86. 国内調査隊編成へ
ノード神話「龍族の勃興と盛衰」の章より
闘龍は限りなく大きく改良が加えられ、最大級の物は全長が100ミゲールを超える物も現れた。
一方、闘龍に新たな能力を付与しようという試みも行われ始めた。
これが銀龍シリーズと呼ばれた個体の出現である。
「なあ、瑠璃姫、石門のことだけどな」
俺はソファでくつろぐ瑠璃姫に声をかけた。
フリフリのピンクのドレス姿の瑠璃姫は、最近少し背が伸びたみたいで、童女から少女に近づきつつあり、結構ドキマギしてしまう。
「ん? 石門がどうかしたのか」
「ああ、石門っていつも開きっぱなしだろう。この間みたいに外国の軍勢が押し寄せてきたりする可能性があるじゃん。こちらから開いたり閉じたりコントロールできないのか」
「ふーん、そうか。ちょっと待っておれ」
一瞬、瑠璃姫は視線を空中に彷徨わせる。
マヨヒ城のデータバンクと直接やり取りしているのだ。
なんか便利。人間WiFiみたいじゃあねえか。
「ああ、出来るぞよ」
瑠璃姫があっさり答える。
「ならさ、不逞の輩とか入り込まない様に石門に関所作りたいんだけど、いいかな」
「関所か、入国してくる人や魔物を調べるのじゃな」
「うん、そうそう。今一番心配なのは外国のスパイやテロリストだけど、魔王国の大部隊が攻撃してくる可能性もあるし、125番教軍だってまだ何個師団も残っていそうだし、できれば関所に詰めた司令官が自らの判断で石門を閉じたり開いたりしたい訳よ」
「ならば、ほれ、これが石門のコントロールキーじゃ」
瑠璃姫はドレスのポケットから石のようなものを4つ取り出した。
瑠璃姫のポケットはマヨヒ城の宝物庫に直接繋げている。
いわば四次元ポケット。
でもさすがにどこでもドアは出せないだろうな。
石を受け取ってみると、赤、青、白、黒に色分けされ。その表面にスイッチのようなものが付いている。
ちなみに、スイッチの右側に○、左側に×のマークがついているごくシンプルなものだ。
「こんな簡単なもので石門の開閉ができるのか?」
ものすごくシンプルでわかりやすい。
「それは、マヨヒ国にある4つの石門それぞれに対応しているコントロールキーなのじゃ。赤は南の門、黒は北の門、青は東の門、そして白は西の門じゃ」
「へえー、テレビのリモコンより簡単じゃねえか」
「テレビ? それはひょっとして太古に使われていた映像を映す原始的な装置のことか?」
ぐぐっ、テレビが原始的かい。
十分な文明の利器じゃあねえか。
「まあいいや、ありがとう。これ、貰っていくな」
俺は瑠璃姫の執務室を退出した足でトドムラの執務室を目指す。
トドムラの執務室は書類を持った国防軍の将官でいっぱいだった。
この国防軍の将官たち、人間もいれば人狼も、リザードマンも居る。
つい先日まで魔王国軍や帝国の敗残兵だった連中だ。
その連中が新生マヨヒ国の国防軍の中核となり、建軍の真っ最中なのだ。
そしてみんな、国防のための計画やらアイデアやらをトドムラに説明に来ているのだ。
うんうん、一時期は心配していた人材問題だが、うまく解決しているようだ。
国防軍の方は心配ないだろう。
他にも帝国難民の中には高度な教育を受けた人間や、技術者、魔術師なども数多くいたから、ローラ喜んでいたもんな。
「おお、これは殿下、いらしていたんですか。声をかけて下さればいいのに」
将兵の一人が持ってきた書類をしかめっ面をして覗き込みながら説明を聞いていたトドムラがふと顔を上げて、俺が来ていることに気が付いた。
「ああ、悪い悪い、忙しいみたいだな」
「いやいや、大丈夫です。ところで、どのようなご用件で」
どうやら、俺の来訪を気分転換になるからと喜んでいる様子。
「うん、石門に関所を作ろうと思うんだ」
おれは、瑠璃姫にした説明をトドムラに繰り返した。
「それはいい考えですな。あの石門の警備は早急に手を付けねばと思っていたところです。よいでしょう。マット中佐とヤイス大尉に人員の編成など至急検討させましょう。確か、石門の近くには古い砦がそれぞれあったはず。そこを補修すれば、立派な駐屯地になるはずです」
「ああ、頼むよ。一つの石門に100名くらいも駐屯兵がいれば大丈夫だろう。ほい、これが石門のコントロールキー」
俺は4つの石のキーを渡した。
トドムラはその石門のコントロールキーをためつすがめつ一通り見てから、机の引き出しに入れた。
そして思い出したように俺に言った。
「そうだ、殿下、このマヨヒ国の国内調査を行う必要があります。旧マヨヒ国の難民達から聞き取りをしているのですが、どうもおかしな場所がいくつもあるのです」
「おかしな場所? ステローベのアルゴスに確認してもらったらどうだ?」
「ええ、もう見てもらったのですが、霧のようなものがかかっていてよく見えないとのことです」
むむっ、このパターン、前にも似たことがあったような。
「それって、例の125番が潜んでいる可能性があるってことか」
「いいえ、超族のカモフラージュの不可視とは別なもののようです。何と言うか、超族とは違う物が潜んでいるようだとステローベは言っていました」
「超族とは違う物?」
「はい、それが・・・どうもアルゴスに制動が掛けられているようで、アルゴスが見ようとすると、急にアルゴスの機能が停止してしまうようなのです」
「それって、神使族に関わりのあるものということなのか?」
トドムラは俺の質問に大きくため息をついた。
「それが、よくわからんのです。瑠璃姫様にも尋ねたのですが、神器のそんな制動など聞いたことがないと。マヨヒ城の記録コアにも記録がないそうです」
「そうか、それで調査隊を派遣したいというのだな」
「そうです。このままほおっておいてもよいものやら」
「そう言うことであれば、調査隊を出そう。本当なら俺が行きたいところなんだけど」
「それは流石に駄目ですな」
「うん、分かっている。国家再建の仕事山積みだもんな」
うう、でも、冒険心がうずくぜ。
日本に居た時はこんな冒険野郎じゃあなかったのにな。
「調査隊にはネリンと護衛隊のリーケ副長を入れましょう」
「リーケ? ああ、コロシアムのビッグホーンラビット戦で解説して、女性たちにボコボコにされたあいつか」
「そうです。リーケは土地勘もある程度あるようですし、ネリンはほとんど不死のハーフバンパネラ。何かあっても無事戻ってこれるでしょう」
調査隊編成の話はトントン拍子に進んだ。
だが、この調査隊が後にとんでもないものを見つけることになるとは、この段階では分かる筈もなかったのである。