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1.うまい話には気を付けよう-2

 「ぐはっ、あ、頭が・・・・」


 それはまるで殴られたかのようだった。


 「こ、声かでかい、あ、頭がわ、割れる」


 俺は布団の上に突っ伏してのたうちまわった。


 「あ、これはすまなかった。貴重な交換体だ、ダメージを与えてはいけなかった」


 そんなつぶやきがまた俺の頭の中から聞こえた。

 これは憑依だ、何かいけないものが俺にとりついたんだ。

 きっと正月の初もうでにお賽銭1円しか入れなかったから、そして希望の会社に就職できますようにということと、かわゆい彼女ができますようにという分不相応のお願いをしたから、神様が俺に憑依して罰を当ててるんだ。

 しかもあの神社の巫女さんナンパしようとして声かけたからなあ。

 俺は半分息絶え絶えになりながらもそう思った。


 「またはやとちり妄想か、私は神でもなければ悪魔でも、ましてや仏でもない。れっきとした人間であり、この地球とは違う異世界の古き血脈を誇る大帝国の皇太子だ。帝国に古くから伝わる魔法の術式によりお前と言葉を交わしている」


 キャサール皇子とか名乗る声は一気にそう説明した。

 たぶん俺の反応のめんどくささに辟易してきたのだろう。


 「ま、魔法とか異世界とか、ゲームやアニメでそういうの好きだけど、現実にはちょっと。それになんか異世界人にしちゃあ日本語ペラペラじゃん」


 そう言ってから俺はしまったと思った。

 またあの怒鳴り声を出されたら卒倒してしまう。

 いや、声に出さずとも変なことを考えただけでも相当にヤバい。

 ここはおとなしく・・・いやこの考えも読まれてしまう。

 俺は何も考えまい考えまいと必死になった。

 必死になった結果、俺はうまい手を思いついた。


 「ごいちがご、ごにじゅう、ごさんじゅうご、ごしにじゅう、ごごのこうちゃ」

 「お前、なにやってんだ?」


 さすがに頭の中の声は俺のその挙動に疑問を感じたようだった。


 「いや、何って、心読まれないための呪文、しさんじゅうに、ししじゅうろく、しごのせかい」

 「バ・・・安心しろ、もうさっきのような仕打ちはしない」


 皇子を名乗る声は俺を安心させるためか、ささやくようにそう言った。

 でも今、バカって言いそうになったか?


 「言葉が通じるのは言語魔法でお前の脳に我が帝国語を話せるようにインプットしたからだが、くだらん会話に時間を使ってしまった。もう残りの時は少ない、手短に言おう。実は我が国は現在魔物が支配する国家と交戦している。残念ながら戦線は膠着状態になっており、何らかの打開策が必要になった。そこでお前の国の科学技術による兵器の知識を帝国に持ち帰りたい。その知識さえあれば魔物を滅ぼし、人間の平和な世界が取り戻せるのだ」


 わおっ、なんかすっごい話になってきたじゃん。


 「そこで、私とお前の魂を一週間だけ交換してほしい。魂の交換期間に私はそっちの世界の兵器製造知識を収集するのだ。そして一週間後にお互いが元の世界の肉体にもどることになる」


 この話を聞いて俺は一つだけ疑問を感じた。

 だって、俺と魂を交換したって俺は就職も決まらず、フリーターかニート候補生の大学生だ。

 しかも科学技術とは程遠い文系だし、兵器製造関連の技術者にも知り合いがいるわけないし、図書館で兵器製造技術調べたって、とっても大砲とかミサイルとか作れるほどのことが分かるとは思えない。


 「その疑問はもっともだ、だが私には魔法がある。そちらに渡ったら、魔法により科学者や技術者の知識をごっそりと我が物にすることができる。」


 えっ、それってヤバイんじゃ・・・知識吸い取られた人は死んじゃうか、くるくるパーになるんじゃ・・・


 「それは心配無用だ、知識を吸い取るんじゃなくて、知識をコピーするだけだから、本人はコピーされたことも気が付かぬうちに全ては終わっている」


 でも、そんならそっちの世界に居たまま知識コピーってできないの?

 俺がそう疑問を感じただけで皇子と名乗る人物の声が答える。


 「それはできない。異界を超えて知識をコピーする魔術などない。もちろん物質も異界を越えられないので、兵器の実物をこっちの世界に持ってくることも不可能なのだ」


 でもさ、でも俺とこうして交信できてるってことは、そっちの世界から知識のコピー位できちゃうんじゃねえの?


 「実際にこのように異世界同士の魂が交信したり交換できるのは極めて少数なのだ。お前の世界だと数億人に一人しか存在しない。その存在の一人がお前ということだ。だがお前は兵器関係の技術者や科学者ではないため、多少面倒ながら私の魂がそちらの世界に渡り、魔術でもってターゲットの知識を私の記憶にコピーするしかないのだ」


 はーん、そゆこと。

 なんとなく理屈はわかってきた。

 でも、でもさ、そんな魂を交換なんかして、本当に一週間後に俺は元に戻れる保証あんの?それって、俺にリスクばかりあって、メリットって一切ないじゃん、別に異世界を体験してみたいとも思っていないし、今就職活動の真っ最中で会社に正社員として採用されなければ俺の今後はリア充あきらめなきゃなないし、できれば二次元じゃあなくリアルできれいな嫁さん貰ってウハウハしたいし。


 「それは保証する。これまでにそちらの世界に魂交換の術式を行って失敗した例など一度もない。それに、協力してくれたら巨万の富を約束しよう」


 なんかうさんくさい。だって物質は異世界を渡れないんだから、向こうの帝国から褒美をたんまりもらったとしても持って帰れないじゃん。

 おれがそう思ったとたんにキャサール皇子の声のトーンが一段下がり、重大な秘密を打ち明けるような喋り方に変わった。


 「お前、宝くじは買ったことはないか」


 おいおい、まさか宝くじが褒美じゃないよな、宝くじを購入して当たるのを待っとれって言うんじゃないよな。


 「そうだが、少し違う。私は魔術が使えると言っただろう、私の使える術式に望外の富というものがある。私がそちらの世界に渡ったら望外の富を発動させ宝くじを購入する。今一番高い当選金だと確か6億円位にはなるはずだ。それを今回の一週間の魂交換の謝礼とさせていただこう。実はお前の世界の宝くじの高額当選者の半分はこうやって魂を交換させていただいた協力者なのだ。その数はざっと35人というところか」

 「のった!のった!その話乗った!」


 俺は思わず叫んでしまった。

 だって6億だぜ、1年で1000万円使ったとしても60年遊んで暮らせるじゃんか。

 もうドロくさい就職なんかしなくて済む。

 毎日嫌な上司に小言いわれるようなつまらんサラリーマン生活などしなくて済む。

 お金があれば、女の子にモテル。第一会社に就職できたとしてもそこがブラック企業だったら、それだけで人生詰みじゃん。

 まさに俺の暗い彼女いない歴22年の人生に訪れた望外の幸運、この幸運に乗らない手はない。


 「それで、皇子様、いや陛下、閣下、主上、殿下、なんなりとお申し付けください、不肖この日下(くさか)()日人(ひと)、殿下の為に誠心誠意尽くす所存であります。まず、何をやればいいでありますか。」


 今の俺は尻尾をぶんぶん振る忠犬状態だった。ハチ公って呼んでくれてもいい。


 「まったく、現金なヤツだ、まあ、この場合褒美が現金なのでそれはそれでいいか」


 皇子を名乗る声は呆れ気味だったのは仕方がない。


 「では、さっそく初めても構わないな、魂交換の魔術の発動には双方で同じ呪文を詠唱しなければならないが、さほど難しいものでもない」


 そういえば明日面接があるがそんなもんは行かないに決まっている。

 だってチンケな年商20億くらいの中小企業だ。

 一刻も早く魂交換をすれば一週間後には夢のパラダイス生活が待っている。


 しかし、後になってよく考えたら、数億人に一人しか交信できないって言っていたくせに、望外の富の術式で億万長者になった人が35人なんて絶対におかしかった。

 しかし、その時は何ていうかな、金に目がくらんだ俺には矛盾点に気が付かなかったって、仕方ないよね。

 そしてその決断が俺のハチャメチャ人生の始まりだったことは神ならぬ身たるこの俺自身知る由もなかったことは言うまでもないことだった。


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