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鏡の中の君の  作者: Drake
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2.僕は変わる

 昨日暖房をつけようと、エアコンのリモコンを探していました。

 部屋中くまなく探しているのに見つからず途方に暮れていると、なんとトイレから出てきました。そりゃあ見つからないわけです。アレかな、僕の知らない間に僕に家のトイレにはエアコンが設置されていたのかな?

 ……案外、自分の家の事を把握していないものですね。

 最悪の気分で目が覚めた。

 といっても、冬の寝起きは体外が最悪の気分なのだけど。


「うぅ…頭、いってぇ…」


 僕はまだぼんやりと擦れる視界の端にデジタルの時計を捉え、自分の生真面目さというか、妙な律義さみたいなものに嫌気がさした。

 昔から愛用しているデジタル時計は07:06を表示していた。まったく、アラームを設定していたというわけでもないのになぜこんな時間に起きねばならないのか。

 それに今日は日曜日。学校もなけりゃ友達とどこかへ出かける用事すら入っていないというのに。アレか。僕は幼稚園児か。特撮やゾロチでも見るのか。

 などと、ガンガンズキズキ痛む頭を押さえながら考える。ダメだ。頭が痛すぎて思考回路がおかしくなっている。


「こりゃあ風邪だな……」


 僕はわざとらしく声に出し、部屋を出た。頭はまだ痛むが、顔を洗って歯でも磨けば少しはましになるだろう。

 僕の部屋は2回の一番奥だ。重い足取りで廊下を曲がり、階段を降りる。

 ───あぁダメだ。足元がふら付く。……あれ…こころなしか眩暈も…

 と、そう思ったときは遅かった。次の瞬間、


「うぉっ、ぅっ、ううおおお」


 僕は階段から転げ落ちたのだった。


「これ当たりどこ悪かったら確実に死んでたな…」


 先ほどまで自分が立っていた場所を見上げる。僕は頭の痛み(物理的な)のおかけげで暫く立ち上がれず、頭をフローリングに面したまま数十秒間そのままでいた。見ようによってはジャーマンスープレックスを決められた図に見えなくもない。

 

「朝っぱらから何やってんだ俺は」

 

 本当に何をやっているんだろう。しかも日曜日に。頭の痛みは増してるし(物理的に)朝早く目覚めたはいいがなにもすることがないし。

 本当に僕ってやつは、何をやっているんだろう。


 

 朝っぱらから自己嫌悪と頭痛(物理的な)で軽く死にそう…というか死にたくなったが、母がお腹を痛めて生んでくれた命だ。大切にしなければいけない。命を大切に、顔を洗おう。

 またもや思考がおかしくなっている気がするが、あえて突っ込まない。


 僕はジャーマンスープレックス決められた図を崩し立ち上がると、今度こそ顔を洗うべく洗面所へと足を運んだ。

 とは言っても僕の家は取り立てて豪華でもなんでもないので1分もしないうちに到着するのだけど。…まぁそこはアレだ。気分というやつだ。頭が痛くて(物理的に)死にそうだが、そんな時こそくだらない妄想やなんやらをして鼓舞しなくては。


 僕はそんな素晴らしい考えを抱きつつ、洗面所の扉を開いた。

 うん。いつもと変わらない、いつも通りの洗面所だ。そんな当たり前の些細なことになぜかホッとしつつ、僕は洗面台の前に移動して取り付けられてある鏡を見た。


「おでこ、赤くなってんなぁ」


 正確に言えば、鏡に映る僕自身の顔を見ていた。特に自慢の顔というわけでもないが、鏡に映る僕の額はリンゴのように赤くなっており、正直このままで外にでるのは恥ずかしい。まぁもとより今日は外に出る予定なんてないのだけど。


 僕はふぁ~なんてため息とも欠伸ともとれる息を吐きだして、まだ若干ふらつく脚を支えようと、鏡にもたれるべく、右手を伸ばす。






 ──────と、ここで前置きをしておこう。

 ともすれば蛇足かもしれない前置きをしておこう。

 決して僕はこの現象を知っていたわけではない。映画やドラマやアニメなんかで見かけたこともない。ふらつく脚を支えるのなら鏡ではなく、近くにあった洗濯機でもよかった。寧ろ綺麗好きである僕がわざわざ鏡に手をつくなんて、洗濯機に手をつくよりもよっぽど可能性が低い。

 けれど、僕は鏡に手を伸ばした。

 なぜ?───さぁわからない。ただ、なんとなく、伸ばしたんだ。

 なぜ伸ばしたのが右手だったのか。僕はもう少しあとに考える。もしもこの瞬間、伸ばしたのが右手ではなく、左手だったらどうなっていたのだろうかと。

 しかし、そんなものは結果論であり、あとの祭りでしかない。

 大事で、重要で、最も注視しなければならないのは、起きた瞬間から頭が痛く、階段から落ちて頭が痛くなり(物理的に)、ふらつく脚を支えるために右手を鏡に伸ばす。この一連の物が、すべて『偶然』だったことだ。それこそが真に尊ばれることであり、感謝されるべきことであり、軽んじてはいけないことだったのだ。

 僕が特別なんかじゃない。この『一連のことが起こった僕』が特別になったのだ。

 その2つは似ているようで正反対だ。

 これから起こるすべての出来事は『一連のことが起こった僕』の物語であり、それ以前の僕は死んでしまった。死んでしまって新しくなったから、否応にも、僕は変わる。変わらざるを得なくなってしまう。

 これは、そんな物語だ。

『一連のことが起こった僕』が、たった1人の女の子によって、『たった1人の女の子によって変わった僕』へと成る物語。そう、僕は変わる。変わってしまう。

 名前も知らない、鏡の中の君の手によって。

 


 


 

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