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92. ジョリーナ、俺を攻撃する

ノード神話「龍族の勃興と盛衰」の章より


だが、それにもまして銀龍が大量に必要としたのは金属類であった。

銀龍の巨躯を構成する骨や鱗は銀龍の体内の化学作用により、地上のどの金属よりも強固な物質に変化していった。

それ故、銀龍を大量に持つということは、大量の金属資源の消費を意味した。





ひとしきりの愁嘆場の後、俺たちはようやくハンカチで涙をぬぐい、真っ赤になった目のまま席に戻った。

なんだか、こうしていると本当にケイティが帰っちゃうのが信じられない。

短い間だったが、ずっとケイティと一緒に戦っていたような気がする。

最初にケイティを見た時は巨大で、金色で、ずいぶんと恐ろしく思えたものだ。

それがこうして仲良くなれたのも、エリスの腹違いの姉ということもあったが、龍族には珍しい気さくで偉ぶったところがない性格によるものだった。

ほとんどの龍族が、神使族以外は自分の下位種族と見ているそうだからな。

俺がそういう思いにふけっていた時、侍従が近づいてきた。


 「閣下、出し物の準備が整いましてございます」

 「おお、そうだ。あのお姉さんの凄まじい臭い、取れたか?」

 「はい、何とかなりましてございます」

 「そうか、それは良かった。じゃあ、そこの楽団の前でスタンばらせてくれ」

 「はい、かしこまりましてございます」


 俺は立ち上がり、だいぶ落ち着いてきた全員に声をかけた。


 「今夜は、趣向を凝らして、大道芸の芸人を連れてきた。音楽に合わせた見事な踊りを見せてくれる。最近、マヨヒ国にやってきたというその一座はマリン座という。みんな、その踊りを楽しんでくれ」


 俺が口上を述べ終わるのと同時に迎賓の間に先ほどのマリン座の一同が現れた。

 その時、ミリーとテトがきゃっとか言いながらテーブルの下に身を隠したのに俺は気が付いたのだが、その時は子供がやることと、特に気に留めなかった。

 マリン座の皆は着替えたのか、黒と白と赤を基調とした民族衣装のような衣装をまとっている。

 その衣装は東ヨーロッパの民族衣装によく似ていて、女性はロングスカート、男性は丈の短めのズボンのようなものを穿いていた。

 中心となるのは美女の座長であるマリン、その後方に楽器を持った3人が配置につく。

 これから楽器の演奏とともに、踊るマリンの衣装が次々と切り替わるはずだ。

 多分、みんなは気に入るに違いない。

 マリク首相なんかは鼻の下をビローンと伸ばしながら、食い入るように美女マリンを見つめている。


 「本日は、お集まりの皆々様に、我が故郷サルマンド王国に代々伝えられてきた王宮舞踊ブレダをご覧に入れます」


 中年の男がまず挨拶の言葉を述べる。


 「サルマンド王国は、今から5年前に大ニザール魔王国の襲撃を受け、大半の国民が殺され、亡国となってしまいました。そのため、ブレダを踊り伝えられるものはもう、ここに居るマリンだけとなってしまいました」


 ほう、そうなのか、魔王国が滅ぼしたのは何も神聖ガルニラン帝国だけじゃあないんだ。

 俺は、その時単純にもそう思った。

 だが、後で分かったことだが、これは俺に取り入ろうとジョリーナ達が考えた架空の設定だったのだ。


 「魔王国の追撃を避け、各地を転々と流浪しながらこの魔王国に辿り着いたのも、きっと神の思し召しがあったものと思います。今宵こそ、真実を明かします。このマリンこそは、滅びたサルマンド王国の第5王女であり、最後のブレダの踊り手であります。」


 その意外な素性にマリクやトドムラがホオーっと声を上げる。

 トドムラ、お前エリスやネリンに睨まれてっぞ。


 「では、ご覧下さい。いまは亡きサルマンド王国のマリン第5王女による王宮舞踊ブレダでございます」


 最初はドラムから始まった。

 次に笛の奏でる、もの悲しくも美しい旋律が続く。

 そして、マリン第5王女のブレダの舞が始まった。

 最初はゆっくりとしたテンポだった旋律が少しずつアップテンポになってくる。

 そして、その時、マリンの衣装がパッと赤から白へと切り替わった。


 「おおっー」


 見ていた全員から驚きの声が上がる。

 そうだろう、そうだろう。

 俺も最初に見た時に我が目を疑い、感嘆の声を上げたものだ。

 またまた、踊るマリンの衣装が、旋律に合わせて今度は緑へと切り替わった。

 リズムは一層の激しさをまし、凄いスピードで衣装が切り替わっていく。

 こうなると感嘆の声を上げるどころではなく、かたずをのんで見つめるだけになってくる。

 と、その時だった。

 俺のズボンを誰かがグイッグイッと引っ張ったのだ。

 見下ろすと、テーブルクロスの陰に隠れて、ミリーが真剣な面持ちでこちらを見ている。


 「ミリー、いまは駄目だ。少し待っていなさい」


 俺は小声でミリーを叱責する。

 しかし、いつもは素直なはずのミリーが首を横に激しく振った。


 「どうしたんだ、ミリー。気分でも悪いのか」

 「お兄ちゃん、あの女の人に近づいちゃダメ。あの人、蛇なの」

 「えっ、何だって」

 「蛇、恐ろしい毒蛇の臭いがプンプンするってラビが言っているの。それに125番教のメダルの臭いもプンプンするって」


 俺はミリーの横にいるラビを見た。

 ラビもミリーの言葉に同意するかのようにウンウンと頷いている。


 「本当なのか、信じられないな」

 「本当だよ、僕を信じて」


 ラビが大声て言った。

 その声に、テーブルにいた瑠璃姫たちがどうしたとばかりにこちらを見ている。


 「分かった分かった。じやあ、踊りが終わったら彼らを調べさせよう」

 「ううん、それじゃあ間に合わない。絶対に何か悪いことを企んでいる」


 その瞬間、ビッグホーンラビットのラビの姿が一瞬だけ揺らめき、そして消えた。

 瞬間移動だ。


 「ああ、ラビ、止めるんだ」


 トドムラの叫びに顔を上げると、ラビはマリンに向かって飛びかかっているところだった。


 「きゃーっ、ラビちゃん、何を」


 ステローベとローラが悲鳴を上げる。

 そして俺はラビを止めようと、マリンの所に駆け寄ろうとした。

 いかし、一瞬早くラビはマリンの衣装の上から剃刀のように鋭利な角を突き立てた。

 シュッと衣装が斬られる音がする。


 「何するのさ、この畜生が」


 マリンは襲われまいと腕で防いだのだろう、肩のあたりが大きく切り裂かれ、そこから血が流れ始めている。


 「この、くそチビがぁぁぁぁ×××」


 マリンはあばずれのヤンキー娘のような聞くに堪えない言葉を喚いた。

 と、その時だった。


 「えっ」


 会場に居た誰もがそう口にした。

 マリンの体がミシミシと音を立てて変貌していったのだ。

 細面の美しい顔は前に突き出し、口が耳元まで大きく裂けてくる。

 そして体は手足が胴体と一体化し、衣装がずるっと脱げ落ちた。

 マリンは僅か数秒で巨大な白蛇に変貌を遂げたのだった。


 「キャサール殿下、これは一体」


 トドムラが恐る恐る俺に声をかけてきた。

 しかし、それを聞いた白蛇はキッと俺を見つめる。

 うわっ、これは怖い。


 「おのれ、貴様がキャサールだったのかぁ、この身の恨み、受けてみよ」


 白蛇はそう言うなり、巨大な口をかぱぁと開けた。

 ヤバイ、噛みつかれる。

 俺は咄嗟に両手を顔の前に交差させ、攻撃を防ごうとした。

 だが、白蛇が牙から放ったのは無色の毒の液体だった。

 それが俺の両腕にかかる。

 その途端だった。


 「ぐはぁぁぁ、痛てえ、何だこれは」


 白蛇の毒液を受けた俺の両手は、見る見るうちにどろどろに溶けだしたのだった。



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