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68. 国家再生に向けて

ノード神話 「超族の争い」の章より


 神出鬼没王が顕現した瞬間、その体には超族・125番の触手が無数に絡みついたのであったが、神出鬼没王が軽く身を捩っただけで、その触手は無数の破片となって砕け散った。

 これが神器・破れ傘の持つ呪いの力だった。

 神器・破れ傘は発動した対象の防御力を奪って閉じ込め、普通の生命体並にまで下げることができる神器であった。

 







 俺の提案により、とりあえずの破産は逃れる可能性が出てきた。

 だが、一度提案した以上、提案のしっぱなしという訳にはいかなかった。

 破産寸前のマヨヒ国の経済立て直しのため、色々とやることがある。

 まずは新紙幣のデザインを決めて新紙幣を発行しなければならない。

 ローラに言って、デザインの得意そうな人間に色々と打診をしてもらった。

 その結果、マヨヒ国紙幣は意外にもリーキ博士が一日かけてデザインしたものが秀逸だった。

 リーキ博士。

 覚えてっかなあ。

 俺がここのコロシアムで悪霊ローランと戦った時に解説を務めた心霊研究家。

 悪霊に体を乗っ取られて、危うく呪い殺されてしまうところだったのがリーキ博士。

 そもそも、心霊研究家のくせに、なんで紙幣のデザインが出来るのか不思議だったが、噂では大昔の偉大な画家を自分に降ろして、たった一日で仕上げたらしい。

 ローランに取りつかれて以来、霊媒体質になったと言っていたからな。


 新紙幣の表は王冠を被った愛らしい瑠璃姫の姿、そして裏側に125番教軍と交戦する金龍や俺たちの姿が描かれている。

 なんか、かっちょいい。


 本当は金本位制を導入しようと思った。

 昔の日本やアメリカやヨーロッパなどの国家は、金本位制といって、金を各国が準備し、兌換紙幣を持っていくと決められた量の金と交換することになっていた。

 つまり、金が最終的な価値を持っているということ。

 アメリカは1971年までドルを兌換紙幣としていた。

 つまり、ドル紙幣を持っていくと、35ドルで1オンス分の金と交換することが出来た。

 だけど、ニクソン大統領がそのドル・金交換を止めちゃったんだな、これが。

 これが世に言うニクソンショック。

 みんな、高校の世界史で習ったよね。

 でも、ドル・金交換を止めちゃったおかげで、アメリカは金を準備しなくてもよくなっちゃった。

 これまでは世界中からかき集めた金の量に見合う紙幣しか発行できなかったんだけど、金・ドル交換停止で、その歯止めが効かなくなっちゃったんだ。

 まあ、正確にいうと、発行した兌換紙幣の総額に対し、準備する金は8%分だけでよかったんだそうだけど。

 んでもって、金準備という足かせがなくなったアメリカはドルを刷りまくったね。

 これでもかというくらいに刷りまくった。

 それに、第二次大戦後アメリカはドルを世界の貿易における基軸通貨として認めさせていたからね。

 つまり、世界各国は貿易をしようとするとドルが必要になる。

 ドルで決済する契約が多いからね。

 つまり、世界中がドルを欲しがっていた。

 んでもって、アメリカはドル・金交換停止をいいことに、好きなだけドルを刷って、アメリカ国債を買わせーの、商品を嫌と言うほど買って、ただ同然で刷ったドルで支払いーのと、もうやりたい放題。

 だって、紙代と印刷代で巨万の富が生み出されるんだから。

 これが現代の錬金術。

 とにかく自国通貨を基軸通貨にすると、こんな錬金術が可能になってしまう。

 アメリカがドルを基軸通貨にすることの条件は、冒頭に出たドルを兌換紙幣として、いつでも金に交換可能にすることって条件だったんだけど、いったん基軸通貨になれば強いよね。約束をほごにしてドル・金交換止めっちゃったんだから。


 んでもって、俺がマヨヒ国新紙幣を発行するのもそのことが頭にあったからだ。

 現在のこの世界の通貨は宝石貨幣。

 発行は宝石貨幣発行ギルドとなっている。

 これは全世界的な組織らしい。

 いわば、宝石本位制度って訳だ。

 だが、俺の見る限り、この宝石は生産するのに手間がかかりすぎる。

 贋金対策の魔法もかけられているし。

 まあ、金属がほとんど使い尽くされてしまったこの世界では、基準となる価値のあるものとして、この宝石が定められたんだろうけど、いかんせん使い勝手が悪い。

 また、生産量も限られてくるので、経済の急速な発展に対応できそうもないと言える。

 マヨヒ国を発展させるためには、まず通貨革命から必要なのだ。


 だが、金本位制を導入しようと、コングーナーとグロッディと話し合っていると、問題点があることが分かった。

 コングーナーで俺の家族が持っていた金を・・・この場合、天皇陛下御即位記念の10万円金貨なんだが、それを呼び出すのは問題がない。

 問題はグロッディーでそれを量産することだった。

 この世界にある金属は本当に少ない。

 グロッディの力は、この世界にある原子を集めてその複製を作ること。

 そして金の原子は全部集めても数百キロ分にしかならないという。

 これじゃあ、あっという間に複製できなくなってしまう。

 他の鉄や銅や銀も似たり寄ったりだという。

 とにかく、金属資源が少ないとは聞いていたが、ここまで少ないとは思わなかった。

 まったく、第二の神々、何しちゃってくれてんのよ、って感じ。


 そこで、俺が目を付けたのは食糧本位制度だった。

 ほら、江戸時代は100万石の大名とか、100石の武士とかいたじゃん。

 当時は1石で一人の人間が1年間食べられる量のことだった。

 江戸時代の武士は、その支給された米を米問屋で換金していたんだけど、似たようなことをここマヨヒ国でやろうと考えたのだ。

 まず、俺がコングーナーで出した食事をトドムラのグロッディで大量に増やしたものが、金に代わる食事本位制度。

 人間絶対に食べなきゃならんからね。

 その食事にはマヨヒ国の新紙幣で支払ってもらう。

 一回の食事の代金は一人10モーン位にする。

 まあ、ステーキや寿司など人気の物はもうちょっと高くするけど。

 すると、一人の人が食事に一日30~40モーンを支払うことになる。

 一か月だと約1000モーンだ。

 支給する給与1500モーンのうち、1000モーンを紙幣で支払う。

 この紙幣は、確実に食事と兌換できるので、兌換紙幣だ。

 だが、人々がこの紙幣を使うようになると、他の商品ともどんどん交換されるようになるはずだ。

 絶対量が少ない宝石貨幣より使い勝手がいいから、そのうち決済手段として普通に紙幣が使われることになってくる。

 そしてゆくゆくは他国との決済手段にも使われることになればしめたものだ。

 基軸通貨になれるからな。

 基軸通貨になれればしめたもの、実際に食事と交換しなくても、通貨として立派に全世界で流通することになる。

 

 次に手を付けるべきは、マヨヒ国の産業を成長させることだ。

 それには教育が必要不可欠になる。

 教育なくして国の成長なし。

 俺は色々考えて、国の産業の骨格に魔法を据えた。

 魔法は戦争にも使えるが、なによりも人々の生活の基盤になる魔具を生産できる。

 魔具生産のために、世界中から魔法の教師をかき集め、学校を建設し、魔術師を大量に育成するのだ。

 それから、あと軍備だな。

 なんだか明治時代の富国強兵・殖産興業に近くなってしまった。

 でも、これが国造りの基本だもんな。


 てなわけで、俺はマヨヒ国家再生の試案を1週間ばかりかけて作成した。

 そして瑠璃姫をはじめとするマヨヒ国の重鎮に披露することにしたのだ。


 マヨヒ国再生会議は参加者が5人程度の少人数で開催された。

 参加者は瑠璃姫、マリク宰相、俺、ローラ、そしてマニトという貴族の男だ。

 初めて会う人間だが、マリク宰相の補佐役らしい。

 5人って、ずいぶん少ないが、そもそもマヨヒ国のこの間までの国民数がわずか250人だ。

 それから考えると構成人数が少ないのも頷ける。

 なんてったって、国政はマリク宰相がほぼ一人でやっていたものな。

 だから宰相といっても、ほとんどすべての役職を兼ねている。

 これを、約2万人の国民があるべき国家規模の政府体制にしていかなければならない。

 まず最低限必要なのは、産業省、教育省、大蔵省、国防省だ。

 それぞれの大臣を決めて、詳細な実行計画を立てねばならない。

 この4つの省がうまく機能すれば、当面の国家運営はうまくいくだろう。

 問題は、それに見合った人材が確保できるかだ。

 

 俺は、たっぷり半日かけてそれぞれの政府部門構成とやるべき課題とその理由を説明した。


 「ほほう、またずいぶんと思い切った改革ですな。通貨改革に新たな産業ですか、本当にうまくいくものでしょうか」


 説明が終わると真っ先に口を開いたのがマニト補佐官だった。

 きょろきょろとした落ち着きのない挙動が癖のようで、俺が説明している間も腕を組んだり、頭をかいたり、俺の話に飽きているのかと思ったくらいだ。


 「そもそも、あの難民たち、礼儀も知らず無教養の輩ばかりで、本当に教育できるとは思えませんな」


 あちゃー、いたよここにも。

 人の言うことは何でも否定する困ったちゃん。

 一言言うことで、自分の頭の良さをアピールできると思っている勘違い男。

 なんか、相手するのもめんどいな。


 「いや、わしはキャサール殿に賛成じゃ。そもそもあの難民たちはもとはと言えばマヨヒ国の立派な国民、それが国難により棄民同然になっていたのじゃ。その国民がきちんとした教育を受け、国を発展させるようにするのが我らの役目じゃ」


 おっ、マリク、いいこと言うじゃねえか。


 「うむ、わらわもキャサールの提言、感服いたしたぞ」


 瑠璃姫にまで言われたのではマニト補佐官の出る幕はない。

 恨みがましい目つきが気になるが、まずは第一関門クリアということか。

 結局、産業省は俺が、教育省はローラが、大蔵省はマリクが、そして国防省はここに居ないがトドムラが請け負うことになった。

 んでもって、俺の原案にはなかったが、マリクが首相、俺が副首相を兼任することに決まった。

 んーっ、マニト補佐官の目つきが気になる。

 なんかやらかさなければいいが。

 


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