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8.調律使退治

  ノード神話 「反旗を翻す者の誕生の章」より

 ヴォルテルは「神々に逆らいし永遠の罪人」と呼ばれ、全世界に捕縛使が神々により使わされた。

 しかし、ヴォルテルは神々の一柱を騙し、すべての捜索から身を隠すことのできる神器ナマークを手に入れることに成功した。

 その騙された神は後に失態を他の神々に糾弾され、未来永劫まで石像に変えられてしまうこととなった。





「はあーーーーーー」


 俺はとぼとぼと3人の後をついて行きながら何度目かの溜息をついた。


 「はぁーーーーー、何でだよ、何てついていないんだ・・・・」

 「うざいぞキャサール、そんな辛気臭い溜息をつくな。こっちまで辛気臭くなってしまう」


 俺を頭ごなしに叱責したのは無敵の盾アイギスを装着して意気揚々と歩いているエリス団長だった。


 「エリス、貴様、殿下に対してなんて口のきき方をするのだ。無礼だぞ」

 「無礼がどうだというのだ。滅びた帝国の廃皇子風情に礼儀など必要なかろう」


 今度はトドムラ隊長とエリス団長が口論を始めた。


 「やめてください、お二人とも、今から仲間割れでは敵の神使族に勝てないじゃないですか。相手はすっごーく強いんですよ。瑠璃姫様もおっしゃっていたじゃないですか。チームワークがなければ勝利はおぼつかないと」


 ステローペの声が2人に間に割り込んでくる。

 あー、いい娘だなあ、ステローペって。

 でもステローペはそのあとにグサリとくる言葉をつづけた。


 「どうか、エリス様もあまり殿下を刺激しないでいただけますか。殿下はめちゃくちゃしょぼい神器を引き当て落ち込んでいるんですから。」


 しょぼい言うなーーーーー

 ・・・でもしょぼいと思ったのは事実だった。

 だって、あれだぜ。俺の神器。

 コングーナーってえ名前で、まあ、神器自体の見た目も名前もかっこいいんだけどね。

 でも、失ったものを取り戻す能力を持った神器って、調律使退治の場でそれはないでしょ。

 ええ、ええ、確かに俺はこれまでの人生の中でいろいろ失いましたよ。好きな娘への愛の告白で一発で失恋したとか以外で一番痛かったのは、小銭も入れて2万円入りのサイフを落としたことかな。

 でも、愛や失くしたサイフを取り戻したからって、調律使退治に役に立つわけないし、どーしろというのでせう。2万円あげるから、退治されちゃってと頼めとでも言うのでせうか。もう意味わかんねーし。

 茫然自失、意気消沈して3人についていく俺であったが、トドムラ隊長とステローペは俺が調律使との戦いに直接参加しなくてよくなったとむしろ喜んでいる風であった。


 「私の本体が設置されている部屋に到着した」


 俺たちを案内してきたのは小さなハエほどのサイズの飛行物体だった。そこから瑠璃姫の声が聞こえる。

 なんでも瑠璃姫も阿形・吽形卿も調律使のサボの影響をモロに受けるので近寄ることもできないらしい。そのため、影響の少ない瑠璃姫曰くレトロなテクノロジーのモニター用飛行虫で俺たちをサポートすることになったのだ。

 案内された部屋は部屋という概念からまったく逸脱していた。

 そこは岩山の地下あることなどまったく想像もできないようなどこまでも続く真っ白な空間だった。

 そして感覚にして20メートルくらい先にこれまた白い1メートル四方の立方体が置かれていた。

 ただ、その立方体に取りついてるものが問題だった。

 それは巨大な2匹の蜘蛛のようだった。

 いや、何というか蜘蛛とゴキブリの中間のような存在のように見えた。

 その2匹の蜘蛛ゴキブリの体から無数の触手がウネウネとうごめきながら立方体にその触手を突き立てている。

 その触手の突き立て方が半端ではなく、変質者の持つ狂気すら感じさせる執拗さだった。

 立方体は本来は真っ白だったのだろうけど、その触手のあたっているところは内出血しているかのように青黒く変色している。


 「あれが、あの白い四角いのが瑠璃姫様の本体なのですか」


エリス団長がモニター虫に尋ねた。


 「そうじゃ。そしてあの2匹の巨大な虫が調律使。すでにわらわの10段階の防御システムのうち8段階までが突破。このままの進捗ではあと10刻程度で最終防御が突破され、わらわの自意識が削除されることになる」


 瑠璃姫の声は平静だった。いや、平静そうに聞こえた。


 「ステローペ、あの虫たちを透視してくれ。何か弱点になりそうな部分はないか」

 トドムラ隊長がステローペに指示を出した。

 「はい、了解しました。アルゴスよ開け」


 ステローペが唱えると彼女の左目のアイパッチに突如美しい緑の目が出現した。


 「構造は・・・何だか阿形卿さん達を透視した時に見たものと似ています。外骨格は金属製、外骨格の下に柔らかそうな流動体があります。」 

 「それは金属流動体。外骨格を破ることができてもすぐにその金属流動体が穴をふさぎ、外骨格に変化する」


 すかさずモニター虫から瑠璃姫の声が聞こえた。


 「ステローペ、弱点は、口とか目とか開口部らしきものは見えるか」

 「いえ、開口部らしきものは・・・・ありません、全体が滑らかで継ひとつないくせに自在に足などが曲がるようです」


 要するに金属体のくせに曲がりやすく、弱点らしき部分もない。こいつは砂蛇よりもはるかに厄介な相手のようだった。


 「触手は、触手の根元はどうなっている。外骨格が薄い部分はないのか」

 「はい、腹部が少し薄い気がしますが、金属の厚さはあまり変わらないようです」


 つまり、俺たちの持っている剣では貫くことは難しいということか。

 俺たちはどうしようかとお互いの顔を見合わせた。

 と、その時だった。


 「調律使が、調律使が一匹こちらに向かってきます」


 ステローペの緊張した声が響いた。

 本来は神使族なので一柱とするのがいいのだろうが、調律使の姿はどう見ても匹で数えるのが妥当と思えた。

 見ると、蜘蛛ゴキブリの一匹が立方体に突き立てていた触手を抜き、こちらに向かってきている。

 その動きが何だかカサカサという音を伴っている気がしているのは俺だけだろうか。


 「チッ、うざい。気が付かれたか」


 エリス団長がいまいましげに舌打ちをする。

 調律使は数メールと手前で止まると体中から生えている100本以上の黒くて細い触手をざわざわとうごめかせている。

 その様は何だか、ウニのようにも見えてきた。平べったいウニ蜘蛛ゴキブリ。


 「こちらを観察しているようです。私たちが敵性かどうかを探っていると思われます」


 ステローペの緊張した鈴のような声が警告する。


 「注意せよ。調律使は触手を槍のように突き刺すのじゃ」


 モニター虫の瑠璃姫の警告と同時にエリス団長が叫んだ。


 「アイギス、我らを守れ!」


それは戦場で培われた予感のようなものだったのだろう。エリス団長がアイギスの防御を展開したとたんに、調律使の100本以上の触手が目にもとまらぬスピードで俺たちに襲い掛かったのだ。

 アイギスの防御は完ぺきだった。

 調律使の鋭い触手は、俺達の周りに展開された無敵のバリヤーにより、カキーンという音とともにすべて弾かれたのだから。

 しかし、おぞましい蜘蛛ゴキブリ野郎はバリヤーに弾かれても、何度も何度も執拗に鋭い触手を突き刺そうとしてくる。

 いくらアイギスの力で触手が貫通しないと分かっていても、あまり気持ちのいいものではなかった。


 「殿下は一番後ろに下がっていてください」


 トドムラ隊長が俺に指示をする。

 やっぱ、俺って邪魔者なのね。ロクな神器持っていないし。


 「ステローペ、本当に弱点らしきものはないのか。あいつの体の中で、何か重要な器官が収まっていそうなところはないのか」


 トドムラ隊長が再度ステローペに指示を飛ばす。

 その指示に従い、ステローペのアルゴスがひときわ光った。


 「は、はい、えっと、お腹の真ん中より下、地面に近い部分に何かいろいろ集まっているようなところがあります。大きさは人の頭くらい。でも金属の外骨格に囲まれているため、貫くのは難しそうです」

 「まて、我らの武器で外骨格を貫けないか試してみる価値はあるぞ」


 そう言ったのはエリス団長だった。

 そしてトドムラ隊長の剣より複製した木剣を腰から抜き放つと調律使めがけ跳躍した。


 「キーン」


 不気味な金属音が鳴り響く。

 エリス団長が調律使に肉薄し、瞬間的にアイギスを解除しながら渾身の力を込めて木剣を突き立てたのだ。

 しかし、その木剣は調律使を貫くどころか、エリスは体ごと弾き飛ばされてしまった。

 だが、さすがに歴戦の騎士とたたえられたエリス団長は地面に転がることなく、スタンッと自分の足で着地した。

 そのエリス団長めがけて無数の触手が高速で伸びてきた。


 「アイギスよ、我らを守れ」


 エリス団長は一度解除したアイギスの防御展開を忘れなかった。触手はエリス団長の手前で空しくはじき返されてしまう。


 「むう、うざい。やはり相当に強力な装甲だ。人間界の木剣ごときでは到底貫けないようだ。」


 エリス団長が歯ぎしりをしながら悔しがる。


 「瑠璃姫様、あいつの弱点は、やっつける方法はあるのですか」


 トドムラ隊長がモニター虫に問いかけた。


 「その知識はプロテクトがかけられているぞよ。そのため伝達不可能じゃ」


 ぞよって、つれない返事だった。

 気が付けば調律使のトゲトゲ触手の攻撃はいつの間にか止んでいた。

 どうやらアイギスに守られた俺達には無駄な攻撃であると判断したようだった。

 だが、調律使は決してあきらめたわけではなかった。


 「見てください、調律使の体が変化しています」


 ステローペが指摘したように、調律使の無数の触手と足がどんどん体内に取り込まれ、やがて真黒な楕円形の塊と化した。


 「なにをしようというのだ」


 トドムラ隊長がつぶやいた途端、その真黒な塊はガバッと俺たちに覆いかぶさってきたのだ。


 「キャッ」


 思わずもれたようなその短い悲鳴は紛れもなくステローペのものだった。

 そりゃあそうだろう。いきなり視界が真っ暗になってしまったのだから。

 それも一寸先も分からぬ暗黒の闇だった。

 調律使が風呂敷みたいに薄く広がりながら覆いかぶさるところを見ていなかったら、確実に自分が即死したのだと思い込むところだった。


 「まて、今光を・・・確か灯火魔具があったはず・・・」


 トドムラ隊長がなにやらゴソゴソ自分のポシェットを探し回る音がする。

 やがて柔らかな光が俺たち全員を照らし出した。


 「どうやら調律使のヤツ、我らをアイギスの守りごと飲み込んだようだな」


 エリスがアイギスのバリヤーの境界を触りながら言った。

 魔道具の光に照らされた境界には何やらゆっくりと流動するヌメヌメとしたものが全体を覆っていた。

 そして不気味なことにアイギスの力場はギシッ、ギシッという嫌な音を立てているのだ。

 それは調律使が渾身の力を込めて力場を締め上げている音だった。

 その音は聞いているだけで神経に食い込み、ささくれ立たせるような効果を俺たちに与えた。

 まずい、この音は耐えきれない。


 「瑠璃姫、これを防ぐ方法はあるか」


 俺はギシギシと鳴る音に負けじと瑠璃姫の声を中継するモニター虫に半分怒鳴るように聞いた。

 ・・・・・

 しかし、モニター虫から瑠璃姫の声が聞こえることはなかった。


 「瑠璃姫、瑠璃姫」

 「瑠璃姫様、どこに」


 俺たちは半分うろたえ気味に返事がない瑠璃姫のモニター虫を探し回った。


 「あっ、ここに・・・でも動かない」


 モニター虫を真っ先に見つけたのはやはりステローペだった。

 そっとそのモニター虫を摘み上げて掌に載せる。しかしモニター虫は壊れてしまったのかピクリとも動かない。

 翅も取れかかっているように変な角度に曲がっていた。

 俺はそれを一目見てモニター虫が瑠璃姫と接続されていないことを感じた。


 「くそ、リンクが切れたか。この調律使に飲み込まれたのが原因だ。調律使の体がきっと電波を遮断するんだ」


 俺の言葉に全員が不可解そうな顔を向けた。

 そーか、電波なんてこのファンタジー世界じゃあ分かる訳ないよな。

 だが、もうモニター虫から二度と瑠璃姫の声が発せられないことは全員が理解したようだった。


 「ここにきて瑠璃姫様の助言がいただけなくなったのはまずいですな」


 トドムラ隊長がため息交じりにつぶやいた。

 そーだよな。ドドムラが言う通り、とても瑠璃姫の助言がなければこの調律使を倒せる気がしない。

 俺たち全員が気まずそうに黙り込んでしまった。


 「あっ、く、空気」


 突如声を上げたのはステローペだった。


 「アルゴスがわたしに教えてくれています。ここは密閉された空間で、あと二刻程度で空気が汚れ、全員の命が危ないと」


 ええっ、このままでは全員窒息死かよ。


 「そうか、ヤツの狙いはそういうことだったのか、まずい、状況はまずいですぞ殿下」

 「うざい、この嫌な音といい、窒息させることといい、こんな戦いをするとはうざいやつだ」


 うざいと言ったのは言わずもがなのエリス団長だった。

 アイギスを破れないから窒息死させようとは、調律使もさすがに神使族のはしくれだけあって、効果的な嫌な手を使ってくる。


 「どうしよう、このままみんな息が詰まって死ぬしかないのかな、この神経を逆なでする音も嫌だし、それに何だか息苦しくなってきた気がします」


 あたりが暗い閉鎖された空間ということもあるのだろう。調律使が力場を締め上げる音と合わせてステローペがパニックになりかけているのが分かった。

 なんとかして落ち着かせなきゃ。

 俺は両手を上げ、頭に浮かんだことを口にした。


 「ちょ、ちょっと待て、一度問題を整理しよう。皆で考えればここを脱出する方法が思いつくかもしれない」

 「考えるって何を考えるのだ。状況は刻一刻と悪くなるばかりだ。この音ももう耐えきれん。アイギスを解除して体内から剣で調律使の体を切り開くぞ」


 エリス団長が即座に反論した。


 「ちょっ、ちょっと待ってエリス、アイギスの解除はもう少し待って」


 このままアイギスを解除するのはものすごく嫌な感じがした。何か、何かほかに手だてがあるはずだ。

 今はあわてず冷静になっていい方法を考えるべきだと俺の勘がそう告げていた。


 「いいかい、問題点を整理するよ。まず、瑠璃姫とは連絡が切れたままでこのまま通信が復旧する見込みはないこと。強力な守備を持ったアイギスの力だけど、こんなに締め上げられていつまでも持つとは思えないこと。それから空気が尽きて俺たちは窒息死する可能性があること。ここまではいいかな」


 とにかく、喋ればいくらステローペも落ち着いてくれるだろう。

 俺はそう思った。


 「ここまででみんなは何か気が付いたことはないだろうか」


 俺は全員の顔をぐるりと見渡した。

 薄暗い灯火魔具の頼りない光と神経をすり減らすような嫌な音の中で、全員が不安そうに俺を見ている。

 先ほどはパニックになりかけていたステローペも、力場を締め上げる音を防ぐために耳を両手で覆いながらも俺の話を聞いている。

 俺は言葉を続けた。


 「それから、俺たちの神器はまず。どのような攻撃も防ぐアイギス、敵の状況を調べられるアルゴス、食料や武器などを無限にコピーできるグロッディ、そして失われたものを取り戻せるコングナー、これらの使い方は簡単な説明を受けただけだから、ひょっとしたら調律使攻撃に使える機能が他にあるかもしれない」


 喋っているうちに俺にはこの神器の使い方が窮地を凌ぐカギだという確信が湧いてきた。

 その確信はおっちょこちょいの俺にしては珍しく絶対的に正しいという確信だった。

 その時、トドムラ隊長がハッとしたように言った。


 「そうだ、エリス。アイギスの力場をもっと極限まで膨らませられないだろうか。中から膨らませて調律使を破裂させるんだ」


 そうだ、その手があった。

 アイギスの力ならば、あるいはいけるかもしれなかった。


 「うむ、なるほど、やってみる価値はありそうだな」


 エリス団長は大きくうなずくとアイギスに命令を下した。


 「アイギスよ、大きく膨らめ」


 ・・・・・

 ・・・・・

 しかし、何も起きなかった。

 いくら待っても俺たちを囲む力場が大きくなる兆しはまるでなかった。


 「ダメか、くそっ、アイギス、でかくなれ」


 エリス団長は何度か言葉の言い回しを変えたが、それでもアイギスの力場の大きさは変化しそうになかった。


 「だめだ、調律使の締め上げる力が強いのかアイギスの力場を拡大できない」


 どんだけ強いんだよ調律使は。さすが神使族のはしくれだけのことはある。

 しかし、せっかくのトドムラ隊長のアイデアだったが残念なことに有効打を与えることができないのは認めざるを得なかった。


 「くそ、やはり内部から剣で切り開くしかないのか」


 せっかちなエリス団長は今にもアイギスを解除して攻撃に移らんと腰の木剣を抜き放った。

 しかし、アイギスを解除した途端にそれこそ蚊をつぶすように俺たちがパチンとつぶされるのは明白だった。


 「あっ、そう言えば」


 ステローペが何かに気付いたように声を出した。

 今は藁にもすがる思いの時、全員の視線がステローペに集まる。


 「あっ、いえ、あの、大したことではないかもしれませんけれど」


 全員に見つめられてステローペが躊躇しながらしゃべりだす。


 「瑠璃姫様は4人の神器の力をうまく合わせれば理想的な軍事力になるとおっしゃいました。軍事力で重要なのは斥候・補給・守備・攻撃です。あのう、わたし考えたんですけれど、私のアルゴスは斥候、トドムラ隊長のグロッディは補給、エリス団長のアイギスは防御にあたります。それならば攻撃にあたる神器はどれでしょうか」


 ステローペの言葉が全員に徐々に染み渡るにつれ、その視線が俺に集まる。


 「へっ、俺?」


なんとも間抜けな声を出してしまった。


 「なるほど、ステローペの指摘した通り、殿下のコングナーがその攻撃を司る神器に当たるかもしれませんな」


 トドムラ隊長はいまだに半信半疑の面持ちで俺を見る。

 それはステローペもエリスも同じだった。まったく同じジト目でこちらを見ている。


 「だって、でも、コングナーって俺が失ったものを取り戻すだけの力しか持っていないんだぞ、そんなものがどうやって攻撃に使えるのか・・・」


 俺はみんなの顔を見ながら言い訳をするかのように言った。

 しかし、そう言いながらも俺の直観はこのコングナーが起死回生の鍵であることを告げていた。

 でもどうやったらいいのだろうか。

 先ほど、瑠璃姫の部屋で運命の操舵から転げ出たコングナーと呼ばれた40センチほどの長さの彫刻が施された杖を手に持ち、高校の時に捨てた古い携帯電話を召喚することに成功している。しかし、携帯電話や昔落とした財布はどうやったら攻撃に使えるのだろうか。


 「殿下、昔失くしたもので強力な武器はありませんか」


 トドムラ隊長が聞いてくるが、そんなの無理。俺は一介の平和国家日本で生まれ育った元大学生だ。包丁位なら持ったことがあるが、拳銃のような武器は生まれてこの方一度も手にしたこともない。ましてやこの危機を乗り切るのに必要なのは拳銃レベルではなく、30ミリガトリング砲やHOT対戦車ミサイルだろう。それだって効果のほどは怪しいものだ。

 失われたものを取り戻す力。

 まてよ、じっくり考えろ俺。

 さっき、携帯電話を取り戻したとき、どうやって出現した。

 杖の先を適当に構えて「コングーナーよ、失われし携帯電話を呼び戻せ」と唱えたら、杖が青白く光り、そしてその先1メートルくらいのところに忽然と出現してポトリと床に落ちたではないか。

 何もない空間に物質を出現させる。

 テレポートみたいな能力。

 俺は顔をガバッと上げた。

 いける、いけるかもしれない。


 「ステローペ、さっき透視した調律使の体の中で何かごちゃごちゃと集まっている脳みたいな部分はどこにある!」


 俺はステローペに怒鳴るように尋ねた。


 「は、はい、その後ろの部分です。そこに何か色々と集まっている部分が」


 ステローペはアイギスの力場にさえぎられた一点を指さした。


 「ここ、ここだな」


 俺はステローペが指さした場所に近づき詳細に場所を確認する。

 そのアイギスの力場で遮断された部分は他の部分とまったく同じに見えた。力場の透明な壁に沿って流動する黒い半液体のものが禍々しく蠕動している。


 「そこです。その境界から殿下の腕一つ分の先に中心部らしき塊があります」


 そこを見るステローペのアルゴスの目は緑色に光っていた。

 俺は大きく息を吸った。

 頼む、俺の予感が正しければ、これで調律使を機能不全に陥らせることができるかもしれない。

 俺は杖をステローペが指示した一点に向けて言った。


 「コングーナーよ、失われしヤッチャウンジャー赤のフィギュアを呼び戻せ」


 ・・・・・

 ・・・・・

 俺にとっては長い時間が過ぎたと思った。しかし、後でトドムラ隊長に言わせるとそれほど時間がかからなかったという。

 いきなり、真っ暗だった空間が高速シャッターが開いたかのように収縮し、真っ白な光があふれかえったのだ。

 いや、正しく言うとアイギスの力場が一気に拡大し、それを覆っていた調律使の体が四散五裂に弾け飛んだのだった。


 「な、何が起きた」


 エリスが久々の光のまぶしさに目を覆いながらあたりを見回す。

 あちらこちらに調律使のものと思われる真黒な破片か散乱し、中にはまだ生きているのだろうか、チリチリと動いているものもある。しかしその動きも徐々になくなってきていた。


 「コングーナーで調律使の脳髄に異物を送り込んだんだ」


 俺は目論見が成功したことに安堵し、思わずへたへたと座り込んでしまった。


 「そうか、それでアイギスの締め付けがなくなり、先ほど命令した力場の拡大をしたのか」


 エリス団長は感心したように俺を見た。

 エリスの俺を見る目つきが和らいだのって、初めてじゃね。


 「殿下、お見事ですぞ」

 「殿下、すごーい、よくこんな方法思いつきましたね」


 二人の賞賛におれは思わずデレる。

 子供の頃にガキ大将に巻き上げられてしまったヤッチャウンジャーの超合金合体フィギュア。それが俺の起死回生策だった。

   


一生懸命書いています。評価、ぜひお願いします。

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