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Explorer's Realm

 ラ=ルウガの神社を離れて真っ直ぐ行く先は組合だ。ラカンの性格からすれば既に仲間を集めるか、集め終わって組合の酒場で遊んでいる可能性が高い。ある意味信用しているといっても良い自分の師の行動を疑う事無く組合へと向かうと、入口の方から奥のテーブルを囲む三人組が見える。当然の様にその人はラカンだった。昨日とは違って上半身裸ではなくタンクトップ姿になっているが、またエールの入ったジョッキを握りながら座っているのが見える。組合の中に入ると、此方に気付いたラカンが片手を上げてくる。


「おーい、こっちこっち! こっちだぁーい!」


「声を出さなくても見えてるよ! ……ったく」


 溜息を吐くも、苦笑は隠せない。歩いながらテーブルに近づ射くと、既に座っている二つの姿が見える。


 一人目は頭に狐の耳を生やした淡く光を受けて輝く様な緑髪の女だった。年齢は自分と同じぐらいに見え、服装は青いで統一されており、異世界人には珍しくジーンズに頑丈そうなハーフスリーブシャツと、地球産の服装を着用している。だがそんな事よりも、視線を集めるのは彼女の頭の上にある獣の―――狐の耳だ。それは髪色と違う茶色をしているが、普通の人間にはそんなものはない―――異世界出身の獣人という種族であり、その内の狐族に分類される者だ。基本的に狐族は特徴として茶色の狐耳を持っており、髪色はそれとは統一されないらしい。なんともファンタジーらしい。なお彼女の髪は途中までは手を加えられていないが、半ばを超えた辺りから緩く編まれており、一つに統一されている。


 そしてもう一人、ラカンと同じテーブルを囲んでいるのは眼帯を装着した海藻の様な茶髪の中年の男だった。此方は異世界人らしい、文様の施された黒いローブを着ており、その下からはな時用に文様の施されたシャツを着ているのが見える。残念ながらテーブルの奥にいる為、ズボンの方まで同じように文様の施された装備かはわからないが、その恰好から一瞬で魔術師だと判断する事が出来る。ただラカンと同様、ローブの下から手を出してジョッキを掴むその手の爪は人間にしては”鋭すぎる”のが解る。此方もまた、異種族か、或いはその血を引いている者だというのが容易に解る。


 とりあえず開いているラカンと狐族の女の間の席に座る。


「良く来た! つーわけで明日ダンジョンに挑戦な! 面子はここにいる四人で!」


「予想してたけどほんと行動が早いわ……」


 顔を両手で覆いながらそう嘆くと、ラカンの笑い声が響いてくる。そして笑いながら力強く叩いてくる背中が痛いため、脇腹にエルボーを叩き込んで強制的に黙らせるが、即座に復活する姿を確認できる辺り、全くの無意味らしい。溜息を吐きながらどーしたものか、そう嘆こうとすると、前方から声がかかってくる。その声に顔を持ち上げると、魔術師風の男が此方へと視線を向けていた。


「まぁ、ラカンの馬鹿に関しては何時も通りの事だからそうかっかしなさんな。それより坊主が最後の一人か? 話は色々と聞いてるぜ、宜しくな。っとそうだった。俺の名前はゲーデルだ。まぁ、見て解る通り魔術師(マジックユーザー)で、得意属性は闇属性だ。基本的にぶっ放すのよりも足を引っ張ったりする方が得意だから、そこらへん宜しくな?」


 そう言ってゲーデルが伸ばしてくる手を掴み、握手を交わす。そうやって交わす手の感触は硬く、良く鍛えられているのが解る。ローブの下から伸びる腕も引き締まっており、肉が付いている。魔法使い、或いは魔術師(マジックユーザー)という存在は後衛であるが故に肉体面は鍛え辛い、或いは鍛えないというイメージがあるが、それは間違いだ。詠唱をする為には肺活を鍛える必要があるし、魔力の節約の為に近接戦を行えるように体を鍛える必要もある。戦場で足を止めて詠唱している魔術師何てただの的でしかない為、体を鍛えてある魔術師は”良く理解している”という評価が下せる為、実力に関してはある程度の信頼が置ける。ただ、ゲーデルを軽く観察した感じ、


「……魔人?」


「おう! つっても角の方は根元からぽっきり折っちまっているからヒューマンとそう変わりのない姿をしているけどな」


 そう言ってゲーデルは頭を指差す。そこには元は角があった様な跡があるが、言葉通り、根元から折れている様な痕跡が存在し、髪に隠れてその姿はほとんどよく見えない。海藻の様な髪型がそれを隠すために一役を買っている様にも思える。魔人とは人間よりも頑強で、魔力を多く持つ事の出来る種族であり、最大五百歳まで生きる事が出来ると言われている。最も特徴的なのはその角であり、魔人族その角の大きさや立派さを誇るものとしている。ただ実戦的な話をすると、角は邪魔だ。頭蓋骨と直接繋がっている為、角を強く殴ればそれで簡単に無力化する事が出来る、という弱点でもあるのだ。それを折る。というのは誇り等を気にせずに戦う事に人生を捧げた、という事でもある。ラカンの知り合いである事を含め、ゲーデルは中々信用できる相手の様に思える。


 そこから視線を狐族の女の方へと向ける。視線を受け取った女が視線を返し、


「エリーナ……斧戦士(アックスレイダー)


 彼女がそう言葉を止める。視線を合わせ、続きの言葉を待ち、そして再び視線を合わせる。きっと言葉を考えているに違いない。そう思って素早く自分の分の飲物とツマミを頼み、視線をエリーナへと戻す。それに反応する様にエリーナは頷き、


「エリーナ……斧戦士(アックスレイダー)


「いや、それはもういいから。それよりも、こう、もっと話はないのかなぁ!」


「……? 私は、狐族(フォクシー)


 エリーナがゆっくりとそう言葉を付け加えるのを見て、あぁ、成程、と心の中で理解する。


 ―――あぁ……言葉が足りないタイプの人っすか……。


 こういうタイプの人はコミュニケーションを取るのが面倒な部分がある。が、今のササヅカは非常に個性豊かな人々と一柱によって存続している状況だと思ってもいい。つまり普通に生きているだけで割と、こう言う連中とのエンカウントはあるのだ。だから勿論、コミュニケーションの取り方は存在する―――つまり根気良く頑張れ。


「属性と出来る事とアピールポイントをどうぞ」


「む」


 面接の様な態度で接すると、向こうの表情が少々シャキン、としたものになる。


「属性は風、戦闘では前に出て被弾を気にせずに戦える耐久力と筋力を持っている。こう見えて組合でのランクはB+評価で中位竜種ぐらいなら一撃で殺せる」


「おぉー」


 感嘆の声を漏らすとシャツの上からでも解る大きな胸を張り、偉そうにドヤ顔を見せるが、直後に飽きたかのように息を吐く。ランク―――それはつまり組合における依頼の達成率、戦闘力、そして最も重要な”信頼”を通して評価され、つけられるランク付けである。一番下がFであり、最上位がSとなっているのは非常に解りやすく出来ているが、この評価はS以外ではD+やB+等のプラス評価が存在している。これは特定の分野においてはランク以上の実力を発揮できるという意味でもある。


 つまりエリーナのB+評価は”Bランクだけど特定の分野においてはBランク以上の実力を発揮できる”という内容である。ちなみにそのプラス評価がどんなに突き抜けていようが、信頼と数と達成率、これをしっかり証明しないとSランク級の戦闘力を持っていても依頼達成数が少ないから万年D+評価何て事もあり得る。能力だけではなく、人格も重要な事なのだ。つまりランクの高い人間は人格と戦闘面両方で信用できるという事だ。


 ちなみにB+評価とはかなり大きい。Bランクで中位竜種とはソロで戦えるというレベルだし、都市レベルでは顔が覚えられているレベルの冒険者だ。その割には名前も顔も見た事がない事を見ると、おそらくは違う都市から来たのだろう。ササヅカの近くとなると―――シブヤ、シモキタザワ、或いはキチジョウジかもしれない。ナカノも結構近かった気がする。ともあれ、旅の最中だろうとは思う。しかし狐族で近接戦士とはちょっとだけ意外だ。


 全体的に身体能力が突出している獣人の中で、狐族は獣人としての身体能力の才能を魔術の方へと全振りした様な連中だった筈だ。或いは”裏返った”のかもしれないが。


「んじゃあ最後に俺はシュウ、見ての通り|無能者《魔力の使えない一般地球人》なお蔭で万年C+ランクの冒険者。戦闘力が伸ばせないお蔭で狡い手やレンジャーとしての技術ばかり伸びているから、プラス評価はそういう所に関する部分な。属性は水、足止めや壁をある程度できるけど、そういうのはなるべく期待しないでくれ、死にたくないんで」


「ははは! まぁ、こういう感じの坊主だわ、基本的に役割は被らない様に、んで最低限でC+以上の連中ばかり集めてきた。これだけ話せば簡易的な連携も組めるだろうし―――ちっと真面目な話を始めるぜ。一応組合の方に話を通して正式な調査依頼にしておいたから、組合の方からも報酬は出る。いいな?」


 ラカンが真面目な話を始めるぞ、という確認にゲーデルとエリーナと揃い、頷く。良し、とジョッキを降ろしながらラカンが話し始める。


「まずこの話の始まりはつい最近シンジュク・ステーションを探索中だったら連中が新しい区画を発見した事にある。ケイオウ・ラインの一区画が崩落していて塞がれていたのが、何時の間にか撤去されて、新しい道になってたって事だ。連中は軽い偵察を行うだけで直ぐに脱出したが、内部では何らかのガス漏れが確認できた。ついでに確認されたモンスターは闇の追跡者(ダーク・ストーカー)だけだったらしい。まぁ、装備がなかったんでかなり浅い所で戻って来ちまったらしいけどな」


「闇の追跡者……実に面倒で嫌い」


「あー……」


 闇の追跡者と名付けられている魔物は、全員が闇で形成されている非実体型の魔ものであり、闇が固まって、それが意思を持ったような存在である。故に必然的に、対霊等の魔法加工が施された武器ではない限り、物理的な攻撃は魔力を込めていても通じない。その代わり、魔法的な干渉には弱かったりするのだが。ちなみに闇の追跡者は影の追跡者という魔物の上位種になっている。影から影へと、闇から闇へと障害物を無視して移動する”闇渡り”という力を保有しており、それによって容赦なく背後を取ってくる面倒な相手だ。


 対抗手段のない無能者がエンカウントすると諦めた方が早いと言われるぐらいに面倒だ。


「……あぁ、成程。俺を選んだ理由はそういう訳か」


 ゲーデルの呟きは何故態々彼を選んだか、という理由だが、顔見知りだから、というだけならまだチョイスは他にある。その中でも彼を選んだのは”闇”という属性を保有するからだろう。つまりは同属性の感知の為の要員、闇の追跡者からのバックアタックや奇襲を防ぐための要因でもある、という事だ。


「ダンジョンに出てくるのが一種類ってのはまずありえねぇ、予想からすると同じガス環境で動ける機械系、或いは霊系の魔物が出てくるって予想だ。エリーナちゃん、お前、武器は魔法加工してあるんだよな?」


 コクリ、とエリーナがその言葉に頷く。となると完全に前衛で暴れる要因はエリーナに任せても良さそうだと判断する……格好に少々不安を抱かない訳でもないが、それでもB+評価を受けているという事は、つまりそれだけ実績を重ねているという事だろう。


 なお魔法加工はそれ自体が日本円で言う数百万クラスの出費だったりする。


「そんな訳で、基本的には数日籠るとして、方針は簡単だ。まずは情報収集を優先する。戦闘に関しては極力回避する方針で、まずはダンジョンの性質を理解し、解析して、んで適切な処置を学ぶ。大体これに三日程時間をかける予定だ。長くても五日間だ。まぁ、新区画の規模は解らねぇが、それでも既存のダンジョンの延長線上だからそこまで広いって訳はないだろうよ。だからそうやって調査を終わらせたら本番だ。本格的にアタックを始める」


 未踏のダンジョンを相手にするのだからこれぐらい慎重なのはちょうど良いぐらいだろう。となると色々と準備をしなくてはならなくなる。数日分の食料の確保に着替えや簡易トイレ、消耗品などを用意しておかないといけないし、数日留守にすると同居人に言わなくてはならなくなる。それでもそれを面倒がらずに進んでやろうとするのは、間違いなくこういう冒険に対して胸を躍らせるものが、”生きる”事以上にあるからなのだろう。


 探索、そして冒険は異世界人にとっては”生活”の一部なのだ。


 もはや切って離す事の出来ない事であり、生きる事とは即ち探索し、冒険する事であるともいう連中だ。そこに半分ほど浸かりながら、もう半分は地球人としての感覚に飲まれているとも言える。


 探索、そして冒険は地球人にとっては”娯楽”とも言える事なのだ。


 発見が終わり、探索されきって、知らうものはないという世界が広がっていた。それが今、完全に未知の領域へと変貌した。それも前よりも多くの発見を残して。それを求める事を娯楽と言わずになんという。生きる為に冒険をしながら、それを娯楽として楽しんでもいるのだ。ある意味、そのメンタリティこそが地球人らしさとも言えるべき所なのだろうとは思う。そこらへんは自分も完全に同類だ。この探索、そして冒険という事に対して、心を躍らせ、命を賭けるスリルを全力で楽しんでいる。魔物とまともに出会えば死ぬ確率が高いというのに、それでも冒険者を止める事が出来ない。


 現状、無能力者の限界はC+だと言われており、無能者で向上心のある者は大抵ここでランクに関しては足を止めている。


 だからと言って、冒険をしなくなる者はいない。


 未知を既知へと誰よりも先に変える事の出来るこの冒険者という立場は、スリルを通して最高の快楽を脳髄に叩き込んでくれる。その虜になってしまえば最後、余程の事があるか、或いは相性が悪くない限り、抜け出す事は出来ない。自分もこの沼にハマってしまった一人だ。


「っつー訳だ、連携云々に関しては得物もねぇのにここで話てても意味はねぇ、現地で調査進めつつちょくちょく合わせていくとして、今日は俺が奢る、しばらくは飲めなくなるんだぱぁーっとやろうぜ」


 ラカンの大盤振る舞いに溜息を吐きつつも、結局深夜まで付き合う事になるんだろうなぁ、その未来を容易に想像しながら、


 明日から遭遇する未知に対し、表情や態度に出す事なく、心を馳せる。

(`・ω・´)冒険者はどいつもこいつもどっかトんでる奴ばかりなのです


(`・ω・´)強くなる、強くなりたい、強いという事は正気では無理なのです


 それはそれとしてお馴染みの異種族関係。そこまで広げ過ぎない様に気を付けてます。神様の時点で手遅れな気がするけど。

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