始まりのロンド
王道ものを読みたい! という仲間の要望に応えて書いてみました。
しっかしホントに王道になるのか……?
処女作みたいなものなので誤字・脱字・語彙の少なさなどはご勘弁下さい。
チュン、チュン、チュン……………。
鳥のさえずりと心地よい朝日に包まれながら、俺はゆっくりと上体を起こした。
窓の外を覗くと、真っ青と言っていいほど綺麗に晴れた空が目に入る。
「うわ、まぶし……」
陽光を片手で遮ながら、のそのそと布団から出る。
パジャマを脱ぎ、紺色のTシャツを着た。
椅子にかけてあった外套をはおり、居間へ出る。
食卓の傍にある椅子に座る。
「おはよう、母さん」
「はい、おはよう、レンジ。今日は珍しく早いわね。やっぱり大事な日だからかしら?」
「うん、まあ」
母が朝食を載せたお皿を俺の前に置いた。
ハムエッグに、サラダ。それとパンだ。
俺は朝はシンプルが一番良いと思ってる。
シンプル・イズ・ベストである。
今日は王より外へ旅に出る許可を授かる日である。
16歳となった少年少女が、未知なる世界へ羽ばたく日なのである。
ちょうど、今日で俺も16歳。
新たな世界に胸を躍らせている青春真っ盛りの青年だ。
名前は、レンジ・アルドーラ。
勉強はそこそこだが、運動神経は抜群らしい。
体育の先生によればの話だが。
50年前、突如として世界の各地に魔王が出現した。
彼らは人類が恐れていたようにすぐに侵略を始めるのではなく、まず自らの領地を治めた。
彼らの支配する場所は様々で、熱気の激しい火山のド真ん中に鎮座する魔王もいれば、雪で覆われた眩き銀世界に根を下ろしている魔王もいる。
だが、彼らは人間とは決して相容れてはいない。
この50年間、本格的な戦争こそなかったものの、各地で小規模の戦闘は起きている。
ここ数年はあまり大きな動きはないらしいが。
この街は、地下に広がる壮大なダンジョンから得た豊富な資源によって栄えている、中堅国だ。
富や名声を求め、また自らの技量をはかるため、各地からダンジョンへと潜ろうとこの街へ来る冒険者は少なくない。
勿論、ダンジョンである以上、危険はつき物だ。
このダンジョンの最下層(まだ誰も到達したことは無いらしい)には、魔王がいるという話もある。
しかし、それらを上回る魅力が、このダンジョンには存在する。
そこに果敢に挑む冒険者のおかげで、この街は成り立っているのである。
俺の夢は、その未踏地、ダンジョンの最下層まで攻略することだ。
「ちょっと、レンジ。もうすこしゆっくり食べなさい」
「はふ、はぐはぐ!」
「何言ってるのか分からないわよ」
母さんは苦笑いを浮かべて、微笑ましそうにこちらを見ている。
「そっかあ……レンジももう16歳かあ」
「うん、やっとダンジョンに入れるよ」
「嬉しいのは分かるけど……怪我はしないでね?」
「ああ。それじゃあ母さん、行ってくるよ!」
食器を置き、駆け足で家を出る。
王の城は、街のど真ん中に存在する。
街のどこからでも見える、大きく聳え立つ立派な城だ。
城門の前まで来ると、警備の兵士に声をかけられた。
「やあ、君がレンジ君かい?」
「は、はい、そうです」
「もう一人はもう来てるよ。ここを真っ直ぐ行けば王の間に着くから、そこまで行ってね」
「はい、ありがとうございます」
兵士の指示通りに真っ直ぐ城内を歩く。
すぐに、大きく開いた空間へ出た。
中央の玉座に座っている、髭の長い人が王なのだろう。
王の前にいるやつが俺のほかに今日誕生日のやつだろうか。
女の子だ。
足を進めていると、王に声をかけられた。
「君がレンジだな。よし、それじゃあ始めよう」
彼女の横に並ぶ。
王様が俺の方に向いた。
「汝は、この女を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い……」
「いやそれ結婚するときの神父のセリフだろ!? 結婚しないから!」
「そ、そうよ! なんでこんなやつと!」
こんなやつ呼ばわりされた……。
ま、まあ初対面の男と結婚なんてありえないもんな。
しかし、良く見ると可愛い。めちゃくちゃ可愛い。
大きな碧色の瞳に、腰まで届く長い金髪。
いかにもモテそうな、容姿端麗な娘だ。
「おっと、すまん。うちの神父が倒れて、この間まで神父をやっていてな。すまない」
王様がコホン、と咳払いをした。
「さて、本日を持って、そなた達は立派な16歳。世間にも大人と認められる年だ。そんなそなたらに、まずは教訓を送ろう。何時なるときも決して気を抜かずに……」
王様の長ったらしい話が始まった。
朝の校長先生かよ……。
人ってのは長く生きるとどうもこうなるらしい。
すると、横の彼女がこっちに視線を向けてきた。
(ちょっと話し長いんだけどどうにかしてくれない?)見たいな目でこちらを見ている。
そんな目されても困るんだよ!
こっちだって我慢してんだよ!
っていうのをアイコンタクトで必死に伝えた。
伝わったのかそうでないのか、またC子(仮)がまた王様の方を向いた。
若干(何してんのこいつ)見たいな目で見られたのは気のせいだろう。
気のせい……だよな?
そのままだらだらと聞き流していると、
「……では最後に、選別として装備を進呈しよう。初心者用のものだが、無いよりはマシだろう」
おお! やった!
流石に親に買ってもらうのもどうか……とおもっていたところだったのだ。
「よし、レンジ君。君はこれとこれだな」
そういって王様は何かの防具と武器を渡してきた。
「はい、アスカちゃんはこれとこれね」
C子、いやアスカも何かしら貰ったようである。
「なんです? これ」
「ああ、レンジ君のは布の服とクヌギの棒だ。アスカちゃんのは布のドレスと木の棒だな」
「これそこら辺から拾ってきたやつだろ!? しかもただの服かよ! 防御性能なさそうだなおい!」
「そうよ! 木の棒で戦えって言うの!? スライムすら倒せないわよ!」
俺達の抗議を聞くと途端に王様はしょんぼりして、
「そんな事いわれても……これを配るってことになってるし……」
などとのたまった。年不相応な口調で。
マジかよこれじゃあ兵士を死地におくるようなもんじゃねえか……。
これで実際に戦うやつとかいんの?
すると王様は慌てて俺達を城の外に押し出した。
「と、とにかく! それじゃ言うべきことは言い終わったから! ダンジョン探索頑張って! 後たまにはここ来てね! 寂しいから!」
「二度と来ねーよ!」
「二度と来ないわよ!」
初対面なのに見事に重なった貴重な瞬間であった。
◇
アスカと分かれた後、俺は「ルミーダの酒場」というところに来ていた。
ともにダンジョン探索をする仲間を集めるためだ。
一人ではなんとも心細いのである。
ちなみにアスカには「あたしは一人でやるからついてこないで」と断られた。
危うく心が折れかけた。
右も左も分からないのでひとまずカウンターのお姉さんに話しかける。
「すみませーん、仲間ってどうやってつくるんですか」
「はい、お仲間の作成ですね?」
「はい」
作成という言葉が気にはなるがまあ良しとした。
「それではまず性別をお選び下さい」
お、性別を選べるのか。暇そうな人を見つけてくるとかじゃなくて良かった。
「えーと、じゃあ女の人で。」
「はい。女性ですね。それではこちらにお好きなお名前をご記入下さい」
「へ? は、はい」
じゃあ適当に……うーん、ルミで。
「ルミさまですね。それでは、ジョブをお選び下さい」
「ジョブ? そんなものまでこちらで指定できるんですか?」
「はい、勿論です」
しかしそんな人が都合よくいるはずもないよな……。
まあ、細かいことはいいや。
「えーと、じゃあ僧侶でお願いします」
「はい、プリーストですね。ルミさーん、こちらですよー」
は!? もう呼んだの!? てかほんとにいたの!?
ルミさんはこちらに小走りで来て、ペコリとお辞儀した。
「こ、これからよろしく。俺はレンジだ」
「………」
「実は今日16歳になったばかりでさ、まだ分からないことが多いんだ」
「………」
「い、色々教えてくれると嬉しいな」
「………」
なんか喋ろよぉぉおおおっっ!!
俺が変な人みたいじゃねーか!!
ルミさんは直立不動で何一つ表情を変えずにたたずんでいる。
「あ、あの……ほんとにパーティ組んでくれるんですか?」
「………」
「あ、はい。すいませんでした」
「………」
「………」
俺はカウンターのお姉さんに救いを求めることにし、話しかけた。
「お姉さんっ! パーティ解除ってできますか!?」
「ええ、勿論です」
「じゃあルミさんをパーティから解除してください! いやむしろ俺を解放して下さいっ!」
「はい。ルミさーん、休憩よー」
それを聞いて(?)、ルミさんは小走りで走り去った。
こええよ!!
何だったの今の!?
一言も話さなかったぞ!?
もう仲間を作ることは断念し、俺は「ルミーダの酒場」を後にした。
さーて、一人でダンジョンに行ってくるか?
1フロア目なら一人でもなんとかなるんじゃね?
俺は後頭部をポリポリ掻きながら、渋々ダンジョンの入り口へと向かった。