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11.瑠璃姫と一緒に旅に出る

ノード神話  「神々の黄昏の章」より

 大いなる滅びの時は神々が気が付かぬうちに忍び足のように近づいていた。

 地球を滅ぼす滅器以上の滅器は破滅器と呼ばれ、それ自体が生命体のように独自の理論で考えることができた。

 しかし、その理論とは破滅器の創造者である「母なる夜」党から生まれ出たものだった。

 かくして物質も光もない世界を破滅器は目指そうとした。






 結局、瑠璃姫は俺たちに同行することになった。

 理由は瑠璃姫キューブが消滅した今、キューブがコントロールをしていたこの地が崩壊するのは時間の問題だったからだ。

 この禁域が崩壊すると、瑠璃姫がこれまで守護していた太古の神々の武器が危険な状態になるのではとの疑問も、既に1000年ぐらい前に滅器の呪いはほとんど無力化しているから大丈夫だとのこと。

 つまり瑠璃姫は住むところがなくなる身寄りのない、見た目は5歳くらいの人間の少女ということになる。

 とは言っても、阿形卿と吽形卿は瑠璃姫がなにやらいじっただけで機能停止状態から起動が始まった。

 ただ、その復活する時に阿形卿から「リブート・・・オープンシステム・・・・バイオスからスタート」との声が聞こえたのは不思議だった。

 だって、その言葉はこの世界の言葉ではなく、英語のように思えたからだ。

 確かバイオスって、パソコン立ち上げた時に最初に起動するアレだよな。

 やっぱり、こいつらロボットだったんだ。

 ひょっとして地球の技術の一部が取り入れられているのだろうか。

 だが、俺の疑問はそこまでだった。


「不審じゃ。阿形卿と吽形卿が完全に起動しない」


瑠璃姫が困惑気味に言った。

二体のロボットの体内からはカチャカチャというおとが聞こえるが、その起動が途中で止まってしまうようだった。

瑠璃姫は何度も再起動をかけたが、いずれも途中で起動がストップしてしまう。


「どうやら別のシステムを接続して起動しなければならないようじゃのう」


しばらくして瑠璃姫が宣言した。

 瑠璃姫の言葉によると、この阿形卿と吽形卿はたった1人で一個軍団を滅ぼすことができるだけの戦闘力を持っているそうだから、この二体が起動しないとなると俺たちの戦闘力は大幅に減少することになるのだろう。

 まあ、俺たちには神器があるから困ることはないとは思うが。


 「そういえば瘴気、瘴気は大丈夫でしょうか」


 ふと思い出してステローペが瑠璃姫に尋ねる。


 「ああ、大丈夫。お前たちに神器を渡したところで瘴気の影響はすべて取り除いておいたぞよ」


 こともなげに涼しげな顔で答える瑠璃姫に俺たち3人はずっこけるところだった。

 ここに長居するわけにはいかない。

 なんでもここの空間を制御している力場なんちゃらが停止すると瑠璃姫の居室も地下の瑠璃姫キューブのいる空間もつぶれてしまうというのだから、俺たちは早々にここを旅立つことにしたのだ。

 俺たちは早速旅装を整える。

 幸いにもエリスの軍に発見されたときに置き去りにした農耕馬は魔獣にも襲われずに無事だった。

 ステローペにとてもよく懐いていたようで、辛抱強く俺たちが戻るのを待ってくれていたようだ。

 そんなわけで旅に必要な色々な品物が手元に戻ってきたのはうれしい誤算だった。

 コングーナーで取り戻せたかもしれないけどな。

 瑠璃姫は楽しげに旅の準備をしている。

 見ているといろいろな品物を無造作に手に持ったバックに詰め込んでいる。

 詰め込んでいる。

 ・・・・詰め込んでいるって、おい、なんでそんなに入るんだよ。

 それこそ何十個もバックに入れているのに、バックはもとのぺちゃんこのままなのだ。

 さすがに呆れたようにエリスが尋ねた。


 「瑠璃姫様、そのバック、いくら入れても全然膨らみませぬが・・・」

 「ああこれか? これはオ・ブローキシという名前で、疑似亜空間に色々なものを収納しておける。例えば阿形卿と吽形卿もじゃ」


 瑠璃姫はそう言うと袋を機能停止状態の阿形卿にかぶせた。

 結果は、見事に阿形卿が跡形もなく袋の中に掻き消えたことになる。

 瑠璃姫はそうして次に吽形卿も袋の中にしまい込んだ。


 「すっごーい、凄過ぎます瑠璃姫様」


 ステローベなどは手をたたき感心することしきりだった。


 「このオ・ブローキシの中に入れた品物は疑似亜空間に置かれるので時間経過がゼロになりおる。つまり入れた時の状態そのままじゃ。そしてわらわが念じるといつでも取り出すことができるのじゃ。こようにのう」


 次の瞬間に瑠璃姫の前には阿形卿と吽形卿が虚空から湧き出すかのように現れた。


 「これは凄い。もう笑うしかないぐらい凄い」


 すでに神器を授かり、その凄さを身に染みて理解しているはずの俺たちも、新たなオ・プローキシの能力をまざまざと見せつけられて声も出ないくらいだった。


 「ところでその壊れたロボットも持っていくのか?」

 「我が婿殿、阿形卿と吽形卿はロボットではないぞよ。金属生命体じゃ。それにこれまでわらわによく仕えてくれたのでな。意識を起動させる設備がある場所に持っていき復活させるまでじゃ」

 「意識を起動って・・・その場所は近いのか?」

 「いいや、この二人を復活できるのは神使族の居住する地じゃが、力を貸してくれるかどうかは分からぬ。なにせわらわには調律使破壊の悪行が全神使族界に発信されておるのでな」


 どうやら調律使は破壊される寸前にイタチの最後っ屁よろしく犯人は瑠璃姫と発信したようだった。

 なかなかやるな、調律使。

 だが、そのような話をしているうちに瑠璃姫のほうは準備が終わったようだった。


 「うん、よし、これで準備は整った。楽しみじゃ。この足で旅をするのは初めてじゃからな」

 「そ、そうですか。でも旅は必ずしも楽ではありませんぞ」


 確かに神使族とはいえ今は生身の人間の瑠璃姫、しかも5歳程度の女の子の体では相当にきついことと思われた。


 「ところでエリス、お前とはここで別れることになる。この地を脱出するときに開放するという約束だからな」


 トドムラ隊長がエリスに言った。


 「いや、私は瑠璃姫に従う。さきほど瑠璃姫の臣下にしてもらった」


 これには俺とトドムラがエエッと驚く場面だった。

 いや、本当はもう驚き疲れてはいたのだが。

 慌てて瑠璃姫を見るとこちらも相変わらず涼しげな顔だ。

 そういえば先ほど二人でヒソヒソと話していたようだったけど、あれがそうだったのか。


 「うむ、そうじゃ。この姿での生活の仕方はよくわからないこともあるのでのう。教えてもらうためにエリスに臣下になってもらったのじゃ」

 「いや、でもですね。我々は戦争状態で、これから行くところは帝国の地方部隊がいる駐屯地で、そこに魔物を連れ込むことはとてもまずくて・・・」


 トドムラがしどろもどろになって説明する。

 しかし瑠璃姫は意に介さなかった。


 「わらわは人間も魔物もどちらの味方もせぬぞ。両方とも神々の創造物じゃからな。両者がどうしても戦うというのなら、わらわが調停するまでじゃ」


 瑠璃姫はそう言って顔をゆがませニタァーっとワルそうな笑みを浮かべた。

 瑠璃姫の調停がどのようなものなのかわからなかったが、その表情からは相当に苛酷であることは想像に難くなかった。


 「ですが、それでは帝国の再建が・・・」


 なおも食い下がろうとするトドムラに俺は言った。


 「トドムラ、俺も瑠璃姫の考えに賛成だ。人間と魔物が争うような帝国など、俺は再建したくない」

 「えっ、それでは皇帝陛下の無念は晴らせませんぞ。殿下、どうかお考え直しを」

 「トドムラ、人間と魔物の抗争が何千年何万年続いていようとも、同じ神々から生まれた兄弟だ。同じ言葉を話し同じ惑星に住んでいる。人間と魔物の違いなど人種の違いと同じことだ。互いに憎しみ合い人間というだけで、または魔物というだけで頭からその存在を拒否するのは間違っているぞ」

 「しかし・・・・」


 トドムラはなおも反論しようとしたがその言葉を押しとどめたようだった。

 まあ、この手のアパルトヘイトは根強いものがあるからな。俺の言葉だけでそうですかと納得するとは思えなかった。


 「では、南の砦の友軍と合流する計画はなしですか」


 トドムラが尚も残念そうに言う。


 「まて、それはナムール砦のことか」


 エリスがトドムラに尋ねた。

 トドムラはしまったという顔付をする。


 「残念ながらナムール砦は3日前に我が軍・・・・いや、大ニザール魔王国軍の攻撃を受けて陥落した。残存軍は全滅したと聞く」


 その言葉を聞くやトドムラはステローベに命じた。


 「そうだ、アルゴスならナムール砦の様子を見られる。ステローペ、アルゴスでナムール砦を見てくれ。どうなっている」

 「はい、今見ています」


 ステローベのアルゴスの目が開き、1000ゲール(およそ1000キロ)先までも見通せる緑色の美しい瞳が一点を凝視する。


 「ああ、破壊されています。相当な高熱で砦が溶かされ・・・守る兵士は・・絶命・・・いません」

 「・・・そうか」


 がっくりと膝をつくトドムラだった。


 「どうやら行くところがなくなったみたいじゃな。だったらどうじゃ、この先の山の中にわらわを祀る小さな村がある。この禁域もあと数時間で崩壊が始まることもあり、まずはその村に行って今後の身の振り方でも考えてはどうじゃろうか」


 瑠璃姫がそう提案してきた。

 トドムラ隊長は最初の思惑が見事に打ち砕かれたこともあり、どうぞご自由にとかなんとか口の中でぶつぶつ言っている。

   


 そんな訳で、俺たちは瑠璃姫が祭祀されているという村に向けて旅立った。

 一応、俺たちの身分は中堅都市シーケの織物問屋の若旦那で、トドムラがその番頭、ステローペが護衛で大ニザール魔王国との戦乱から逃げているという設定にした。瑠璃姫は俺の姪っ子だ。

 先頭にステローペ、次にエリスが続き、その後に俺に轡を取られて農耕馬が続く。

 農耕馬の上には瑠璃姫がちょこんと乗っかっている。

 そしてしんがりはトドムラ隊長だ。

 最初は歩くことを主張した瑠璃姫であったが、さすがに5キロも歩くと目に見えてスピードが遅くなってきた。

 そのため俺が瑠璃姫を抱えて馬の背中に乗せたのだ。

 目下のところ注意しなければならないのは魔物軍に発見されること。

 大体はステローペのアルゴスが事前に発見して、隠れるなり別のルートを使ってやり過ごすなりしているのだが、高速で飛んでいる飛龍だけはあっという間に近づいてくるので隠れるのに間に合わない可能性があった。

 瑠璃姫の指示する道は段々と森林の中に入ってくる。

 それは飛龍に対して十分な遮蔽効果発揮することになるが、逆に小型の獣や魔物の姿も分かりにくくする。

 ステローベは森の獣の多さに、探査の対象を大型の獣や魔獣に限定せざるを得なかった。


 「500ミゲール(およそ500メートル)先に魔狼の群れ12頭、こちらに気づき接近してきます」


 前方からステローベが後退し報告してくる。


 「全員戦闘準備、前列は私とトドムラ、皇子は瑠璃姫様の護衛を、ステローベは弓で支援」


 手慣れた様子でエリスが指示をする。


 「な、何で俺がエリスに指示されなきゃならんのだ」


 その配置が一番合理的だからなのか、ブツブツ言いながらも、エリスの横に並ぶトドムラだった。


瑠璃姫は本拠地を放棄せざるを得なくなりました。この後、一行の旅の行方に待ち構えるのは不運か、それとも幸運か。

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