34. ケイティ仲間になる
ノード神話 「神々の黄昏の章」より
新たに発見された魔力を使い、人と魔物の文化は発展し以前の輝きを取り戻した。
初めのころは魔力の応用もごく初期的な火や水を出す程度であったが、数百年たつうちにその技術は飛躍的に進歩した。
「この世に最強とうたわれ、誇り高き古の一族である金龍ケイティ殿に物申す」
おお、トドムラが俺をかばうように前に出て、物怖じした様子もなくケイティに話しかけた。
「まずは、125番教軍に襲われし窮余のところ、助けていただきお礼を申し上げる。」
さすが帝城の守備隊長のことだけはある。古文に使うような難しそうな言葉で威厳すらありおりはべりいまそがり。
「されど、マヨヒ城での試合は試合、勝ち負けは時の運なれば遺恨を持ってキャサール殿下を討ち果たそうとは、誇り高き一族のあるべき姿とはとても思えませぬ。なにとぞ怒りの矛先をおおさめ下され」
「人間風情が何を言ってるのさ、あたしが用事があるのはそこのキャサールだけ、うざいわね。邪魔すると食うわよ」
おーっ、この口調、紛れもなくケイティだ。
「お待ちを、姉上、私からもお願いする。我らは超族に攫われた神使族、瑠璃姫様を救出に向かう途上、キャサールも瑠璃姫様救出にはなくてはならぬ存在ゆえ、討ち取るのは救出後にしていただきたい」
って、結局討ち取らせるのかい。
エリスぅ、仲間だと思っていたのに、何だかすごく落ち込むぜ。
「まて、誰がキャサールを討つと言った」
「へっ、違うの?」
ケイティの意外な言葉に俺は思わずよろけてしまった。
「あたしがキャサールを討ち取る訳ないじゃないか。何てったってキャサールがいればお酒もおいしいご馳走も食べ放題。連れて帰って婿にするのさ。いまどきこんな優良物件ないからね」
あーっ、それが目的かい。
確かに俺がコングーナーで出した酒や料理は俺も日本でうまいと思ったものを中心に出したからな。
それに日本のご馳走の味は多分世界の中でも一二を争うと思う。
イギリス人なんて、フィッシュ・アンド・チップスが最高のご馳走と思ってんだぜ。アメリカ人のご馳走はハンバーガーだし。
俺が出したのは一度食べたら病みつきになる最高の味だ。
それをまたどうしても食べたいと思うのは人情じゃなかった、龍情だろう。
殺されないだけまだましか。
っていうか、おれは巨大な洞窟の中でケイティに毎回毎回龍に食事やお酒を用意するシーンを想像して身震いした。
これじゃ婿じゃなくって主夫じゃん。体のいい家事労働者じゃん。
「そういう訳だからキャサールをお持ち帰りさせてもらうわよ。キャサール、後でたっぷりと愛してあげるわよん♡」
うーん、金龍が言うと頭からポリポリ食われるか理由の下敷きになって息絶えるイメージしか湧いてこん。
ケイティの言葉を聞いて全員が俺をかばうように一歩前に出た。
それに俺はちょっと胸がジーンと来てしまった。
さっきひどいことを言ったエリスも身構えでいる。
おっ、ローラは魔法の詠唱に入ったようだが、すぐに首をふり詠唱を辞めてしまった。
ああそうか、さっは125番教軍がとんでもないでかい魔法使ったからな、ここいら一帯ゼロ地点になっているんだ。
だが、この面子でも金龍を撃退できるとは思えない。
ここで逆らえば多分、みんな殺されて俺だけお持ち帰りされてしまうだろう。
でも戦いを避け、大人しく俺がケイティについていけばみんなの命は助かる。
うーん、考えろ、考えるんだ俺。
みんなが助かり、俺もケイティの主夫兼家事労働者にならない方法を。
「まて、お前の欲しいのは食い物と酒だろう?俺はそのためのおまけにしか過ぎない」
「うーん、そういえばそうね」
おっ、ケイティがあっさり認めたぞ。
人間形態のケイティを知る者としてはちょっと残念。
「なら一つ提案がある。嫌がる俺を連れてっても逃げ出すかもしれん。仲間と離れ離れになって人恋しくて病気になったり死んだりするかもしれん」
「うーん、そういえばそうね。これまで巣に連れ帰った人間で長生きしたの誰も居ないわね、せいぜい3か月の命」
うわっ、ケイティそんな前科があるんかい。
危ない。おれだったら1日だって生き延びれないかもしれない。
俺はここぞとばかりに畳み込んだ。
「そこでだ、ものは相談だが、お前の力を瑠璃姫奪還のために貸してくれないか。それだけの戦闘力があれば、超族なんかお茶の子さいさいなんじゃないのか?もし力を貸してくれれば、その間、食い放題飲み放題にしてやる。俺の国日本にはまだまだうまい食い物に珠玉の酒が色々あるぞ。それを提供してやる。どうだ、俺たちと一緒に行動しないか」
俺の提案にケイティは思案顔になった。
龍の思案顔なんて分かるのかよって突っ込まんでくれ。
分かっちゃったんだから仕方ない。
「よし、分かったわ。その話に乗ってあげる。でもできるなら瑠璃姫救出後もご馳走と酒をお願いしたいわね」
「ああ、それについては瑠璃姫救出後要相談、委細面談だな」
んっ、トドムラが俺の袖を引っ張っているぞ。
トドムラに顔を近づけるとひそひそ声で聞いてきた。
「殿下、宜しいんですか、相手は金龍ですぞ。凶暴で何をするか分からない。油断できん相手ですぞ」
「んなこと言ったって、ここで戦闘になる訳にもいかないでしょ。瑠璃姫救出まで我慢するっきゃないし、瑠璃姫を救出できたら、あいつがなんとかしてくれるさ」
俺の言葉に黙り込んでしまうトドムラ。
そうだよね、俺がお持ち帰りされて、最大の攻撃力を持つコングーナーなしでは瑠璃姫救出はおぼつかないし、かといってここで金龍に逆らっては全員惨殺の公算おっきいもんね。
時限爆弾を抱えているようなものだとしても、金龍ケイティの戦闘力が加わったことはマイナス面を相殺するどころか、かなり大きいんじゃないだろうか。
金龍のケイティが仲間になった。
どこからかピロリロリーンと音楽が聞こえてきそうだ。
ケイティは地上に降りると、人間の形態に変身する。
緊張していたのだろう、エリスが止めていた息をそっと吐きだしアイギスを解除した。
ケイティは相変わらず妖艶な美しさを醸し出しながらエリスの前に来た。
「姉上、仲間に加わったからにはくれぐれも皆に乱暴なことはせぬように・・・」
「そんなことわかっているわよ。うざいわね」
あー、エリスのうざいっていう口癖はケイティのが移ったせいなのか。
でもケイティが居るとエリスすら上品な淑女に思えてくる。
ほっとしたのもつかの間、ネリンの腕から飛び降りたテトが戦場に累々と横たわる将兵の死体の方に駆けていく。
「駄目よ、テトちゃん、戻っておいで。そこには死体しかないわ」
慌てたネリンがテトを呼び戻そうとする。
「でも、ネリンお兄ちゃん、ミリーは、ミリーは大丈夫かな。さっきの龍のお姉ちゃんの攻撃で馬車壊れて、怪我していないかな」
途中で止まったテトがこちらを向いて訴えかけてきた。
そうだ。しまった。
掴まったミリーと村人のことすっかり忘れていた。
ステローベのアルゴスでもはっきりとは分からなかったので彼らを乗せた馬車がここにいない可能性もあるが、もしミリーたちの馬車がここにいたのなら、生きているのはほとんど絶望的だ。
俺は累々と連なる引きちぎれた死体の山を見ながら、暗然たる気持ちになってきた。
「ミリー、ミリー」
テトが悲しげな声でミリーの名を呼ぶ。
しかし、暴風が吹き荒れたような戦場はしんとして応える者すらいない。
俺たちはテトの心を思いやり、声をかけたくてもかけられないでいた。
「んっ、何だ。あのビッグホーンは誰かを探しているのかしら」
ケイティ、お前の仕業だろうが。
「姉上、テトはこの後ろの村人たちが連れ去られた馬車を探しているのです。そこにテトと仲の良かった少女も一緒にいたのですが・・・」
エリスが荒涼とした戦場に目をやり、押し黙ってしまう。
「んっ?それは荷台に檻が乗っている馬車のことなのかな」
「えっ、知っているのですか?」
「知っているわ。先ほどここを高速で通り過ぎた時、左前方に何やら走っていた。隠形魔法が切れかかってその檻が見え隠れしていたけど」
ケイティの言葉に俺たちは即座に馬車に飛び乗った。
飛び乗って気が付いた。
「あっ、馬頭尊、馬頭尊が居ない」
「そうだった。自縛自縄にぐるぐる巻きにされて、こっちもすっかり忘れていた」
その後、死体の山から五体満足でぴんぴんしている馬頭尊を掘り起こしたが、忘れていたことは黙っておこうな。
本人は「不覚でござった」などとしょげ返っていたけどな。




