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58. 牛頭尊、ミノタウロスと戦う

ノード神話 「超族の争い」の章より

 125番は同族を次々と食らい、その力を着実なものとしていった。

 その時、125番に立ち向かったのは290番と呼ばれた超族であった。

 290番は非力だった。しかし、その知力は125番を上回っていた。







老人が牛頭人身のミノタウロスに変化したその時、俺の前に割って入ったのは牛頭尊だった。


「ミノタウロス、キャサール殿に代わり、同じ牛頭として拙者牛頭尊がお相手申す。ここであったが百年目、盲亀の浮木、優曇華の花、待ち得たる今日の対面。主の仇、いざ尋常に勝負、勝負」


牛頭尊、相変わらず大時代だな。

でも、今の百年目のくだり、明らかに日本語だったよな。

多分、ステローペ達は牛頭尊が何を言っているのか分からなかっただろう。

古い日本語が、まるで固定ルーチンのようにセンテンスに入り込んでくる。

何だか、壮大な悪ふざけによって世界が作られているような気がするのは、俺だけだろうか。


「思い起こせば500年前、我が主、神出鬼没王を殺め、我を奴隷同様にこき使い、更にあまつさえ美しき幼き瑠璃姫様をかどわかすとはなんたる悪逆非道な行い。その恨み、今こそ晴らしてみせるわ。」


大時代的な口上を述べ、牛頭尊はキッと構えた。


「誰かと思えば、役立たずの牛頭尊か、去ね。お前のような似非牛の出る幕ではないわい。それともまた500年前のように返り討ちにしてやろうか、今度は術が解けぬよう、その意識全てを消し去ってやろう」


おお、口喧嘩なら対等ないい勝負だな。

でも、牛頭尊って、500年前のことほとんど忘れていたんじゃなかったっけ。


「おのれ、悪口雑言の数々、許せん」

「何をほざくか、牛の化け物、返り討ちにしてくれるわい」


次の瞬間、2頭の・・・いや、二人の牛頭が激しくぶつかり合った。

お互いに頭を下げて、牛同士のケンカのように角を相手の体に突き立てんとしている。

牛頭尊の体の色は白銀、対するミノタウロスの体は漆黒。

その黒と白が、白黒つけんと激しくもみ合っている。


「殿下、どうします。このまま決着つくまで待ちますか?」


トドムラがげんなりした顔で尋ねてくる。

俺も何だか村の歌舞伎芝居のような二人のやり取りを聞いてげんなりしていたところだ。


「いいやいいや、ほっといて瑠璃姫探そう」


俺はいまだに燃え盛る蔦城のがれきを見た。

こんな状況じゃあ、探しようがないか。


「ステローペ、アルゴス、瑠璃姫の居場所を探知してくれ」

「はい、もうやっています。殿下の斜め右10ミゲールの場所に反応あり、まだ位相空間に閉じ込められています」

「そうか、そこから解放するにはなんとか装置を破壊すればいいんだったな」

「そうです。その装置は瑠璃姫様のすぐ近くの場所にあると思うのですが」


どうやらまず、この炎を消して、瑠璃姫がいると思われる辺りを掘り返すしかないか。


「ローラ、頼む」

「はい、何をすればいいの」

「お前の魔術であそこらへんの火を消せないか」

「うん、いいよ。できるよ」


ローラは早速魔法詠唱に入る。

実際に魔法が発動するまでに数分かかるはずだから、その間に、あのうざいのを何とかするか。


牛頭尊とミノタウロスは高速でぶつかり合ってはまた距離を取り、お互いの体に角を突き刺すタイミングを見計らっている。

既に二人の体はあちらこちらが傷ついて、ミノタウロスは血を、牛頭尊は液体金属の体液を流している。

この勝負、見るからに互角で当分勝負が付きそうもない。

俺は馬頭尊に命じた。


「馬頭、牛頭の助太刀を」

「いや、しかし・・・」

「何を言っている。これは旧主の敵討ちだろう?敵討ちに助太刀は付き物じゃあないのか?」

「おお、そう言えばそうでござった」


頭尊が納得したようにぽんと膝を叩く。

本当の仇は125番なんだけど、牛頭も馬頭も125番に関係するものは全て敵だと認識しているみたいだな。


「やあやあ、我こそは旧主・神出鬼没王の二の家来にして牛頭尊の朋輩なり。義によって助太刀いたす」


馬頭尊はそう言い放つと戦いの中に入っていった。

さてと、歌舞伎ごっこの3人は無視無視。

早いとこ瑠璃姫を助けなきゃ。

馬頭尊を対ミノタウロス戦に投入していた間にローラの魔法詠唱がもうすぐ終わりに近づいているみたいだ。


「○○×◆、ハラタマキヨタマ!」


ローラの気合いに満ちた掛け声とともに、大量の水が中空から流れ落ちてきた。

 ちっ、ローラのやつ、川か湖の水、全部持ってきたんじゃないだろうか。

 そう思わせるぐらいに半端ねえ水が燃え盛るがれきを襲った。


 「わふっ、うおっ、わわわわ」


 がれきにぶちまけられた水はどんどん溢れかえり、俺たちめがけて押し寄せてきた。

 まずい、水に巻き込まれる。

 全員が反対側に向かって一斉に逃げ出す。

 逃げ出さないのはケイティぐらいか。

 戦闘中の牛頭尊たちも押し寄せる濁流に飲み込まれてしまった。

 そして、俺たちは必死の思いで、小高い丘に駆け登った。


 「ローラ、加減というものを知らないのか!」

 「あはは、ごめん、量を間違えた」

 「まったく、無事だったからいいものを」


 丘の上でようやく俺たちは足を止めた。


 「ローラ、お前の使う魔術の威力、上級魔術師クラスだな」


 エリスが感心したようにローラに言っている。

 そうなのか、上級魔術師クラスなのか。

 確か、上級魔術師って、世界に数人しかいないんじゃあなかったっけ。

 しかし、悪びれるでもなく、にこやかに笑うローラだった。


 「あっ、そういえば、牛頭尊と馬頭尊はどうなった」


 確かあの水流にミノタウロスともども巻き込まれたはずだ。

 だが、心配することもないだろう。

 あの二人は機械の体だ。溺れる訳がない。


 「あっ、あそこにいます」


 ステローベが指さす方角に確かに二人は居た。

 足元にはミノタウロスが自縛自縄でぐるぐる巻きにされて転がっている。


 「どうやら、ミノタウロスを捕縛したようだな」

 「そうですね、あの勢いでは、てっきり殺してしまうと思っていたのですが」


 水がどんどん引いていく。

 俺たちはそんな話をしながら丘を降りて牛頭。馬頭の元へとやってきた。


 「くそう、二人がかりとは卑怯じゃ」


 ミノタウロスが悔し紛れに喚いている。

 でも、殺さなかったのはえらい。

 このミノタウロスを絞めあげれば、瑠璃姫解放の役に立つ情報が得られるかもしれない。

 あの爆竹拷問、こいつにも効くだろうか。


 そう思っていた時、突如ステローベの警告の声が響き渡った。


 「殿下、がれきからまた何か出てきます」


 がれきはローラの洪水ですっかり沈下していたのだが、そのがれき自体がゴゴゴと音を立てて振動している。

 そしてその振動音が頂点に達したと思った時、バゴーンとがれき自体が吹き飛んだ。


 「おお、主上、なりませぬ、力を、そのようにお使いになっては」


 地面に転がされているミノタウロスが叫んだ。

 その瞬間、吹き飛んだがれきの下から現れたのは一本のとてつもなく太いタコのような触手だった。


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