To The Depth
全員が装備の変更を終えて必要な道具を持ったところで、ダンジョンの調査を開始する為に移動を開始する。新しく解放された区画は京王線に存在するらしく、教えられた場所へとまずは移動する。安地を抜けて京王線・JR線の改札口前まで来たら、空きっぱなしの改札口を抜けて京王線側に入る。そのまま1番と2番ホームへと繋がる大きな階段を降りて行けば、
昔は多くの人を並べ、待たせていた京王線新宿のホームに到着する。
京王線のプラットホームはこれが一番下であり、本来は下へと向かう階段はないのだが、ダンジョンと融合した事によってその構造は変質しており、ダンジョンの中へと進む為の階段が存在する。ただ一番近くにあるそれを無視し、1番と2番ホームの奥へと向かう。今日は運がいいのか魔物がここには出てきていない。その為、スムーズにホームの一番奥へと移動すれば、そこには更に下へと続く階段が見える。そこは前、瓦礫によって封鎖されており、通れるどころか階段が存在したかどうかすら怪しい場所だ。そんな場所を三人の前に出る様にして確かめ始める。まずは携帯端末で軽く写真を取り、そして近づき、臭いを嗅ぎながらトラップが仕込まれていないかどうかを、階段やその壁を確かめながら行う。
「……特におかしな所はないな」
次はガスの調査―――と行きたい所だが、ここまではガスが上がってきていないらしい。或いは重いガスの類なのかもしれない。それを確認してから後ろへとサインを送りつつ、ゆっくりと下へと向かって移動する。階段の底はそこまで深くはなく、見えている。だから下へとチェックしながらゆっくりと下がって行けば、そう時間はかけずに階段を下りた。そこで階段を降り切ったところで、漸くガスが充満し始めているのが見える。後方の三人へとハンドサインを送って動きを止めさせ、予め持ち込んできた気体収集剤を取り出し、掬う様にガスを回収しながらそれを混合し、階段を昇り、
一旦、安全の確保できる場所へと戻る。慎重すぎやしないかと思われるが、ガスによる干渉は場所によっては未知数な部分がある。しっかりと検査し、そして対応しておきたい部分があるのだ。だから一旦キャンプ地まで戻ったところで、
「そんじゃ一時間ばかし、時間貰うな」
「焦らずにやるんだぞ」
「魔導検査を行う場合は呼んでくれ、それまでローテーションで警戒してよう」
あいさ、と答えながらガスの性質を調べ始める。気体収集剤を使用して液体へ、そして固体へと変化したガスを科学的にまずは検分する。この為に色々と化学薬品を持ち込んでおり、それを使って収集したガスの反応を調べる。この為にラットを連れてきたのだ。固体化したガスを燃やしたり、ラットに食べさせたり、そうやって焦る事もなく、静かに時間を取りながら確認して行く。そうやって科学的方面からガスを調べるのを完了させると、
ゲーデルを呼ぶ。固体化したガスを耐えたラットがまず毒に犯されていないか、それを観察しながら確かめ、魔力を当てたり、魔術的に干渉を行う事で魔術に対する変化を観察し、それを持ち込んだレポート用紙に書き込み、そして宣言したきっちり一時間で軽い調査を終える。協力してくれたゲーデルに感謝しつつ、とりあえず解った事を報告する。
「燃えない、毒性は検出できない、ラットへの影響はなし、科学的なガスというよりは魔術的なガスっぽいけど、特に人体や環境への影響なし、無味無臭だけど軽く黄色で視界が制限されるって程度だな。ただ細胞レベルでの干渉や毒素が微量で蓄積するって話なら完全にお手上げだな。今ん所は完全に無害だわ」
「結論」
「安定のガスマスク」
「うっし、じゃあもう一度潜るけど今度はガスマスク装備して行くぞー」
パーティーメンバー達の返答が響き、再びキャンプ地を出て京王線のプラットホームへと出る。魔物が一切出現しない事にある種の不気味さは感じる為、奇襲されない様にある程度警戒度を上昇しながら再びプラットホームから新区画へと降りる。
発見されたばかりの新区画はダンジョンにしては明るい場所だった。黄色いガスが充満していて視界をある程度制限しているが、それでも先が見えなくなるほどではない。それに、
電灯が付いている。
当たり前の話だが、都市にでも行かない限り電灯は―――電気なんてものは死んでいる、付いてはいない。電力を供給する発電所が破壊されているからだ。ササヅカの様な都市になれば魔導科学を通して電力を復旧させたりは出来るのだが、それでもダンジョンでまずこういいう光源は存在しないと思ってもいい。その為、ランタンや懐中電灯等を持ち込むのだが、その必要がないのは色々とおかしい。既に聞いていた話ではあるが、それでも驚きはある。ガスマスク越しに降り立った京王線地下の様子を確認する。
そこに広がっているのは先程降り立ったプラットホームと同じ様な形をしたプラットホームだ。つまりは、同じ様な光景が広がっているのだ。規模は此方の方が小さい、その代わりに縦に長く、奥が軽く霞んで見えないぐらいに続いている様に見える。解りやすい構造だ。奥へと真っ直ぐ進む、それだけでいいのだから。戦闘は三人に任せる為、調査とトラップ解除を引き受ける自分がやはり、一番前を数歩先に歩く。注意しつつ前へと進むのだが、広がっている光景はまるで普通の綺麗な駅な様で、一切のトラップの気配はない。寧ろ、上層よりも綺麗にさえ思える。
それが余計に不気味さを演出する―――とはいえ、まずは最初に調査依頼なのだ、それを記録しつつ、前へと進む。電灯が付いているおかげで視界は悪くはないし、足元も崩れていない為、非常に歩きやすくなっている。発見者によればここには闇の追跡者がいたらしいが、そんな形跡は一切見えない。不思議なダンジョンだ、本当に色んな意味で。そう思いながらゴミ箱を発見し、ピッキングで鍵を外してからその中を確かめる。
流石に空っぽだった。
「まぁ、鉄自体が売れるからこのゴミ箱そのものを圧縮して鉄塊にして持って帰るって手もあるんだけど、あんまりやりたくはない事だな。とりあえずこれじゃあまだ何もわからないし、もっと奥へと進んでみるか。……予想よりも遥かに早く調査が終わりそうな気配がするけどな」
ラカンの言葉に同意しつつ、前へと進もうとしたところで、先程の発言がフラグだったのか、頭上の電灯がチカチカと点滅し始め、そして到達に電灯が消える。
反応する様にゲーデルが口を開いた。
「来るぞ!」
続く様に電灯が次々と光を失って行き、そして半径百メートル以内から電灯の光が完全に消え去る。それと同時に感じる気配は間違いなく魔物の気配だ。迷う事無く発炎筒をベルトのスリットから抜いて、それを四方へと投げ、床に当たるのと同時に炎上し、光源となって闇の中に隠れる姿を照らし出す。ガスに炎が引火しないと解っているのであれば、遠慮なく利用する事が出来る。そしてそうやって闇の中に隠れる様に姿を現すのは全身が黒一色の怪物だ。背の高さは人間の約半分ほどで、不定形の闇から黒い鎌が腕の様に伸びているのが闇の追跡者の姿だ。情報通り出現した。
「うし、情報通りだな。なら予め決めていた通りに―――」
そうラカンが言葉を放った直後、
電灯が付いた。
瞬く様に光がつき―――そして赤く染まった。
「な―――」
まるでサイレンを思わせる様な赤い電灯の光。それによって闇に隠れようとしていた闇の追跡者たちの姿が完全に晒され、そしてプラットホームの下から伸びる鉄の巨腕がまるで予想していなかったかのようにその動きが混乱に停止する。魔物側も想定外なのか? そんな事を考えている間に、
咄嗟に後ろへと距離を取る様に跳ぶ。
直後、プラットホームの下、線路の方から鉄の巨腕が伸び、それが闇の追跡者を握りつぶした。一撃で闇の追跡を纏めて数体滅ぼしたその腕はプラットホームの上部を握ると、まるで引きずる様に力を込め始める。だがそれに反応したエリーナが前に出ある。鋼鉄に覆われたその巨腕をまず左手で指が金属の中に食い込む様に抉り掴み、固定してから振り上げた右腕で握るその巨大な斧を振り下ろした。
「らぁぁ―――!!」
轟音と共に鋼鉄の巨腕は切断された。エリーナの放った一撃はそれだけではなく、踏み込んだ床と、そして振り下ろした床さえも粉砕し、ダンジョン事態を破壊する凄まじい衝撃を見せていた。そしてそうやって破壊された鋼鉄の腕はプラットホームの上を滑る様に転がり、
もう一本の腕がプラットホームの下の方から伸びてくる。ホームの上を薙ぎ払う様に振るわれる腕をラカンが正面から二本の槍を抜き、
そして正面からぶつかった。
鎧の重量を利用しながらそれをまるで体の一部の様に、重心を移動させ、”重量を集める”事によって、自分よりも重い相手の攻撃を受け流しつつも正面から捉える。ハルバードを両方とも隙間に通すように交差させ、そのまま床に突き刺すように腕を固定させる。それを見たエリーナが頭上で斧を回転させながら飛び上り、そして跳びかかりながら振り下ろして一撃で腕を切断する。確認したラカンが腕を蹴る様にバックステップで距離を取り、それに合わせる様に自分も後ろへと下がる。同じ距離にまでゲーデルも下がり、全員が戦闘体勢に入る。武器を構えたまま数秒間、電灯の赤い光を浴びながら相手の次の動きを待つ。無言で次の動きを待つが、感じ取れるのはプラットホームの下をガリガリと音を立てながら這いずる何かの音だけだ。
そのまま数秒間動かずに待っていれば、
赤かった電灯の光が元の色を取り戻し、また平和なプラットホームの姿を取り戻す。それでも動く事なく数分ほどそのまま待機する。が、追撃も襲撃もない事を確認し、周囲を軽く観察しながらも、斬りおとした鋼鉄の巨腕を確認する。腕の内部は”配線が通っている”、つまりは魔力ではなく電気を原動力として動くゴーレムではなくロボットに近い存在だ。切断面からその内部構造を観察し、携帯端末で何度か写真を取りながら記録を取る。
「なんか……ダンジョンらしくないダンジョンだな」
「だなぁ……なんつーか……この機械? が魔物を排除しようとしていた、って感じがするな。俺達に反応したのはその延長線上の事って感じで。なんつーか……違和感バリバリっつーか……あぁ、クソ、めんどくせぇ。とりあえず調査だ調査! これぐらいで下がる気にもなれねーし、なんか成果が出るまでは先へ進むぞ!」
「ういー」
「もっと……強い敵は来ないものか」
分厚い鋼鉄を両断して物足りぬと申すか。やっぱり、この狐娘はどこか狂戦士の血を引いているな、と認識しつつ、前方へと視線を向ける。奥まで見る事が出来ないが、それでも前よりも霞がかかっていて、見辛くなっている様な―――ガスが戦闘前と比べて増えている様な、そんな気がする。やはりガスマスクを装備していて正解だったかもしれない。戦闘か奥に進むたびに性質が変化する様なガスだったら、対策なしだとキツイところがあるだろう。とりあえず、ガスマスクを装着しておけばある程度の干渉は防げる。
そう考えつつ、切断された腕の記録を完了させ、準備完了とサインを送る。
「うし、んじゃ進むぞ」
その声に軽く返答しつつ更にダンジョンの奥へと、調査を進める様に足を伸ばす。
(`・ω・´)イレギュラーは冒険につきものです
(`・ω・´)それに対応できるかどうかで優秀かどうかわかります
(´・ω・`)対応できても死ぬ時は死ぬけどな