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2.なんかすごいことになっちゃてるんですけど-2

 「どゆこと」


 もう朝から驚きの連続、想定の範囲外のことだらけで、たいして驚く気力も残っていない。

 どうも俺は気絶した後、殺されずに連れてこられたらしい。

 あの巨人ども、よく殺さないでくれた。

 縛られ、のっぴきならない状況にも関わらず、俺は自分が殺されなかったことにほっと安堵の溜息を吐いた。

 俺はベッドの上で芋虫のように這いつくばりながらもこれからどうなるんだろうと考えていた。

 まず、整理をしてみよう。

 今は戦争状態だよね、うん。あの何とかという皇子もどっかの国と戦争していると言っていたし。でも、戦線は膠着状態だったんじゃ、でもでも実際に魔物軍と思しき巨人たちに多分味方だと思われる騎士たちは全滅させられていた。

 これって、もしかして魔物軍が怒涛のごとく攻め入ってきて、帝国軍全滅って状況になっちゃっているの?だから俺は皇子と思われてグルグル巻きにされてんの?

 だめじゃん、皇子が兵器の技術持って帰れたって、帝国自体が負けちゃっていれば意味ないじゃん。

 アレ、そういえばあの時、宮廷魔術使っぽいじいさんがなんか言っていたよね。「無事逃すことができた」とかなんとか。

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 嵌められたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 俺はベッドの上で悔しさのあまり身もだえをした。

 くそぉ、おうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 よくもくよくも、騙してくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 全てがここから逃げるための大嘘かい。

 切歯扼腕し地団太を踏むとはまさにこのことだった。

 でも悲しいかなグルグル巻きにされている俺は地面を踏んで悔しがることなどできやしない。

 俺は体を前後に揺らしながら陸に上がったオットセイのようにジタバタするしかなかった。

 俺が皇子の身代わりになるってことは、この後戦勝国である魔物国家の戦争裁判にかけられ、運が良くて死刑、運が悪ければ拷問の上死刑、死ぬこと確定じゃねえーか。

 嫌だ、嫌だ、死にたくないよぉ

 そうだ、俺は皇子の身代わりだと訴えよう。皇子に騙されて魂交換したんだと全部ばらしてしまおう。そうすれば、仕方ないねと釈放してくれるかも・・・・な訳ねえよな、絶対に。

 そうだ、俺の現代科学の知識を提供するというのはどうだ、俺は曲がりなりにも大学生だ。俺の専攻の大学知識を・・・・だめだぁ、俺の専攻は近代日本文化だった。しかも卒論は「アニメとラノベにおける若者文化の変遷」だった。こんな役にも立たない知識提供しても無駄だぁ、使えねえぇぇぇぇぇ俺って。

 俺は自分の情けなさに泣かんばかりになっていた。


 「なんだ、まだ殺されていないのか」


 突如頭の中にあの皇子の声が響いてきた。


 「お、おうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、お前、騙したなぁぁぁぁ」


 もし目の前に皇子がいたら俺は絶対に殴りかかっていたに違いない。


 「なんだ、ようやく気づいたのか。バカなお前にしては察しがいいではないか」


 皇子は悪びれる様子もなく平然とそのようにうそぶいた。


 「きさま、ここから逃れるつもりで俺を身代わりにしたなぁ、なんでだ、なんでそんなひどいことをした」

 「なんでって、身代わりにしなかったら私が殺されるからに決まっているだろう」

 「殺されるって、じゃあ、俺が殺されてもいいのかい」

 「当り前だろう、私は死なないためには手段を選ばんからな、まあ、悪いが代わりに死んでくれ、神聖ガル二ラン大帝国の皇子キャサールの影として死んだとあれば実に名誉なことだ」


 なに、その自己中ぶりは。


 「私はこの世界で宝くじの当選金で楽しく暮らすよ。宝くじは日本よりアメリカだな、今数百億円の宝くじが出ているから、その当選金で一生面白おかしく暮らすことにするよ。皇子の身分も窮屈でたまらなくなってきた頃だしな」

 「て、てめえ、呪ってやる、殺してやる、訴えてやる。」

 「ふふん、どうやって殺すんだい。この精神通信もこれで最後だ。もうその世界からはすっぱりと縁を切るから、では体に気を付けて、はははははは、アディオス」


 最後は電話が切れるようにぷつんと声が切れてしまった。

 気のせいかツーツーという音まで聞こえる気がする。

 くそっ、体に気を付けてだと、アディオスだと、これから死ぬ人間にいう言葉か。

 皇子に対する巨大な怒りは続いていたものの、状況は一向に好転せず、逆に俺のまずい立場がより鮮明になっただけだった。

 くそお、どうすんだよ、どうすんだよ俺。

 と、その時だった。


 「キャサール皇子、ようやくお目覚めか」


 ドアの方から凛とした女性の声が聞こえた。

 えっ、と思って声の方を見るとそこには赤や金色といった華美な色彩に彩られた鎧をまとった美女がいた。いわゆる女騎士というやつか。

 ただ、その女性は普通の人間とは違っていた。

 頭から生えた2本の角もそうだが、何よりも異様だったのはその瞳が猫のように縦になっていたことだった。

 うわっ、こわっ。

 それが第一印象だった。

 それから、その女性がどことなく爬虫類っぽいのに気が付いた。でも美人。

 トカゲっぽいのなんて全然気にならない。


 「なんて顔をして私を見ているのだ。キャサール皇子、よもや竜人を初めて見る訳でもあるまいに。ああ、申し遅れた。私は大ニザール魔王国第11騎士団のエリス団長、人呼んで黄金竜のエリスだ」


 多分、俺はバカみたいにあんぐりと口を開けてその女騎士を見ていたに違いない。

 だって、爬虫類っぽい美女なんて人生の中でぜえっーたいに出会わないし、美人だし、それに美人だし。竜人とかなんとか言っていたようだけど、気にならないし。

 その美女に釘付けになっていた俺だが、そこでとんでもないことをハタと思い出してしまった。

 うへっー、そういえば俺って素っ裸じゃん。ヤバイ、もろ、丸出しじゃん、変質狂の露出者みたいじゃん。いや、露出狂の変質者そのものじゃん。

いくらこの身体が他人のものだとはいえ、今は俺の体だ。その身体を初対面の、この世のものとも思えぬ黄金色の美女の前に晒しているのだ。かっこ悪いどころの話ではない。っていうよりどんな羞恥プレイよ、これって。

しかし、その美女騎士はそんな素っ裸の俺などまったく意に介せずに話しかけてきた。


 「ふふん、うざいな。声も出せぬか。先ほどの戦闘の激しさにどうやら腑抜けになったとみえる」

 「あのう、すみません。何か着るもの貰えないでしょうか」


 俺は思い切ってその美女騎士に頼み込んだ。


 「神聖ガル二ラン大帝国もこれでおしまいだな、このような腑抜けの皇子がいれば滅亡もしかたなかろう」

 「なんでか裸にされてんです俺、着るものか羽織るものでも貸していただけたら・・・」

 「帝国軍兵の弱かったことと言ったら、そんじょそこらの町人を相手にしているかと思ったぞ。まったくうざいことこのうえない」


 だめだ、全然話がかみ合っていねぇ。

 でも、俺の窮状を何とか訴えて俺が被害者であることを分からせる必要があった。


 「すみません、実は俺はキャサール皇子じゃないんです。あいつの魔法にひっかけられて異次元の地球の日本というところから魂を交換されてあいつの肉体に入ってしまったんです。あ、俺、日下(くさか) 歩日人(ふひと)って名前です。俺、あいつに嵌められたんです。本当なんです。信じてください。」


 俺は一気にまくしたてた。

 その俺の言葉に美女騎士の目が驚いたように大きく見開かれた。


 「なんと、そこまでやるか、信じられん」


 俺の必死の訴えかけがその美女騎士の心を動かしたかのようだった。

 やっぱり真実の言葉は雄弁だ。

 それというのも俺の人徳の表れに違いない。うん、絶対そうだ。


 「帝国の皇位継承者である皇子が、自分の命乞いのためにそのような三百代言を吐くとは、まったくもって呆れた卑怯者だ、うざい。あの広間で失禁して気絶していたのもうなずける」


 あれれ、なんかうまく伝わっていないみたい。つーうか、俺ってオシッコ漏らしていたのね。うわーっ、恥ずかしい。


 「お前がキャサール皇子である証はしっかりと確認させてもらった。失禁ゆえに衣服を剥ぎ取ったが、その尻にある青いあざが何よりの証拠、皇室の血をひくものは全て尻に青あざが出るとは有名な話ゆえにな」


 俺は反射的に身をよじって自分の尻を見た。

 確かに俺の尻には青あざがあった。っていうか、これって蒙古斑じゃん、日本人の赤ん坊のほぼ全員についているよ。

 つーか、俺は影武者なんかじゃなく、魂を入れ替えられたんだってば、この肉体がキャサール皇子のものであることはあたりまえなんだって。


 「キャサール皇子よ、帝国の皇位継承者として少しは礼節を尽くそうと思ったが、どうやらそのようなことは無駄であった。うざい誇りなき男にふさわしき扱いをしてやろう。このまま檻馬車に入れて市中引き回しの上、皇城におわす我が主君のもとに連行させていただく」


 し、市中引き回しって、江戸時代かよ。

 黄金の美女騎士が後ろに向かって合図をすると、部屋の外から木製らしい甲冑をつけた緑色をした爬虫類っぽいのがバラバラと数人出てきた。

 近くで見るとけっこうキモイ、緑色の鱗がついた手が俺を運ぼうと体にまとわりついたが、そのひんやりとした感触は蜥蜴そのものだった。爬虫類っぽいどことなく鼻にツンとくる匂いも蜥蜴だった。

 その爬虫類っぽいのが俺を全員で担ぎ上げ、どんどんと運んでいく。

 部屋の外は戦いの余韻がまだ残っていた。薄暗い中にあちらこちらに帝国軍と思われる兵士だか騎士だかのズタズタになった無残な死体が放置されたままになっている。どこからか焦げ臭い匂いもしていることから、戦火による火事もあったに違いない。

 生きて動いてるのは剣や棍棒を握りしめた獣人だけだった。

 やがて俺は建物の外に連れ出され、道に止めてあった檻のついた馬車に放り込まれた。

 檻と言っても立つことさえできない狭さだった。

 もちろん、全身をグルグル巻きに縛られているので、俺は荷物のように檻の中に転がされるしかなかった。


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