Rotten Evil
ゆらゆらとポッドの中に浮かぶ少女の姿は八、九歳ぐらいの少女のものに見える。その髪色などはポッドが満たす液体が緑色である為、解りづらい。だがとりあえずとして解る事は、彼女がまるで実験動物の様にポッドの中に浮かべられているという事だ。それが許せる筈もない。即座に救い出すべきなのだろうが、
「壊せないか?」
「うん、感触が妙」
ガラス張りの壁を軽く拳でノックしながらエリーナが肯定する。明らかに少女が重要に見えるのは解っている。その為に防備を硬くするのも理解できる。ただエリーナでも破壊出来ないレベルとなると相当凄まじいレベルとなってくるが―――ちょっとしたアンバランスさを感じる。何せ、壊せるものと壊せないものが存在するのだ、ここは。なぜ最初から全部壊せない様に作らなかったのだろう、とは思う。ともあれ、扉を探すが、ここから直接あのポッドのある部屋へと入る方法はない様に見える。となると迂回して入る為の部屋がある筈だ。
扉というものはその構造上、開く様に出来ている為、ただの壁よりは構造として脆いのだ。だから開かなくてもいいからまずは扉を探さなくてはならない。
「エリーナも一応扉だけじゃなくてIDカードも探してみてくれ。たぶんあった方が色々と円滑に進む」
「うん……解った」
分かれてまずは今いる部屋の探索を進める。少女を助ける為に焦る―――必要はない。ああいうポッドは生命維持装置が装着されており、長期間の保存を目的としているのだ。今更どれだけ長くあのポッドにいるかはわからないが、少なくとも外に出すよりは中に入れておいたまま、探索した方が彼女にとっては安全だろうとは思う。その為、動きに焦りを入れる事無く部屋の中を探索して行く。基本的なカップボードや作業台の上、テーブルの下や何かの下敷きになっていないか、それを一つずつ調べて行く。勿論、持てる道具には限度がある。異空間に道具を収納する術なんてものは自分は保有していない。商神の信者であればできるのだろうが、生憎と自分達には関係のない話だ。その為、何かを見つけたとしても持って帰る物は厳選しなくてはならない。
と、そうやって探索している間にタブレット端末を発見する。手に取って確認するが、電源が切れている。残念に思うが、これは使える為、持ってきた道具袋の中に入れておく。
「そっちはどうだ?」
「何にもない」
「そうか、んじゃあ先へと進むか」
あまり成果は良くないらしい。まぁ、それもしょうがないと思おう。ガラス張りの壁の向こう側の少女の姿を一旦頭に入れてから視線を外し、扉を探し、あっさりと見つける。今度の扉は特にロックされている事もなく、簡単に開く。もはやここまで派手に動いておいて何も反応がないのだ、警備の類は完全に死んでいるのか、或いは此方には反応しない様になっているのだと思っている。扉を抜けた先にある廊下に出ると、表示盤がある。そこにはこう書かれてある。
「―――倉庫と第一実験室か」
おそらくはあの少女が入っているポッド、アレがある部屋が第一実験室なのだろう。道は左と右に伸びており、右へと進めばあの実験室へと到達できるが、逆へと進めば倉庫へと行ける。一旦視線を実験室の方へと向けてから倉庫へと指差す。それを受けてエリーナが頷く。まぁ、そりゃそうだ。今の所、一切金になる様な成果がないのだから。このままでは赤字の探索になってしまう。最低、売れる様なものを確保しておきたいのだ。なので二人で揃って倉庫の方へと向かう。
距離はそう遠くはない。数分歩けばあっさりと倉庫らしき場所の前に到着する事が出来た。扉の横にあるパネルがIDとパスワード入力を求めてくる。視線を上へと向ければ、セントリーガンが存在している。ここにきてセントリーガンか、何て事を思うが、ベルトポーチから白いボールを取り出し、それをセントリーガンの銃身へと投げつける。破裂した白いボールはトリモチとなってセントリーガンを包み込み、まともに動けない様に無力化する。
魔力なしで魔物を殺す為の最終兵器にして裏技その一、トリモチボール。相手の顔に叩きつけて窒息させよう。地味に便利な道具だ。咄嗟で相手の動きを封じ込められるし、こうやって無力化にも使える。ただやっぱり、使い捨ての道具というのはコストがかかるのが辛い話だ。
「んじゃ、扉壊しちゃっていいよ」
「よいしょっと」
大斧が振るわれ、倉庫へと通じる扉があっさりと粉砕される。これは破壊出来るのが悪いのだろうか、或いはエリーナの怪力が予想外すぎるのだろうか。ともあれ、今までの扉同様、ここもエリーナによって粉砕された。これがゲームだったらおそらく謎解きをしなくちゃいけないところなんだろうが、リアルに言うと”知ったこっちゃねぇ、金をよこせ”なので、そういうルールは完全に投げ捨て、倉庫の中を確認し、動きを止める。
「……なんじゃこりゃ」
倉庫の中に溢れているのは大量の武器だった。
それもただの武器ではない。
「……これ、ほとんどアーティファクトとかばっかり」
エリーナの発言の通り、今、目の前、倉庫と呼ばれる場所に並べられるように押し込まれているのはアーティファクトと呼ばれる、強力な魔道具の数々だ。無能者であっても魔物と戦う事が可能になるような、それほど強力な道具がアーティファクトと呼ばれるものだ。或いは宝具、或いは聖遺物、或いは神器と呼べるものがアーティファクトだ。それが目の前にずらり、と十を超える数が並んでいる。
剣、槍、斧、弓、銃も置いてある。魔力を使えないとはいえ、それを感じる事は出来る。アーティファクトは人間の様に独自に魔力を保有し、帯びる事が出来る武装だ。だからこうやって目視できる今、アーティファクトの纏う濃密な魔力の気配を感じられる。こうやってアーティファクトの一つを見つけて、戦えるようになることはまさに夢の一つであったことは認める。認めるが、誰もこんなに大量に見つけたいとは言っていない。
「……マジかよ」
「人生の確変?」
「西暦二〇XX年、地球は異世界と融合し、魔物で溢れ、人類は後退を余儀なくされていた―――だがパチ屋は滅んでいなかった! やかましいわ! そうじゃねぇ、落ち着け……落ち着け……」
ふぅ、と息を吐きながら心を落ち着ける。アーティファクトは”貴重品”だ。難易度の高いダンジョンの中に漂流するのを入手するか、神様が下賜してくれるものを貰うか、或いは神話の技術を使って生み出すか。それぐらいしかアーティファクトの入手方法は存在しないのだ。故に貴重であり、一つ売るだけで巨万の富が手に入るとも言われている。それが目の前にずらりと並んでいると来ると、相当心にクるものがある。だが逆に考えさせられるものもある。
―――この施設は一体何なんだ?
「……ま、考えていてもしゃーねーわ。とりあえずオッサン共がいないから俺とエリーナでこれは山分けって事で」
「大賛成」
勿論冗談だ。使えそうなのはそのまま持って行くつもりだが、使えそうにないのは後で売り払う予定だ。今はここにゲーデルとラカンの二人はいないけど、冒険に置ける入手したアイテム、或いはお金に関する分配は既に話してある。装備を拾った場合、相応の金額を出す事で購入し、その金額を分配する等、そういう手段を取る事にしている。ともあれ、個人的には一つ二つ、購入するつもりはある―――購入してもおつりが出そうなほど、アーティファクトがここにはあるのだ。売れば金持ち間違いなしだ。
「―――と、盗難防止用のセンサーやトラップがないか先に調べるか」
ここで油断してはいけない。そう思いつつ確認するが、やはりトラップの類は存在しない。何故だろうか。妙にハイレベルなセキュリティを保有している割には凄まじく手抜き、というか”杜撰”な気がする。なんというか、侵入される事を考えていない様な、そんな構造をしている様な気がする。IDに関しても最低限のチェックという程度でしかない。ここは一体何だったのだろうか。そんな事を考えている間にチェックは完了し、トラップがないのを確認する。
そのまま、導かれる様に壁に掛けられていた武装の一つを手に取る。
持ち手が透き通る水晶の中に光の線を描く、双頭の槍だ。両側の穂先は大きく、そして美しい翡翠色をしている穂先、つまりは槍の刃部分の形状はどちらかというと剣の様な両刃の直剣に近い形状をしている。水晶の様な材質のクセに、握ってみれば滑る事はなく、手にぴったりとはまる様なフィット感がある。それなりに重量が存在するが、右片手で持ち上げる事も振り回す事も出来る、ギリギリの重量だと判断する。少なくとも今まで握っていたハルバードと重量はそこまで変わらないから、使うにしたってそこまで困る事はないだろうと判断する。
次に手に取るのは銃だ。これもアーティファクト級の魔力を感じる物品だ。形状は大型ハンドガンに通じているが、どのメーカーの製品とも似つかない、無骨さがある。まるで射撃さえできればそれでいい、という感じのハンドガンだ。魔力と銃の相性はかなり悪く、銃では弓以下の傷しか魔物には与えられない。だから銃のアーティファクトなんて見た事もないのだが、一応これは持って帰って解体して調べる必要があるかもしれない。
組合が。
とりあえず双頭の槍、銃二挺と背中、ベルトに装着すると、エリーナ方も回収を完了しており、大剣と弓を新しく背に背負っていた。まだまだ多くの道具が置きっぱなしになっているが、これ以上持ち出そうとすると流石に両手がふさがれることになってしまう為、我慢し、断腸の思いで諦める。そう、また来ればよい、また来ればよいのだ―――またがあればの場合ではあるが。
「寄り道しちまったし、さっさと助けて帰り道を探そうか」
「うん。ぼろ儲けする為にも生きて帰ろう」
第一実験室へと向かって移動を開始する。と言っても移動、という程の距離があるわけでもない。数分ほど歩けばあっさりと”第一実験室”と書かれてあるプレートが張ってある扉の前へと到着する。やはりここもロックされているが、エリーナ式開錠術にかかればもはや鍵何て存在しないも同然である。脳筋的侵入方法によってあっさりと扉は役目を放棄し、ポッドの中に押し込められた少女のいる第一実験室へと入る事が出来る。
最初の作業室よりもかなり手狭であり、ポッドと、そしてその周辺機器しか存在していないから、当たり前なのかもしれない。そんなポッドのある部屋へと足を踏み込んだ瞬間、
脳髄を犯す様な軽い震えに、問答無用で頭を下げたくなる神聖さは間違いなく感じた事のある感覚だ。この感覚を忘れる事は出来ない。常にこの感覚に命を救われているのだから。だからこの実験室に侵入した所で、ポッドの正体の中身を悟り、そして捻りだすようになんとか声を、ポッドの中の存在の正体を吐きだす。
「―――かみ……さま……?」
歩いてポッドに近づき、その表面を軽く撫でる様に触れる。その向こう側に見える幼い少女の姿は神の姿だ。あのガラス張りの壁の向こう側からでは感じられなかったが、どうやらこの部屋から漏れないように遮断されているらしい。ポッドの中に納められ、そしてパイプに繋げられたその姿を見て、直感的に感じる、
”搾取”という言葉を。
しばらく呆然とポッドの中の神の姿を眺めてから、ハっと、我に帰る。そんな場合じゃない、と。もし感じていることが本当なら、色々と大事件だし、この大量のアーティファクトの謎も解明できる。アーティファクトは簡単には生み出せない。それこそ強力なものを作るには神の力が必要になってくる。そう、必要なのは神の意思じゃない。
神の力。
そんなイメージが脳裏に浮かび上がる。
「シュウ、調べてくれないと動けない」
「ッ、悪ぃ」
考えている場合ではなかった。考える事は安全な場所で出来る。今、ここで重要なのは動く事だ。だからまずはポッドの中の彼女を安全に取り出す為に機械を探ろうと近づいた瞬間、
『―――侵入者ヲ感知シマシタ』
電子音声がそう音を響かせるのが突如として聞こえてきた。
次の瞬間、ポッドを保護する様に鋼鉄のシャッターが降りてくる。即座にエリーナを通すために横へ跳躍すると、凄まじい勢いでエリーナの武器がシャッターへと叩きつけられ―――シャッターが歪むが、動きが止まらない。二撃目が入る前にシャッターが完全に閉ざされ、
そして足元が開き、闇に変わった。
「ちょ、ま―――」
「流石に飛ぶのは無理」
知ってるよと叫ぶ前に、
「なんでここだけ防衛機構が生きてるんだよぉ―――!!」
叫びながら下へと向かって、
闇の中へと落ちて行く。
(`・ω・´)最後の最後にトラップに引っかかるのもお約束の一種です
(´・ω・`)プロローグはまだ続くんじゃよ




