信仰は?」


「血と戦いの神ローディスタン」


「ガチ戦闘狂じゃねーか」


 ローディスタン、通称修羅神。戦神や軍神とはまた違う神であり、戦神や軍神の様に戦いにルールや誇りといったものを求めない、”最も原始的で畜生の感性に近い”考えを持つ神だ。戦いにルールや誇りを持つのはおかしい。信念を抱くのもおかしい。戦いとは戦いであり、生存を賭けた殺しあいでしかなく、それに秩序を求めるのはおかしい。故に戦いに妥協せず、供物は敵の血肉を殺す事で捧げろ、という感じの実に蛮族チックな神様だ。なお、これだけだと邪教の邪神か何かだと思われがちだが、必要以上の敵対もしないし、必要以上の虐殺も行わない。そこらへんはちゃんと線引きのしてある神様でもある。つまり、


 ”戦いに余計な美学を入れず、本能のままに楽しめ”とローディスタン神は言っているのだ。これを曲解して”とりあえず殺しまくれ”って考えている連中がいる為、その信徒に関しては割と要注意な部分はあるが、真っ当な連中と真っ当じゃない連中で分かれているというのは既に解っていることだ。


 まぁ、それでもまともじゃない連中は殺人鬼、まともな連中は戦闘狂とかいうお近づきになりたくない集団なのは確かだが、それでも根強い人気があるのは強くなる事に対して力を貸してくれる神である事にあるのだろう。


 その結果としてエリーナも今は、ああいう武器を得たのだから。


「他にも信仰の選択肢は色々あったけど、暴れるのは楽しいから結局はローディスタン様を信仰する事にした。相性はいいし、ゴールドゴーレムだったら素手でへし折るぐらいは出来る」


「セクハラすんのだけは止めておこ……」


 ラカンのその言葉に軽く想像してしまう、セクハラし、嫌がった時に軽く振るわれたビンタでミンチになる姿を。ラカンが空に輝く星の一つになる所まで想像した所で、エリーナが小さくだが、笑みを浮かべる。


「大丈夫、加減は出来ているし、日常生活に不便が出る様な事はないから。偶にドアノブを握りつぶす程度」


「やっぱやめるわ」


 というかいい加減話が脱線しすぎた。シチューを食べ進めつつ、話の軌道修正を図る。今はこの機械化? されているダンジョンの攻略をどうするかを決めるべきであって、そっちの話の方が重要なのだ。まぁ、今回のダンジョンに出現する魔物があの巨腕の機械みたいな相手であれば、ちょっとだけ戦闘は楽になるだろう。何せ、魔物じゃないのだ、つまり自分も戦闘に参加する事が出来る。魔物化されているゴーレムではないのならこっちの領域だ。機械ならコアとなる部分があるのだから、そこを攻撃すればいいし、他にもケーブルの切断を狙ったり、色々とやれることはある。身体能力で劣っている分そこまで派手に動けるわけではないが、それでも戦闘に参加できる、出来ないは大きな違いだ。少なくとも役に立てる。


 それは味方よりも、自分の心を楽にしてくれる。


「めんどくせぇな―――機械が相手となると勝手が違うから色々と手札を切り替えなきゃならねぇ、ってか」


「精神干渉系の魔法はバッサリと切り捨てて、物理的なタイプでごり押した方が良さげか」


「基本的に機械というかロボはどこかにコアか、チップがあるもんだからそれを狙えば一撃で潰せる筈だけど―――」


 まぁ、一番恐ろしい事実はあんな巨大なロボットの腕を生み出す技術が存在していたかどうか怪しいという事であり、もし、あれがただの雑魚レベルの扱いであれば、一度撤退して、人数を増やして大規模な調査チームを組むべきだとは思う。ただ、そんな事を自分が言わなくてもラカンであれば理解しているだろう、経験は此方よりも十数年も多いのだし。


「聞いた話一番効率がいいのは電気を流し込んでオーバーロードさせる事らしいけどね」


「いけるか?」


 ラカンの視線を受けたゲーデルが頷く。


「優秀な魔術師とはどれだけ強力な魔法を放てるかではない―――どんな状況であっても適切に対処し、そしてそれを突破する事が出来る者を真に優秀な魔術師と呼ぶのだ。火力一辺倒の馬鹿どもと一緒にされたら困るな。自分の属性以外のもしっかりと手を伸ばして実戦レベルで鍛えてあるさ」


「それが聞きたかった。エリーナに関しては―――聞くまでもねぇわな、こりゃ」


「あれだったらたぶん素手で引き千切れる」


「っつーわけだ、明日は更に奥の方の調査進めるぞ。予想していたよりも面倒な事になっているから気持ち、ちょい警戒度を上げていこう。あとこの先、生きている機械―――たとえばパソコンとか何らかの端末があった場合、そう言うのに対処できるのは地球(アース)出身のお前だけだからな、頼りにしてるぞ」


「任せてくれ。八歳の頃から大型掲示板サイトとネトゲに入り浸ってた俺のPC操作スキルを発揮してみせるさ」


 その後も軽い雑談を交えながらこれからの活動に関してを話、そして次の探索に備えて休みに入る。


 一回の探索で深入りする必要はない。その為に数日という期間を想定した荷物で、キャンプで、そして仲間だ。探索も、調査も、何事も安全を第一に考える。


 ―――この世にはリセットもコンティニューもないのだから。

 (´・ω・`)いのちをだいじに。


 風邪でちょっと更新遅れました。未知のダンジョンに挑戦する時は基本的にキャンプ地を中心に何度も行ったり戻ったりを繰り返して少しずつ地図を広げるイメージです。ゲームの様にマップはオートで書き込まないですし、HP何て目安はありませんからね!


 活動すればするほどストレスは溜まり、ミスしやすくなるのはベテランも一緒。なのでこまめに休息を取って、軽く馬鹿話をして、心を休めつつ何度も探索に出るのがいいんじゃないかなぁ、という考え。

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